装備の更新と従魔達 その2
本日、2話同時投稿。
この話は1話目です。
俺がゴブリン達に目を向けたことに気づいたからか、シーバーさんが聞いてきた。
「リョウマ、あのホブゴブリンが着ている甲冑が気になるのだが、あれらも試作品か?」
シーバーさんの視線の先には、準備を行っているゴブリン達を囲むように散開しているホブゴブリン達がいた。彼らは主に群れの中でも闘争心が強い個体で、野外活動では非戦闘員の多いうちのゴブリン達の護衛担当。今も周囲の警戒をしながら、所々で武器の素振りをしている。
彼らの甲冑は、以前に倒した剛剣兄弟の甲冑を参考に、錬金術でパーツを作って組み上げた自作の品だけど、なかなかいい感じに仕上がったと思う。
「あれは試作品ですが、職人の作ったものではないので、どちらかといえば周囲への牽制用ですね」
「ああ、前に話していた絡まれないようにするためのホブゴブリンか。なかなかの体格に重厚な甲冑、背中に大剣を背負った状態で問題なく動けているようだから、確かに強そうに見えるな」
「材料には一般的な鉄よりも比重が軽い“ジュラルミン”という合金を使っているので、強度のわりに軽くて動きやすいと思います。難点としては錆びやすいので、炭を混ぜたスティッキースライムの粘着液を塗布して錆の防止、あとは光沢を抑えて重厚感を出しています。
あと、彼らにも最低限の戦闘訓練はしていますから、討伐依頼でもそれなりに活躍していますね。贔屓目もあるかと思いますが、見掛け倒しというほどではないかと」
体の小さいゴブリン達には遠距離、体格に恵まれて力のあるホブゴブリンは近接……といった具合に大雑把に分けて、矢や魔法の一斉掃射、それを凌いで近づいてくる敵を近接部隊が迎え撃つのが基本戦術だ。
リムールバードに頼めば空から索敵をしてもらえるし、スライムの力を借りれば短時間でも罠や陣地が作れる。そして俺が空間魔法を使えば早く、人目につかず移動も可能。これらの要素をゴブリン達の数と組み合わせて先手を取れば、さらに有利に戦うことができる。
ごく基本的なことだけど、有利な状況を作れれば、それだけこちらは安全になる。ここ数ヶ月の討伐では、ゴブリン達の一斉掃射だけで瓦解する盗賊団や魔獣の群れも少なくなかった。
「思ったよりもしっかりと“部隊”として運用しているな……さしずめリョウマは大将であり参謀ということか」
「あ、参謀と言っていいかは分かりませんが、それっぽいのは別にいますよ。コハクというジーニアスチキンが1羽」
コハクは食用の卵が目的で購入したクレバーチキン達のリーダー、というかほぼクレーム処理担当。家畜として大切に育てられたからか、温室育ちでわがままなクレバーチキンを取りまとめるコハクは、まだ生後1年も経っていない小さな体で群れをまとめている。
そんな、心労の多そうな彼を見てなんとなく、気晴らしになればとチェス盤を作ってみたところ……コハクはすぐさまルールを覚えて、俺はあっという間に勝てなくなった。
その後、コハクがチェスを群れの仲間に教えたところ、熱中した個体からの文句が減ったり、争い事をチェスで解決するようになったりして、結果的に負担が減ったととても感謝されたのだけれど、まったくの想定外だしちょっと複雑。
「でも参考になるので、時々話を聞いています」
「それは、どうなんだ? そもそも、クレバーチキンはそんな魔獣だったのか?」
「まず、家畜にチェスを教えるという発想がないからのぅ……クレバーチキンは頭が良い、人の言葉を理解すると言われているが、チェスを嗜むという話は知らん。しかし、実際にできているなら、教え方次第で可能なのかもしれん」
意見を求められたラインバッハ様は、迷いながらそう答えた。さらに、もしかすると富裕層に人気の見世物になるかもしれない、と続ける。
「物珍しい存在として、でしょうか?」
「それもあるが、貴族にとって頭を使うゲームは教養の一部じゃ。貴族が大会を開くことも、強い選手を召抱えることも、一時的に雇い入れて指導を受けることも珍しくない。それほどに、富裕層で熱を入れている者は金をかけるんじゃよ。
教えればチェスができるなら、クレバーチキンをチェスの選手として育成し、クレバーチキン同士で試合をさせる大会が生まれるかもしれん。そうなれば、専門の従魔術師もでてくるじゃろうな」
「まるで馬みたいですね」
「競うものが足の速さかチェスの強さかというだけの話で、まさしくその通りじゃよ」
「流行り廃りはあるけれど、その手の競技と市場はいつの時代もなくならないからね。貴族は新しいものにも飛びつくし、上手くやれば儲かるんじゃないかしら」
地球にも今は動物愛護とかで公には禁止されているけれど、闘犬とか闘鶏とかの競技もあったしな……というか、これもある意味闘鶏と言えるのでは? なんかイメージ悪いな、チェス鶏、はダサいか。
そんなことを考えていると、今度はセバスさんから質問。
「クレバーチキンの件も気になりますが、リョウマ様、先ほどからゴブリン達が引いている金属製の荷車は何でしょうか? 荷台が鍋のように見えますが」
「あれは野外で大人数の食事を調理するために作った移動式の竈のようなもので、あの上で大量の調理ができるようになっています」
冒険用の装備について考えた時、日本の自衛隊には調理のための車両がある、という話を思い出して試作した“野外炊具”。ただし詳しい知識がなかったので、昔あった焼き芋の移動販売のような、煙突付きのリヤカーになってしまった。
構造も防火対策と大型のガスコンロを積み込んでいるだけで、さほど複雑ではない。でも、それだけに壊れても自力で修理が可能だし、頑丈で使い勝手も悪くない。
ちなみに燃料として使っているのは、スカベンジャースライムが吐き出す悪臭に含まれている“メタンガス”。天然ガスの主成分であり、牛のゲップや人間のおならなどにも少しは含まれている。
スカベンジャーも1匹では微量しか吐き出せないが、一万匹も合体したエンペラースカベンジャーなら排出量は圧倒的に多くなる。その代わり、メタンガスと一緒に吐き出される悪臭成分も多くなるのだけれど……
「そういった不要な成分を取り除くために必要なのが、隣に置いてある装置です」
この装置も至って単純で、小学校の理科実験でやる“水上置換法”の解説図のような構造。スカベンジャーが管の中にメタンガス入りの悪臭を吹き込んで、デオドラントが待機している吸臭液の中を通すことで、悪臭成分のほとんどを除去してもらう。
そして残った微量の悪臭成分とメタンガスは一時保管のスペースに溜まり、気圧で上部に配置した管へと送られる。そこにはフィルタースライムが待機しているので、飛沫や液の流入を防ぎ、微量の臭いとメタンガスだけがコンロに送られる。
「と、ざっくりですがこんな仕組みになっています」
「スライムが生み出す“地竜の吐息”のようなものを利用しているのですね」
「地竜の……すみません、僕はそちらの方が分からないのですが」
「地竜の吐息とは古くから“地中から噴出する風”を指す言葉でございます。火をつけると激しく燃える、あるいは吸うと有害な風で、火山地帯で被害が出やすいことから“地面の下や洞窟には地竜がいて、その吐息が漏れている”という話になったとか」
「それでしたら、地竜の吐息の一種と考えていいと思います。地面の下、あるところにはあるものですし、地表に噴出する場合もあります。それに、使い方を誤ると危険なのも事実です」
あの野外炊具も、野外やしっかりと換気ができる場所での使用が前提。そして、万が一漏出した場合にも気づけるように、悪臭も完全には取り除かないことにしている。
「それに、現状では臭いの除去に使う液の量と交換速度の調節、ガスを吹き込む速度の調節、ほぼ全てスライムありきの運用ですから、安全性の他にも課題が多いです。あの野外炊具にしても、火の魔法道具を使った方がよほど安全だし普及もしやすいと思うので、完全に趣味の品ですね」
仕組みの問題だけでなく、ガスの扱いは専門知識がなければ大事故に繋がる。俺はガス関係のバイトをやって資格も取ったけど、昔の話。他人に教えられるほどかと言えば、自信はない。少なくとも今は、自己責任で個人的に使うくらいが限度だろう。
「しばらく会わないうちに、また色々と研究しておったんじゃのぅ」
「ここまでくると、その背負子も何か工夫があるのかしら」
「はい。この背負子には先ほどの甲冑と同じ合金で作った管を骨組みにすることで、強度を確保したまま軽量化しています。また、腰のベルトで体にフィットさせることで、重量を体で支えやすくしていますし、万が一荷物を捨てなければならない場合はこの部分を押せば金具が外れるので、素早く戦闘や逃走に移れます。
骨組みの外には緩衝材としてラバースライムのゴムを貼っているので、多少の衝撃はものともしません。また、収納量は多くありませんが、底板も引き出し付きの収納スペースになっているので、小物や壊れやすいものなどを入れておけます。
取り出しやすい場所なので、僕は応急処置に使う医薬品や器具を入れていますよ」
「ふむ、一度持たせてもらってもいいか? あと、やはり甲冑も予備があれば見せてほしい」
「もちろんです。試作品は色々ありますから、ごゆっくりどうぞ」
「わしらにも見せておくれ」
あれ? いつのまにかセールスみたいになっている、けどまあいいか!
こうして昼食ができるまで、俺は新装備の試作品の説明を続けるのだった。




