関係改善
本日、4話同時更新。
この話は1話目です。
現在、洗濯屋バンブーフォレストの休憩室には武具店のダルソンさんやお隣のポリーヌさん達を含め、前回の会議を途中退席したという人々が15名。さらには警備会社の説明役としてジルさんとヒューズさんに来てもらっている。
目的は今のギムルの状況と自衛方法について話し合うため、ということになっていたけれど……正直、あまり進んでいない。
なぜなら、前々から俺と面識のある方はまだ大丈夫そうだけれど、そうでない参加者は明らかに萎縮していたから。
その原因は言うまでもなく、俺。
先日の会議では気を張り詰めた結果、色々と言った。その件が後を引いているようだ。
先日のように俺を認めていないとか、見下されている感じはないのだけれど、これはこれで空気が悪いし、なにより積極的な質問や意見が出てこない。
そこでまずは俺が行う “警備会社設立”とその利用を選択肢の1つとして提案。まだ記憶に新しく、あの胡散臭い会議が紛糾した原因である“貴族の介入”の心配がないことを理解していただき、少しでも安心してもらうことから始めることにした。
「――以上です」
そのために、説明はジルさんにお願いしたのだが……参加者の皆さんは公爵家から直々に派遣されてきた人材がいることにも驚いて、逆に戸惑わせてしまったようで反応が鈍い。
ちゃんと話が理解できていればいいのだけれど、大丈夫だろうか?
と思っていると、
「あー、すまない。知っていると思うが、武具屋を営んでいるダルソンだ。いくつかリョウマに質問していいだろうか?」
「もちろんです」
「まずは警備会社の設立に関してだ。いまの説明で先日の懸念だった、貴族からの面倒がないことは理解した。理解はしたが、本気か?
説明にあった警備会社の設立条件は4つ……“公爵家から来たその2人を責任者にすること”の他に、“人材雇用から維持まで、運営にかかる資金は全額リョウマが出資する“、“運営はこの街が落ち着くまで”って期限付きで、さらに“期限後は集めた兵力を公爵家に供出する”。
人を雇って教育して、装備を与えて、一人前になるまで飯を食わせ続けるだけでもかなりの金がかかる。それを何人雇うつもりか知らないが人数分。それだけ金を使っても期限のうちはその2人が人も仕事も管理して、リョウマの自由になるわけじゃないだろ? それに期限がきたら兵力は公爵家に渡さなきゃならねぇ。ハッキリ言って、お前に得が一切ないだろ」
これは確かにその通り。だけど、
「本気です。というよりもこれらの条件は1点、派遣されたこの2人を責任者にすることを除いて、許可を得やすくするために、全てこちらから提示した条件ですから」
そう言うと、経営者の皆さんは俺のことが理解できないと言いたげな顔になる。
きっと経営者である彼らには、俺が自ら大損をしようとしているように見えるのだろう。
「まず根本的なことを言わせていただくと、僕は別にこの警備会社で儲けを出そう! とは考えていません。
その理由は色々ありますが、1つは競合他者の存在。今でこそ対応し切れていないとはいえ、この街には元々信頼できる警備隊があり、冒険者ギルドもあり、他所には傭兵という荒事を専門にしている職業の方々もいる。警備会社はそれら全ての“同業者”に近く、“商売敵”となり得る存在でしょう。さらに個人経営の新参者と長い歴史のあるギルドでは信用も段違い。これがどれだけ不利かという点は、商売人の皆様ならご理解いただけると思います」
これには頷いてくれる人が多数。
「さらに、ただ警備のための戦力を集めたいだけなら、1から兵を育てるのは効率的とは言えません。せっかく冒険者ギルドや傭兵という職業があるのですから、そういう方々を呼び寄せる方が安くあがり、何よりも手っ取り早いでしょう」
これにも皆さん、同意の表情だ。
「だったらどうして警備会社なんて作るのか、と思うかもしれませんが、それはそれで“必要だと思うから”です。たとえお金がかかるとしても、我々は我々の財産と身の安全を守るために備えなければならないと思うからです。
昔聞いた言葉ですが……“もし、金持ちが無防備なら、武装した野盗の餌食だ”という分かりやすい言葉もあるようです。お金を出し渋って財産を奪われては元も子もないと思いませんか? ましてや大切な家族や従業員、自分の命まで失いたくはないでしょう。少なくとも私はそうです。
それに警備会社の運営で利益が得られなくとも、私は警備会社に関係する別のところに利益を求めていますので問題はありません。付け加えると、私は早く許可が必要と判断したため条件に加えませんでしたが、期限後に兵力を供出する際には、公爵家からまとまった額のお金を補填としていただけるそうです」
ついでに言ってしまうと、警備会社として訓練して集めた兵力の供出は、警備会社で一度雇った人達の失業対策でもある。
必要な間は雇い続ければいいけれど、必要なくなってからはどうするのか? もういらない! とただ放り出すのはあまりにも無責任だし、被雇用者側も困るはず。
その点、公爵であり領主であるラインハルトさんなら、新しく作られる街の警備など、兵力を必要とする場所は多いはずだし、必要に応じて割り振れるだろう。
雇われる側も次の職場の保障があれば安心して就職できるはずだし、もし腕前を認められて公爵家に欲しいと言われるようなことがあれば、箔がつくだろう。
また、将来的に公爵家に雇われるチャンスがあるなら、率先して警備会社で働きたいと言う人も出てくるはず。募集をかけるにあたって都合が良い……と、ここまで説明してようやく参加者の皆さんは納得したような顔になってきた。
ここで再びダルソンさんが口を開く。
「リョウマが本気で色々と考えているのは分かった。金の話も、向こう見ずって訳でもないんだろう。それでも最初のうちは金が出て行くばかりのはずだ、それを補う当面の収入……警備を売り物にするなら、その警備会社を利用するには当然金がかかるんだろ? 俺達は店の警備をしてもらうために、いくら払えばいい? そんで何をしてくれる?」
「それについては提供できるサービスに対する“適正な価格”というものを、各ギルドの有識者も交えて話し合っている段階で、まだ細かく定められていない状態です。なにせ、警備をさせる人員をこれから雇って教育するわけですからね。当分は雇った人材を班に分けて基礎鍛錬と、警備会社の宣伝も兼ねて、街の巡回が主な業務になる予定です。
その期間、皆様に提供できるサービスは、巡回中に皆様のお店へ警備員を定期的に立ち寄らせ、問題の有無を確認、問題があった場合に対処すること。それからお店に“警備員立ち寄り店舗”と書かれた看板や貼り紙を使って悪事を企む輩を牽制することを考えています。
将来的には店舗に常駐する警備員を派遣することも考えていますが、こちらは人数や勤務時間、あとは経験や腕前によって料金が変動しますので、ご予算と相談という形にさせていただければと思います。
とはいえ最初から申し上げた通り、警備会社で儲けを出すつもりはまったくと言っていいほどないので、皆様の負担になる値段設定をするつもりも“僕には”ありません。かといってあまりにも破格すぎると、一時的とはいえギルドや傭兵の方々の反感を買う恐れもあるので――」
「難しいところだろうね。でも、現時点では明確な額が提示できない、というのも1つの答えでしょう」
おっと、話が長くなった俺に代わって、ジークさんがまとめてくれた。
「ああ、決まってないものは仕方がない。嘘や適当な事を言われるよりはいいさ」
「ありがとうございます」
さて、そうなると警備会社について話すことはもうなさそうだ。
ダルソンさんや他の人からの質問もないみたいなので、次の議題へ。
我々でできる防犯・治安維持対策についてだが……あまり意見が出てこず、また俺のターンに。
とりあえず俺の店でやっている対策を例に出すと、
・警備員の増員
・従業員と緊急時の対応を事前に話し合いと確認
・定期的に行う防犯・避難訓練
・防犯装備(盾)の設置
・警報装置代わりにウィードスライムやストーンスライムを配置
こんなところだ。
あとこの会議で皆さんの協力が得られるなら、小学生の頃にやった地域の安全マップ作りもやってみたい。あれは地域で一丸となって、本気でやれば役に立つと思うが……
「ちょっといいかい?」
「はい、なんでしょうかポリーヌさん」
「警備員の増員はさっきの警備会社の話もあるし、緊急時の対応を事前に話し合うのもわかるけど、盾ってのは?」
「ああ、それなら現物を持ってきてもらいましょうか」
と、言った瞬間、
「こちらに用意があります」
「バンブーフォレストではこのような盾を、緊急時はすぐ手に取れるように、カウンターの下に備えています」
いつの間に、ってか頼んでもいないのに、有能なメイド3人が既に持ってきていた。
それは警察官や機動隊の人が持つ、透明で全身をカバーできるポリカーボネート製の盾をイメージしたもの。スティッキースライムの硬化液板を加工して作った、軽いが頑丈なライオットシールドだ。緊急時は警備担当の皆さんももちろん動くけれど、非戦闘員の安全をより確実に確保できればと思って置いている。
「へぇ、こりゃ軽いね! アタシみたいなか弱い女でも軽々持てるよ。ほら、あんたも持ってみなよ」
そう言ってポリーヌさんは、盾を夫のジークさんへ。
「本当に軽いね」
「ワシもいいかの?」
「どうぞどうぞ」
こうして盾は参加者の間で受け渡されて回って行き、欲しいという声も上がる。
気づけばこのあたりから会議は徐々に活発化し始め、
「先ほど言いかけていた“安全マップ”とは?」
「安全マップというのは、地域の危険な場所、犯罪の起こりやすい場所をまとめた地図です。そんなことは地元の人間なら理解している、と思うかもしれませんが、環境は変化するものです。
たとえば昔は栄えていた場所、人気のお店か何かがあって人が集まっていたけれど、それが潰れて今では人通りの少なくなっている場所など、思い当たる場所はありませんか?」
「……あります。いくつか思い浮かびます」
「俺もだ。確かに昔はよくても今は、ってところがある」
「ですよね? 今、危険な場所をきっちり確認すること。それが目的の1つです。
しかし、明らかに人通りが少ないなど、あからさまに危険な場所というのは大人なら見れば分かるでしょう。もちろん注意は必要ですが、そうでない、もっと“日常に隠れている”危険な場所を見つけ出す。これも目的の1つです」
「日常に隠れた、というと具体的には?」
「そうですね……路地のところに大量の箱が積んであるところとか、見たことありませんか? 入り口のところにお店があって、補充用の商品とかゴミを山積みにしている所とか。あるいは馬車が止まっているとかでもいいのですが、それが1日のうちのほんの一時であっても、そうなることを知っていれば、それを悪用することもできてしまいますよね?
“物によって人の視線が遮られる”状況があれば、そこに人が隠れ潜むことができますし、積み重なっているものが可燃物であれば、それを利用して火をつけることもできると思いませんか?」
「言われてみれば、犯罪者に都合の良い状況を作っているようなものだな」
「そういう場所を見つけて注意する、自分の店でやっていたら改善するのも目的の1つ、ってことね」
質問してくる参加者が増えてきた。おまけにお世話になっている本屋の代表、いつもはやる気なさげに店番をしている兄ちゃんまで、こういうことだろうと確認を取ってくる。
「その通りです! それから可能であればですが、このマップ作りには皆さんのお子様にも参加していただきたいと思っています。大人と子供では視点が違いますし、子供は大人なら入り込めない、入り込もうとも思わないような場所にも入ることができます」
ファットマ領で見た、ニキ君の秘密基地を例に出し、何が起こったかを話した。
「子供のいる身としては、聞いていて恐ろしいね。街中でもどこかに隠れたまま何かの拍子に、ということがないとは限らないか」
「子供が隠れられる=子供を隠せると考えても良いと思います。たとえばそれが箱だったら、子供を詰めて誰にもバレないように運んだり、場所であるなら誘拐した子供の監禁場所に……と、薬か何かで意識を失わせておけばいくらでも悪用される可能性が考えられます。
そういう危険をなくすために、親御さんは子供の行動範囲を知ること、またお子様自身にこういう場所はこういう理由で危険なんだと理解してもらい、お子様自身が自ら注意するように促す一助になるかと思います。
最近治安が悪いとはいえ、お子様をずっと部屋に閉じ込めているわけには行かないでしょうし、だからといって頭ごなしに色々と指示するだけでは従わなかったりしませんか?」
そう問いかけると、納得の声が多数上がる。
「そうなんだよ。俺のところのは暗くなる前に帰って来いって言ってるのに、いつもギリギリまで遊び歩いてやがる」
「うちの子もねぇ……買い物とか手伝ってくれるのはいいんですが、何度言っても近道だからって人気のない道を通ってるみたいで」
「手伝いをしてくれるだけ良いじゃないですか、うちの子なんて――」
……若干、親御さんの愚痴大会になってきた。
しかし、
「まぁ、俺も子供の頃はそんなに聞き分けの良い子供じゃなかったしな」
というダルソンさんの一言で、皆さん苦笑しつつお互いを見る。
誰しも子供の頃を思い出せば、心当たりの1つや2つあるのだろう。
「とにかく、子供は頭ごなしにああしろこうしろと言ってもあまり意味がない、ということですね。僕自身も子供でありながら、今この場でこんなことをしていますし」
俺が沈黙を破ると、今度は参加者の数人が笑い始めたり、笑いをこらえようとしてこらえきれずに吹き出したりし始めた。
「何か変なこと言いましたか……?」
「いや、うん、リョウマ。間違ってねぇけどお前が言うなっつの」
意味の分からないことを言い出したヒューズさんに続くように、参加者の方からもちらほら声が上がる。
「失礼、子供の君が子供心を語るのはおかしくないはずなんだが、ね?」
「妙に子供らしくないというか、今の今まで貴方が子供だということを忘れかけていた気がするわ」
さらにその意見に賛同する声も出てきて、硬かったこの場の雰囲気が解れていくのを感じる……
その後、会議は俺の案を中心に、質問や意見交換も増え、時間が足りないという話になり、とりあえず基本的な方針だけ決めて、日を改めてもっと具体的な活動を話し合うことに決定。
帰っていく参加者の皆様を見送って、他の人とは別に少しお時間をいただいたダルソンさん、ポリーヌさん、ジークさんの待つ休憩室へと戻ると、彼らは戻ってきた俺に気づき、口々にお疲れ様と声をかけてくれた。
「皆さん、お疲れ様でした。そしてこの度は、本当にありがとうございました!」
「おいおい、いきなりどうした?」
「今日の会合ですが、最終的に成功だったと思います。お帰りになった皆さんも満足してくださったようですし、帰る前には先日の件を謝ってくださいました」
あの時は好意的でない視線に囲まれて、ほとんど孤立無援の状態だっただろう。曖昧な言葉に流されず、毅然とした態度をとろうとしたんだろう、と。
あの日は間違ったことを言ったつもりはないとはいえ、俺も気を張り詰めていたし、必要であれば……いや、あの時点ではほぼ全員を見限り、敵に回す前提で協力を固辞した。そのため、かなり強くものを言ったのに。
「そんな頭を下げられることはしてねぇよ」
「リョウマ君は元々色々と、自分の店だけでなく他の事まで、真剣に考えていたんだろう? それが今回は皆にちゃんと伝わった。それだけだと思うよ」
ダルソンさんとジークさんがそう仰ってくれたが、俺と彼らの間には、先日の件でお互いの心に溝ができていたと思う。そこをダルソンさん達が積極的に質問をして下さって、埋めてくださった。
今回、俺の意思がちゃんと伝わったというならば、間を取り持って助けてくれたのが皆さんだと俺は思う。そうでなければ、話し合いにもならなかっただろう。
「まぁ、確かに最初はちょっとアレだったけどねぇ……でも、忘れてないかい? ここに来た人は皆、あの会議を途中で抜けた人達なんだから、その時点である程度リョウマの主張は認めてたと思うけど」
「どっちかっつーと、原因はアレだろ。あの時のリョウマ、繁殖期の大型魔獣が手負いになりながら子供を守ってる、みたいな雰囲気だったからな」
「……それもありましたか……」
「きっかけは俺らだったかもしれないが、何度か話していれば、いずれお前が普段は普通に話が通じるやつだと分かってたはずさ」
それはつまり、あの場での俺は皆さんにとって、ピリピリどころか一触即発のヤバイ奴に見えていたということでは? ま、まぁ、反省すべき点は反省するとして……
一部ではあるけれど、経営者の方々との関係改善、仲直りに成功したことは確かだ!
今後ともお互いに良い関係になれるように、そしてそれを続けられるように、頑張っていこう!




