一般的な冒険者
本日3話同時投稿。
この話は3話目です。
「手応えがねぇな」
気合を入れて新たな坑道に踏み込んだ俺達だったが、出てくる魔物が弱いためサクサク進んでいく。この坑道でもう3本目だ。
「スモールラットやスライムに手応えを求めてどうすんのさ」
「ジェフが手応えを感じるような敵が出てきても困るにゃ。アタシ達はいいけど他のGランクやFランクの所に出たら危にゃすぎるにゃ」
「私たちの一番の仕事は、万が一の場合に備えて廃鉱にいる事ですよ」
「ただここに居るだけだと、下のランクの奴に示しがつかないからねぇ」
……この話しぶりと今までの戦いぶり、特に戦いぶりはこの世界で戦ったことのある盗賊と比べても上。この人達、全員かなり高ランクじゃないのか? というか、なんで俺がこの集団に混ざっているんだろう?
「ん? どうかしたのかい? リョウマ」
「いえ、皆さんは全員高ランクの冒険者みたいですし、なんでFランクの僕がここに組み込まれたのかと思って。ギルドマスターの気遣いでしょうか? 知り合いがいた方が楽ですし」
「それは無いだろ。おっさんは確かにおせっかいだが、依頼に関しちゃ実力を最優先すっからな」
「多分、私達5人だけだと魔法でしか倒せない魔物が出たとき対処が困難になりますし、リョウマ君の体力と実力を評価されたんだと思います」
「リョウマ君。私達かなりのハイペースで進んでるから、普通のFランクの冒険者なら付いてくる事で精一杯じゃないかな?」
「最初はリョウマが疲れ始めたらペースを落とそうと思ってたんだけどね。平然と付いてくるもんだからそのまんま来たんだ」
そうだったのか? 全然気付かなかった。
「リョウマ、あんた実力的にはFなんかじゃないだろ。絶対」
「今まで倒した魔獣で一番大物は何だ?」
「一番の大物となると魔獣ではないですけど、ガナの森に生息するブラックベアーですね」
それを聞いた5人がやっぱりという顔になる。
「ブラックベアーは普通Fランクが倒す獣じゃにゃい。安全に狩るにゃらDランクがパーティーで挑んで狩る獣だにゃ」
「ブラックベアーを一人で狩れるなら、リョウマ君はCランク相当の実力を持ってると思います。その実力をギルドマスターに見せた事があるんじゃないですか?」
そういえば、あるな。
「登録の時、実力試験の試験官がギルドマスターでした」
「それだな」
「間違いないね。アンタその時から目を付けられてたんだろ」
「だからこの班に配属されたんだね。納得納得」
「実力はあるんだから、ランクの差なんて気にすんなや。お前なら時間さえあれば俺たちと同じランクに来られるだろ」
「そう言えば皆さんのランクは? 聞いていませんでしたが」
「言ってなかったかにゃ?」
「私達は全員Bランクだよ」
「やっと1流の冒険者って名乗れるランクだな」
「ちにゃみにこの前一緒に仕事をしたシェールがDランク、ゴードンがBランク。そしてアサギとレイピンがAランクだにゃ」
そんな話をしながら歩いていると、ウェルアンナさんが前方に意識を集中した。嗅覚で前方を探っているようだ。
「どうした?」
「匂いからしてこの先にケイブバットの群れだよ、多過ぎる。危険はないけど倒しきる前に一部は逃げられちまう」
「面倒くさいにゃ……」
「そっちに人は誰もいませんか?」
「人の匂いはしないね。何か広範囲の攻撃魔法でも使えるのかい?」
「殺傷能力はありませんが、丁度いい魔法があります」
俺は昨日効果を実証したサウンドボムを説明する。
「へぇ、そんな事が出来るのかい」
「聞いた事のない魔法ですね」
そりゃそうだ、地球の知識を参考にして俺が作ったんだから
「その魔法は気絶か動けなくするだけなんだろ? ケイブバットが復活する前に仕留められるか?」
「気絶させられれば随分楽になるけど、間に合うかはわからないね」
「それなら後ろにいる人たちにも手伝って貰いませんか?」
俺がそう言うと5人も納得した。
「ってか、お前も気づいていたのか」
「森に3年住んでいましたから。気配には敏感なんですよ」
「そうかい、じゃあちょっとここで待ってようかね」
実はここまで後ろからずっと距離を置いて付いてくる6人組が居たのだ。特に襲ってくる訳でも無いので今までは放っておいた。5人に話を聞くと、おそらく稼ぎの少ないG~Eランクの駆け出し冒険者が俺たちが仕留めて放っておいた魔物を拾い集めて金にしようとしているのだろうとの事だ。
ウェルアンナさん曰くGからEは報酬も安く、日々の生活費に加えて討伐をするなら装備の代金等々、金に困る駆け出し冒険者は珍しくないらしい。
「なにか別の収入源がない場合は、だいたいDランクの依頼をこなせるようになってようやく生活が安定するね」
「それまではにゃにかと出費が多くて、怪我や予定外の出費があるからにゃ」
「事前にお金を貯めてくる人も多いけど、ランクが上がるまでの期間はその人の仕事ぶりによるの。なれない仕事でミスをして昇格が遠のいてお金が尽きる、なんてことも多いよ」
「その代わり安定してDランクの依頼をこなせるなら出費を補って十分生活できるお金が入りますし、Cになれば十分裕福な生活ができます。ミーヤが家を買ったのもその位ですね。
あの家はちょっと早まったと思いますけど、それでも一軒家を買えるくらいの収入を私たちの歳で貯められる仕事は多くありません。危険な分だけ見返りが多い、冒険者と言う仕事の分かりやすい例ですね」
シリアさんが言うように、ミーヤさんはまだ20代前半に見える。あの家を買ってから何年かは知らないが、日本だと大学生くらいだろう。その歳で自分の稼いだ金でマイホームを買うなんて、よく考えたらもの凄い事だ。俺なんて死ぬまで安アパートだったのに……
「B以上になると冒険者でも危険な内容の依頼ばかりで数も減ってくるんだが、報酬が跳ね上がる。相当金遣いが荒いかサボり癖が無けりゃ、金には困らなくなるな。
危険は少ないが一番金銭面で辛いのがEまでの冒険者さ。だから後ろの連中みたいな奴は大体がD未満だ」
討伐依頼で仕留められた魔物は仕留めた者に所有権があるが、持ちきれない場合は価値のない物から捨てられる。捨てた物は所有権を放棄したことになるため、それを拾い集めて金に換える冒険者がでてくる。
ただしこういった行為は禁止こそされていないが、褒められた事ではない。後々問題が起こる原因にもなるので、無断でやる者はあまりいない所謂グレーゾーンの行為である。
しばらくその場で休憩を入れていると、例の集団は俺達が休憩している事に気付き足を止めた。そこにウェルアンナさんが大声で呼びかける。
「後ろからずっと付いて来た奴ら! アンタらが付いて来たのはとっくにお見通しだよ! 出てきな!」
6人は慌てるが、やがてゆっくりと姿を現す。
人間4人、獣人2人の男女か……失礼だとは思うが、全体的にみすぼらしい。やっぱり生活に困窮した冒険者だとおもうけど……若いな。歳は全員俺より少し上じゃないだろうか?
「アンタ達、なんでアタイらをつけ回してたんだい?」
「捨てられた、魔物を、拾ってました……」
「……まず、別にアタイらはそれにどうこう言うつもりはないよ」
その言葉に安心したのか、6人の表情が少し明るくなる。
「ただ、なんでこんな事したのかは聞かせて貰いたいね」
「は、はい! 実は、俺たちまだGとFランクで……金に、困ってて……」
「初めは余裕あったんですけど、武器と防具を揃えたらお金がなくなってしまって……」
「俺は討伐依頼でヘマやっちまって、違約金の支払いで金が無くなったんです……」
「俺たち飯代もギリギリで、何とか切り詰めてやりくりして来たんです。そこでこの依頼が出た時、すぐに飛びつきました。この依頼ならしばらくの生活費が稼げると思ったんです。魔物は弱いから安全だし、参加すれば金が貰えて、魔物の死体を持っていけば金になる。もうここで稼げるだけ稼ぐしかない! って思って」
「それで今回参加したら、ここに入っていくあなた方を見かけたんです。それで……」
彼らの口にした理由は、先ほど例として聞いた物ばかりだ。本当によくある事なんだな……と静かに話を聞いていたが、途中で人間の女の子が言いよどんだのを見咎めたジェフさんが追求する。
「それで何だ?」
「それで……」
「俺ら、アンタ達についていくそのガキを見たんだ。そんなガキ連れて坑道に入っていく人達なら、捨てられてる魔物の死体を持って行っても良いんじゃねぇかって。足手纏いにしかならないようなガキを連れて行ってくれる人達なら、大目に見てくれるんじゃないかと思ったんだ」
その男子の言葉にほかの5人が気まずそうな顔をする。そりゃそうだ、仮にも俺はこの班のメンバー、それを役立たずとは普通言えない。
しかし他の5人もそう思っているのか、それとも結局はそれに賛同したから行為を働いていたのを反省しているのかはわからないが、誰ひとりとして彼の言葉に反論も止めようともしない。
「アンタら、自分の立場が……」
俺を下に見た発言を咎めようとしたウェルアンナさんを俺は止める。こういうのは気にしても仕方ない。
「いいですよ、ウェルアンナさん」
「リョウマ、こういうのはガツンと言っておいたほうがいいんだよ」
「話した所でこういう考え方は変わる物ではないですよ。外見が弱そうに見えるのは仕方ないです」
「……わかったよ。だがアンタら! そういう事をするのなら、相手に一言断るのが筋ってモンじゃないかい? 勝手に持っていくなんて盗人みたいな事するんじゃないよ!」
「「「「「「すみませんでした!!」」」」」」
6人は謝ったあと、自分たちが持っている魔物の死体を俺たちに差し出して帰ろうとしていたが、それをシリアさんとミゼリアさんが止める。
「待って! 私達はあなた達が無断で死体を拾い集めた事は咎めましたけど、死体を集めてた事自体は気にしてないですよ」
「お金に困っているのなら、持っていくと良いよ」
その言葉を聞いて、パッと表情を明るくさせる6人。彼らは俺以外の5人に感謝し、礼を言っていた。それにウェルアンナさんは不機嫌そうだったが、ミーヤさんが予定通り6人に手伝いをすることを勧め始めた。
「実は君達に声をかけたのはもう一つ理由があるのにゃ。この先にケイブバットの群れが居るけど数が多くて仕留めるのに時間がかかるにゃ。だから君たちも手伝ってくれないかにゃ? 死体は君たちが持っていくといいにゃ」
6人は当然の如くその誘いに乗った。俺が探査の魔法で人が居ない事を確認している間にミーヤさんから簡単な説明がされる。
「まずリョウマが奥に魔法を叩き込むから、その後突入だにゃ」
「あの子の魔法じゃただ敵を警戒させるだけでは?」
不安を訴える6人に、ウェルアンナさんが文句があるなら帰んな! と一喝したら引き下がったが、彼らは少し離れたところで小声で話し合っている。内容は俺への疑念と、どうであれお金のためには従うのが得策、と言ったところか。
俺は気にせず人がいないのを確認した後で遮音結界を張る。
「準備が出来ました」
「よし、やってくれリョウマ。あんたらも行くよ!」
「行きます!『サウンドボム』!」
俺は魔法を発動し、坑道内に音の爆発が起こる。しかし遮音結界のせいでその音は俺たちには聞こえない。それを失敗と思ったのが6人だ。
「何も起こらないぞ?」
「失敗でしょ」
「成功ですよ、風属性の魔法ですから目には見えません」
そう言って俺とウェルアンナさん達が奥に入り、そこに6人は疑いながらついてくる。
そして彼らは奥に入るとすぐ呆然と床を見た。夥しい数のケイブバットが転がっていたからだ。
「これ全部気絶しているだけですから、手分けして手早く止めを刺して行って下さい」
そう言って俺はさっさと作業に入る。その後全部のケイブバットに止めを刺し終わると、そこが坑道の最奥部だったので俺達は6人を置いて洞窟から出た。後始末は彼らに任せればやってくれるだろう。それが彼らの利益になるのだから。
だがここでウェルアンナさんが聞いてきた。
「リョウマ、何も言わなくて本当に良かったのかい?」
「魔法一発である程度の実力は見せたと思いますし、それで事実を認めて納得できない人ならもう話しても時間の無駄でしょう」
「そりゃそうかもしれないけどさ……」
大体こういう事は事実を突きつければ納得する相手であればそれまで、単に不満で言いがかりをつけたい奴が相手なら何を言っても無駄だと思う。仮に彼らが後者の人間でも、今後関わらなければいい。“他人を変える”なんて事は相当の時間と労力を使ってもできるかどうか。変わらない奴は何時まで経ってもどれだけ世話をしても変わらない。そういう人だと割り切るに限る……と、俺は思う。
「彼らはお金が無いらしいですし、今回は生活するために必死な生意気盛りの少年少女だったという事で済ませましょう」
「生意気盛り……それを彼らより年下のリョウマ君が言いますか? 彼ら、大きい子は15歳くらいだと思いますよ?」
「リョウマ君、本当に11歳?」
「まぁリョウマ君がそう決めたのならいいにゃ」
だいたい体は子供でも心は42のおっさんだからな……子供のする事にあまり目くじらを立てる気もしないし、悪い事を叱るのは皆さんが既にやってくれた。俺も魔法で実力は見せたつもりだ。これ以上は彼ら自身の反省に任せるしか無いだろう。
「あ、でもちょっと気になったんですが、僕ってそんなに弱そうに見えますか?」
一応森の中では主に腕っぷしで三年間命を繋いでいた訳だし、盗賊とも戦ってきた。改めて考えるとちょっと気になる。
「普段はいまいち強そうに見えねぇな」
前世では会社の若いのから“居るだけで圧迫面接”とか陰口を叩かれていたくらいなのに、やっぱり外見なのだろうか?
「そうだな……お前が強いのは今日戦ってる姿を見てもう分かってんだけどよ、こうして戦ってない姿を見ると“強そう”ではないんだよなぁ……」
「こう言うと失礼ですけど、リョウマ君はそういう雰囲気がないというか……もちろんこの前の仕事で体力があるのは知っていましたし、狩りができると聞いていたので足手まといにはならないとは思っていました。だけど腕前の方はさっぱり……」
「ある程度強くにゃると、にゃんとにゃく相手の強さとかもは分かるようににゃるけどにゃ……」
「正直に言うと、アタシもリョウマが予想以上に戦えているのを見て驚いたくらいさ」
「雰囲気は感覚的なものだから人によって鈍い鋭いはあるけど、私たち獣人族は鋭いほう。でもリョウマ君は雰囲気と実力がバラバラ……もしかして実力を隠しているとか?」
「いえ、特にそういった意図は」
前世ほど取り繕う必要ないし、特に気にしていない。せいぜい無駄に威嚇的な行動をとるような真似をしないくらいだけど、その程度じゃ隠すと言うより常識的な行動の範疇だろう。
「だったらもう、そういう個性なのかもね。人間性とかそういうの」
「そんなもんですかね? 森で盗賊に遭遇した時とか、毎回明らかに舐められてましたが。返り討ちにしましたけど」
「その気持ちは分からなくもない。つーかその盗賊、運が悪かったな」
「それこそスライムを狩るくらいの気持ちだったんだろうにゃぁ……」
「実際出てきたのは熊以上の相手ですけどね」
「シリアの言うとおり。……そう考えるとリョウマ君は天然の罠?」
いつの間にか俺は盗賊ホイホイ扱いをされていた。
そんな話をしているとそろそろ昼食が用意される時間らしく、俺達は広場へと戻る。




