三連休 2日目
本日、2話同時更新。
この話は2話目です。
翌日
今日も朝からスライムの研究! なんだけど……今日のテーマはそれだけではなく、“魔法”と魔力の“属性”にも関わる検証・実験を行おうと思う。
まずは今日の実験というか、その前の仮説を立てるに至ったきっかけであるサンドスライムとマッドスライム、各1匹に手伝ってもらう。
「まぁ、マッドスライムはともかくサンドスライムは現状、進化した1匹しかいないんだけど……」
この2種が習得している“同化”のスキルを使ってもらうために、それぞれ砂と泥を用意。どちらも地面を魔法で変化させれば簡単だ。そして用意ができたら、実際に同化スキルを使用してもらう。
すると、
「……やっぱりか」
それぞれ砂と泥の傍に近寄った2匹は、まるで溶けるように消えていく。そして完全に姿が見えなくなるけれど、2匹のスライムは変わらず、そこにいる。用意した砂や泥へ完全に同化、一体化して砂と泥になっているのだ。
同化対象を魔法で跡形もなく消し飛ばすようなことをすれば耐えられないだろうけれど、刺す、切る、叩くなどの物理攻撃は完全に無効化されてしまうし、何よりも驚いたことに、この状態ではスライムの急所とも言える“核”がない。自然に存在する砂や泥そのものになっている。
それでいてスライムとしての意識?のようなものはちゃんとあるようで、指示をすればスライムの形を取ったり、這ったりして移動もできる。もちろん、核のない自然物の状態で。
目の前に同化スキルを使える2種がいて、その効果を発揮している以上、これは“事実”で“彼らには可能”なこととして認めるほかない。
ここまでが昨日の内に確かめられた内容であり、結論。
だけどそこから俺は、どうしてこうなるのか、どうしてこんなことが可能なのかが気になった。その末に着目したのが“魔力”。
理由としては、まず1つ目に一般的に見かける通常のスライム(上位種でないもの)は、なぜか死ぬと核だけを残して体が消えてしまうこと。
2つ目に、過去の観察と魔法系スライムへの進化実験で、スライムが魔力を吸収すること、そして個体によって好む属性の魔力があることが判明していること。
3つ目に、これも以前思いつきで行った実験の結果だが、ポイズンスライムに槍の魔法道具を使わせた結果、使用には成功したけれど、魔力の消費に伴い衰弱と体積の減少が確認できたこと。
以上3つの理由から、“スライムの体は魔力で構成されている”という仮説はだいぶ前から考えていた。
魔力は術者のコントロール下でなければ霧散する性質がある、というのは魔法の基本であり、常識。スライムの体=魔力の塊であれば、1つ目の“スライムの死に伴って体が消滅する”ことにも説明がつく、と俺は思う。
そして体が魔力だとすれば、同化状態は魔法である可能性もあるのではないか? 何でもかんでも魔法で済ますのはどうかと思うが、この世界には不可能を可能にしてしまう“魔法”が存在するのは事実。
それにスライムは100匹合体すればビッグ、500匹合体すればヒュージスライムにもなる。スライム自身が魔法として扱っているのではなく、スライム自身、もしくはスライムが持つ魔力に、自然と合体や同化を可能にする力や性質があるのかもしれない。
俺はそう考えている。
そこで今日は先ほど述べた理由の2つ目。“スライムが魔力を吸収すること、そして個体によって好む属性の魔力があること”に注目して思考、実験をしてみようと思う。
というのも、
「まずは再チェック」
同化スキルを使える2種類が好む属性を調べる。
するとマッドスライムは土と水に、サンドスライムは土と風に大きく反応した。
これは昨日も観察の一環として最初に行い、同じ結果を確認していたが、
「“泥“に同化する“マッドスライム”の好む属性が“土と水”」
もっと言えば、土と水の属性を併せて使う魔法には“泥魔法”がある。俺にはこれがただの偶然とは思えなかった。
さらにサンドスライムが好む土と風の組み合わせにも、俺は1つ心当たりがある。
「『ポリッシュホイール』」
土魔法で砂に変えられた土を渦巻く風が巻き込み、タイヤのように高速回転を始める。
これはその砂粒の勢いで、物体の研磨や加工を目的としたオリジナル魔法。
必要となった時に思いつきで作り、ポリッシュ=Polish(磨く)。さらにタイヤ形のイメージでホイール。併せて“ポリッシュホイール”と適当に名前をつけたが、今思えばこれは“グラインダー”とか“サンドブラスター”の方がわかりやすかったのではないかと思う。
そんな適当に作って適当に名づけて適当に使っていたこの魔法……泥魔法のように”砂魔法”と呼べるのではないだろうか? そしてスライムとスライムが好む魔力の属性、そして魔法には何らかの関係と法則がある?
「判断するにも2つじゃデータが少ないな。よし」
他のスライムの属性でも試していこう。手頃そうなのは属性2つの……あ、アッシュスライムがいた。アッシュスライムの好む属性は“火と木”。火によって木が燃えて灰になると考えればイメージもしやすいな。
「どんな魔法にしようか……『アッシュ』」
シンプルに、水を生み出す“ウォーター”のように、灰を生み出すイメージで発動。
すると火と木属性を併せた魔力が灰に変換されて足元に降り注いだ。
「これも成功か……だんだん楽しくなってきた」
次は、確かアシッドスライムが毒と水だったしそれを――
ここでふと思う。
アシッドスライムは酸。その対称となるのはアルカリで、アルカリの語源は灰だったはず。
実際に灰を水に入れて混ぜると、その成分で水溶液はアルカリ性を示す……だったら灰(火+木)と水でアルカリを作れるのではないだろうか?
……酸もそうだが、アルカリ溶液は扱いに注意が必要だ。一度準備をして実験に望もう。
20分後。
実験を行った結果は、成功。
3属性を混ぜるのが少々難しかったけれど、火+木+水でアルカリ性の水溶液を生み出せた。
しかし、アルカリを中和するために、改めて毒と水で酸を生もうとした時は失敗した。
一体何が悪かったのだろうか?
「毒が必要ならポイズンやメディスンがいるから、考えてみたら毒属性魔法ってぜんぜん使ったことないな……日常生活でも使わないし」
毒属性魔法については、基本から学んでみたほうがいいかもしれないな。
それから、改めて失敗の理由を考えるとしよう。
その後、俺は他のスライムの属性も見直し、魔法にできそうなものは片っ端から試しては成功や失敗を繰り返し、その都度気づいたこと、気になることを記録した。
そしてハイペースで慣れない魔法を使い続けたせいか、昼過ぎには気分が悪くなる程ではないけれど、魔力をほとんど消費していた。そこで今日の研究は終わりにする。
「……そうなるとまた暇になるんだよな……」
しばらく考えた後、とりあえず昼食を作って食べることに。
そして午後からはのんびりと、スライムたちと遊びながら、明日の準備をすることにした。
なお遊び終わってスライム達の夕食を用意する際、アッシュスライムの好む魔力属性が火と木だったことを参考に、木属性の魔力を好むウィードスライムにも灰を用意してみると、強く反応したウィードスライムが53匹もいた。
やはり、スライムと魔力の関係は興味深い。




