遊びの結果(後編)
本日、3話同時更新。
この話は3話目です。
「また派手にやったな、リョウマ。顔つきがだいぶ良くなってたから、十分休めたんだろうが……休みの日に遊んだ結果がこれかよ……あ、説明はしなくていい。っていうかここで詳細は話すな。誰が聴いてるかわからねーから」
真面目な顔の護衛4人に囲まれ、代表してヒューズさんに言われた。
「カミル、魔法はお前が一番知識あるだろ。お前から見てどうだったか教えてやれ」
「了解。まず、あのくらいの砂嵐を起こすのはまだ分かるんだよ。最初にかなり魔力を放出していたのを感じたし、上級魔法になるとあのくらいの規模の魔法もあるから。
ただ、それで大きな建物を完全に塵にしてしまえる威力が1つ。
さらにあれだけの広範囲に効果を及ぼす魔法を使っておいて、敷地外にはまったく影響を出していないのがもう1つ。
最後に無詠唱で違う魔法を使ってたのかもしれないけど、その時その時の状況に間髪いれず、範囲や動きを変えて対応していたように見えたのが1つ。
それなりに魔法の知識がある人が見れば、挙げた3つの点からさっきの魔法が普通ならありえない難易度なのがすぐ分かる。その難易度をリョウマくんはどうにか解決したんだろうけど……その魔法、いや方法かな? とにかくそれはリョウマ君の家の“家伝魔法”ってことにした方がいいよ」
「“家伝魔法”?」
初めて聞いたけど、語感からして家に伝わる魔法、ということだろう。
確認してみると、
「その認識で大丈夫だけど、少し付け加えると……家伝魔法っていうのは主に魔法の研究家として有名な一族が、一族の限られた人間にだけ伝える研究の集大成だとか、ちょっと特殊だったり難解な魔法のことだね。秘伝と言ってもいいよ。
強力な魔法は強力な武器になるし、いわゆる“飯の種”になる。だから知りたいと考える人はいくらでも出てくる。でも、それで罪を犯したとかならともかく、そうでないのに秘密を無理やり暴こうとされたら嫌だし、問題だろ?
特に魔法研究者には秘密主義者やひねくれ者が多いのと、有名な一族なんて大体が貴族だから、下手なことすると大問題に発展しかねない。だから家伝魔法と言われたら、それ以上その魔法について追求するのはタブー。っていう暗黙の了解があるんだよ。主に貴族の間にだけど、追求をかわすにはそれが一番簡単なはず」
「なるほど」
「それで引かないとか、あまりにしつこい人が来たら、僕らにすぐ相談してね。これについてはそんな感じで大丈夫だと思う」
「分かりました」
「よし、んじゃこの件はここまでだ」
カミルさんからの助言が終わると、ヒューズさんがスッパリと話を打ち切って、次の話題。
「とりあえず解体はリョウマの魔法で終わっちまったし、次はどうする?」
「あ、そうだ」
派手にやった直後に言うのもなんだけど、実は試したかったことがもう1つある。
「さっきのと同じく、休暇中に遊びでいろいろとやっているうちに思いついたんですが、その時には遊びすぎて、魔力が足りずに実験できなかったことが……」
「いいんじゃねーか? こんなことやった後だし、今更だろ。あと、どうせやられるなら俺達が立ち会ってる時の方がいい気がする」
『……確かに』
ヒューズさんの言葉に同意が集まり、仕方ないな……という感じで許可が出た。
というわけで、もう一丁!
サンドスライムにも指示を出して、砂魔法を発動。
山になった砂が再び、突風に舞い上げられて動き始めるが……今度は先ほどまでのような複雑な動きをさせるのではなく、ただ敷地の端に近い一角に降り積もらせていく。
まるで巨大な砂時計をひっくり返したような光景が生まれ、やがてその外見は巨大な豆腐のような、長方形の砂の山が作られていく。
見物していた人々の中には、声をあげている者もいるけれど、解体の時のような複雑な動きはしていないので、驚きよりも困惑の方が大きいようだ。
確かに外から見ただけでは分からないだろう。
でも、砂に同化したサンドスライムと契約している俺には、内部の様子が手に取るように分かる。そしてたった今、考えていたものが完成したということも。
『オオーッ!?』
芸術家が未発表の作品にかけたベールを剥ぎ取るように、俺は砂の山を崩し、取り除いた。
砂の波が生まれ、空き地へと移動した後。残されているのは“2階建ての建物”。
大きさは敷地全体の5分の1程度で、中央に大きな入り口と広間があり、奥には階段。
左右に伸びる廊下に沿って共同トイレや個室が並ぶ、比較的シンプルな構造の建物だ。
尤も、外側からではそこまでは見えないだろう。
しかし崩れた砂の中から一見完成した建物が出てきたことは、解体よりも衝撃だったのか。
それともこれまでの作業が地味だった反動か、周囲からは一際大きな声が上がっている。
「うおぉ……うそだろ……」
「なにこの魔法、便利すぎない?」
「確かに便利ですね」
これは解体の時とは逆に、砂を積み重ねていく過程で柱や壁にあたる部分だけ、砂の粒子を繋げて形を作る。たとえるならば、砂魔法で3Dプリンターを再現したようなものだ。
サンドスライムと協力することで、精密さと自由度が飛躍的に向上。そして多少複雑な構造でも簡単に作ることができるようになり、先日の休みには大量の模型を作っては壊しを繰り返して楽しんでいた。
今回は模型作りと同じことを“実際に人が住めるサイズで行った”というだけのこと。地球でも3Dプリンターを家屋建設に用いるということは研究されていたはずだし、魔力と大量の砂があれば、形は作れると確信していた。
だけれど、
「実はまだ――」
言い掛けたその時、
『ワーッ!』
「おうちだー!」
「新しいお家!」
外に出ていた子供達の一部が全身で喜びを表しながら、作ったばかりの建物へと駆けていく。傍にいたメイドさん達や年長の子は建物を見て驚いていたようで、反応が遅れていた。
「あっ! その子達止めて!」
と呼びかけてようやく動き出したが、獣人なのかびっくりするほど足が速い子が2人。すばやく中に入ってしまう――
「『テレポート』っ! 捕まえたぁ! ちょっと待って!」
――直前で捕獲成功!
ファットマ領でのマッドサラマンダー討伐後の死体回収で、何度も空間魔法の反復練習をした成果が地味に出ている。
「はなしてー!」
「お家ー!」
「おうちみたーい!」
「ちょっ、ちょっと待って、まだ危ないから」
そうして子供2人を食い止めていると、
「なにやってんだこの馬鹿ガキ共ぉっ!!」
「「!」」
「ああ……」
「建て直しの間は危ねぇから、大人がいいって言うまでは入らない約束だったろうが!」
スラムのまとめ役であるリブルさんが、誰よりも早く追いついてきて、子供2人を捕獲。
さらにその剣幕で抵抗を許さず、後からやってきた年長の子供に引き渡して戻ってきた。
「ったく。ガキ共が仕事の邪魔して悪かった」
「結果的に問題ありませんでしたから、大丈夫ですよ」
「そうか。……しかしすげぇ魔法だな。壊すも直すも思うがままか」
「これはまだ研究中というか、試験的に作ってみただけのもので」
俺としてもそれが可能なようにと考えて作ったけど、砂魔法を応用して形作ったものは、砂が圧縮されて固まった“砂岩”のような材質になってしまう。
砂岩は加工しやすい半面、脆かったり、風化しやすい性質がある。さらに吸水率も高く、冬場は凍害などの可能性もあるため、外壁などにはあまり向かなかったりする。そもそも初めてこのサイズで作ったものだから、どこかにミスや不備があるかもしれないし、強度や安全面で確認が必要だと思うのだ。
「だから、子供達の家はもっとちゃんと建てますよ。そのために労働者の方々に来てもらってますし」
「一応、確認したらどうですかい?」
「え?」
振り向くとそこにはゼフさんが。
他にも先ほどまで話していた皆さんに、アーノルドさんも加わっている。
「話は聞かせてもらいました。今日集めた労働者の半分以上は建築の経験者なんで、安全確認も手伝わせたらどうかと」
「いいんですか?」
「作業内容が少し変わる程度ですって。せっかくここまで建てたんですし、それにあの子らも早く寝床が確保できる方が安心だと思いやすぜ?」
……それは確かに。飛び出していた子達も、やっぱり住む所がなくなるんじゃないかと不安だったのかもしれないな……
「リブルさん、予定では子供が遊べる庭も作る予定でしたが、それってこの建物のある部分だけで大丈夫でしょうか? ちゃんとした家ができたら潰して庭に変える感じで」
「庭なんて贅沢いわねぇよ。安心してガキ共が寝られるところがあればいい。この建物が住んでも問題ないなら、そのまま使わせてもらいたいくらいだ」
「分かりました。それじゃゼフさん、労働者の皆さんを呼んできていただけますか? 今日最初の仕事内容はこの建物の安全確認と、問題なければ窓や扉の寸法確認でお願いします。それが終わったら、敷地をぐるっと囲む壁を作りましょう」
「了解!」
返事をして駆けていくゼフさんに続き、
「んじゃ、俺らも警備の仕事に戻るかね」
「そうだな。建物を見ようと近づいてきている人の姿も増えてきた」
「また後で!」
ヒューズさん、ジルさん、カミルさんもそれぞれ人の輪を整理するために散っていく。
すると入れ替わりに役所のアーノルドさんが近づいてきた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です、タケバヤシ様。作業の様子、拝見させていただきました。少々、いえ、想像していたものとは大分違いましたが」
「あ、ははは……」
おそらく彼は普通にハンマーとかの道具を用いた作業を、魔法を使うにしてももう少し控えめに想像してたんだろう。俺だって休日にサンドスライムの可能性に気づかなければ、もっと地道な作業をしていただろうし……
「しかし、作業開始からこの短時間でここまでできるとは……区画整理の準備を急ぎましょうか?」
「そうですね。さすがに僕1人で全部は手が回りませんし、労働者の方々の協力が必要ですが、既存の建物の解体には時間をかける必要はないですね。建て直しにすぐ入れる分、工期は短縮できるでしょう。
あとこの建物も安全確認が必要とは言いましたが、1日や2日で崩れるようなものを作ったつもりはありません。即席の避難所や一時的に雨風をしのぐ仮住居としては使えると個人的には考えているので、それを考慮に入れて調整をお願いします。
あとは現場の状況を見つつ、柔軟に対応するということでどうでしょうか?」
「異論ありません。話が早くて助かります」
「ちゃんと住民の方々には同意をもらってくださいね」
「当然です。リブル殿にもご協力いただいて、住民の皆様に納得していただけるように努力します」
そう言うと彼は自信ありげな笑顔を見せて、リブルさんを見る。
「役所がまともな対応をしてくれるなら、俺らも無駄な反対はしねぇさ。少なくともアンタはまだ話せる相手なのは分かったし、協力もする」
「ありがとうございます。私としても、地域の顔役の方と縁を持てたことは幸運でした。おかげで住民の生の声が届きやすくなりました」
「フン」
「ではそろそろ私は失礼いたします。他にも仕事がありますので。また猫の額で見かけたら声をかけてくださいね」
「お気をつけて。あ、あとたまにはケーキばかりでなく、ちゃんとした食事もとった方がいいですよ? 猫の額のおばちゃんが言ってましたよ、前より持ち帰りの注文が増えてるって」
「……前向きに検討します」
苦笑いを浮かべて帰っていくけど、
「何の話か知らんが、ありゃダメそうだな」
「まったくです」
俺と同じことを考えたリブルさんも、この後用事があると帰っていった。
その後、ゼフさんが集めてきた労働者の方々に建物のチェックをお願いしたところ、この辺の気候に合うか、耐用年数は気になるが、短期間なら住んでも特に問題ないだろうとの結果が出た。
それからは窓やドアの寸法を測り、窓とドア作りをスライム達に任せ。労働者の方々には魔法で用意した石材で外壁作りを任せ。俺は開いたスペースで、本格的な子供達の家を建てるための基礎作りを行い、日暮れと共にこの日の作業は終了した。




