三連休 1日目
本日、2話同時更新。
この話は1話目です。
翌朝
昨夜はヒューズさん達がギムルにやってきて、これから暫くは彼らが俺の手伝いをしてくれるということで、仕事への意欲が湧き、気合が入っている今日の仕事は――
「休み、なんだよなぁ……」
口に出して確認しても、結果は同じ。休みなのだ。
理由は俺がファットマ領からギムルに帰ってきてから、1日も休んでいないこと。
帰った当日、俺がそのままセルジュさんやギルドマスターと打ち合わせなどを始めていたことが、ギルドマスターの口からヒューズさん達に伝えられていたからだ。
そんなわけで今日から3日間。俺の仕事は有能なメイドさん達と男性陣に持っていかれることになり、さらには外出禁止ならぬ出社禁止を言い渡された。さすがに朝昼晩と生活の世話までと言い出された時は断ったが……とにかくそんな感じで、今日から3日間は仕事から離れることになったのである。
明後日、3連休の最終日には予定を入れることができたが、今日と明日は完全にフリーだ。そうなると……
「久しぶりに“1日中”スライムの研究するか!」
最近はあまりまとまった時間が取れていなかったからな……ファットマ領で得た餌で続々と進化しているスライムのことを一度しっかりまとめておきたいし、あちらで作った酸性粘液をきっかけに試してみたいこともある。この機会にできることはやってしまおう!
ということで時は流れて、今は夜。朝から先ほどまで、たっぷり時間を使って実験・観察した内容の覚え書きをまとめる。
ファットマ領で得た餌によるスライムの進化について、まずはどのスライムが何を餌としていたか、そして確認できた進化を表にしてみよう。
――――
進化前の種類 餌と予想 進化後の種類
・スティッキー → 蟹スライム → スパイダースライム
→ 甲殻スライム → クラストスライム
→ 網スライム → ファイバースライム
・アシッド → 貝スライム → シェルスライム
→ 貝&卵スライム → パールスライム
・ポイズン → 炭&砂スライム → フィルタースライム
→ 毒針スライム → スティングスライム
・メタル → 網スライム → ワイヤースライム
・ブラッディー → 寄生虫スライム → 進化待ち
・ストーン → 砂スライム → サンドスライム
→ 陶器スライム → 進化待ち
・ウィード → 水草スライム → アクアティックウィードスライム
→ 藻スライム → アルガスライム
――――
以上。
続いて新しく進化したスライムの観察記録と考察をまとめる。
まずはスティッキーから進化した3種から……
“スパイダースライム”
外見:若干小さくなったスティッキースライム
スキル:進化によって失ったスキルはなく、新たに2つ“営巣”と“罠術”を習得。
備考:坑道の壁などに糸で巣を作るようになり、張り巡らせた糸を伝って空中を移動するなど、蜘蛛のような行動が多く見られるようになった。また、吐く糸の性質も若干変化しているようだ。
試しにスティッキースライムとスパイダースライムに、どちらも可能な限り強靭な糸を出すように頼み、腕を拘束してもらい引きちぎってみたところ、スパイダースライムの糸の方が伸縮性もあって引きちぎりにくく、頑丈に感じた(この結果は俺の体感であり主観である)。
蜘蛛の糸については地球でも非常に優秀な性質と構造の繊維として注目され、研究が進められていた。スティッキースライムの吐く糸も十分に強靭だけれど、スパイダースライムの糸はさらに構造的な変化があったのかもしれない。素材としてどうか、今度また専門家に相談させてもらおうと考えている。
大きさは若干小さくなったと書いたが、個体差の範囲かもしれない。今後、数が増えたら平均的な大きさを割り出すことにする。
“クラストスライム”
外見:目立った変化なし。
スキル:進化によって失ったスキルはなく、新たに“甲殻生成”を習得。
備考:甲殻生成は分泌した体液を固めて身に纏うスキルだと判明。体表を固めた状態でも行動には支障がないらしく、純粋に防御力が上がったと考えていいだろう。
またこの甲殻を鑑定すると、俺が作って利用していた“硬化液板”とほぼ同質の物だと判明。硬化液板も元はスティッキーの吐く液なので順当とも言えるが……ためしに指示を出してみると、甲殻生成に使う体液を平面に広げて硬化液板を作ることにも成功した。
クラストスライムがいれば、錬金術を使わずに硬化液板を作ることが可能になったが、スライムとしての性質はあまり変わっていないようにも思える。スパイダースライムもそうだけれど“元々のスライムの性質を引き継ぎながら”、それを活かせるように“他の種類の生物の特徴を取り込んだような”進化に俺には見える。
“ファイバースライム”
外見:目立った変化なし。
スキル:進化によって失ったスキルはなく、新たに“繊維化”を習得。
備考:フラッフスライムの綿毛を与えることで、スライムレーヨンが作れる。
材料を換えれば他のものも繊維にできるのだろうか? たとえば金属やガラスを与えてワイヤーやガラス繊維を作るなど……いつか試したい。
続いてアシッドからの2種、
“シェルスライム”
外見:サザエのような巻貝を背負い、その内部に隠れるヤドカリのようなスライム
スキル:失ったスキルはないが、強酸生成が弱酸生成になり、貝殻生成を習得。
備考:ある意味これが一番驚いた進化かもしれない。外見がこれまでのスライムとは著しく変化していることもあるけれど、“弱酸生成”で出してもらった“弱酸”を調べたところ高濃度の“コハク酸”。貝類に多く含まれるという“うま味成分”が多量に含まれていることが判明。そのままでは食用に適さないが、錬金術で調整、コハク酸二ナトリウムにすることで調味料として使えることが判っている。遅い昼食で作ったオイスターソースもどきは美味しくできた。
“パールスライム”
外見:乳白色の体に独特の光沢を持つ。でかい真珠。
スキル:アシッドのゼリー状の体から、どちらかといえばメタルのような固体の体になったからか、進化前後ではまったく別物に変化した。“保護体液精製”、“被覆”、“結晶化”が特徴。
備考:スキルによってこの世界では貴重な真珠を作ることができるため、資産価値は天井知らず。パールスライムそのものに危険性はないが、取り扱いに注意が必要。
ポイズンからも2種、
“フィルタースライム”
外見:水気が少なく、全体的に黒い。所々にキラキラと光を反射するものが混ざっているため、黒い砂が固まったように見える。
スキル:ゼリー状の体から水気が少なく固体に近い体に変化したためか、ポイズンの頃持っていたほとんどのスキルを失っている。ただし残された毒耐性は強化され、“濾過”という新たなスキルも身につけていた。
備考:実験の結果、そのスキル名の通り、液体や気体を自分の体を通して濾過し、濾し取った毒物や沈殿物を食べるスライムのようだ。“濾過”スキルで製薬の手伝いと浄水器の代わりができることは、本日の実験で確認済み。
他にもガスマスクやブラッディースライムと組み合わせることで医療への活用、たとえば人工透析のようなことができるかも? とアイデアは尽きない。
”スティングスライム”
外見:ポイズンの紫色が濃くなり、核が見えなくなった。
スキル:進化前のスキルを失わず。“毒針”のスキルを新たに習得した。
備考:毒針もその名の通り、体から毒針を出すというもので、ためしに使ってもらったら、ウニのように無数の針が体から飛び出した。そのときの外見は色合いもあって、完全にウニ。細かく言えば長い毒針をもつ“ガンガゼ”のようだった。
ちなみにせっかく槍術のスキルがあるのだから、1本だけ太く長い毒針を作り、それを槍として扱えないかと聞いてみたところ、成功した。しかもそうして生まれた槍は、毒針と同じ構造を持ち、刺さると注射器のように先端から毒が染み出す仕掛けになっていた。これは餌として食べていた生物の毒針を模しているのだと思うけれど、かなりエグイ槍ができてしまった。しかし刺すと同時に毒を打ち込めるというのは戦闘において効果的だろうし、有用だと言える。たとえば…………想像しただけで危険すぎた。ここに書くのはやめておく。
メタルから1種
“ワイヤースライム”
外見:メタルスライムとあまり変わらないが、体が一回り小さくなっている。
スキル:失ったスキルはなく、新たに“伸縮”を習得。
備考:体を細い糸状に伸ばすことができ、さらに伸ばした体を糸鋸や有刺鉄線のようにもできる。体を伸ばせる最大距離は、その個体の体積に比例する。ただし核の部分は伸ばしたり変形させることはできない。
ストーンから1種
“サンドスライム”
外見:砂の山、あるいは塊。
スキル:体が砂に変化したからか、ストーンスライムのスキルは失い、代わりにアッシュスライムと同じ“飛散”と“凝集”、“吸湿”に“乾燥”。さらにマッドスライムと同じ“同化”のスキルを習得していた。
備考:実験中、新たな可能性に気づく。これについては明日以降、更なる実験と検証を重ねてまとめることにする……
ウィードから2種
“アクアティックウィードスライム”
外見:スライムの体に水草が浮かんでいる。ガラスのないアクアリウム?
スキル:ウィードスライムから変化なし
備考:能力に変化はないが、水中で生活するようになった。水から出てもしばらくは生きることはできるようだけれど、陸上は好まないようだ。用意がなかったので、現在は硬化液板で水槽を作ってそこで生活してもらっている。今度もっと広い水槽か、気候がいいならため池でも作ってあげよう。
食事はウィードスライムに似て、自分の体から水草を増やし、育ったものを勝手に食べるか、光合成で養分を作り出して賄ってくれるので、手がかからない。外見のところにも書いたが、アクアリウムのようにも見えるので、スライムを誰かに布教する際はこのスライムをまず薦めてみるのもいいかもしれない。
“アルガスライム”
外見:緑色の藻の塊
スキル:ウィードスライムから変化なし
備考:アクアティックウィードスライムと同じく、水生のスライム。自ら水中で藻を育て、増やして食べるだけでなく、植物系のスライムらしく光合成で体内で養分を生み出して増える。
核を覆うスライムの体の一部(藻)を採取して鑑定したところ、豊富な栄養素が含まれていた。地球でも藻の一種であるミドリムシ、別名ユーグレナは豊富な栄養素を蓄えているとして、サプリメントや健康食品への利用が研究されていたので、アルガスライムの藻もそういう用途に活用できないかと考えている。こちらにも専用の水槽か池を用意して、研究用の藻も増やしてもらおう。
……こんなところか。
正直、他にもまだまだやりたい事はあるし、やろうと思えばやれる。でも研究していてまた寝てないとか言ったら、それこそメイドさんの誰かが世話係としてついてきそうなので、きりのいいところで止めておかないといけない。
そうやって止められるあたり、俺も少しは成長しただろうか?
「……なんてな」
さて、寝るには微妙に早いし、ちょっとだけ明後日の準備をしておこうかな。
こうして、だんだんと夜は更けていく……




