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ゴミ処理場の防衛

本日、2話同時投稿。

この話は2話目です。

「これでとりあえずは大丈夫です。あとは病院でしっかりとした治療を受けてください」

「ああ、ありがとう。助かったよ……」

「店長さん、こっちも終わったよ。幸い重傷者はいないみたいだ」


 リョウマとユーダムは街の人々を襲撃していた冒険者達を鎮圧した後、光の魔法で明かりを作り、その場で怪我人に応急処置を施していた。


「お手伝いありがとうございます。しっかり見ていたわけではありませんが、かなり手際が良かったですね」

「これでも騎士を志していた身だし、簡単な処置ならなんとかね」


 2人がそんな話をしていると、遠くから馬の嘶きが聞こえてきた。


「来たかな?」

「来たみたいですね。数は、3台か」


 リョウマの目に、遠くから近づく馬車の明かりが見えた。

 3台の馬車がうっすらと見えるくらいまで近づくと、先頭の御者が声を上げる。


「警備隊の者です! 皆様ご無事ですか!?」

「なんとか無事だよ!」

「早く来ておくれ!」


 御者の言葉に、人々は安堵の表情を浮かべて返答し、馬車を誘導した。

 そして到着した馬車に乗っていた人員が、速やかに現場の状況に対処する。


「こちらに暴徒の集団がいるという連絡を受けています。その暴徒とは、あの倒れて積み重なっている連中ですね?」

「そうだよ! この二人が取り押さえてくれたんだ!」

「分かりました。連中の身柄はこちらで預かります。皆様の中で治療が必要な方は、後続の馬車にお乗りください。それから、君がリョウマ君で間違いありませんね?」

「はい、リョウマ・タケバヤシです」

「警備会社の本部からの伝言です。“火災発生は減少傾向、ただし怪我人多数。病院での治療に参加を要請する”とのことです」

「伝言、承りました。ただちに病院へ向かいます。あとのことはよろしくお願いします」


 こうしてリョウマ、そしてユーダムは警備隊本部に併設された病院へと向かった。





 ■ ■ ■





 一方その頃……ゴミ処理場の中には、一台の幌馬車と5人の男が入り込んでいた。


 5人は馬車から油の入った壷を次々と取り出して、床に設置された格子状のゴミの投入口や、その横に積まれた処理前のゴミに油をかけていく。


「これで全部だな」

「あとは火をつけるだけだ。穴から離れろ」


 そう言った1人は、全員が投入口から離れたことを確認すると火の魔法を放った。男の手のひらに生み出された小さな火球が油の撒かれたゴミの山、さらに投入口の中まで引火して、たちどころに炎が広がっていく。


「ずらかる――あ?」


 男達は燃え上がる炎を確認すると、即座に逃走を図ろうとした。

 しかし、突然高く吹き上がった炎の勢いに足を止める。


「おい、なんだこの火の暴れ方」

「い、いくら油を撒いたからって、こんな燃え方するか?」

「穴の中に燃えやすい物でもあったんじゃないか? それか中にいるっていうスライムが燃えてるとか。植物系の魔獣とか、体内に油を溜めてる奴もたまにいるだろ」

「どうでもいいさ、やれと言われたことはやったんだ。それよりさっさと逃げるぞ、人も来るだろうし、万が一にも自分達で放った火に巻かれるなんて――」


 撤退を急がせていた男の言葉が途中で止まる。馬車に乗り込みながら横目で見た視界の端に“半透明の触手”が蠢いていたからだ。


 触手は丸太のように太く、天井に届きそうなほどに高く伸び上がると、まるで蛇が鎌首をもたげるかのように全体をくねらせたかと思いきや、次の瞬間には燃え盛る炎を舐めるようにゴミの山を削り取り、火のついた物体を取り込んでしまう。


「――馬車から離れろ!!」

「うっ!?」

「ぐぉっ!?」


 触手はそのまま男達に襲いかかる。男達は間一髪のところで直撃を避けたが、巨大触手から零れ落ちた大小様々なゴミが礫となって体を打つ。巨大触手の質量をまともに叩きつけられた馬車にいたっては、幌と骨組みが潰れ、いたるところに亀裂が入った。


「「ヒヒィィイインン!?」」

「あっ! こら落ち着け!」


 この音と衝撃に驚いたのは、繋がれていた2頭の馬。火にも怯まなかった馬達は一瞬にして興奮状態に陥り、暴れた拍子に傷んでいた馬車の(ながえ)が折れる。


 そのまま外に続く扉へ向かい、一目散に駆け出した馬を1人の男が捕まえようと手綱に手を伸ばすが……


「え……あ、あああああ!」


 手綱を注視していた男の足元には、振り下ろされた物とは別の触手が伸びていた。触手は一瞬にして男の足を絡め取ると、男を燃え盛るゴミの投入口へ、じりじりと引き込んでいく。


「離せ、離せよ! くそっ!」


 男は持っていたナイフを抜き、必死に触手を切り落とそうとした。しかし、ナイフの刃や先端は触手の表面を滑るのみ。切り落とすどころか、針の穴ほども傷つかない。


「なんでだ!? なんで刺さらないんだよ!?」


 そのうちに引きずられた男の足先が、ゴミの投入口に届いてしまった。

 足は火に炙られ、燃え盛る火が靴から服、そして全身へと延焼する。


「うわぁあぁあぁ! 熱い! 助けてくれェッ!」


 のた打ち回る男は助けを求めるが、


「こっちはそれどころじゃねぇんだよ! 勝手に死んでろ!」


 他の4人は、燃える男をあっさりと切り捨てた。

 もとより彼らは指示された仕事が偶然同じだったというだけの関係。

 仲間ではなく、絆もなく、ただ自分が助かることだけを考えていた。


「何匹いるんだこのデカスライム、他の穴からも出てきてやがる。こっちは完全に囲まれた! どこか抜けられる場所は!?」

「こっちもダメだ! 刃物がダメなら魔法で焼けないか!?」

「ダメだ、軽く表面が焦げる程度、しかも一瞬で元通りになっちまう」

「いくらデカくても、スライムなら核を潰せば殺せるはずだ! 核を探せ!」


 4人はスライムの核を探して周囲を見回す。しかし視界に映るのは、馬車の残骸と他の3人。そして自分達を取り囲む、折り重なって太い輪となった触手(・・・・・・・・・・)


「核が見える範囲にないってことは、下から出てきてないのか!」

「つーか、どんどんデカく……まとまってもう壁じゃねぇか。まさか、デカイのが複数いるんじゃなくて、さらにデカイのが1匹なのか?」

「ふざけんな! どんだけデカいんだよ!?」

「確かにデケェが、まだこのくらいなら……『肉体強化』! うぉおおおおお!!!!」


 ここで侵入者の1人が身体能力を向上させる魔法を使い、助走をつけ、さらに壊れた馬車の残骸を足場にして、触手の輪を飛び越えようとした。その跳躍は家屋を隔てる塀なら軽々と越えそうなほどに高く、成功するかと思われた……が、


「ぶっ!?」


 飛び越えようとした輪の一部から、新たに生えた触手が伸び上がり、衝突。

 男は墜落することなく、そのままめり込むように触手に取り込まれていく。


「や、やめろ! 離せぇ!」

「スライムとはいえ、調教された従魔か……くっ」


 ここで、飛び越えるのは無理だと判断したドワーフの男が、突然うずくまる。


「おい!?」

「今度はどうした!?」

「急に、頭が」

「チッ! 頭痛とか言ってる場合じゃないだろ!」

「急に? まさか毒か!?」

「そんな攻撃を受けた覚えは……ううっ」


 その言葉を言い切る前に、うずくまっていた男は意識を失った。


「クソが! なんなんだこの化物は! 臭ぇし汚ねぇのは我慢するにしても、こんなのがいるなんて聞いてねぇぞ!」

「おい、自棄になるな!」

「うるせぇっ!」


 打開策のない状況に苛立ち、足元に転がっていた馬車の残骸を拾って投げ始める男。車輪、金具、炎が燃え移った幌の骨組みなど、手当たり次第に投げているが、それらは当たって跳ね返されるか、そのまま取り込まれてしまい効果はない。


 強いて効果があると言うならば……投げた男を“敵”と認識させる効果はあったのかもしれない。


「この仕事が終われば、俺は返り咲けるんだ! そのためならスライムだろうが警備員だろうが、邪魔する奴はいくらでもぶっ殺してやる! 俺はこんなところで――」


 喚いていた男を、業火が襲う。

 それは一瞬にして男の身を包み、悲鳴を上げる間もなく死に至らしめた。

 おそらくは、喚いていた男本人も何が起こったかを理解していないだろう。


 男を落ち着かせようと声をかけ、かろうじて炎を避けたもう1人は一部始終を見ていたが、こちらは急激な酸欠(・・)で意識が朦朧とし始めていた。


「火、いや燃える風(・・・・)か? ……こんなのがいるとか、警備が手薄だったわけだ……こんなことなら一か八か、他所の国にでも逃げるんだったなぁ……そっちの方が、まだ希望があっ……」


 そんな後悔を最後に、1人残った男も意識を失ってしまう。

 静かになった処理場を、再び複数に分かれた触手が、残る火種ごとあらゆる物を取り込んでいく。

 こうして全ての危険物が排除されると、触手は静かに元の居場所へと戻る。


 残されたのは、何事もなかったかのように片付いた処理場と、焦げた臭いだけだった……

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― 新着の感想 ―
[一言] 急に生物災害系ホラーになったw キングかエンペラーか、どこまで集まるとここまでできる様になるんだろう
[一言] 汚物とか食べちゃうスライムなんだけど、「そんなの食べたらばっちいからペッてしなさい!」とか言いたくなってしまったww 汚物以下だし、ま、いいよね
[良い点] 流石ゴミ処理場のスライム。生(きている)ゴミの処理はお手の物ですね。
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