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新聞記者と新聞社

本日、2話同時投稿。

この話は2話目です。

 新聞記者のジャスパーさんから取材の申し込みをされた後……受けるかどうかはともかく、一旦その場にいた全員で俺達の拠点に向かうことになった。


 彼らが乗ってきた馬車は横転の際のダメージが大きく、さらに馬を一頭失ったことで、日暮れまでに安全な場所までたどり着くのが困難な状態になっていたからだ。今は最低限の応急処置を済ませ、ユーダムさんが借りた馬を繋いでなんとか走らせているけれど、やはり乗り心地は悪い。


 気を紛らわす目的も兼ねて、新聞記者の仕事や取材について詳しく話を聞くことにした。


「ジャミール公爵領の事を記事にしたいと仰っていましたが、具体的にはどのような記事を?」

「取材の結果にもよりますが……中心となるのは、やはり昨年末に起きた事件のことでしょう。

 他家の貴族を陥れようとすること自体がそもそも問題ですが、昨年末の件では複数の貴族家が(・・・・・・・)手を組み、上位者である公爵家を標的とした。これは貴族が重視する“序列”や“秩序”を蔑ろにする行為であり、この国の根幹を揺るがしかねない事件でした。

 しかし、ジャミール公爵領では恐るべき謀略をおよそ最小限と言える被害で凌ぎ、むしろ追い風に変えてしまった。将来性のある領地と領主、そして人々には注目が集まるものです。

 昨年末の事件が中心とは言いましたが、我々はジャミール公爵領全体を深く知り、詳細かつ正確な情報を広く届ける事が我々の仕事であり使命……だと、私は考えています」


 ふむ? 言葉の端々から彼の熱意を感じるが、一方で時々歯切れが悪くなる。何かを隠している感じではなさそうだし、


「まだ具体的なことは決まっていないのですか?」

「はい。偉そうに語ってしまいましたが、私はまだ記者になって2年目の新人でして……ジャミール公爵領での活動は現地の上司と合流してから、その上司の指示を受けることになっているのです。

 新しい上司にはまだ会ったこともないので、どのような方針でどのような指示が出るかは分かりません。ただジャミール公爵領に派遣される人員が少ないため、調査から記事の執筆まで、本部にいた時より多くの裁量権を預けていただけると聞いています。

 今回の派遣は私にとって、記者としての大きなチャンスなのです」

「なるほど、それで気合が入っていたと」

「先程は本当に失礼いたしました。九死に一生を得たことと合わせて、舞い上がっていたように思います……」

「実際に危ない状況でしたから取り乱しても無理はないですし、落ち着いてからはこうして会話もできているじゃないですか。多少は驚きましたけど、その程度ですよ。お気になさらず。

 それにしても、よく僕がリョウマ・タケバヤシだと分かりましたね? 噂を聞いていても、顔を知っているわけではなかったでしょう」


 失敗の話は切り上げて、疑問に思っていたことを尋ねる。すると、彼は安心したように笑って答えた。


「王都を出る前に、調べられる限りの噂は調べました。まず容姿は“黒髪黒目の少年”で、“魔力が多く魔法に長けている”こと。あの魔獣から助けていただいた時の雷魔法でもしや? と思い、確信したのは樹海の話をした時です。

 伝え聞くだけで恐ろしい魔境の出身……正直に言えば眉唾でしたが、あの魔法と魔獣への素早い対処を見て、助けられた身としては疑いようもありません。樹海に出入りして平然と生きていられる子供は、おそらく貴方の他にはいないでしょう」

「……それで特定できたわけか」

「実際、オーナーさんみたいな子供は何人もいないだろうからね」

「じゅかい、って怖いところなの?」


 乗客の女の子が尋ねてきた。ご両親は軽く慌てているけれど、5歳未満の子供に目くじらを立てることはない。内密の話をしているわけでもないので、気にする必要はないことを笑顔で伝えておく。


「魔獣が沢山いる場所だよ。樹海では僕も魔獣から隠れて、逃げながら移動するのが普通なんだ」

「……こわいところ!」

「そうだねぇ」


 どうやら魔獣の襲撃を体験したことで、幼くとも危険であることはしっかり理解したようだ。“百聞は一見に如かず”とはこういう事なのだろう。


「僕の場合は育った場所がそこだから慣れているけどね。君はどこからきたの?」

「ドレンハム村だよ。ガウナゴ? にいるおじさんのところに行くの!」

「そうなのかぁ」


 村の名前だけではどこだか分からないが、元気に教えてくれた。と思ったら、ご両親が補足をしてくれた。


 2人によるとドレンハム村は、ジャミール公爵領の隣の隣にある領地の村。主要産業は紡績で糸や布、近隣の森で採れる植物を原料とした染物が特産品。さらにご両親も染物師なのだそうだ。言われてみると確かに、2人の手の爪先には黒ずんだ色が染み付いている。


 武器を扱う人の手ではないとは思っていたけれど、染物師とは気づかなかった。


「お父さんとお母さんの染物はすっごくきれいなんだよ!」

「へぇ、そうなのか。お2人は職人さんだったんですね」

「職人というほどのものでは……うちの村ではほとんどの家庭でやっていたことですから」

「普通のお鍋で気軽にできる染物もありますからね」

「私もお手伝いできるんだよ!」

「偉いなぁ」


 コルミのように元気な娘さんに相槌を打ちつつ話を聞いていると、馬車の速度が落ちる。


「お二人とも、ここを左に入ればよろしいのでしょうか?」

「あっ……はい! この道で大丈夫です! 進んでください」

「かしこまりました」


 少し前に俺達が切り開いた道に入ると、馬車の揺れが一層激しくなった。一直線に切り開いたので、廃村の拠点までは数分でたどり着けるはずだが――


「……切り開く時にもうちょっと埋め戻しておけばよかったなぁ……」

「馬に乗っていたらそこまで気にならない凹凸も、馬車だとねぇ……」

「この道はお2人で作られたのですか?」

「僕はなにもしてないよ。護衛として傍にいただけ」

「ということは、タケバヤシ様1人で作業を」

「土魔法が得意なので」


 この激しい揺れの中、ジャスパーさんは疑問に思ったことを尋ねてくる。積極的なのはいいけれど、ここでは舌を噛みそうだ。あとしっかりつかまっていないと危ない。


 激しい揺れに耐えながら、もう少し道を整えるべきかと考えているうちに、馬車は俺達の拠点に到着。


「皆さんお疲れ様でした。これから皆さんの休む場所を用意しますので、もう少しお待ちください」


 深い森の中、土魔法で作られた簡素な小屋が建っているだけの景色では、皆さんの不安はぬぐえないだろう。魔獣に襲われて怖かっただろうし、早く安心して休ませてあげたい。そのためにはまず、彼らが使う宿泊施設を作るための場所が必要だ。


 ということで、空いていたスペースに土魔法で小屋を増築する。シンプルな作りになるが、まず親子3人が楽に寝られる小屋を一軒。同じものを護衛の3人用にもう一軒。さらに御者のおじさんとジャスパーさんに1人用を一軒ずつ。


 合計四軒の小屋を建てた後は、おまけとして小屋の周囲に呪いの縄を張ることで安全性を高めたら……拠点の増築完了!


「皆さん、粗末ですが休める場所が整いました。食事も用意しますから、それまでどうぞ休んでください」

「粗末だなんてとんでもない、ありがとうございます」

「休める場所を貸してもらえるだけでもありがたい」

「お兄ちゃんありがとう!」


 おじさんと護衛の1人、それからご家族の娘さん。他の人達もお礼を言ってそれぞれ小屋に入っていく。ユーダムさんが上手く説明してくれたようで、特に混乱も疑問もないようだ。


「馬車の中で樹海の話をしたからね。“あれくらいできなきゃ樹海では生きられないらしいよ”って言ったら納得していたよ。色々あって疲れていたのもあると思うし、ようやく肩の力が抜けたみたい。

 ただ、あの記者さんだけは“あの噂は本当だった”とか言っていたね。他の人と同じように疲れているだろうに、仕事への熱意がすごいよ」

「公爵領に来たのがチャンスだと言っていましたからね。仕事に情熱を注げるというのは素晴らしいことだと思います。

 ……ところで、この国で“新聞記者”ってどういう扱いなんでしょうか? 新聞がどういうものかは知っていますが、樹海育ちなので詳しくなくて 。主に誤報とか、信頼できるのかどうかとか」


 ジャスパーさんに取材を申し込まれたが、今後は彼に限らず他の記者が来ることもあるかもしれない。そういう場合にどう対応するのか? 考えておく必要はあるだろう。


 個人的な印象を言えば、彼から感じたのは熱意。悪意や敵意は感じなかった。しかし新聞記者、ひいてはマスコミと言うと前世の記憶がチラついて、あまり良い印象がないのが正直なところ。


 こちらに偏向報道などはないのだろうか? と本人がいないうちに聞いてみると……


「オーナーさんの懸念は分かるよ。実際に行き過ぎた取材をする記者や新聞社が問題を起こしたり、訴えられたりした前例はあるからね」

「やはりそうですか」

「利益を出さないと仕事としてやっていけない。利益を出すために購読者を増やさなければいけない。購読者を増やすために、より注目を集めて多くの人が知りたがる記事を書かなければいけない……ある意味自然な流れではあるけど、利益を追い求めすぎるとね……

 でもそれは記者と新聞社の全てに言えることだから、信用できるか否かの判断は“記者”と“社名”が基準かな。僕としては、ジャスパーさん本人は問題ないと思う。横で話を聞いていて、真摯に仕事に向き合おうとしている印象を受けたから」

「そこは僕も同意見です。となると気になるのは彼が所属している新聞社の社名ですね。馬車では話に出ませんでしたが」

「後で聞いてみればいいさ。取材を受けるかの判断はそれからでも遅くないし、話す内容も当たり障りのない内容なら構わないと思うよ。馬車で話していた“噂”とか、ギムルに行けば誰でも知っていることとか」

「……わかりました、後で聞いてみましょう」


 取材に対する方針は決まったので、今は食事の準備を進めよう。



 ■ ■ ■



 30分後……野菜の水煮パックを使ったスープを拵えて提供すると、大人達の表情が目に見えて柔らかくなった。温かい食事を口にしたことで、まだ残っていた恐怖や緊張が和らいだのだろう。


「ジャスパーさん、おかわりはいかがですか?」

「では遠慮なく、もう一杯お願いします」

「はいどうぞ」

「ああ……温かい。一時は死を覚悟しましたが……今になってようやく、生きている実感が湧いてきました」

「食べることは肉体的にも精神的にも大事ですからね。どんどん食べてください。

 ……そうだ、先程少し気になったのですが、ジャスパーさんはどちらの新聞社で活動されているのですか?」


 何気なく尋ねてみると、ジャスパーさんは匙を咥えて一瞬固まる。そして自分が社名を名乗っていなかったことに気づいたらしく、口元を拭いた。


「失礼しました。私は“プロパガンダ新聞社”に勤めております」

「ぷ、プロパガンダ新聞社?」

「へぇ、有名なところに勤めているんだね」

「えっ、有名な新聞社なんですか?」


 プロパガンダとは、主に特定の主義・思想についての政治的な宣伝を指す言葉。そのための情報操作や世論の誘導を行う、所謂情報戦や心理戦などにも使われる。およそ新聞社の社名として適切とは思えない単語が出てきて耳を疑った。


 しかし、ユーダムさんが特別な反応を見せず“有名企業”と言っているあたり、こちらではただの社名という認識なのだろう。


「プロパガンダ新聞社はこの国の最初で最古の新聞社と言われている、歴史書にもよく出てくる老舗(しにせ)だね。

 発端は“暴君”と呼ばれたマサハル王の統治下の時代。当時は記者という言葉も存在せず、志を持った数名が“ペンは剣よりも強し”という標語を掲げ、圧政に武力ではなく真実の情報で立ち向かうという理念の下に集まったとか」

「仰る通り、最初は弾圧の中での危険な活動でした。世間に活動が認められ“新聞社”という形になったのは、マサハル王統治下の後期です。そこからプロパガンダ新聞社は記事だけではなく、新聞という“文化”を作り、育み続けてきました。

 私も一人の記者として、先達から受け継いだ新聞文化と正しい情報を世に広め、後世へ繋ぐ一助となることを誇りに思っています」


 そこまで語ったジャスパーさんは、僅かに視線を落とす。


「しかし、残念ながら現在のプロパガンダ新聞社は斜陽と表現すべき状況です。新聞という文化が成熟したことにより同業他社が増え、購読者の奪い合いに負け、王都の片隅に追いやられています」

「僕も王都にいたころに何度か読んだことはあるけど、新聞としては主流じゃなかったね。内容も華々しさや真新しさは感じなかったし、当たり障りがないというか……無難? パッとしないけど、利益優先の過激な記事は少ない新聞社だったと思うよ」


 名前の時点で明らかだったけど、標語も合わせて確実に転移者が関与している。しかも創業の時代からしてほぼ間違いなく“勇者”が政治利用するために作った組織なのだろう。……にしたってプロパガンダは露骨過ぎる気がする。


 いや、こっちの人に伝わらなければ露骨ではないのか? 分からん……でも創業から相当な時間が経っているようだし、2人の話し方からして、悪質な記事や誤情報を平気で出すような新聞社というわけでもなさそうだ。


 ……よし! 取材は受けることにして、もう少し彼と話してみることにしよう。

 ジャスパーさん本人はまともそうだし、今はユーダムさんも立ち会ってくれる。

 今後も似たようなことがあるかもしれないし、一度経験しておくのも悪くない。

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― 新着の感想 ―
すごくくだらない思いつきですけど、以前話に出てきた『無限にトイレットペーパーが出て来る魔道具』で生み出した紙で作ってたりしませんよね? その新聞……(笑)
・こんにちは^^。 明けましておめでとうございます。 除雪機直ったのですね。アメリカではクリスマス・シーズンは、皆浮かれて仕事をしなくなるので、早めに修理が出来て良かったです^^。こちらでも明日から大…
活版印刷と製紙がしっかりしとるんやねえ でないと江戸時代の瓦版が限界のハズ
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