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三連休 3日目

本日、3話同時更新。

この話は1話目です。

 連休最終日の朝。

 俺が準備を整えて、廃鉱山の入り口で待っていると、


「来た!」


 ギムルに通じる街道で、こちらへ向かって走ってくる馬車を発見。

 御者をしているのはメイドのリリアンさんだし、その隣はユーダムさんだから間違いない。

 手を振って自分の存在を示し、停留に適した場所へと案内すると、馬車の中からはフィーナさん、マリアさん、ジェーンさんの出稼ぎ三人娘が出てきた。


「おはようございます。そしてお疲れ様でした、皆さん」


 声をかけると皆さんから挨拶が返ってきた。さらに農村出身の3人が言うには、


「でもぜんぜん疲れてないですよ!」

「この馬車、とっても快適でした~」

「村では歩くか、もっと揺れる馬車しかないですから」


 だそうだ、


「やっぱりこの馬車、良い馬車なんですね」


 この馬車は先日うちの店の空き地に止まっていた3台の内の1台で、公爵家から来た皆さんが乗って来たもの。だからきっと良いものだとは思っていた。


「良いも何も、かなり上等な馬車だよ」

「ユーダムさん。やっぱりそうでしたか」

「公爵家で破棄する予定だった古いものですので、その辺はどうかお気になさらず。必要な時には遠慮なくお声をかけてくださいね」

「ありがとうございます」


 そう……なんとこの馬車ともう1台は俺に貸与されている。ラインハルトさんからの伝言で“これから忙しくなるだろうし、足として自由に使ってほしい”だそうだ。だからこうして現在、俺の個人的な用事に使わせていただけている。


 尤も、ありがたいのは馬車や公爵家の皆さんだけではない。


 先日の夜、お隣さん夫婦は預かっていた子供2人を引き取って帰ったが、子供達はカルムさん以外の従業員の皆さんと一緒にいた。


 さらに俺達が不在の間、ギルドマスターや公爵家の皆さんの対応をしてくれたのも彼ら、彼女らだったので、何事かと気になっていたのだろう。質問を受けたので色々と事情を説明した結果、“自分達にも何か手伝いはできないか?”と申し出てくれたのだ。


 そして、ありがたく“協力してもらえることには協力してもらう”という話になり、今日は農村出身の3人に、農業の基礎を教えてもらうことになった、というわけだ。


「皆さん、お休みの日にありがとうございます。本日はよろしくお願いします」

「あっはは! なにをそんなにかしこまってるんですか、店長」

「私達はいつもお世話になってますし~、これくらいなんでもないですよ~」

「むしろ、私達で店長の力になれることがあってよかったです。でも、どうして急に農業を?」

「あ、そこは説明してませんでしたね。実は――」


 農業の神様からという部分は言わなかったけれど、俺の木魔法の使い方が力技だと指摘され、農業を学ぶことでもっと良い結果が出せると教わったことを話した。


「そんなことがあったんですね~」

「私達、魔法についてはぜんぜん知りませんけど、大丈夫でしょうか?」

「フィーナちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫さ。魔法の対象について知るっていうのも、魔法を使うためには大事なことだからね」

「ユーダムさんが今仰った通りです」


 先に言われてしまったけど――あれ?


「もしかして、ユーダムさんも魔法使えたりします?」

「得意ってほどじゃないけどね。木属性は使えるよ。あと水撒き程度なら水魔法も」

「それは助かります!」


 魔法の知識もあるなら、さらに頼りになる。っていうか、ユーダムさんのことはまだよく知らないし、この機会に仲良くなれるといいな……そうだ、


「立ち話もなんですし、こちらへどうぞ。色々と教えていただくための場所を用意してありますから」


 ということで、5人を連れて移動する。

 向かうのは廃鉱山の西側で、それなりに広く平地になっている場所。先日まで伸び放題の雑草に覆われていたところを急遽整備したのだが……何か間違っただろうか?


『……』


 案内した5人。特に農村出身の3人が目を丸くしている。


「皆さん、どうしました?」

「いや、どうしましたって店長さん」

「あそこに建っているのは温室では?」


 確かに。普通に地面の部分もあるけど、その隣にはもう冬で気温も低いから、あったほうがいいかと思って作ってみた建物がある。


 ビニールハウスをイメージして作ってみたけれど、スティッキースライムとクラストスライムの硬化液板が材料なので、ガラス張りの温室にも見える――って、そうか! そういえばこの国ではガラス製品は高価なんだった。そんなガラスを大量に使ったように見える建物が、こんな所に建っていれば驚きもするだろう。


「なぁんだ~、あれ全部ガラスじゃなかったんですね~」

「びっくりしたー」

「そういえば、お店の窓にも使ってますよね、あの板。それを先に思い出していれば……」

「僕としてはそれでも驚きなんだけど……温室なんて、貴族でも持っている家は珍しいよ」


 へー、そうなんだ。そりゃ驚くか……


「とりあえず中へどうぞ」


 外は寒いし、ハウスの中へ案内する。


 そこは硬化液板で囲まれているため風の影響はなく、外からの日光は通すので暖かい。いや、空気が循環しにくく、蒸し暑いくらいだ。


 ハウスの両端にある入り口の上部と、ハウスの側面に換気用の窓があるので、必要ならそこを開ければいいが、近いうちに温度や湿度の調整方法についても考えたほうがいいかもしれないな。


「さて、何から始めましょうか?」

「それならまず、店長が普段どうやっているかを見せてもらえますか? 魔法での農業も見てみたいので」

「わかりました!」


 フィーナさんに言われた通り、まずはいつものやり方でやってみることにする。


 地面を土魔法で柔らかくして――

 スカベンジャー達に肥料を混ぜながら畝を作ってもらい――

 スティッキー達に種をまいてもらったら――

 水魔法で水を撒き――

 木魔法で生長を促進して――


「できました!」


 種からは食用油がとれ、根はタンポポコーヒーに、そして茎は一部のスティッキーやラテックススライムの餌にもなる便利な花。


 ダンテの花畑があっという間に完成だ!!


『……』

「あれ?」


 また皆さん黙っている。


「えっと……」

「なんと言えばいいのか、っていうか、何を言えばいいのか……」

「魔法ってすごいですね~?」


 フィーナさん達の反応は、よくわからないけどすごい! という感じ。

 メイドのリリアンさんは、以前公爵家のお屋敷で見たことがあったのか、驚いた様子はないけど苦笑い。

 そして唯一の男性であるユーダムさんだが、


「え、ははっ、何これ? え? 幻覚の魔法?」


 なんだか、えらく衝撃を受けた顔をしている。


「ユーダムさん? どうしました? 何か変ですか?」

「変ですか? じゃないよ!? 発芽から開花まで一気に成長させるとか変に決まって、しかもこの量だし!」

「ちょっ、落ち着いてください!」


 興奮した様子で何が言いたいのかわからないので、まず落ち着いてほしい。

 そう告げると彼はハッとした顔になった。


「ああ、うん……ふぅ……申し訳ない。見たものが衝撃的過ぎて、取り乱した。店長さんって、魔力がかなり多いのかい?」

「それもありますが、成長を補助してくれる良質な肥料をスカベンジャースライムが作れることが大きいですね」

「だとしたらその肥料とそれを生み出せるスライムはとんでもないね。堆肥や腐葉土といった普通の肥料に、植物の成長促進する魔法薬。そういうのは一通り勉強したけど、1人の魔力でこんな花畑を作れるほど効果の高いものはそう多くないはず。

 可能性のある薬もいくつかはあるけど、効果の強い薬は副作用も強いし、このダンテの状態は見る限り正常そのもの。生気にあふれていると言っていい。一般的な魔法使いなら、魔力が足りなくなるはずなんだけど」


 確認するようなユーダムさんの呟きを聞いて、そうなのかと考えながらフィーナさん達を見ると、


「村では魔法薬とか使いませんから」

「そういうお薬は高すぎて使えませんよ~」

「畑に使うものならそれなりの量になるしね」


 と言って、お手上げと言いたげな表情を向けられた。


「ユーダムさん、本当に詳しいですね」

「うちの家系が代々宮廷庭師をやっててさ、子供の頃にガッチリ勉強させられたのさ」


 それなら知識が豊富なのも理解できる。しかし“宮廷庭師”という語感からしてお城で働く庭師なんだろうけど、その一族ということは、


「ユーダムさん、貴族だったんですか? 聞いてないのですが」

「あー……一応男爵家の出身だけど、僕は家を飛び出してるからね。貴族としての姓を名乗る資格もないし、旅をしてても貴族と知られると敬遠されたり、試合に応じてもらえなくなったり、女の子を怖がらせたりすることが多くてね。言わないのが普通になっていたよ」


 確かに貴族と聞くだけで萎縮する人もいるみたいだしな。

 そうなると腕試しの相手を探すのも難しくなりそうだ。

 俺はそこまで気にしないし、他人の過去を無理に暴こうとも思わないけど。


「実際に爵位を持ってるのは親父だし、領地を持たない法服貴族だから、実は一般人と大して変わらないんだけどね」


 そう言ってユーダムさんは苦笑い。


「ってなわけで、これからも普通に接してくれていいからね」


 と思ったら、フィーナさん達の方へ声をかけていた。

 切り替えが早い。早すぎてフィーナさん達はまだ戸惑っている様子だけど……


「いいんでしょうか?」

「全然いいって! さっきも言ったけど、うちの親父がお城で働いてるってだけさ。仕事は普通の庭師とそれほど変わらないし、僕は家を飛び出した人間だから。権力とかもない。

 っていうか権力で言えば、公爵家と繋がりを持っていて、こんな感じで協力を取り付けられる店長の方がよっぽど権力持っててヤバイ相手だと思うんだけど」

『確かに!』

「それで納得するんですか!?」


 3人が目を見開いて、ユーダムさんに同意。

 しかもその横でそっとリリアンさんまで静かに頷いている。


 え、何これ? 確かに破格の待遇を受けているとは常々思っていますが、


「もちろん悪い意味じゃないけどね」


 問いかけて、返ってきたのは彼の一言と、それに対する同意だけだった……




 気を取り直して、その後は改めて農業の勉強。


「店長のやり方ですが、成長途中に手を加えることがなかったですね」

「普通は途中で生えてくる雑草取りとか~、悪い芽の間引きをしないとだめです~」

「なるほど……間引きという作業があることは知っていましたが、具体的にどんな芽を間引けばいいのか、悪い芽の基準がわからずにそのままにしてました。多少悪くても、そのぶん魔力を送り込んで成長させれば同じ、という感じで」

「確かに木魔法では植物の成長を促進させられるけど、大量に魔力を使うし、何よりも急激な成長は植物自身に負担をかけてしまうんだ。だから急速成長させるにも少しずつ、日数をかけて段階的に成長させていくのが基本だね。 その方が植物1本あたり、1日あたりに使う魔力の消費量も抑えられるし、植物にも負担がかかりにくい。

 生育の悪いものや、病気にかかった植物にも自ら成長したり病気に対抗する力はあるから、無理に咲かせるんじゃなくて、植物を上手く補助してあげるのがコツさ」


 先ほどの我流魔法農業を見てもらい、気づいた問題点を教えてもらい――


「じゃあ次は実際に作物を育ててみましょうか! ってことで、料理番のシェルマさんから芽が出ていたお芋を貰ってきてました! このお芋はこのまま植えれば種芋になりますし、育てやすいですよ!」

「あら、ジェーンも? 私も魔法を使うなら育てられそうな豆があったので、持ってきたんですが」

「私も麦を少し持ってきてますよ~?」


 俺が確保していたり、皆さんが持ってきてくれた作物の種子を使い――


「そこでストップ!」

「間引きはこのくらいの時にやりますよ~」

「間引く芽と残す芽の見分け方は――」

「あっ、成長の悪いやつはこっちに植え直そうか。それはそれで木魔法の練習になるし」


 実際に作物を作る実習を行い――


「麦の場合はこのくらいの時に麦踏をします!」

「この豆はじっくりと時間をかけて」


 さらにこれまで育てたことのない、新しい作物についても育て方を教えてもらう。

 急成長をさせながら大切な部分とそこで行うべき世話と作業の数々を学んだ。


 1つ知るたびにこれまでが本当に魔法による力技で、なんとか形にできていただけだと痛感する。だけどそれだけ学びにもなる、とても有意義な休日を送ることができた!

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― 新着の感想 ―
[一言] 調べてみたけど、目出し、によって目を出させた種芋の方が種芋になりやすい、みたいな情報はあったけど、目が出ていたら無条件で種芋、なんて情報は無かったなぁ。 ジャガイモそのものが種芋になるわけ…
[一言] この作品のいい所はキャラの温かさかな。 とんでもないもの見せられても距離を置く事なくきちんと教えてくれる。 そしてそれに対してきちんと感謝する主人公。 ユルくしつつも社会人根性に刺さる部分が…
[一言] 無自覚にマウントを取る系の話は良い加減読み飽きた。
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