顔合わせ
今回は5話同時更新。
この話は5話目です。
翌日
朝から冒険者ギルドの会議室には8人の男女が集められていた。
「おっ、ウェルアンナ、お前らのパーティーも来たのか」
「ジェフ、アンタも来てたのかい……今日は何で呼ばれたんだと思う?」
「わかんねぇ、他の連中もさ。ランクも歳も種族も、何の共通点もねぇ。何が基準で選ばれてんのか分かんねぇから話してたのさ。そっちこそ心当たりは無いのかよ? お前らだけだぜ? パーティーで呼ばれてんのは」
「アタイにだって分からないよ。アタイらのパーティーの共通点って言えば、全員女の獣人って事くらいさ。でもそりゃ関係ないだろ?」
「まぁな。俺は男だし、人間だ。他も人間2人とドワーフとドラゴニュートだからな。種族と性別は関係ねぇだろ」
と、そこにもう1人獣人の女性が部屋に入ってくる。
「おはようございま~す。にゃ? ウェルアンにゃ、ミゼリア、それにシリアも呼ばれてたのかにゃ?」
「ミーヤ、あなたも呼ばれたの?」
「そうだにゃ、昨日の夕方仕事から帰ったら受付で今日ここに来るように言われたにゃ。まさか3人も来ているとは思わにゃかった」
「アタイもさ……ん? あんた、臭いが大分マシになったんじゃないかい? とうとうあのゴミ屋敷から引っ越したのかい?」
「あんな家、とっとと引っ越せばって何度言っても聞かなかったのに」
「我慢の限界が来たんですか?」
「違うにゃ、今もあの家に住んでるにゃ。あんにゃ家でもそれにゃりのお金を出して買った家にゃ。住まにゃいのはもったいにゃい」
「じゃあ何で臭いが薄れてるんだい?」
「実は一昨日、久々にギルドに出した家の掃除依頼を受けてくれた子がいてにゃ。その子が綺麗に掃除してくれたにゃ」
「あの悪臭無限掃除地獄をかい? よく掃除できたねぇ?」
「アタシもあの時は驚いたにゃ。あの地下室を2時間もかからずに綺麗にして、更に壁の穴まで塞いでくれたのにゃ。魔法で掃除したらしくて、部屋中ピッカピカだったにゃ」
「そりゃすごいね、どんな奴だい?」
「新人の子だったみたいだにゃ。多分13歳以下で、木と蔓で編まれた大きな籠を背負ってたにゃ」
その特徴にジェフと呼ばれた男が反応を示す。
「あん? 13歳以下で大きな籠? そいつ、もしかしてリョウマって奴じゃねぇか?」
「そうだにゃ! たしかにそう名乗ったにゃ」
「何だ、アンタ知ってるのかい?」
「一昨日仕事帰りにおっさんに呼び出されていてよ、呼び出されるような心当たりが無さそうな顔してたから、おっさんのおせっかい焼きだって教えてやったんだよ。えらく丁寧な喋り方するガキだったな、あいつ」
「確かに礼儀正しい子だったにゃ」
そこにまた1人部屋に入ってくる者がいた。竜馬だ。それを見てミーヤが叫ぶ。
「失礼します。こ……」
「あ! あの子だにゃ!」
「ミーヤさん? ミーヤさんやジェフさんも居らしたんですね」
「おう、一昨日ぶりだな。お前も呼ばれたのか。丁度今お前の話をしてたんだよ」
「僕の?」
ここでウェルアンナと呼ばれていた女が竜馬の前に出る。
「初めまして、アンタがリョウマだね? アタイは犬人族のウェルアンナ。ミーヤの昔からの知り合いで、元パーティメンバーだ。アンタがミーヤの家の掃除をしたって聞いて、驚いたんだよ。よくあの家を掃除できたもんだね?」
「家を買ったはいいけど、壁が崩れて君も見た通りの惨状でしょ? 鼻の良い獣人族には臭いがキツくて、何度も引越しを勧めたけどミーヤは聞かなくてね……あ、私は虎人族のミゼリア。よろしくね」
「兎人族のシリアです。よろしくお願いします」
「リョウマ・タケバヤシです。こちらこそよろしくお願いします」
「この3人はアタシが昔居たパーティーのメンバーだにゃ。あの家の臭いが体に染み付き始めて皆、特に犬人族のウェルアンにゃにはキツイのが分かってたけど、どうしても家を諦められにゃくてパーティーを抜けたんだにゃ。他にも色々迷惑かけたからにゃ~」
「ミーヤは時々頑固者でね……」
「誰が何と言っても、買った以上はあそこに住むって聞かなくて……」
「本当に、よくあんな場所に5年間も住んだもんだよ」
「あそこに5年ですか、それは……大変でしたね」
竜馬が何とも言えない顔をした。そこでジェフが竜馬に聞く。
「ところでよ、お前の背負ってるその籠、一昨日も持ってたよな? 何入ってんだ?」
「この中には僕の従魔が入ってます。一応従魔術師ですので」
「へぇ、従魔術師なの。何を飼ってるの?」
「数種類のスライムですよ。まだ見習いです。スライムは足が遅いので、本当に急ぐ時は籠に入れて背負って走るほうが早いんです。街の人を怖がらせても良くありませんし」
「なるほどね~」
ここでギルドマスターが部屋に入ってきた。
「おーし、全員集まったようだな。適当に座ってくれ」
その言葉で皆がそれぞれ席に着く。
「さて、これから今日お前さんらを呼び出した理由を説明するが……その前に、この場で得た情報を外部に漏らさない事を誓約して貰う。誓約できないと言う者は会議室から出て行ってくれ。言っておくが、これから話す事を聞いたら必ず仕事を引き受けなければならないという訳ではない。外部にここでの話を漏らさなければ、話を聞いてから断っても構わない。罰則も無いぞ」
それを聞くと全員が躊躇い無く頷いた。
「よし。じゃあ話すが……まず俺がお前さんらを選んだ基準だな。1つめはある程度信頼が置けて、口が硬い事だ。その上で2つめ、病気耐性スキルを所持している事だ。持ってるだろう?」
「病気耐性スキル? 確かに持ってるぜ。おっさんは知ってるだろうが、俺は元スラムの住人だ。あそこで生きてりゃ病気耐性の1や2は誰でも取れるさ。俺は5だけどな」
「アタイらも昔、依頼に行った街で疫病に罹ったからね」
「幸い疫病としては軽い物だったので、全員生きて帰れましたし、スキルも取れました」
「確か全員レベル3だったね?」
「アタシは4に上がってるにゃ。自分で言うのも嫌だけど、ゴミ屋敷に住んでたからにゃ」
それから熟練の冒険者らしきドワーフの男が話の内容を推察し、その男の言葉を聞いたまだ若い冒険者が慌て出す。
「病気耐性という事は、疫病か?」
「発生したんですか!?」
「落ち着けシェール。ゴードンの予想の通り疫病についての話だが、まだ疫病は広まっていない」
「まだ、という事は1人2人は病人が出たのかい?」
「いや、疫病が蔓延る場所が偶然発見されただけだ。場所の発見者はそこにいるリョウマで、患者は今のところ見つかっちゃいねぇ」
その言葉で一斉に全員の視線が竜馬に向くが、ギルドマスターであるウォーガンからスカベンジャースライムの性質や事情、疫病と判断した根拠の説明が行われた。
「……という訳だ。スカベンジャースライムの病気耐性レベルが5から7に上がった事から、レベル6でも完全に対抗しきれない疫病がこの街の共同トイレの汲み取り槽には蔓延していると予想される。
この疫病を蔓延する前に食い止める事が今回の依頼だ。なお、この事実が漏れると街が大混乱に陥る事が予想される。よって、活動は秘密裏に行う」
「僕らの仕事は、疫病の処理……もとい汲み取り槽の掃除ですか?」
「いや、お前さんら9人にはその作業はさせない。実際に汲み取り槽に入って処理をするのはリョウマだけだ」
「ちょっと待った! その子一人に処理をさせる気かい? いくらなんでも無茶じゃないか? 子供は病気にも罹りやすいし、危険すぎる」
「大体1人で街中の汲み取り槽の掃除は無理だろ」
「それは俺も考えたが、これが最善だ。まずリョウマはスライムを使って既に汲み取り槽1本の掃除を昨日1日で終えている。
そして、お前さんら9人の病気耐性レベルは最高でもジェフの5。レベル6の病気耐性でも完全に対抗できない疫病が蔓延する場所ではリスクが高い。
その点リョウマは健康レベルが7。この中では最も疫病に罹るリスクが低く、更にリョウマは生命強化Lv3、超回復力Lv3、耐久力強化Lv6のスキルを持っている。疫病に罹ってもこの中で1番生き延びる可能性が高いのがリョウマだ」
その言葉に驚愕して竜馬を見た9人、その中でシリアがウォーガンに問う。
「……彼が適任者なのは理解できました。しかし、処理を全て彼に任せるなら、私達は何をすればいいのですか?」
「リョウマが処理をしている間、交代で入口を見張り、誰ひとり中に入れないようにしてくれ。作業中はどうしても入口の鍵が開いたままになる。
万全を期して病気耐性持ちのお前さんらを呼んだ。それから無属性魔法の『鑑定』が使える奴はリョウマが掃除を終えて出てきたら『鑑定』で疫病を持ち出さない事を確認してくれ」
「見張りに9人も必要か?」
「……リョウマが言うには、2,3日寝ずに昼夜構わずぶっ通しで作業ができるらしい。リョウマの“健康”は病気、睡眠、毒の耐性が合わさったスキルだからな。これもステータスボードで確認済みだ」
「成程。だから交代で、か。リョウマとやら、本当に大丈夫なのか?」
「問題ありません、2,3日ぶっ通しで働かされる事は日常でしたから。自分の意思で働く分、楽な位ですよ」
「そうか」
「まぁ、依頼を受ける場合はリョウマが本当に無理をしていないかにも気を配ってもらう。……ではこれから10分時間を取る。この依頼はある意味魔物討伐より命の危険がある。強制はしないし罰則もない。少し考えて受けるかどうかを決めてくれ」
そう言ってウォーガンと参加が決定している竜馬が部屋を出ていくと、各々考えた後にジェフが発言した。
「はぁ……どうするよ?」
その言葉にゴードンと呼ばれていたドワーフの冒険者が答えた。
「俺は参加するぞ。ここは俺の生まれ育った街だ。知り合いも大勢いるんでな、逃げる事はできん」
それに続きドラゴニュートの冒険者も参加を表明し、続く者が続々と出る。
「拙者も請けよう。疫病は脅威だ、未然に防ぐに越したことはない」
「この街で疫病とはねぇ……確かにヤバイけど、だからと言って、あの子だけに押し付ける訳にも行かないだろ」
「だな、第一、俺たちの仕事は外の見張りだけ。一番危険な仕事はあいつが1人でやるってんだ。ここで逃げる訳にも行かねぇよな」
決定までに10分という時間は長すぎたようで、ウォーガンと竜馬が戻ってきた後には全員が参加を表明。そこからは竜馬が祖母に習ったという言い訳で伝えられた地球の疫病の知識がウォーガンから伝えられ、迅速に見張りの班分けが行われていくのだった。




