鉱山の魔獣討伐 2日目
本日6話同時更新。
この話は3話目です。
今日も昨日に引き続き、魔獣討伐だ。
昨夜自立をすると言ったんだ、今のうちから出来る事は少しでもやっておくべきだろう。
まず最低限必要な物、衣食住はそろっている。衣類は足りなければ街で買えばいいとして、廃坑に住むから住居も問題なし。食事は新しい狩場を探し、足りない物は街で買い足せる。ただし買い物をするにはお金が必要になる。
現在の所持金は盗賊を討伐した賞金の小金貨700枚に盗賊が持っていた中金貨40枚。さらにこれまでの仕事で稼いだお金もあるので、当面の生活には困らない。それどころか豪遊できる額だが、お金は当然ながら使えばなくなってしまう。
まぁ、ギルドで汲み取り槽の掃除の依頼を受ければ30本で中銀貨3枚の3000スート、30日分の生活費に当たる金額が手に入るし、セルジュさんの所に鉄のインゴットや防水布を卸しても十分に稼げる。だからお金にも困りはしないが、楽に稼ぎ過ぎると言うのもな……
そんな生活を続けた先を想像したら、堕落しか見えない。特に汲み取り槽の掃除はもうスカベンジャー任せで俺のやる作業がない。あれを収入源にして楽々生活していたら、公爵家の皆さんと別れる意味もないだろう。
となると何か冒険者以外の収入源も考えてみるべきか? うん……何らかの理由で冒険者を続けられなくなる事もありうる。
この世界に来てからラインハルトさん達に出会うまでの3年は1スートも使わずに生きてきたんだから、極端な話、収入は生活費ギリギリで良い。今持っている大金は何かあった時、もしくは必要な時に使うとして……1日100スート。老後に向けて貯蓄もできればなお良いけど、最低それだけ安定して稼げれば、十分だろう。
「リョウマ君。お~い、聞こえてる~?」
む、いかん。考えに夢中になってたな……
「すみません、考え事していて。何ですか?」
「戦闘中に考え事は危ない……って言おうと思ったんだけど……」
「心ここにあらずという感じなのに、簡単に魔獣を倒していくので……」
「アタイらに1匹も獲物が回って来てないんだよ」
「あ、すみません。無意識にでも体が動くのでつい……」
「それは別にいいけど、魔獣を淡々と仕留めながらブツブツ呟くのはやめてほしいにゃ。見ていて怖いにゃ」
「それは申し訳ない……」
口に出てたのか……
「その呟きの事なんだけどよ、お前金に困ってるのか? 生活費がどうのとか言ってたが」
「実は……」
「招集だ!! 鉱山入口前に集合しろ!!」
事情を話そうとすると、冒険者の男が1人飛び込んで来た。やけに慌てている、緊急事態か?
「何があったんだい!?」
「坑道の一画にゴブリンが村を作ってたんだ。それも大きいらしい。幸い死人は出てないが、Gランクの奴らが数人怪我をした」
「ゴブリンの村か、面倒だね。早く潰さなきゃどんどん増えるよ」
「俺はまだ他の奴らにも声をかけるから、あんたらは鉱山入口前に行ってくれ!!」
そう言い残して男は走り去った。
俺達が急いで鉱山入口前に向かうと、そこには既に大勢の冒険者が集まっている。しばらく待つと、用意された壇上にギルドマスターが上がった。
「もう殆どの奴は話を聞いたと思うが、説明する! ついさっきゴブリンの棲む坑道と、その付近に村が見つかった! よってこれよりゴブリンの殲滅作戦を行う! 規模としては中規模! 500匹程度が居ると思われる! 出来る限り被害を少なくするためDランク以上を中心とする! 各ランク毎に集まり、指示に従え!!」
それから言葉を切って、ギルドマスターは俺を呼んだ。
「それから……リョウマ、いるか?」
「ここに居ます」
「お前さんは今Fランクだが、実力的には確実にE以上だ。それに今回の依頼でEランクへの昇級条件を満たす。少し早いが、お前さんにはEランクとして参加して貰う」
「分かりました」
「他の連中も文句はねぇな?」
ギルドマスターの言葉に異論を唱える者は出なかった。昨日の事が効いているのだろう。
「よし、各自準備に取り掛かれ! 必要な物、足りない物がある奴は俺の所まで来い! 用意出来る物なら用意してやる! 準備が出来たらそれぞれのランクごとに集まって作戦を頭に叩き込め!」
ランク毎に集まると、Eランク冒険者を率いるリーダーにプロリアという女性冒険者が選出された後、そのまま進行役も彼女に代わり会議が始まる。
「それではこれから作戦の概要を説明します。……我々の仕事はF,Gランクの冒険者を引き連れてゴブリンの逃げ道を塞ぎ、討ち漏らしを倒す事です」
大きな地図を使って、作戦の説明が始まる。
「まず問題の坑道と村をA,B,C,Dランクの冒険者が挟み撃ちにする形で包囲及び突入します。彼らが大半のゴブリンを仕留めますが、数が多いため包囲からいくらかは逃れるでしょう。そこであえて包囲を薄くした一方向へ彼らを追い込み、逃れたゴブリンを1匹残らず仕留めるのが待機した我々です。
また、我々は戦闘経験の乏しいF,Gランクの冒険者を引き連れる事になります。そのため、出来るだけ我々と彼らの安全性を確保し、確実に任務を成功させるために案がありましたら挙手をお願いします」
そこで何人かの手が上がり、発案する。それに続き俺も森でやっていた方法を提案する。
「リョウマ君、でしたね。何かありますか?」
「はい、多くのゴブリンを相手にする際やっていた方法なのですが。巣と我々の待機位置の間に土魔法で深い溝を掘り、その中に僕の従魔であるアシッドスライム達を待機させます。そして……」
俺はアイテムボックスから長い棒にナイフを鎌のように取り付けた物を取り出す。
「近づいてきたゴブリンにはこのような物で溝の中に落とし酸で、遠くの相手には弓矢や魔法で仕留める事を提案します。この方法ならば一度溝に落としたゴブリンは無力です。登ってこれる者も少ないですし、登ってこようとする間に槍などで突き落とせば問題ありません。後は弓を使うゴブリンアーチャーや魔法を使うゴブリンメイジに気をつければ安全に、かつ戦闘経験が少なくても戦えると思います」
「なるほど……それができる数のスライムは」
「用意できます」
考慮に値すると思ってもらえたようだ。質問も来るのでそれに答えつつ細部を詰めていくと、最終的に俺の案をベースにした作戦が採用された。
「それでは早速行動に移してください」
静かな号令で各々が分担した仕事に取り掛かる。
俺の役割は数人の土魔法を使える冒険者を連れて待ち伏せ地点に先行し、穴を掘ることだ。
「実際に見ると、話以上に高そうな崖ですね」
「これならゴブリンには登れないわね」
指定された場所は谷底のように道の両側が崖になっているので、横に逃げるには限界がある。そこに土魔法で縦幅4m、横幅50m、深さ3mの溝を掘ることで通れる場所を狭めておく。
「『クリエイト・ブロック』!」
「すっげぇなその魔法」
「『ロック』と『ブレイクロック』の合わせ技です! 効率いいですよ!」
「俺も試していいか?」
「どうぞ!」
効率を重視し、時々魔法を教えながら掘り進めた溝の底には所々に穴を作り、その先に空洞を用意。ここにアシッドスライムが核を隠す事で、ゴブリンの体や武器で核をつぶされる危険を減らす。アシッドスライムは穴から触手状の体や酸を出し、落ちてきたゴブリンを安全に溶かして貰うことになる。
穴の用意が整ったら、アシッドスライムを投入するだけで勝手に強酸性の消化液プールが作られていく。
「なぁ、これ試しに入れていいか?」
「効果を確認したい」
「スモールラットですか、もちろんです」
そう言うと冒険者はスモールラットの死体をプールに放り込む。
途端に死体の皮膚が焼けただれ、徐々に骨が露出して沈んでいく様子が目に映る。
「……えぐいな……」
「アシッドスライムってこんなにヤバイ魔獣だったのか……?」
「普通に吐きかけられただけなら皮膚が焼け爛れるくらいで済みますね。こういう風に全身浸かって逃げられもしないと、やがて骨まで溶かされます。溶かした獲物を養分としてさらに消化液が吐きやすくなるので、作戦が順調に行けばどんどん嵩が増していくはずです。ある程度の嵩になったらこっちで指示を出して止めますが」
「絶対に落ちたくねぇ……」
「すみません! 荷物はどこにおきましょう」
おっ、物資を持った別働隊の到着だ。周囲の木々から切り出された長い棒と、昨日今日で仕留められたケイブマンティスの鎌が他の冒険者の指示で積み重なっていく。
ケイブマンティスの鎌は切れ味こそ悪いがそれなりに強度があるため、打撃とゴブリンの体を引っ掛けるために使えると提案された。スティッキースライムに指示を出し、硬化液で棒と鎌を接着させる。
加えて溝を掘って出た土を使い、俺は土魔法使い達とプールの側に誤って溝に落ちないように手すりを付ける。更に弓使いと魔法使い用に高い台も作り、弓使いと魔法使いが遠距離攻撃を行いやすい地形を整えれば準備は整った。
台は敵からも目立つし、結界魔法の対物理結界を張ってある。注意点として対物理結界は魔法は素通りするのでそれだけは全員に注意して貰いたい。
そうリーダーに報告して、ひとまず俺の仕事は終わった。
「確認します! F,Gランクの冒険者は溝の傍から鎌でゴブリンの対処、Eランクの冒険者が溝の両サイドで接近戦と溝への追い込み及びF,Gランクの安全確保。弓と魔法使いはゴブリンアーチャーとメイジを発見しだい、最優先で始末してください」
方々から了解の声がリーダーへ飛ぶ。
「それでは作戦決行まで各自休憩を取ってください」
用意が終われば後は時が来るまで待機。周囲の警戒担当を除く冒険者達がそれぞれ休息を取り始めている。しかし、俺は昨日と同じく手持ち無沙汰になってしまった。スライムと武器をもう一度確認しておくか……
「すみません! いま、いいですか!?」
「え?」
突然後ろから声をかけられ振り向けば
「あ、昨日の……」
そこには昨日の6人組が立っていた。




