根回し行脚
本日、4話同時更新。
この話は2話目です。
翌朝
まだ明るくなる前からウィードスライムの一部が警報を発したので、彼らがいる畑周辺へと急行。すると昨日の今日で早速、畑を荒らしにきたゴブリン4匹を発見したので、捕獲。
「ギギッ!」
「ギャー!!」
「ゴガッ!!」
「ガアアッ!!」
スティッキースライムの粘着液や硬化液で足を固められ、転んで腕まで固められ、四つんばいの状態で動けなくなっている彼らは、唯一動かせる頭をこちらに向けて必死に威嚇してくる。
できれば駆除より契約をしたいんだが……食べ物でもあげてみれば、すこしは落ちつくだろうか?
アイテムボックスからシクムの村で餞別に頂いた、マッドサラマンダーの干し肉を一掴み取り出して、歯をむき出しにした1匹の口元へ。
「ガァッ! ゴ、フッ? ……!! ギッ!」
「ギギッ!?」
「ギッ! ギギッ!!」
「グアッ!」
目の前に干し肉を突き出されたゴブリンは一瞬威嚇してきたが、匂いを嗅いで食べ物と気づいたようで、すぐさま干し肉の先に噛み付いて器用に口の中へ。それを見ていた他のゴブリンはなんとなくだが、1人だけズルイ! と言っているようなので、他のゴブリンの口元にも干し肉を持っていくと、全員同じように食べた。
それを3回繰り返して、少し落ち着いたと判断したので、4回目で契約魔法を行使。成功したと思うけど、ゴブリン達は口に残った干し肉を咀嚼するのに夢中で気づいた様子がない。
「聞こえるか? 意思の疎通はできるか?」
『ギギッ!?』
どうやらちゃんと契約できているらしい。
いきなりこちらの意思が伝わって、困惑しているのが伝わってくる。
どれくらい意思疎通ができるか、試しにどうしてここに来たかを聞いてみると、
(タベモノ、ホシイ)
(サガシタ)
(ココ、イッパイ)
(モッテク、ミンナ、タベル)
片言ではあるけれど、意思疎通に問題はなさそうだ……と考えていたら、自分たちが拘束されていることを思い出したようだ。
解放しろと騒ぎ始めたのでこちらも軽く威嚇してやると、途端に体を震わせて逃げようとし、自分達が捕まっていることを思い出したように慌てるという、なんだか間の抜けた行動をとっていた。
予想はしていたけれど、この様子なら脅威にはならないだろう。
ということで、予定していた勧誘を開始。
俺がここの畑の持ち主で、領主様から土地の管理も任せられていることなど一通りを説明し、勧誘したのだが……
『?????????????』
……あまり理解できていないようだった。
「えっと、つまりだな、ここ、俺、縄張り、わかる?」
そう聞くと分かったようだ。
「ここ、食べ物、俺の。わかる?」
これも理解できたらしい。
「お前達、俺の縄張り、入る、食べ物、盗む。俺、お前達、殺す。わかる?」
ゴブリン達から伝わる感情は絶望的だが、返事をしないとそれはそれでまずいと思ったのか、4匹揃って力強く頭を振り始めた。
「でもお前達、まだ盗んでない。お前達、ここで働くなら殺さない。
お前達、働く。俺、食べ物、着るもの、寝床、渡す。お前たちに。わかる?」
そう伝えると、4匹はこちらを見て、本当か? いいのか? という感じの意思を送ってきた。
「本当。お前達、死ぬ、働く、どちらがいい?」
((((働く! ))))
ということで交渉成立。
どうやらゴブリン達はあまり難しいことは分からないらしい。
話をするときは要点をまとめてなるべく簡単な言葉で、一言一言伝えるのが良さそうだ。
その後、4匹に仲間がいるのかを聞いてみたところ、もう4匹仲間がいるということだったので、その場まで案内させて捕獲し、同じ流れで契約。合計8匹のゴブリンが仲間になった。
その頃には空が明るくなっていたので、とりあえず今日はさっそく食料と適当な廃鉱山の坑道の1つを提供して、朝の用意を手伝ってもらう。
将来的には彼らがもっと住みやすいように整備していこうと思うが、かつてはこの廃坑にゴブリンが大量発生していたこともあった。ひとまずこのままでも、彼らの棲家として問題はないだろう。
そんなこんなで用意を整え、出勤。
今日の仕事はまず初めに子供の家を取り壊し、代わりに警備会社に使う建物を砂魔法で手早く建ててしまうこと。合流したヒューズさん達7人から、用意してもらった部屋割りを聞いて、そのように作っていくが……
「ヒューズさん、ジルさん、この図面って本当に中の部屋割りだけなんですが、外装とかどうします?」
「あ……すまん、考えていなかった。必要な部屋の確認はしたのだが」
「とりあえず拠点として使えればいいから、任せていいか? 適当にこう、なんというか、威厳のある感じにしてくれ」
と、任されたので、脳内で“威厳のある感じ”の建物を探した結果……
「おおっ!? なかなか良いじゃねぇか!」
「左右対称で見事な造りだ」
サイズは子供の家だった元倉庫の敷地にあわせているので少し小さい、と言っても十分に大きな貴族の屋敷みたいなことになっているが……この日、異世界の街であるギムルに日本の“国会議事堂のような建物”が出来上がった。
最後に建物のコーティングをしてもらうため、スティッキースライム達を建物の内外に放てばまず1つめのお仕事終了。
「では、僕は昨日に続いて子供の家の再建に向かいますので、スティッキー達のこと、よろしくお願いしますね」
次の仕事に同行してくださるゼフさんとカミルさんを連れて、昨日の現場へ。そこでは雇った労働者の方々に指示を出しつつ共に働き、昼までかけて1階部分の建築を終わらせた後、解散。
2人と昼食を食べたら、そのまま人に会いに行く。
向かう先は、スラム街の中でも特にあばら家や仮設住居が立ち並ぶ混沌とした場所。
「ここはまた一段と、その、荒れた感じですね」
「ゴミ処理場建設のために、有識者の方に会いに行くと聞いてますが、どんな方なんです?」
「通称“ゴミババア”……ギムルで何十年もゴミ拾いをして生計を立てているらしく、ギムルのゴミ関係の事ならとりあえず彼女に聞けば何でも分かるそうですし、スラムの子供達やゴミ拾いをしている人にも顔が利くそうです。
ただ、どうもゴミ拾いに相当のプライドを持っていらっしゃるようで、ちょっと気難しい方でもあるみたいです。先日もお会いしましたが――」
「なんだい、金持ちの坊主じゃないか」
と、突然声をかけられた方を見ると、今まさに話題に出していたおばあさんが、曲がりきった腰と背中の上に大きな麻袋を乗せて立っていた。
「あっ、こんにちは、ゴミ婆様。お仕事帰りでしたか?」
「約束の時間まで少し時間があったから、散歩がてらね。しかしあんたも私みたいな偏屈ババアのとこによく来たがるね」
「先日もお話しさせていただいた通り、新しい仕事を始める時に、その分野をよく知る方から助言をいただけるのとそうでないのとでは難易度が大きく違いますから」
「後ろの2人もその仕事の関係者かい?」
そうだ、2人をご紹介しておこう。
「こちら、僕のお仕事を手伝ってくださっている、カミルさんとゼフさんです」
「はじめまして」
「よろしくお願いしやす」
「ああ、よろしく頼むよ。私のことはゴミババアと呼びな。この辺の連中にもそう呼ばれてるからね」
そう言われて、ちょっと困った素振りを見せる2人。初対面の高齢者の方をゴミババアと呼ぶのは、普通の感性、あるいは礼節を持っている人は躊躇するかもしれない。その気持ちはわかるけど、
「彼女は何度聞いてもお名前を教えてくれないんですよ。だから僕もゴミ婆様と呼んでいます」
「なるほど。それじゃ俺らもゴミ婆様とお呼びしやしょう」
そういうことで話はまとまり、 一緒に彼女のお家へ。
ゴミ処理場を作るにあたって、必要になってくるのが回収業者。
処理場だけあっても、ゴミを運んで来てくれる人達がいなければ意味がない。
そこでまた問題になってくるのが、現役で回収のお仕事をしている方々との折衝だ。
彼らもゴミを回収してお金に代えて生計を立てている以上、ゴミ回収業者は限られた資源を奪い合う敵になってしまう。
今まさに働いている方々を雇って従業員にすることも考えたが、全員が素直に応じてくれるとは限らないし、急激な変化は摩擦や軋轢を生みやすい。
そこで、俺の作るゴミ処理場と回収業者は、スラムの人手だけでは手の届いていない場所や、立ち入りの難しい場所を最初のターゲットとして狙う。
将来的には町全体のゴミを処理できるようになれば良いと思うけれど、最初のうちは住み分けをして、お互いに邪魔にならないよう配慮して、信頼を積み重ねていこうと思っている。
ということで、
「ゴミ拾いをしている多くの方が避ける場所とは、具体的にどのような場所なのでしょうか?」
「そうだねぇ……まず街の西側、職人街は絶対にダメさ。職人の仕事によっては素人が下手に触れない、取り扱いに知識が必要な薬品なんかを扱ってることがあるからね。そういうのは職人が責任を持って処分するように取り決めがある」
つまり産業廃棄物。おそらく大丈夫だろうけど、事前にちゃんと処理できるかの確認と、安全な運搬体制が必要だな。
「それから東側、住宅街には大人はあまり行かないね。あの辺は地域ごとに自治会があってさ、ゴミはそこで集めてる。そこには手を出さないのが私らのルールなんだ。私らみたいな貧乏人は、うろついてるだけでも良い目で見られないからね。そこで集めてるゴミを荒らすような真似をしたら、もっと立場が悪くなる。ただ視線さえ我慢すれば安全な方だから、小さな子供達は良く行くよ。ただそれも道端に落ちてるゴミを拾うだけ。集めてあるゴミには手を出さない。これは絶対だ」
なるほど……
「この辺の連中がよく行くのは南の商業区域だね。あの辺は宿屋や料理店とか色々あって、ゴミもよく出る。いくつもあるゴミ捨て場に店の人間が捨てにくるから、私らみたいなのはそれを運び出すのさ。
でも最近はそれを知らずに、直接店に行ったり、裏口に仮置きしてあるゴミを漁ったりする余所者が増えてて困るよ……アンタみたいにここのやり方を聞きにくれば、少しくらいは教えてやるってのに、あれじゃ私らにまでとばっちりが来ちまう」
スラムの方々はなるべく街の人々の迷惑にならないよう、独自のルールを守っていたんだな……余計なお世話かもしれないが、商業ギルドに情報を流しておこう。
こうして有識者であるゴミ婆様から情報を仕入れた後は、また来ることを約束して一旦店へ戻り、少量の書類仕事を片付ける。
ギムルにいるので仕事を溜めることがないのも一因だけど、それ以上にカルムさんが張り切ってくれている。おかげでお店での仕事のほとんどは確認とサイン。ぶっちゃけ非常に楽であり、休憩時間に等しい。
余った時間はスラムの子供用に確保している古着から、捕まえたゴブリン達に合いそうなサイズの服をいくつか貰ったり、休憩中の方と話したり。
そうして英気を養っていると夕方になったので、本日最後の仕事に向かう。 一張羅のスーツに着替え、合流したヒューズさんとジルさんを伴い、到着したのは警備隊の詰め所。
詰め所は町の東西南北にある4つの門のそばと、街中にも交番のようにいくつか存在するが、今回お邪魔するのはその中でも最も大きく、本部と言うべき場所である。
「お待たせして申し訳ない」
「こちらこそ、お忙しいところ、お時間をありがとうございます」
そんな本部の一室で、俺達は警備隊の最高責任者と面会したのだが――
「おや? 君は確か、部下の傷を魔法で治してくれた」
「あの時の!」
出てきた最高責任者は、俺がギムルに帰ってきた日に遭遇した事件現場で、ギムルの様子を説明してくれた警備隊の人だった。
「まさか、警備隊の最高責任者が自ら巡回をしていたとは」
「あの日はどうしても人手が足らなくてな……先日は名も名乗らずに失礼した。警備隊長をしているマンフレット・ダムマイアーだ」
「こちらこそ、私は――」
「リョウマ・タケバヤシ君だろう?」
「――ご存知で?」
「あの時の部下が知っていたんだ。洗濯屋をやっていて、警備隊でも世話になっているとか。しかし、まさか君が噂になっている警備会社の設立者だったとは。その若さで2つも。いや、歳は関係ないな。これは失礼した。
ところで、本日の用件だが」
おっとそうだ、警備隊長が今の状況で暇なはずがない。
「ご存知の通り、私は警備と安全を商品として提供する警備会社を作ろうとしています。この警備会社は一時的なものですが、警備隊の職域を侵すことをまず謝罪させていただきたく。
また、その上で私はギムルの警備や住民の安全に関して、警備隊の皆様と協力していきたいと考えています。厚かましいお願いですが、何卒ご協力をいただきたい」
街の治安悪化は由々しき問題。
俺個人としても、この街で店を構える1人の経営者としても、今の状況は好ましくない。
だから俺は対策として警備会社を作ろうとしているが、いきなり警備会社が出てきたら、それまでこの街を守っていた警備隊の人々はどう思うだろうか?
そう考えていたが、
「謝罪の必要はない。街を荒らしたり人々を傷付けたりと、罪を犯さないのであれば我々が口を出すことではない。商業ギルドを通し、商売として行うのであれば尚更にな」
そう言って、警備隊長のダムマイアー氏は笑っていた。
「ギムルの街と住民を守ってきたのは我々警備隊だという自負は確かにあるが、それだけだ。先ほども言った通り、君達がギルドを通して悪事も行わないのであれば、誰にも文句を言われる筋合いはないだろう。
だが、それでもわざわざ謝罪に来る君が、我々を尊重しようとしていることは私に伝わった。ならば私はそれを下のものに伝えていくと約束しよう」
「ありがとうございます!」
すんなりと話がまとまりそうだ!
というかこの人、前も思ったけど真面目そうないい人だった。
「今のギムルと警備隊の状況は、我々が一番理解しているつもりだ。我々の力不足で眼と手が行き届いていないことも、それによって街の人々が不安を抱いていることもな。君が始めようとしている警備会社は、そんな不安を払拭する一助となるだろう。いがみ合いをしても得られるものはない。
そして我々が最も優先すべきことは、街と住民の安全を守ること。そのために我々ができることの全てを行うことだ。警備隊員の1人1人が警備会社のことをどう思うかはその者次第だが、その思いを優先するようならば、我らの“誇り”はたちまち“無意味な自尊心”へと変わるだろう。
我々警備隊の中にそのような人間がいないことを願いたいが、願うだけでは……な。君達に不平不満をぶつけるような真似をせぬよう、こちらで目を光らせておこう」
「重ね重ね、ありがとうございます。こちらも警備隊の皆様と上手くやっていけるよう、雇用した者に働きかけます」
ここでヒューズさんとジルさんを見ると、2人とも力強く頷いてくださる。
「では、これで協力をしていくことは決まったようなものだが、具体的にはどのようなことを考えているのだろうか?」
「今のところは2つ。合同訓練と情報交換です」
1つめの合同訓練は、こちらの警備員の大半が1から教育することになるので、まずは訓練が必要だから。機会があれば、合同訓練はお互いにいい刺激になると考えたからだ。
2つめの情報交換は、最初は街の巡回警備を宣伝も兼ねて行う予定となっているから。
道中で事件を目撃すれば見逃すわけにもいかない。可能な範囲で初期対応を行い、事件に関する情報をなるべく詳細かつ速やかに警備隊に伝える事、そして犯人の確保ができた場合は引き渡すという流れを速やかに行えるように、情報交換を密にしたい。
「警備隊も新人を入れたばかりなので、合同訓練は良さそうだ。見回りと情報交換も非常に助かる」
「我々は警備会社ですので、ご希望をいただければ、可能な範囲で対応の幅を広げたいと考えています」
「では――」
それからは時間いっぱいまで警備隊側からの希望なども聞きつつ、合意の方向で話を進めることができた!
そして帰り道。
もう仕事はないので直帰の予定だったけど、テイマーギルドに寄っていくことに。
夜のテイマーギルドにはもう人がほとんどおらず、受付も空いていた。
もう終業時刻も近いだろうに、受付嬢さんが嫌な顔をせず手招きしてくれている。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「スプリントラビットの肉を……なるべく多く欲しいのですが、どのくらいならご迷惑にならないでしょうか? 運搬は空間魔法がありますのでご心配なく。
それから今朝ゴブリンを捕まえたので、使役することにしました。つきましてはゴブリンの飼育について、注意すべき点を教えていただけると助かります」
「かしこまりました。スプリントラビットの肉に関しては、確認をしますので少々お待ちください」
そう言った彼女は、後ろを通った男性に在庫を調べてくるよう告げて、こちらに向き直る。
「ゴブリンについてですが、まず、どのような用途に使うかを教えていただけますか?」
「基本的に雑用ですね。僕は北の廃鉱山の管理人をしているので、そこで少しばかり畑仕事や荷物運びを手伝わせようかと」
「では飼育の仕方、まず食事についてですが、ゴブリンは雑食性かつ悪食ですので、食べ物を与えれば何でも食べます。特に食べさせてはいけないものもありませんので、常識的なものであれば多少古くなったものでも大丈夫です。ただ1点、注意していただきたいのは“餌のあげ過ぎ”です」
「餌のあげ過ぎ、ですか?」
「はい。ゴブリンに餌をあげすぎると、まず繁殖しやすくなります」
「繁殖力はゴブリンの長所であり、危険性としても有名ですね」
「仰る通り。ゴブリンは交尾ができる環境とある程度の食料があれば、最大で月に3回妊娠して出産が可能だそうですので、油断しているとあっという間に増えてしまいます。
また、これは一般的にあまり知られていませんが、ゴブリンに餌をあげすぎると“ホブゴブリン”などゴブリンの上位種が生まれやすくなる傾向があるのです」
「ああ……だから大規模なゴブリンの群れは危険なんですね」
もちろん数が多ければそれだけでも脅威だが、その数に物を言わせて周囲の動植物や魔獣などから食料を確保できるようになれば、さらに上位の種が生まれやすくなり、群れが強化されていく悪循環が生まれてしまう。
以前、俺も参加した廃鉱山での大規模ゴブリン討伐。あの時の俺は逃げ出すゴブリンの処理担当だったけど、上位ランクの皆さんが突入した巣の中ではそのようなことが起こっていたのだろう。
「あら? 春頃の大討伐に参加していたのですか?」
「はい、実は冒険者としての活動が中心なんです」
「そうでしたか。あの大討伐の現場にいたのなら、ご理解いただけると思いますが……先ほども申し上げた通り、ゴブリンは繁殖力の強い魔獣です。“気がついたら手をつけられないほど増えていた”、“生まれた上位種を制御しきれず事故を起こした”という話は少なくありません。ご自分の身もそうですが、もしも従魔が他人を傷つけるようなことがあれば、従魔も従魔術師も処罰の対象となりますからどうかお気をつけください」
「ありがとうございます。肝に銘じます」
……受付嬢さんは本当に大丈夫かと思っているのを隠しきれていないけど、ホブゴブリンは通常のゴブリンよりも大型で力も強いと聞く。従魔術師としてはたっぷりと食事を与えて、使役したくなる。そうして手に負えず事故が……とか、そんな事故が多いんだろう。
自分の能力を正しく見極めて、必要になれば切り捨てる必要も出てくるだろう……とはいえまだ契約の限界も見えてこないし、ゴブリンは会話のコツさえつかんでしまえば、クレバーチキンよりよっぽど扱いやすそう。
最初こそちょっと脅したけど、思考が単純な分だけ素直だったし、クレバーチキンより接していて精神的に楽。あと普段は口ばっかり達者なイメージがあるけど、戦闘能力もクレバーチキン達の方が高くて厄介だ。
尤も、あいつらに関してもリーダーのコハクが間に入って頑張ってくれているので、問題なさそうだけど。
っていうか、コハクには見えないところでめちゃくちゃ頑張ってもらっているのでもっと何か労わってやりたい。でもあいつを特別扱いするとクレバーチキン達がうるさくなって、かえって迷惑をかけそうだから、ほっとく方があいつのためになりそうなんだよな……
と、従魔について考えていたら、先ほどの男性職員が受付嬢に小さな紙を渡して去っていった。
「お待たせいたしました。スプリントラビットですが、50羽までなら問題ないそうです」
「では50羽お願いします。解体は不要です」
「かしこまりました。すぐに用意いたします」
次々と運ばれてきたのは、地球の珍獣である“ハダカデバネズミ”を思い出させる毛のないウサギ。しかも全身がボディービルダーのように超筋肉質で、子供の腕では1匹抱えるのが精一杯なくらいに巨大。
ウサギなのに柔らかさの欠片もなく、かなりゴツくてあまり可愛くない……いや、人によってはキモ可愛いと思うかもしれない。これこそがスプリントラビットだ。
「49、50。揃いましたね。ではお会計1500スートです」
言われた金額を支払うが、かなり安い。50羽で1500なら1羽につき30スート、一般的な大人1人の1日の生活費の大体3分の1程度だ。
「スプリントラビットはゴブリンより繁殖が早いですからね。肉食系の魔獣を使役する従魔術師にとっては、心強い味方ですよ」
「このお値段でこの大きさなら、魔獣の食費も抑えられますものね。……素朴な疑問なんですが、これって人間は食べられないんですか? お肉屋さんで見たことないですが」
「毒はありませんが、やめた方がいいですよ? 稼ぎの少ない若手の方の中にはたまに試す人もいますが、皆さん口をそろえて“噛み切れない”、“食べられたものじゃない”と仰います。見ての通り筋肉質ですから、お肉が硬すぎるのでしょう。無理をしてあごの骨が外れた、なんて話も聞きますし」
やっぱりこの安さだと、他にも考えた人はいたらしい……が、気になる。そんなスプリントラビットの死体の山をアイテムボックスに放り込み、お礼を言って帰路につく。
今夜はゴブリン達が仲間に加わったことだし、朝の約束を守る意思表示という意味でも、この肉と家にある芋でたらふく食事をさせてあげよう。上位種についてはまず、本人達と話してみればいい。




