良い仕事から次の仕事へ
今回は5話同時更新。
この話は2話目です。
ギルドに戻ってみると、依頼の説明と受注をしてくれた受付嬢の女性がまだ受付をしていた。
「すみません」
「あら、君は朝の……」
「依頼の達成報告に来ました」
「え? 達成? 受けてから2時間もかかってないけど、放棄じゃなくて?」
「達成ですよ」
俺はそう言って依頼書を提出する。
「……本当ね、依頼達成になっているわ。それに報酬の増額まで……あなた凄いわね、この依頼は難しい作業では無いけれど、匂いはキツイし穴から流れ込むゴミで心が折れる人が続出したのに」
「都合よく使える魔法があったからです」
「そうだったわね、お疲れ様。依頼達成の報告完了で…………はい、報酬の中銀貨30枚よ」
受け皿に載せた銀貨を受付嬢さんは俺の前に持ってきた。
ん? 依頼書に書かれていた額より随分多いな……
「報酬増額とは聞きましたけど、多過ぎませんか?」
「人が来なくなった頃から、依頼主のミーヤさんがなんとか請けて貰おうと報酬を上げていたの。おまけに君には報酬増額の指示まであるからこの額でいいのよ」
「そうですか、わかりました」
「それとあなたが戻ったら部屋に呼ぶように、ってギルドマスターに言われてるから、ついてきてくれる?」
「ギルドマスターがですか?」
俺のその質問に答えたのは目の前の女性ではなく、隣のカウンターで手続きをしていた男性だった。
「心配すんな、別に大したこっちゃねぇよ。いつもの事さ」
「どういう事でしょうか? あ……僕はリョウマ・タケバヤシです」
「俺はジェフ・グランジュだ。あのおっさんはおせっかい焼きでな、新人やお前みたいな13歳以下の冒険者にはマメに声かけて手助けしてるのさ。俺も新人時代は世話になった。ツラはそんじょそこらの盗賊以上に盗賊らしいが、怖がる必要ねぇよ」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「いいってことよ」
その直後俺たちにカウンターの奥から声がかけられる。声をかけたのはギルドマスターだった。
「その通りだ、そいつに礼はいらんぞ」
「あ、ギルドマスター」
「げぇっ! おっさん」
「人の顔見てげぇっ! はねぇだろ……それと誰の面が盗賊より盗賊面だコラァ!」
「おっさんの面は誰が見ても盗賊面だろうがよ!」
「うっせぇ! 顔がゴツイのは仕方ねぇだろうが! だが盗賊みてぇにあくどい顔はしてねぇぞ!」
「夜暗い所で女子供に会ったら叫んで逃げられるだろ……」
「ぐっ……この街の連中なら問題ねぇ」
「そりゃもう皆慣れたからだっつーの!!」
「ぐふぅっ! ……もういい……リョウマ、ついてこい」
ジェフさんの言葉に傷ついたギルドマスターが胸を押さえ、奥に戻っていきながら俺を呼び、俺はジェフさんと受付嬢さんに一言挨拶をしてギルドマスターを追う。通されたのは昨日も来たギルドマスター室だ。
「適当なとこに座れ。ってか、その籠なんだ? 滅茶苦茶目立つんだが」
「失礼します。この籠の中には僕の従魔を入れています」
「お前さん従魔術師だったのか? てっきり狩人か何かだと思ってたぜ」
「従魔はスライムだけですし、従魔術師としては見習いですよ。従魔術を使える狩人ですね。スティッキースライムを組み合わせた罠やポイズンスライムの毒を矢に塗って使います」
それを聞くとギルドマスターはニヤリと笑い、こう言った。
「……お前さん、なかなかえげつない組み合わせをするじゃないか」
「そう思います? 所詮スライムですよ?」
「自分でやってるんだからよく分かってるだろうが。ただのスライムならまだしも、上位種は侮れねぇよ。
多くの冒険者はただのスライムと上位種を一緒くたにして弱いと思ってるが……まぁ、実際大半のスライムは上位種でも弱いが、アシッドスライムの酸を喰らえば装備が悪くなる。連戦になれば帰る頃には新品がボロボロになりかねん。毒を喰らえば命もやばい、スティッキースライムはめんどくせぇし、動けねぇ時に別の魔獣が来たらまず命がねぇ。
そういうスライムと戦った事のある冒険者なら、弱いだけとは思ってねぇさ」
「なるほど……それなら冒険者ギルドは働きやすそうですね。実はテイマーギルドにはスライムを使っていると無能と判定される風潮があるみたいで」
「その話は向こうのギルドマスターの爺さんから何度か聞いたことがあるな。お前さんそれでここに来たのか」
「ええ。スライムは力仕事には向きませんし、こちらで力仕事以外の仕事を探しに来たんです」
俺がそう説明すると、ウォーガンさんは納得した様子で何度か頷く。
「なるほどなぁ……っと、仕事の話だ。今日お前さんが早速仕事を請けたって聞いたんだが、上手くやれたみたいだな?」
「はい、依頼者には満足して貰えました。報酬増額もして貰えましたし」
「ほー、初仕事でそれは上々だ。掃除としか聞いてねぇんだが、何の仕事を受けたんだ?」
「ミーヤさんという依頼人の家の掃除です」
それを聞いたギルドマスターが目を丸くする。
「お前さん、あいつの家の掃除をしたのか?」
「知っているんですか?」
「そりゃ、ミーヤもこの街に住む冒険者だからな。ギルドにはよく来るし顔も合わせるぞ」
「そうでしたか」
「しかし……その依頼を達成したってことは、掃除できたんだよな?」
「はい」
「あの家を掃除出来る奴が居るとは思わなかったぜ……で、どうやった?」
「ちょうどいい魔法を知っていたんですよ。魔力を多く使いますから使いにくくて、あまり一般には知られていないそうですが」
「ほーう? なら、次に1つ受けて欲しい依頼があるんだが……」
もしかして……
「街の共同トイレの掃除依頼ですか?」
「なんだ、知ってたのか?」
「ええ、今日依頼を受ける前、どっちにするか迷っていたんです」
「なら話がはええ。役所が清掃依頼をギルドに出した、清掃されてないのはギルドのせいだって住民に言いやがってよ。苦情が来てるんだ。元はといえば役所がスラムの連中に金を出し渋ったのが原因だっつーのによ」
「それ、受付嬢さんからも聞きましたが本当ですか?」
「ああ、確かだぜ。ここ数年で街の収入が減っているのは知ってるか?」
「確か鉱山から鉄鉱石の採掘量が落ちているとか」
「そうだ、それで役所が色々と費用を抑えようとしたが……主に街の管理費を削りやがるからしわ寄せが街の人間に来てんだよ」
その中で最も大きく割を食っているのがスラムの人達らしい。
今まで役所は段々と雇用人数を減らす事で人件費を抑えていたが、それだと人手が足りなくなる。そして手が回らないのをいい事に、仕事が終わっていないのは真面目に働いていないからだと難癖をつけて報酬を出し渋るか強引に値切る。住民からの苦情が出始めてからは、大勢のスラムの人を雇おうとしてもスラムの人間は真面目に働かないと理由を付け、タダ同然の額で雇おうとして最終的にスラムの人は誰も引き受けなくなったそうだ。
「いくら金に困っていても、割にあわなきゃスラムの奴らも働かねぇ。別にあいつらも大金を払えって言っている訳じゃねぇんだ。ただ……あいつらは最低限の生活しかできてねぇから、病気に罹ると治療が生活の負担になる。タダ同然の額ではリスクの方が大きいんだよ」
なるほどなぁ……そりゃ仕方ないわ。
「わかりました、準備をして早いうちに受けます。早ければ明日にでも」
「助かるぜ、頼む。報酬は弾むからよ」
「よろしくお願いします」
ついでにラインハルトさんたちにも話してみるか、一番強い権限を持ってるのは彼らだからな。それにあの人たちなら今日俺が何したかを聞いてくるだろうし、この事を知れば何かしらの対応はするだろう。
「……お前さん、何考えてんだ?」
顔に出てたか?
「いえ、僕は今日単独行動でしたので、昨日僕の登録に付き添ってくれた人達が今日あったことをいろいろ聞いてくるな~と思いまして」
それを聞いたギルドマスターがまたニヤリと笑う。
……そういう顔されると、ジェフさんの言ったとおり確かに盗賊みたいな顔だと思ってしまうな……
「お前さん、いい性格してんなぁ。……で、動いてくれると思うか?」
「知りさえすれば動いてくれると思いますよ」
「根拠は?」
「根拠ってほどでもないですが……僕は孤児でして、行き場がなくて森に住んでいた所を少し前に偶然皆様と出会いました。それからあれこれと世話を焼いてくれているんです。見ず知らずの僕をですよ?
僕ひとりならともかく、スラム街の全員ともなると一人一人僕のような扱いは出来ないでしょう。ですが現状を知って何も感じないような方々ではないと思います」
「……そうか。期待しとくぜ」
「はい。……それではそろそろ僕はお暇しても? 明日からの準備を整えたいので」
「おう、そっちは任せた。お前さんが来たらすぐに例の仕事を優先的に回すように言っとく。誰も受けねぇから優先も何もねぇがな」
「ですね」
そんな事で笑いあい、俺はギルドから宿に帰る。その途中で洋服用の布と裁縫道具を買える店を探して安い布と裁縫道具を1セット。さらに糸の入ってない糸巻きを購入した。




