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再会と出会い

本日、3話同時投稿。

この話は1話目です。

 殺風景な景色を見ながら、山道を歩き続けること数時間。岩だらけで緑の少ない景色に飽きる頃、テレッサの街に到着した。今日はこの街で一泊するか。問題は宿をとるか、それともディメンションホームで寝泊まりするかだ。


 空間魔法のディメンションホーム、その中に広がる空間は今や、日々の拡張とスライム達によって“広い庭付きの家”と呼べる状態になっている。そのため、下手な宿に泊まるよりよほど快適だ。


 しかし、せっかく遠出をしたのだから、現地の宿に泊まってみるのも悪くない……まずは少し街を歩いてみるか。どこかで腹ごしらえをして、それから決めても遅くはないだろう。


 そんなことを考えながら街に入り、ブラブラと歩いていると、ふと一台の馬車が目に留まる。


「ん? これって……」


 そこは、ちょっとお高めの宿のようだ。その隣には、専用の馬車置き場が併設されている。俺のいる道路からは、高い鉄の柵で隔てられているけれど……見間違いかと思い、柵に近づいてもう一度見てみるが、見間違いではなかった。


 留められていた馬車の側面には、俺がお世話になっているジャミール公爵家の紋章が描かれている。それもおそらく、先日乗せていただいたものとは違い、俺が初めてガナの森から出た時に乗った馬車だ。


 何でこんな所に? あれは確か、セバスさんがディメンションホームに出し入れしていたはず。ということは、セバスさんがここにいるのか? いや、家の馬車だし別の誰かかもしれないけど……ッ!


「あら、気づかれちゃった」


 背後に気配を感じて振り向けば、眼鏡をかけた褐色肌の女性が、肩まである銀髪を風になびかせながら、楽しそうな笑顔を浮かべて立っていた。俺と彼女の距離は3m程しかない。こんなに接近されるまで、気づけなかった。


「あなた、随分とカンが良いのね」

「……あなたは、どちら様でしょうか?」

「あら、警戒させちゃったかしら。ごめんなさいね、ちょっと驚かそうとしただけなのよ。その馬車を熱心に見てるものだから、何してるのかなーと思いながら見ていたら、ちょっとした悪戯心がね」


 確かに、敵意はなさそうだけど……


「レミリー様、こちらにおられましたか」


 ここで、後ろから聞き覚えのある男性の声が聞こえた。振り向いてみれば、


「昼食の用意が……おや? もしや、リョウマ様では?」

「セバスさん!」

「えっ? セバスちゃんの知り合いなの?」


 セバスちゃん? それに今、セバスさんはこの人に声をかけた。……どうやらこの女性はセバスさんの知り合いらしい。なら、とりあえずは大丈夫かな?


「レミリー様、彼は我々の友人でございます。まさかこのような場所で再会するとは思ってもみませんでしたが」

「友人? 我々って事はセバスちゃんだけじゃなくて、ラインバッハちゃんとも? へぇ……」


 とりあえずは大丈夫そうだけど、この女性、本当に誰なんだ? まだかなり若く20代、下手したら10代後半位の容姿にしか見えないのに、セバスさんやラインバッハ様をちゃん付け。この人の素性が分からない……にしても、改めて見ると本当に美人だな。


 身長は今の俺よりは高いが、成人女性としては小柄な方か? 着ているローブの前が開いているのでスタイルが良い事も分かる。胸部には身長に対して少々不釣合いにも思える膨らみがあり、腰が細い。地球の雑誌に載っていたグラビアアイドルの様な体型。


 健康的ではあるが、戦うために鍛えられている様には見えない体つきからすると、武器で戦うタイプでは無いと思われる。でも身軽ではありそうだ。


「さっきは驚かせちゃってごめんなさいね、私はレミリー・クレミス。魔法使いよ」

「申し遅れました、リョウマ・タケバヤシと申します」

「お2人とも、お互いに色々と聞きたいこともあると思いますので、場所を移してはいかがでしょうか?」

「そうね。リョウマ君も良いかしら?」

「はい。問題ありません」


 セバスさんが居るし、とりあえずはついて行こう。しかし、本当に何でこんな所にセバスさんが居るんだ? いや、ラインバッハ様が居るのなら、付き添いか。






 ■ ■ ■






 セバスさんについて行くと、目の前にあった宿の一室まで案内された。部屋の前でセバスさんが扉をノックをしようとするが……それに先んじて、レミリーと名乗った女性が扉を開け、俺の手を引いて部屋の中に入ってしまう。


「ラインバッハちゃん、お客様よー」

「ちょっ、と、お久しぶりです」


 部屋に入ると、去年と変わらずお元気そうなラインバッハ様が目に入ったので、戸惑いながらも挨拶する。室内にはもう1人、ラインバッハ様と同年代の男性がいて、2人はソファーで寛ぎながら何かを話していたのだろう。2人とも、突然入ってきた俺達に目を瞬かせている。


「リョウマ君か? ギムルで別れた時より少し背が伸びたかのぅ。しかし、何故ここに?」

「たまたま修行に来ていたんです。そうしたら公爵家の馬車を見かけて、驚いていたところに……」


 つい視線がレミリーさんの方に向いてしまう。するとそれを追って、ラインバッハ様ともう1人の男性の視線もレミリーさんに向かう。視線が集まった事でレミリーさんが、色々端折って非常に簡単な説明をした。


「この子がラインバッハちゃん達の知り合いみたいだったから、連れてきたのよ」


 無論、それで話が理解できるはずもなく、互いの自己紹介の後に、俺とラインバッハ様の関係やここにいる理由を説明し合うことになった。そうして聞いた話によると、どうやらラインバッハ様は友人との旅行中だったらしく、セバスさんは予想の通り、その付き添いだそうだ。


「そうだ、昨年末の話は聞いている。我々が生んだ禍根を、その後始末を押し付けてしまったこと、申し訳なく思うと共に、感謝している。息子夫婦に協力してくれて、本当にありがとう」


 その言葉の前半には、深い悲しみと苦慮。後半には純粋な感謝を感じた。ラインバッハ様がどれほどの思いを抱えていたのか、それは俺には理解できない。しかし、思い悩んでいたのだろう。


 ラインバッハ様は、既に息子のラインハルトさんに公爵家当主の座を譲り、引退した身である。そのため、領内で起きた問題への対処は、現当主であるラインハルトさんが主体となって行わなければならない。


 たとえ事の発端や経緯がどうであれ、引退したラインバッハ様が動きすぎてしまえば、貴族の間で“領主として未熟、あるいはその器でない”などという醜聞が立ちかねないのだとか……


 非常に面倒臭いが、ラインハルトさんの評判を落とすことは親として不本意であり、長い目で見れば公爵家のためにもならない。故にラインバッハ様は、表に立つことができず。しかし、可能な範囲を見極めて、裏で問題解決の手伝いや支援をしてくれていたそうなのだ。


「こちらこそ、ラインバッハ様の根回しのおかげで、街の復興も順調に進みました」

「そう言ってもらえると、心が軽くなる。ああ、実はこの2人にも少し手伝ってもらったんじゃ。この2人は付き合いが長く、信頼できるからのぅ。顔も広いので、わしに代わって動いてもらっておった」

「そうでしたか、ありがとうございます」

「いいのよ、こっちも報酬として、ラインバッハちゃんにはしっかり手伝ってもらうことになっているから」

「人々のために動くのは騎士の務め。友人の頼みであれば尚更だ」


 俺の言葉にそう答えたのは、レミリーさんともう1人の男性、名前はシーバー・ガルダックさん。なんと彼は、以前ラインバッハ様が冗談なのか本気なのか、店の護衛として雇わないか? と薦めてくれた“元騎士団長”だった。


 シーバーさん本人は“加齢とそれによる衰えを感じて退役した”と言っているけれど、体つきはまだまだ筋骨隆々で、衰えを感じさせない。腕も相当に立つのだろう。しかし、威圧感はない。初対面で威圧されても困るけれど、騎士団長=雰囲気が重々しいというイメージがあったので、若干肩の力が抜ける。


 そしてレミリーさんだが、彼女は元宮廷魔道士らしい。さらに驚いた事に、おそらくこの中で最も年上だ。というのも、彼女はエルフの近縁種である“ダークエルフ”だそうで、こちらも年齢に対して外見の老化が現れにくいらしい。


 年齢がおそらく、なのは聞けなかったから。一度シーバーさんが口を滑らせかけた時には、シーバーさんに向けて視線と殺気と魔力が放たれた。その瞬間、俺はレミリーさんの年齢に関しての話題は避ける事にした。


 ちなみにお2人の事は、さん付けで呼ぶことになった。最初は様付けで呼んだけれど、レミリーさんには嫌がられ、シーバーさんはもう騎士団長でもない、ただの老いぼれだからと言われたからだ。


 マナー的にどうかはともかく、レミリーさんは本気で嫌がっていたようだし、セバスさんもいいと言っていたから問題ないのだろう。


 しかし、旅行でこの街に来たことは分かったが……


「何故この街に? 事前に調べた限りでは、観光地があるとは聞いていないのですが」

「この街の近くにある“亡霊の街”と呼ばれる迷宮に行くためじゃよ。レミリーの欲しい物があるようで、我々はそれを取りに行く手伝いをすることになった。それが先程の話にも出ていた報酬として要求されたことなのでな」

「そういうこと。常闇草という薬草を知っているかしら?」

「主に精神の安定剤や睡眠薬に使われる薬草ですね。混ぜる物・量によって人を錯乱させたり苦しめる毒薬にもなるので、扱いの難しい薬草です」

「詳しいわね。でも常闇草の用途は薬に使われるだけではないわ」


 レミリーさんはそう言いながら、1本の黒い杖を差し出してきた。


「この杖はダークエルフの村で作られた物で、常闇草の煮汁に浸した後で乾燥する工程を、数回繰り返した木材で作られているの。こうすると出来上がった杖で、闇属性の魔法を使いやすくなるのよ」

「へぇ……それ、教えてしまって良いんですか?」

「別に構わないわ、大した事じゃ無いもの。ただ煮汁に漬け込むだけで良いんだから、村では常闇草を手に入れた人なら皆、家でやっている事よ」


 秘伝の技術かと思いきや、そうでもないらしい。


「この杖は私が成人の時に贈られた物で、手入れをしながら使っていたけど、流石にそろそろ限界が来そうなのよ」

「なるほど、新しい杖を作るために常闇草を採りに来たんですね」

「その通りよ」

「リョウマ君は何故ここに? わしはてっきり、ギムルの街かその周辺で活動していると思っておったが」

「実は、僕の目的も亡霊の街の常闇草なんです」


 先程、常闇草は主に精神の安定剤に使われると言ったが、例外も当然あり、俺が作りたいのは“虫除け”だ。


 俺が行こうとしているシュルス大樹海は、その名の通り樹海。つまり高温多湿の環境で、魔獣だけでなく虫なども多い。そのために効果的な虫除けが必要で、それを作るための材料の1つが常闇草だった。


 あと、それが生えている亡霊の街は、その名の通りアンデッド系の魔獣が跋扈する地域。大樹海はアンデッドが多いわけではないけれど、樹海の中で命を落とした冒険者がアンデッドになり、さまよっているところに遭遇する可能性はあるので、その対策・訓練も兼ねている。


「ふむ、シュルス大樹海の中の村へ行くためか……」

「確かに、あそこに行くには虫除けとアンデッド対策は必要ね」


 説明の過程で、俺の目的を聞いた2人は納得した様子で、深く頷いている。


「はい。光魔法は使えますが、まだ実体の無いアンデッド系魔獣との戦闘経験がないので、その経験不足を解消するためにも、亡霊の街で経験を積みたいと思っています」

「あら、光魔法を使えるの?」

「はい。初級攻撃魔法のライトボールと、対アンデッド用防御魔法のホーリーカーテン。この2種類だけは覚えました」

「歳を考えれば十分に優秀と言えるが、それでは群れに遭遇した場合に少々不安が残るな。せめて中級まで光魔法を使えれば問題はないと思うが」

「だったら、私が少し教えてあげましょうか? 中級の光属性魔法。ラインバッハちゃんのお気に入りの子みたいだし、私が『ハイド』を使っても気付けたくらい優秀なら、覚えも早そう。それに、どうせ同じ場所と物が目的なら、一緒に行けばいいでしょう?」


 それは確かにありがたいけど、ハイド? 以前いただいた魔法書には載っていなかったけれど、名前からして隠れる魔法。それを使ったということは、


「もしかして、最初に会った時に?」

「ええ、気配を悟られにくくする、闇の中級魔法よ。姿が消えるわけではないから、あまり便利ではないわね。だから有名ではないかも」

「レミリー様は光と闇の魔法の達人であり、宮廷魔道士の中でも特に優秀と言われていた方でございます。彼女以上の実力を持つ方は、そうそう出会えませんよ」

「少々性格に難があるが、技量は申し分ないじゃろ」

「失礼ねぇ……性格もいいでしょう」

「いい性格、ではあるかもしれんな」


 レミリーさんを訝しげな目で見るラインバッハ様とシーバーさん。セバスさんは我関せずとラインバッハ様の横に居る。光魔法を教えて貰えるのは嬉しいが、大丈夫なのだろうか?


「会ってしまった以上、苦労するのは教わる教わらないに関わらんか。リョウマ君が良ければ教えてもらうと良い」


 どう言う意味だろう? 少々不安だが、貴重な機会は逃したくない。


「光魔法を教えて頂けるのは非常にありがたいです。ぜひお願いします」

「じゃあ決定! 一時的かもしれないけど、これからは師匠って呼んで頂戴」

「師匠ですか? わか――」

「もしくはお姉ちゃんでも可」


 分かったと言おうとしたら、予想外の提案が来た。それは恥ずかしいので断る。


「師匠でお願いします」

「えー、私のやる気に関わるのにー」


 レミリーさんからあからさまな不満の声が出た。それを聞いて3人がそれぞれ発言する。


「師匠と呼べと言ったのはお前だろうに」

「レミリーの相手は疲れるじゃろうが、耐えるか流すしか無いのでな。頑張ってくれ」

「リョウマ様、レミリー様の実力は確かですのでご安心を」


 何と言うか……レミリーさんは自由人っぽい。


 そう思っていたら、ラインバッハ様がもう1つ提案をした。


「そうじゃ、リョウマ君。ついでに君の戦いぶりを見せてくれんか?」

「それはもちろん。亡霊の街で戦えばいいのでしょうか?」

「それもあるが、一度試合をしてみてはどうじゃろうか。ここに居るシーバーと」


 俺が元騎士団長と!? というか、シーバーさんも驚いている。


 そんなシーバーさんが俺より先に、ラインバッハ様に真意を問えば、ラインバッハ様は俺がシュルス大樹海に行く前に、一度どこかで実力を確認したいとは思っていたらしい。そして初対面のシーバーさんなら、元騎士団長ということもあって、俺の技量を客観的かつ正確に評価できるだろう、との事だ。


 この話を聞いて、シーバーさんは試合をする事を承諾。いきなり試合を提案されたから驚いただけで、別に断るつもりはなかったようだ。


 それからシーバーさん曰く、どうせやるなら相手の情報が無い状態で戦ったほうが、素の実力がよく見える。情報を集めて用意周到に準備をするのはいいが、それだけでは事前に用意が出来ない状況に追い込まれた時に、生き残れない事がある……という事で、すぐに試合をする事になった。


 そんなこんなで俺は一足先に、セバスさんと街の外の、試合ができそうな場所へ移動。シーバーさんは旅をしてきたばかりの俺と違い、武器や装備を身に着けていなかったので、準備をしてから来る事になった。


 たどり着いたのは、何の変哲も無い岩場。ここなら周りを気にする必要は無さそうだ。


 シーバーさん達を連れてくるために、再び転移していくセバスさんを見送り、俺はその間に準備を整えておく。……相手は元騎士団長、強くて当たり前だ。急な話だが、ラインバッハ様達に安心してもらうためにも、胸を借りるつもりで挑もう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 全力を出したら、ヤバい奴認定されたりして(笑)
[一言] この二人出てきて、なんかようやく旧作に追いついたなってかんじがする。 期待してます
[良い点] レミリー姐さんキタァ!
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