神々の昔話(後編)
「その勇者、よっぽどやらかしたんだな……」
段々と聞くのが怖くなってきたが、皆も話したくないことを覚悟して話してくれている。居住まいを正して、話の続きを聞こう。
「力への執着が強くなった彼は仲間まで殺して力をつけながら、厳しい訓練と綱紀粛正による統率力で傭兵団そのものも強化していった。そしてとうとう国から専属で雇われないか? と声がかかった。
もちろん彼はその勧誘を受けたんだけど、細かい条件を交渉する場で、自分が神の子であることを暴露したんだ。自分は王子マサハルと協力し、戦争を止めるために僕達に遣わされた勇者である! ってね」
「ここでようやく勇者が出てくるのか」
「そう……彼が勇者を名乗ったのは、自分を高く売って貴族の権力に対抗するため。貴族社会では上位の者、特に王族の言葉は絶対。だけど教会を味方につけて“宗教的に特別な地位”についてしまえば、国王でも軽くは扱えなくなる。それを狙って、やり遂げた」
「あの時点ではまだ私達の寵児っていう称号も剥奪してなかったし、彼は教会に事前の根回しをしていたの。マサハル君と会って話せば同郷であることもすぐに伝わったから、すんなりと“勇者”と認定されたわ」
メルトリーゼとルルティアによると、彼は傭兵として雇われるだけでなく当時の騎士団長の養子にもなり、将軍の地位を与えられて国に仕えることになった。当初の目的であったマサハルとも交流するようになったそうだが……これが更に彼の狂気を加速させる。
「その頃の勇者は性格がだいぶ歪んじまっていてね、気が弱いマサハルを見て勝手に失望して見下したのさ。
劣等感の裏返しもあるだろうけど“あんなに強力な魔法を使うのに、どんなに苦労してきたのか? どれほど優秀な人なのか? きっといい仲間になれる!”と期待していたら、実際は上位者の指示通りに魔法をぶっ放すだけの兵器じゃないか! ってな」
「付け加えるとぉ“自分は散々苦労して、他人の力を奪う術まで使って、世のため人のために尽力してきたのに! こいつは運よく王族に拾われただけで、神様からも贔屓されている! って思いこんで勝手に僻んでいたんだよねぇ。
マサハルも魔法の開発とかは頑張っていたし、何も努力をしなかったわけじゃないんだけど“魔法は神々から貰った力だから”ってことでノーカウントだったんだよねぇ」
言葉を交わせる関係になったものの、マサハルは勇者にとって無能。しかし、立場は自分の方が下にいるという事実と屈辱。勇者としてはマサハルを憎みながらも“民衆と同じく、自分が助けてやらなければならない奴”として扱っていたらしい。
「……話を聞いていて“君にはこれできないよね?”って勝手に決めつけて、“僕が助けてあげるよ!”って押し付けて、周りに“○○君親切!”とか妙にクラスで持ち上げられている人気者みたいなイメージしか湧かなくなったんだが。
善意とか無自覚でなくて、自分の立場を上げるために意図的にやっている方」
「実際、当時の彼はそんな感じだったわよ。
絶対に表には出さなかったけど“もっと戦場で力を奪って、自分の地位を上げてより強い発言力を手に入れないと! 他人を蹴落として貶めるのは戦争を止めるため、人々のために必要な事なんだ!”というのがその頃の彼の持論と行動原理だったわね」
「自分の行動は全て平和のためと考えて、マサハルを除いた王族を全員暗殺したりもした」
あまりにあっさりと告げられたせいで、メルトリーゼの言葉への理解が一瞬遅れた。
「本来の後継ぎが次々亡くなって、マサハルが王位を継いだ。マサハル王が王位簒奪のために暗殺をしたって疑惑は聞いたことがあるけど」
「暗殺があったことは事実、だけどマサハルは何も知らない。暗殺から王位の継承まで全て勇者が計画して、根回しをして、勝手に実行したこと。マサハルは王座というこの上ない利益を得た者として、捜査をかわす囮にされた」
王を疑うこと自体が不敬であり捜査は難しく、調べられたとしても彼から証拠が出てくるはずがない。彼は何も知らないし、やっていないのだから。
勇者的には“証拠を捏造したわけでもマサハルが罪に問われるわけでもないし、無能ならせめて腐った王族を排除するための囮くらいにはなれ”ということだそうだ。
「同郷とか言っていたくせに、完全にマサハルを仲間として見てないな。というか、どうやったら王族の暗殺にその後の対応までできるんだ?」
「あの子はねぇ、所謂リアルチートってやつなんだよ。僕達が力を与える前から、ずば抜けた才能を持っている人。たまにいるんだよねぇ……特定の分野においては歴史に名前を残すレベルの才能を持っている子が。
竜馬君もこの世界に来るとき、戦闘能力は前世で培っただけで十分 ってことでガイン達から上乗せはされてないんでしょ? それと同じさ。竜馬君が武力のリアルチートだとすれば、勇者は政治力のリアルチート。もし地球で長生きしていたら、総理大臣になれたかもねぇ」
セーレリプタはからかうような声で言うが、俺は頭が重くなった気がした。政治力、確かに人間社会ならどこでも必要な、チート能力だ。俺も前世で欲しかった。
「ただ、彼も完全に意のままに周りを操れたわけじゃないわ。たとえば勇者はマサハル君に対して唯一無二の同郷かつ友人という態度で接していたし、そうすれば簡単に行動をコントロールできると思っていたけれど、そうはいかなかった。
王族を暗殺されたことで王位を手に入れたマサハル君が、真っ先に出した命令は“即時停戦”。その頃の戦況は2人の神の子の力によって、滅亡寸前から圧倒的優勢。目的は国土防衛ではなく侵略に変わっていたから、これ以上は不要だと考えたのね」
「侵略のために力を振るうのは嫌だろうな……けど、それですんなり戦争やめます! とはならないよな? 聞いた感じ、マサハルには勇者みたいな政治力がなかったみたいだし、尚更」
俺が思ったままに尋ねると、ガインが深く頷いた。
「うむ。主に味方側から、大騒動かつ非難轟々じゃったよ。神の子の力があれば、絶対に勝てる戦だというムードが末端の兵士まで広がっておったからな。はいそうですかと納得する人間は少なく、マサハルの宣言は子供の我儘や癇癪くらいに周囲は受け取った」
ただし、その子供が“王”となると話は別だった。たとえ暗殺で成り上がった疑いがある、どこの者とも知れぬ馬の骨の我儘であっても、王の言葉を下の者が無視することはできない。それを許してしまえば、国としての在り方が揺らぐ。当時の重鎮はそう考えたらしい。
また、ただの子供ならいくら暴れようが被害なんてたかが知れている。しかし、この時に癇癪を起していたのはマサハル……軍隊を薙ぎ払う魔法を、戦場で何度も披露してきた魔法使いだ。そんな彼が癇癪を起こして、万が一にも魔法を放ったら大惨事。
「“王命”と“災害魔法”、さらにもう1つダメ押しとなったのはマサハルが停戦に反対する者達に向かって放った一言じゃ。
流石に王位についた経緯が急すぎて、彼も王族が暗殺された疑いは持っていたのじゃろう。“もしも自分を殺したのなら、究極の殲滅魔法“アトミックボム”が勝手に発動するように仕掛けておいたからな!”と言った」
「アトミックボムって、原爆かよ!? なんて魔法作ってんだ!?」
「安心して、マサハル君が苦し紛れに言っただけの嘘だから」
「あっ、嘘か……そうか」
ルルティアの一言で頭が冷えたが、さっきは一瞬で肝が冷えた。
「うむ。マサハルの言葉は口から出まかせだったんじゃが、今の竜馬君と近い反応をした者が1人だけおった。同じ日本人だった勇者、彼だけは原爆がどういう兵器かをよく知っておったからな」
日本は世界で唯一の原爆被爆国。原爆の威力も、破壊された街も、死者の数も、生存者の惨状も資料として残っている。忘れてはならない記録だからこそ、小中学校でも授業がある。不登校や長期入院などの理由があれば別かもしれないが、勇者は優等生という話だから当然知っているだろう。
前世で核兵器を作ろうとしても、一般人には難しい。しかし、この世界には魔法がある。魔法の実現にはイメージが大きな影響を与えて、不可能を可能にしてしまう。さらにマサハルは魔法の専門家であり、魔法に特化した力を受け取っていた人間だ。
「勇者はマサハルの言葉はその場しのぎ、十中八九は嘘だと見抜きつつも、万が一を考えてしまい手を下すことができなくなった」
「これ、面白いのが偶然とすれ違いの連続なんだよねぇ。
まずマサハルはこの時、王族の暗殺は疑っていても勇者の事は全然疑ってなかったんだよ。勇者の外面は完璧で、絶対裏切らない仲間と信じ込まされていたからね。だからマサハルが牽制したかったのは、当時の国の重鎮達だけだったわけ。
そしてその重鎮達なんだけどぉ……彼らは原爆なんて当然知らないわけで、大した効果なし。戦場で見たものよりは強力なんだろうな、くらいの認識だった。だから理由をつけて遠い所で暗殺すりゃいいや、って感じの軽い認識だったのさ。
だけどぉ……唯一マサハルの言葉で、ヤバい! と感じた勇者が率先して周囲に危険性を訴えて、根回しをして暗殺を防ぐはめになったんだよぉ。あの一言は結果的に、マサハルの人生で一番のファインプレーだったんじゃないかなぁ?」
セーレリプタの言う通り、凄い偶然だけど勇者が内心でブチキレてそう……と思ったら、実際にそうだったとのこと。
しかも怒りの原因はマサハルのために動く事だけではなく、戦争を止めるという目標を勝手に達成されたから。王座につけたのは自分のおかげなのに、感謝もせず1人でいいところだけ持っていかれた! というのが一番の怒りの原因だったらしい。
「勇者がもうただのクズになってるじゃん。“戦争を止めたい”から、“戦争を止めた英雄になりたい”に目的まですり替わっているよ」
「まだ続きがある。彼が本領を発揮できる環境は、戦場よりも政治の場だったから」
「これ以上があるのか……」
淡々と説明を始めたメルトリーゼによると、マサハルの我儘と脅迫に勇者の不本意な尽力が加わったことで、戦争はあっけなく終わった。戦勝ムードだった味方はともかく、敗色濃厚だった敵国にとって停戦はありがたかったのだ。
しかし、戦が終わっても荒れた国土や経済は再建しなくてはならないし、戦争で手に入れた土地の管理もしなくてはならない。勇者はこの問題が山積する戦後の社会情勢に、つけ入る隙と自己を肯定する理屈を見つけた。
戦争が終わったと言っても、人々の間にはまだ争いの火種が燻っている。
全ての火種を消さなければ真の平和は訪れない。
この世界に真の平和をもたらすには、僕がもっと力をつけて人々を導かねばならない。
そのためにはもっと人を殺さなければならない。
だが、一度終わってしまった戦争をもう一度始めるのは難しい。
できたとしても、戦争を起こしたら自分が悪人になってしまう。
だったらどうする? どうすれば自分は正しいまま人を殺せる?
そうだ、他人を悪にすればいいんだ……と。
「はぁ……冤罪か」
「間違ってはいないけど、正確でもない。彼が用いたのは情報操作。新聞という文化を作り、各地から情報を集め、意図的に改変した情報をばら撒くことで世の中を自分の都合がいいように操った。冤罪はその結果でしかない。
たとえば、食べ物を無駄にするのはいい事だと思う?」
「いい事ではないな。状況が分からないけど、正義か悪かで言えば悪になると思う」
「では、お店で購入する前の商品をダメにしてしまうのは?」
「それも良くない」
「じゃあ、買いたい果物を手に取ろうとしたときに、うっかり落として潰してしまったら?」
「それは故意じゃないだろう。弁償は必要だとしても、悪いとまでは言えないと思うが」
「何故? 何をもって故意でないと判断したの? 故意じゃなかったからと言って、会計前の商品を、食べ物をダメにするのは良くないことでしょう?」
「いや、でも」
「でもじゃない! 世の中にはその日の食べ物にも困っている人がいるのだから、潰れた分がそういう人達にわたっていたら、果物を食べた1人がその日1日命をつなぐことができたかもしれないのに? そういう貴重な食料をダメにした自覚はないの!?
……こんな感じで 、日常で目にする小さなことでも悪は悪。些細な事でも見逃さずに声を上げ、徹底的に追及することが正義であり、社会秩序のために民衆1人1人がそうすべきという風潮を生み出した」
「お、おう……」
話の内容よりも、普段は静かで端的な口調のメルトリーゼが急に感情的にまくしたてたので圧倒された。表情は一切変わらないのがまた一層圧を感じさせた……でも言いたいことは理解できたと思う。
一度そういう風潮ができたら、あとは雪だるま式に事が進んだそうだ。悪を責め立てる人間の言葉はより鋭く、より強く。罪人には厳罰を求め、従来の法律よりも感情を優先して私刑が横行する始末。
勇者はそんな風潮を“民意”という圧力に変えて、法律まで捻じ曲げた。
それまで罪でなかった物事が罪になり、さらに他者を罪に問うことは容易にする。
勇者がわざわざ冤罪をかけなくとも、市民が勝手に罪人を量産する社会を作り上げたのだ。
「その結果の一例は竜馬も見ただろ? “亡霊の街”」
キリルエルの言葉で、無数のアンデッドが跋扈していた光景を思い出す。
「あそこって、勇者が作った施設だったのか」
「あそこだけじゃない、勇者は似たような施設をいくつも作っていてな……定期的に巡回して罪人として集めた人間から力を奪ったり、拷問をして呪術用の生贄として使っていたりしたんだ。施設の規模や設備は集める囚人の特徴によって違ったが、胸糞悪いのは共通だな。
亡霊の街は大半が法律の改変によって罪に問われた一般市民で、あとは少数の政治犯や知能犯。戦闘能力がなくて脅威にならない人間を集めた施設だ。処刑場のある塔や囲いはともかく、囚人の収容施設は簡素だったろ?」
非力な人間を集めていたから収容施設は簡素でも十分だった。
一般市民にも罪を着せたから、あれほど広い敷地が必要だった。
そして、わざわざ処刑に餓死という時間のかかる方法を取っていたのは、勇者の都合。
頭の中で、過去の記憶と今の話が繋がった。
「あの時代は本当に酷かったのぅ……子供から大人まで皆が棍棒を携帯して、悪とみなした者を大声で晒し上げ、正義を口にしながら集団で袋叩きにする光景が日常じゃった」
「裁判という概念はあっても、弁護士は罪人を擁護して不当に罪を軽くする社会悪として迫害される。抗弁すれば問答無用で反省なしと見なされて罪が重くなる。まともに制度が運用されてなかったものね」
「非道すぎるし、裁判をないがしろにするとか、もはや勇者が本当に現代日本人だったのかすら疑わしくなりつつあるんだが……てか、そんな社会だと平和と安定どころか、むしろ荒れるだろ。
いや、力を奪うには社会が荒れた方がつけ入る隙ができて好都合なのか? もう、わけわからん」
「人間社会は荒れに荒れたけど、そのせいで“自分が攻撃の対象にならないために”表面上は清廉潔白にふるまう人間が増えたり、些細なことで国民同士を争わせることで分断を促して、反抗勢力が団結するのを防いだり。
そういう細かい調整を国中でやって、国としての体裁を保てる程度に抑制していたんだよぉ。普通やろうと思ってできることではないんだけど、やり切っちゃったんだよねぇ」
凄いことには間違いないが、どう考えても力を使う方向性が間違っているとしか思えない。
「でも、話を聞いて腑に落ちた。マサハルが“暴君”と呼ばれるようになったのって、勇者の仕業じゃないか? 勇者がいくら計略に秀でていたとはいえ、ここまで好き勝手やって悪事が1つも表に出ないとは思えない」
「その通り。マサハルが行った悪政として現代まで伝わっている物事の9割は、勇者によって行われた」
「やっぱりそうか……ちょうど亡霊の街に行った頃だったかな? ガイン達から聞く話と人間から聞く話で、マサハルのイメージが食い違っている気はしていたんだ」
というか、公爵家の人達がエリアの事で頭を悩ませていたのも、元を正せば勇者のせいじゃないか。ちょっとムカついてきたな……俺と同じ時代に送られたとしても、絶対に仲良くできそうにない。
「竜馬君とは水と油だろうね。僕らですら、彼が考えていることは理解不能になっていったもの」
クフォが言うには、勇者は他者の魂を吸収する術を使い過ぎた副作用で“自分自身の魂に異常をきたしていた”とのこと。具体的には解離性同一性障害、所謂多重人格に近い状態になっていったらしい。
「あの子は欲をかいて大勢の魂を一気に吸収し始めて、いわば魂の消化不全を起こしたんだよ。何十年も繰り返すうちに、最後の方は理性まで失っていって、魂だけでなく人肉すら食らい始めていたしね……」
「死んだ後に一度魂を呼び寄せたのじゃが、消化できなかった魂が彼の魂の周りにこびりついておってのぅ……例えるならフランケンシュタインの怪物のような継ぎ接ぎになっておった。
どうしてそこまでしたのか聞きたかったが、会話すら不可能じゃったよ」
「それからはどうなったんだ?」
「その場で完全に消滅させた。普通の魂は記憶も能力もリセットされて、生まれなおす準備に入る。でも彼の魂の状態では難しかったことが1つ。もう1つは、彼には何度か神罰を落とすことが検討されていたから。無理をして転生させる必要性がない」
魂の異常に消滅か。神々の反応も含めて、非道な力で非道な行いを続けてきた代償なんだろうな……
なお、途中で何度か警告することも考えてはいたが、神託を使うと必然的に教会関係者を間に挟むことになり、絶対に情報漏洩が起きる。まして教会としては自分達が勇者と認定した奴が“実は人殺しで力を得ていました”なんて醜聞でしかない。
そんな力で戦争に勝ったと公になれば、国家的にもダメージは甚大。一応は終わった戦争が再開して世界が荒れる……と、神々は相当苦慮していた様子。
様子を見ているだけで何もできないのは辛かっただろうに、それでもガイン達は自分の手で送り込んでしまった人間だからと、最後まで見守ることは続けていたそうだ。
「話しづらいことだったのに、しっかり話してくれてありがとう。勇者のことは覚えておくよ。でも、もし俺に何かあったら、気づいた時に言ってくれ」
「うむ。そう言ってくれると儂らも話した甲斐があるというものじゃ」
ガインがそう言って笑うと、つられるように他の皆も笑い、空気が一気に軽くなった。
「ぶっちゃけあそこまで堕ちられるのも一種の才能って言うかぁ、竜馬君がああなるのはどのみち無理だと思うけどねぇ」
「確かに竜馬はこっちに来た時点で中身が大人だから、価値観がある程度固まってるだろうしな」
「もっと詳しい話が知りたければ、下界の歴史書でマサハル王の事を調べればいい。真実を知った今の貴方なら、どれがマサハルの行いで、どれが勇者の行いか判別できるはず」
「分かった。こっちの歴史の勉強がてら、買って読んでみるよ」
そんな話をしていると、体が淡い光に包まれる。帰る時間がやってきたようだ。
「ちょうどいいタイミングじゃな」
「また今度、何かお土産でも持ってくるよ」
「そんなの気にしなくていいから、気軽に来てちょうだい」
「遠慮なくお邪魔します。そうだ、まだ皆は魔王の欠片の件で忙しいかな?」
以前、テクンが魔法の杖の作り方を教えてくれると言っていた。瘴気除去のための熊手を作るにも、勉強させてもらえたら嬉しいのだけれど……
「それなら皆に連絡しておこう。次回竜馬君が来た時に、呼び寄せた者がテクンを呼びに行けばよい」
「テクンも気分転換になって喜ぶよ。よっぽど手が離せない状況だったら断るかもしれないけど、そんな状況でもないしね」
「そいつはいいな! 竜馬、どうせなら私と試合しないか? 戦の女神として戦い方を教えてやるよ。地球の戦闘技術にも興味があるしな!」
「……この際、魂についてより深く理解するのもいい。悪用はしてほしくないけれど、死霊術について知っておいて損はない」
「キリルエルにメルトリーゼまで、竜馬君をサボる口実にする気だねぇ~。僕が休憩しようとしたら、すぐに締め上げてくるくせにさぁ~。よっぽどあの仕事が面倒なんだねぇ~」
「セーレリプタは以前のことで反省期間中だからでしょう……でも、皆もほどほどにしておくのよ。竜馬君はこの通り歓迎しているから、本当に気兼ねしないでいつでも来てね」
タイミングが悪く、ルルティアの言葉に返事をする前に滞在時間が尽きてしまう。しかし歓迎の意思はしっかりと伝わっている。
強い光に包まれながら、また近いうちに神界を訪れることを心に誓った。




