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不良冒険者と

 軽く挨拶をしただけで、冒険者ギルド前で待っていた不良冒険者達、総勢12人が整列。

 そのまま勢いよく体を九十度に曲げて挨拶をしてきた。


 街中でそんなことをしていれば、当然のように周囲の目が集まってしまう。

 俺はその視線に気後れしてしまい、頭を上げさせた彼らを連れて、急いで次の目的地であるダルソンさんのお店に向かった。


「おはようございます!」

「来たな。とりあえず入れ」


 やっぱり表で雪かきをしていたダルソンさんに声をかけると、持っていた道具を雪の山に突き刺し、作業を中断して店に招き入れてくれた。


「ダルソンさん、商品を見せていただいてもよろしいですか?」

「おう、好きに見ていいぞ」

「ありがとうございます。では各自、自分の得意な武器を選んでください。ただ商品の扱いは丁寧に」

『ウッス!』

「あと静かに」

『わかりました、兄貴』


 気持ち小声の返事。やっぱりなんかアレだなぁ……

 そんなことを考えていると、ダルソンさんが会計用のカウンターから声をかけてきた。


「リョウマ、あいつら最近噂になってた不良冒険者集団だろ? ウォーガンから話を聞いたが、なかなか上手くやってるみたいじゃないか」

「そうでしょうか? とりあえず反抗はしなくなりましたけど」

「反抗的で悪目立ちしてた連中が大人しくなったんだ、十分だろ。それに兄貴とか呼ばれてるじゃないか」

「いや、大人しいのは単に怖がられてるだけな気がしますが。あと兄貴というのは、僕のことを“年上”と思い込んでいるようで……ほら、大人でも子供みたいに見える種族もいるでしょう?」

「あー、分からなくもないな。お前、時々子供らしくないっつか、おっさん臭いから」

「なっ!?」


 そんな、俺はまだピチピチの11歳なのに……って思うのも若干古いよな……

 実際精神はおっさんの自覚があるし、強く否定できないのはそのせいだろう。


「しかし、何でまたあの連中に武器を? 今日の支払いは全部リョウマが払うんだろ?」

「実は彼らを任された初日に、彼らの持っていた武器を全部ダメにしてしまったので」


 あの日、俺はあいつらを人目が届かない場所に誘いこんだ上で絡まれた。

 そしてギルドマスターに言われた通り、徹底的に締め上げたのだけれど、


「僕も結構挑発したんですよ」


 最初は素手で襲ってきたのを撃退したのだが、彼らは思ったよりも頑固で、なかなか負けを認めなかった。


 しかも“まだ全力じゃなかった”とか、口々にいいわけが出てくる始末だったので、何度も回復魔法をかけて、彼らの言い訳の通りに戦い、言い訳を1つずつ潰した。


「その過程で武器も使わせて、全部使い物にならなくしてしまって……武器は彼らの私物で、仕事道具でもありますからね。最初に絡んできたのは彼らだとしても、挑発して持ち出させて破壊した以上、弁償するのが筋かと」

「それにしたって、一緒に買いに来るか? 金だけ渡す奴が多いと思うが」

「ちょっと気になったこともあったので」

「気になること?」

「戦ってる最中になんとなく、彼らの持っていた武器が彼らに合っていないような気がしたんです。たとえば……」


 ちょうど両手剣を選び終わった様子の1人が目に付いたので、呼んでみる。


「ベンノさん」

「はい兄貴! なんでしょうか」

「その両手剣、前に使ってたのと似た感じですね」

「あ、はい。やっぱ前使ってたのに似てた方がいいかと思って、前のに近いのを」

「ちょっと構えてみてください。振らなくていいので」


 そう言うと、彼はやや疑問そうにしながらも、素直に両手剣を体の前で構える。

 しかし、その剣先は剣そのものの重みでわずかに揺れている。

 加えて先日戦った時には、武器の重さに振り回されている印象があった。


「なるほどな、武器と体格が合ってないんだ。もう少し軽い両手剣にするか、両手持ちでも使えるロングソード、もしくは同じくらいの重さの鈍器あたりに替えるのを薦める。どうしてもそれを使いたいなら、せめてもう少し体を鍛えてからの方がいいな」

「だそうです」

「そうなんすか?」

「ダルソンさんは武具の専門家、そして冒険者としての大先輩ですよ? なんと言っても、元Sランク。皆さんも知ってる冒険者ギルドのギルドマスター、ウォーガンさんと一緒に活躍してた人ですから」


 俺がそう説明すると、目の前のベンノさんだけでなく、話を聞いていた他の11人も驚いていた。どうやらそんな人とは知らなかったようだ。


「Sランクは昔の話だ。とはいえ、でまかせを言ったつもりはないぞ。大きさに関係なく、剣は刃物だ。刃筋を立てなきゃ切れるものも切れないからな。まぁ新米なら大体そんなもんだが」

「両手剣に何か思い入れがあったりします?」

「思い入れは特にないっすね……実家の納屋で埃を被ってた両手剣があったから使ってただけなんで」

「適当に使ってたのなら、この機に武器を替えることを薦める。仕事にも命にも関わるから、無理にとは言わないが。それからギルドの教習は受けた方がいいぞ。武器の使い方や選び方1つでも、いざという時の結果は変わり得るからな」

「う、ウッス」


 元Sランクのダルソンさんの指摘を受けて、彼は片手剣や片手と両手どちらでも使える剣。さらにウォーハンマーの棚の商品も見ていく。


「すいません兄貴、俺は獲物の解体とか得意で、武器もなんとなくナイフ使ってたんですが、どうでしょう」


 おっと、先程の様子を見ていた1人が質問をしてきた。

 俺に分かることは指摘して、さらにダルソンさんにも相談に乗っていただく。

 そうしていると次から次へと質問され、気づいたら全員の武器選びの世話をしていた。


「……これで全員、買うものは決まりましたね」

『ウッス!』

「ダルソンさん、お会計をお願いします」

「おう。ちょっと待てよ」


 ダルソンさんがすばやく計算した代金を支払い、買い物は終了。

 同時に、12人の表情が暗くなり始める。


「おい、なんでそいつら急に辛気臭い顔になってんだ?」

「おそらく、これから買った武器の使い心地の確認と、訓練の予定だからかと」


 新しい武器を買ったなら、慣れておく必要がある。

 ということで、これから警備会社に向かい、空いている場所を借りて訓練を行う。


 ちなみに訓練の時は彼らが買った武器を参考に、形状、大きさ、重さ、重心を可能な限り本物に近づけたメタルスライムを使ってもらう。


 そうすれば買ったばかりの武器を破損してしまうことなく、思い切った訓練ができる。

 怪我は回復魔法があるし、いざという時は同じ建物内に病院があるので、即対応可能。

 尤も、


「流石に絡んできた時ほどのことをするつもりはないですから、そこまで怖がらなくても」

『……』

「というか今こそあの時の反骨心を発揮するところでは? 別に死んだわけでもないし、冒険者なんですから、一度や二度の負けで挫けてどうします」

『はい……』

「えっと……ほら、この前の結果はある意味当然でしょう。これでも僕は、きっと皆さんが思っているよりは長いこと鍛錬をしていますし、昔はちゃんと師匠がいたんですから。

 ……こんな子供に負けて悔しくないか!?」

『!! く、悔しいです!』

「なら訓練では()を殺すくらいの気持ちで来い!」

『はい!』

「声が小さい!!」

『はい!!!』

「よし!!! ……ということで、失礼しますね。ありがとうございました。ほら、皆さんも」

『ありがとうございました!!』

「お、おう。頑張れよ?」


 煮え切らなかったので、勢いで強引に士気を上げたが、失敗しただろうか?

 なんだか軽く引かれたような気がしつつ、俺達はダルソンさんの店を出る。


「……リョウマ、意外とそういう連中をまとめるのに向いてるんじゃないか……?」


 背中越しに聞こえてきた呟き。

 やはりヤクザっぽく見えるのか、ちょっと不安になった……









 そして午後になる頃には、


『…………』


 警備会社の中庭には、死屍累々となった不良冒険者達が転がっていた。


「おい、しっかりしろ……」

「生きてるか……」

「なんとか……」


 12人は倒れこんだまま、起き上がらない。

 しかし、体力的、精神的に限界まで追い込んだだけだ。

 攻撃は寸止めで怪我()させなかったし、“前ほど酷い状態ではない”。

 宣言通りと言って差し支えないだろう。


「自分で限界だと思っても、追い込まれると意外と動けましたよね。今の状態が皆さんの本当の限界だと思います。自分の限界とその感覚は覚えておくといいと思います。

 もし実戦や街の外での仕事中に、その状態になってしまったら、死あるのみだと考えていいでしょう。動けない今の皆さんになら、普通の子供でも簡単に止めを刺せます。獰猛な野生動物に遭遇しても逃げられません。

 ですのでそうなる前に、もっと言えば体の動きが悪くなる前に、敵を仕留めるなり安全な場所まで逃げるなりする必要があるということです」

『わかりました……』


 うん、返事が搾り出せるなら大丈夫だ。


 懐かしいな……うちの親父は加減はしていたと思うけど、普通に木刀とか蹴りとか当ててきた。もっと言うと、意識を失うまで追い込んできたからね。そう考えればまだまだ優しい方だろう。


 しかし、このままでは午後からの警備会社の訓練の邪魔になってしまう。

 そこでつい先日、マフラール氏から教わったばかりの回復魔法を使用。


「『エナジーチャージ』」

「ん……!?」

「どうですか? 少し楽になりました?」

「う、ウッス」


 よしよし、ちゃんと成功しているようだ。


 この魔法の効果は“体力の回復”だそうだが、個人的には“魔力を体力に変換する”と考えてもいいと思う。


 基本となるのは回復魔法の初歩、俺も何度も使ってきた“ヒール”やその上位の魔法。

 マフラール先生曰く、ヒール系の魔法は傷を治すために使われることが多いが、実は副次効果として体力の回復作用があるのだと教わった。


 そしてエナジーチャージとは傷を塞ぐ効果を捨てて(・・・・・・・・・・)体力の回復に特化(・・・・・・・・)させた魔法。


 その性質上、怪我の治療には効果がないが、衰弱した患者や延命治療に役立つ。また、一般的に回復魔法は病気には効果がないとされているが、失った体力の回復は病気の治療・症状改善にも役立つ。


 今回のような使い方はその本来の目的から外れていると思うが、頑張ったので少しくらいはいいだろう。


 順に魔法をかけていくと、全員が問題なく立って歩けるようになった。


「さて皆さん。今日は攻撃による怪我はしていないはずですが、転んだりして軽い擦り傷程度はあると思うので、念のため病院の方で治療を受けてきてください。その間に少し遅くなりましたが、昼食の用意をしてきますから。治療が終わったら食堂に集合ということで」

『ウォーッ!!』


 おお……例えるなら、部活が終わった後の運動部員というべきか?


 というのも、新人で不良冒険者の彼ら、実はまだ10代後半。高校生くらいなのだ。

 最初は大学生に見えたけれど、それは同年代と比べて体格が良かったからだろう。


 体格のいい食べ盛りの男子が、激しい運動をした後。

 これは食事をしっかり取らせなければ。


 ということで、付属病院へ向かう彼らを見送ると、急いで食堂の調理場へ。

 警備会社の社員の昼食を終えて、空いた設備を借りて調理を行う。


 なお、途中に興味を持って近づいてきた料理人の方々の手もちょっと借りた。

 レシピや圧力鍋みたいな新しい調理器具に興味があったようで、休憩中なのに皆さん快く手伝ってくださった。


 そうこうしているうちに、腹を空かせた男子が食堂に来たので料理を並べる。


「うぉっ!?」

「すげぇ量だ……」

「これ食っていいんすか!?」

「はい。皆揃ったみたいですし、今日は頑張りましたからね。どんどん食べてください」


 本日のメニューは、

 1.パン

 2.野菜と腸詰のスープ

 3.根菜のごった煮

 4.カボチャ?の煮付け

 5.スプリントラビットの煮込み・シチュー風


 パンとスープは社員食堂の昼に出た残り物を提供してもらったもの。

 煮物は年頃を考えて、腹持ちが良くて栄養のあるものをプラス。

 そしてスプリントラビットの煮込みについては、単純に圧力鍋で柔らかくできるかの実験。


 遠慮なく食べるようにと伝えると、一斉に料理に手が伸びて、鍋の中身が皿に移され、腹の中へと消えていく。


 その勢いに若干圧倒されていると、少し落ち着いたのか、隣同士で短い会話も始まる。


「この芋を煮たやつ、味は違うけどうちの村でも食べてたような気がしないか?」

「ああ、それか。なんか懐かしい感じがしたのは」

「……カボテ……うちの畑でも作ってたな……」

「パンがこんなに食えるなんて贅沢だな。うちの村じゃ麦は粥にして食うんだが」

「ああ、それは俺の村もだ。っていうか、農村はだいたいそんなもんじゃないか?」

「粉を挽く手間も金もかかるしな。作るとしても保存用の硬いのだろ」

「俺のとこも、柔らかいパンはたまに街に出た時の贅沢だったなぁ……」

「贅沢といえば、冬場にこういう肉があるのもそうだろ」

「確かに、この時期は腸詰とか塩漬け肉、あとは漬物とか保存の利く物ばっかりになるよな」

『あるある』

「そういえば皆さんの出身地はどんなところなんですか? 特産品とか、郷土料理とか」

「うちの村は普通の農村っすよ。よく食うものといえば、やっぱ麦粥とか、芋を煮たやつとかっすね」

「うちの村、っつーか地域? は芋が名産で、芋で作る麺料理があるっす。つっても郷土料理とかそんな大層なものじゃなくて、単純に麦が高いから芋の粉を混ぜてかさを増やしてるだけですけど」


 芋を使った麺料理。興味を持ってさらに詳しく聞いてみると、ジャガイモのでんぷんを小麦粉に混ぜて作るという北海道の“豪雪うどん”、または“でんぷんうどん”に近そうだ。


 そんな風に、故郷の料理に関する話を聞きながら、俺も食事に参加していると、


『う、動けねぇ……』


 いつのまにか用意した料理はほとんどなくなっていた。

 俺も食べたは食べたけど、ごく普通の1人前くらいなのに、


「よく食べたなぁ」

「いやぁ、うまかったんで、食いすぎました……」

「こんなに飯食ったの久しぶりだなぁ」


 少年達は満足そうに、膨れた腹をさすりながら笑っている。


「口に合ったようでよかった。もしよければ、また声をかけてもいいですか?」

「マジっすか!」


 試作品や残り物になると思うけど、それでよければ……と伝えると、全員そんなことは全く気にしない、とても助かると大喜び。どうやら彼らは彼らでなかなか苦しい生活をしていたようだ。


「皆それぞれ、故郷の村からここに来てるわけだし、環境が違って大変でしょう」

「それ! そうなんすよ兄貴!」

「絶対一旗挙げてやる! って村を出るまではよかったんだけどなぁ」

「街に出てみたら、どうにも上手くいかねぇんだよなぁ」


 食後の落ち着いた状態だからか、内容こそ暗い話だが、彼らの雰囲気に以前のような刺々しさはなく、素直に言葉が出てくる。


 実家に家族と住んでいる状態と、故郷から離れて1人暮らしでは生活は変わる。

 それは地球も異世界も変わらないだろうと思ったが、やはりその通りらしい。


 自ら望んで来たとはいえ、村と街の違いは大きい。

 農村部では文字が読めない人も珍しくはなく、お金を使った取引は年に数回。

 あとは村内の物々交換と助け合いで済ませる所は多いと聞く。

 そして彼らは最低限の読み書きは村を出る前に学んだらしいが、得意ではないという。

 お金の計算も同じく苦手。お金の使い方も荒くはないが、下手なのを薄々感じていた。


 不慣れなお金の使い方故に、だんだんと生活を切り詰めなければならず。

 夢と現実の乖離が、故郷で身につけた自信やプライドを刺激して。

 態度が荒れるにつれて、瞬く間に冷たくなる住人の対応。

 人の輪から外れて孤独になることを恐れ、一人、また一人が自然と集まった。

 そして1人ではないことを心の支えに、周囲に反抗を繰り返して自尊心を保とうとして……悪循環に陥ったわけだ。


「……兄貴は何も言わないっすね、そういや」

「? 結構色々言ってる気がするけど」

「いや、そりゃ確かに言うときはズバズバ言われるし、ついでにボコボコにもされましたけど、そういうのじゃなくて」

「ギルドの連中みたいに説教臭くないってことだろ?」

「そう! そういうこと!」

「あー……まぁ、僕も他人のことをとやかく言えるほどできた人間じゃないですし」


 彼らとは方向性こそ違うけど、色々とやらかしている自覚はある。


「それにギルドマスターとか、既に他の人に色々と言われているんでしょう?」

「そりゃ、まぁ」

「だったら今更、僕が言うことはないですよ。それに皆さんだって、本当は何が悪かったか理解してるし、自分達が悪かった自覚もあるでしょう」


 彼らは表面上こそひねくれているが、根っこの部分は素直で純朴だ。

 それだけに分かりやすくもある。


 現に俺が自覚があるだろうと問いかけたら、全員が俺から目をそらしたり、黙り込む。

 その態度が既に自覚ある証拠と考えていいと俺は思う。


 “本当に”自分が悪いという自覚のない奴、指摘されても理解しない奴は、こちらの言葉を理解できないような、あっけらかんとした顔をする。もしくは表面だけは取り繕い、反省しているように見せつつ、内心では自分自身が正しいと信じて疑わない。


 人を見る目に自信はないが、前世ではそういう連中と毎日のように。さらに何年も接し続けて、そういう態度を見続けてきた。


 だからなんとなく、本当になんとなくだが、彼らは“違う”と感じた。

 意地を張り続けて、周囲に迷惑をかけているが、自覚もあれば負い目も感じていると。

 かつての部下に比べれば、まだ全然可愛げがある連中だと。


「もちろん僕が見ているところで悪さをするなら、武力行使をしてでも止めます。悩みがあるなら僕のできる範囲で相談にも乗ります。しかし、最終的に行動するのは皆さん自身ですからね。お説教というのはどうもピンと来ませんし……

 個人的な希望ということであれば、皆さんには頑張ってやり直して欲しいですけどね。これまでの非を認めて、態度を改めるにも勇気がいると思いますが、皆さんはまだやり直せる所にいると思いますから」

「やり直せる……」


 俺の言葉に反応して、疑うような呟きが聞こえた方を見る。

 すると呟いた1人は独り言のつもりだったようだが、俺と皆の視線を受けて渋々と口を開いた。


「俺らもう他人に散々迷惑をかけてますし、本当にそう思うんすか?」


 投げやりに放たれた一言に対する答えは、肯定である。


「失った信用をすぐに取り戻すことはできませんし、態度を改めても当分は厳しい目で見られるでしょう。けど、そのうちに折れるかどうかとは別の話です。

 ……本当にどうしようもない人間は、悪事を働いても何も感じません(・・・・・・・)。それが先天的なものか、同じ事を繰り返して慣れきったことによる後天的なものかは分かりませんが……少なくとも皆さんが過去の行いに反省、ないし後悔の念を僅かでも感じているとしたら、まだ戻れる場所にいる、と僕は思います。

 そして、戻れる場所にいるなら全力で戻った方がいいとも思いますよ」


 もちろん最初から悪いことはしないのが最良だろうけど、さらに回数を重ね続けるのと、どこかで止めるのなら、止めるほうがいいに決まっている。


 ハッキリと伝えると、しばらく食堂には考え込むような沈黙が流れた。


 そのうちにお腹の調子も落ち着いたんだろう、


「それじゃ兄貴、俺らはここで」


 もう予定していた全ての用事は終わり、不良少年達は宿に帰るというので、警備会社の門まで見送りに出てきた。


「はい。気をつけて帰ってくださいね。あと魔法で回復したとはいえ、体を酷使したので、ゆっくり休んで。また仕事場で会いましょう」

『ウッス!』

「武器と飯と稽古、あざっした!」

『あざっした!!』

「ははは……念のために言っておきますけど、武器は悪いことに使っちゃダメですよ。もしそんなことをしたら」


 買い与えた者として、俺にも責任の一端があるだろう。

 もし彼らが買い与えた武器で誰か罪のない人を傷つけたり、殺めたら……


「僕にできるせめてもの償いとして、この手で犯人の首を――」

『絶対にやりません!!!』

「――冗談ですよ。流石にしないと信じてますからね」

「な、なんだ、冗談っすか」

「冗談きついっすよー」

「つか、冗談に聞こえねぇ……」


 こうして俺は、乾いた笑いを浮かべながら立ち去る不良少年達を見送った。


「さて、教会に行くか」


 ファットマ領からギムルに帰ってきたその日から忙しくなったので、しばらく顔を出していない。

 そろそろ顔を出してみようと思っていたところだし、今日はもう何も予定がない。

 となれば行くしかないだろう。


「今日は何から話すか……だいぶ話すことが溜まってるしなぁ……」


 そんなことを考えながら、俺はいつもの教会に向かって歩き始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ピチピチとか言うなwwwwww ベンノさんと言うと、どっかの本好きの悪魔だか聖女だか知らないけど、その作品に出て来る悪徳商人型テラ子安しか思い出せない・・・ もう既に、圧力鍋製作依頼出し…
[一言] エ ナ ド リ 魔 法
[一言] なるほど スライムの巣穴亭 肉まん スプリントラビットの煮込みについては、単純に圧力鍋で
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