表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/370

プロローグ2

お久しぶりです。Royです。

本日から神達に拾われた男の改訂版を一ヶ月間隔で投稿させていただきます。

 「仕事……田淵君、進捗報告……」


 竜馬が深い森の中、木々が生い茂り生まれた影の中で目を覚ます。彼は神々に伝えられた通り10にも満たない少年の姿で麻の服を着込み、一本の木の根元にもたれかかって眠っていた。


 今の姿には不釣合いな単語を口にしながら目を開き、木漏れ日に細めた彼は意識が朦朧としているのか、周りの様子を(うかが)う。


「森? 夢じゃ、無い、な……」


 そうして土や森や風の匂いを感じるうちに、徐々に自分が何故この場に居るのかを思い出す。


「そうだった……ここが異世界か。ん?」


 彼の目が腰のあたりに並べられた皮製の鞄と手帳サイズの本を捉えた。手に取って表紙を見ると、そこには明らかに日本語ではない文字で手紙と書かれている。差出人は彼をこの世界に招いた三柱の神々。


「ガイン、クフォ、ルルティア……」


 ごく自然に書かれた名を読み上げた彼は、記憶に残る神々の事を思い返す。


(送る前に懇切丁寧に説明をして、生きるための知識や力もくれたはずなのに、手紙で補足までしてくれるのか。ただ、これじゃ手紙というより説明書だと思うが……)


 表紙を捲ると、最初のページには3つの事が書かれていた。


 まず1つ目。ここは“セイルフォール”という世界の、“リフォール王国”にある“ガナの森”という場所であり、強い獣や魔獣が少なく比較的安全な場所であるという事。

 2つ目は絶対に安全と言う訳ではないため、すぐに新しい体の状態や動きを確かめ、安全に住める場所へと移動しろとの指示。ご丁寧に小さな地図まで付いている。

 最後に手紙の1ページ目を締めくくる“この続きは指示された場所に行ってから読みなさい“という言葉。


 至れり尽くせりの神々を想い、なんとも言えない微笑を浮かべた竜馬は体を起こすが、ここで彼は自分の体に強い違和感を覚える。


「本当に、子供の体に……竹林竜馬、39歳、独身、職業SE(システムエンジニア)。記憶だけは据え置きなんて、まるでどこぞの名探偵だ」


 神々から説明こそ受けていたものの、実際に肉体の変化を体験した竜馬は驚き、ひとまず体調と記憶に異常が無い事を確かめた。しばらくして、異常が無いと分かると一息つき、体を次第に動かし始める。


 足の曲げ伸ばしや手の開閉等、体の各部位を動かす程度の簡単な物を皮切りに、ストレッチやラジオ体操と続き、徐々に動きは激しさを増していく。そして、生前の父から有無を言わさず叩き込まれた武術の型を一つ一つ確かめるように行った後に動きを止めた。


 その目が(かたわ)らに立つ細めの木を見据えた次の瞬間、竜馬は幹へと鋭い蹴りを放った。すると


「ピィッ!」

「チッチッ!」


 静かな森に軽く響いた破裂音と共に、蹴りを受けた木が生木にも関わらず綺麗に折れ、周囲の木々で羽を休めていた鳥を逃げ惑わせながら地面に倒れる。その結果を見て竜馬はそれまでの動きを総括する。


(微妙だな……力は前世と同じかそれ以上に出る。が、体格に釣り合っていない。体が軽くて動きすぎるし、手足の長さは言わずもがな。間合いと感覚が狂う。歩く、走るくらいの基本的な動作は問題無いが……追々慣れるしかないか)


 そう結論付けた竜馬は自分が目覚めた木の根元へ近づき、地図に付いた印で現在の位置と目的地への道を確認すると、拾い上げた鞄へ手紙をしまう。また、その際見つけたナイフを腰へ提げて、竜馬は神々に指示された場所へと歩き出す。






 2時間後


 何度か小動物や地球には生息しない“魔獣”と呼ばれる生物を見かけたが、どれも弱い魔獣で向こうが勝手に逃げるか、竜馬が無視をしてやり過ごしていた。


 子供の足では多少の時間を要したものの、道中では神々から事前に与えられた知識を使い、薬草や食べられる物を採取する余裕まである。


 そうして薄暗い森を歩き続けた竜馬がたどり着いたのは森の()。木々が開け、高く剥き出しになった岩肌が広がる崖の前。竜馬は周囲を見回して安全を確認すると、早々に荷物と腰をその場に降ろし、神々からの手紙の続きに目を通し始めた。


「へぇ、近くに川があるのか。生活拠点にするには丁度いいな」


 時折独り言を言いつつ手紙を読み進める竜馬からは、人類が住む場所へ向かう意思が全く感じられず、実際森から出る事など微塵も考えていない。神々と話して決めた通り、やはり森の奥で隠居生活を始めるつもりだ。


「荷物にテントが入っているらしいが、魔獣の事を考えたら洞窟の方が安全かね……」


 テントでは魔獣でなくとも大型の獣が現れた時に心もとない。そう考えた竜馬は崖へ近づき右手の人差し指を岩肌に突きつけ、左手に持つ手紙へと目を戻す。開かれたページに書かれているのは“魔法”の使い方。


「まずは心を落ち着けて、自分の体内に集……これか? ……皮膚の下が水風船になったみたいで気持ち悪いな……」


 口では気持ち悪いと言いつつも声色には興奮と喜びが混じり、僅かながら表情も緩む。


 しかし、いくらゲームやライトノベルなどのオタク趣味を嗜んでいても、妄想程度であれば忙しい仕事の合間に考えた事が数え切れないほどあると言っても、実際に使った事などあるはずがない。そのため


「ええと、体内の魔力を感じてからは……体内で魔力が流れるイメージで動かして、体外に出す、と」


 一つ一つ、確かめながらの行動が説明書片手に文明の利器に悪戦苦闘するご老人のような雰囲気を醸し出しているが、竜馬が指先から体内に感じる魔力を放出するようにイメージすると、ゆっくりとでも確実に魔力は放出されている。


 魔法には、

 無・火・水・風・土。

 氷・雷・木・毒。

 光・闇・空間。

 という12の属性があり、それぞれが難易度により分類され、上から下位、中位、上位属性と呼ばれている。


 そして魔法は使いたい魔法のイメージを持ちながら魔力を放出する事で属性を変換し、魔法の名前でもある呪文を唱える事で発動する。


 この文を読み上げた竜馬は、手紙の中に幾つか記された魔法の中から土魔法を1つ選んで試してみた。


「魔力が崖の岩に染み込んで、崩れて土に……『ブレイクロック』」


 イメージを固めた竜馬が唱えると、指先で触れた崖がほんの少し崩れて土へ変わり、崖に丸い穴が空く。穴の直径は人差し指3本分ほどで第一関節までの深さ。穴と言うよりも窪みと言った方が正しいが、本人はその結果を見て、1人静かに笑っていた。


(こんな気分になったのは何時ぶりだろうか……徹夜・残業は当たり前、家と会社を行き来するか、上司の飲み会に付き合わされる生活。楽しみが無いとは言わないが……こんな気分は久しく忘れていた気がするな……)


 竜馬は辺りに気をつけつつ、しばらくの間にやけた顔でブレイクロックを使い続けた。





 だがその後、ひとしきり魔法に満足した竜馬が呟く。


「効率が悪い」

(ようやく両手の手首が入るようになったが……日が暮れるまでには終わらないな。それに、使える魔力にも限界があるはず)


 そう考えた竜馬は休憩を兼ねて近くにある川まで水を汲みに行き、戻ると手紙の続きへ目を通し始めた。


(何か役に立ちそうな事が載っていれば良いが……最悪はテントになるな。地球では2、3日完徹なんて珍しくも無かったし、それくらいなら寝ずの番でしのげるが……おっ)


 解決策の手がかりを求めてページをめくる竜馬の目に、今現在彼が持つ技術や体力を数値化した表が載っていた。


(ステータスか、これは便利だ。今の俺に何ができるのかが把握できる)


 改めてステータスを見る竜馬。そこにはこう書かれている。


 名前:リョウマ・タケバヤシ

 性別:男

 年齢:8

 種族:人間 


(名前と性別は前世と変わらず。でも名前が先なのか。年齢は8歳。俺はその頃どんな子供だったか……親父に稽古付けられてた事しか覚えてない。まあいい、次)


 体力:10,486

 魔力:102,300

 (注)体力は平均的な成人男性が1000程度、冒険者や兵士等、鍛えている者なら平均2000~3000程度。


「体力バカか俺は」

(確かに最近の若い連中や腹の出た上司よりかは動けたが、ここまで差が出るか? 魔力は人柱になった時点で増えると聞いているから分からなくもないが……体力の向上は頼んでない筈だぞ)


 体力と同じく魔力にも注記があり、一般人は100。魔法を戦闘の補助に使う戦士等は500~700。普通の魔法使いだと1000~5000くらいで、宮廷魔道士にもなると1万~5万が平均と記されている。


 (まぁ多い分には困らんだろう。残りはスキル、つまりは技能だな)


 日常生活スキル

 家事Lv10 礼儀作法Lv7 楽器演奏Lv3 歌唱Lv3 計算Lv5


 戦闘系スキル

 体術Lv7 剣術Lv7 短剣術Lv6 暗器術Lv7 槍術Lv4 弓術Lv4 棒術Lv6 分銅術Lv4 投擲術Lv7 隠密術Lv6 罠Lv4 身体操作Lv5 気功Lv5


 魔法系スキル

 従魔術Lv1 結界魔術Lv1 回復魔法Lv1 錬金術Lv1 火魔法Lv1 水魔法Lv1 風魔法Lv1 土魔法Lv1 無魔法Lv1 雷魔法Lv1 氷魔法Lv1 毒魔法Lv1 木魔法Lv1 光魔法Lv1 闇魔法Lv1 空間魔法Lv1 魔力感知Lv1 魔力操作Lv1 魔力回復速度上昇Lv1


 生産系スキル

 薬学Lv6 鍛冶Lv1 建築Lv2 木工Lv2 造形Lv3 描画Lv4


 耐性系スキル

 肉体的苦痛耐性Lv8 精神的苦痛耐性Lv9 健康Lv7


 特殊スキル

 生命強化Lv3 超回復力Lv3 耐久力強化Lv6 精神集中Lv5 生存術Lv3


 称号

 下克上

 不運な人生を終えた者

 武神の弟子

 賢者の弟子

 神々の寵児


 加護

 創造神ガインの加護

 生命神クフォの加護

 愛の女神ルルティアの加護


(スキルの目安は基礎を修めるとレベル1、2なら見習いから新人で、3が一人前。4なら熟練。5なら一流。6から先は達人か……39年間の経験が効いたのかね? ほとんどのスキルに仕事や学生時代のバイトで心当たりがある。プログラミングやこの世界に無さそうな技能は書かれていないが……称号と加護は、今は役立てられそうにないし……さて、このステータスをふまえてどう穴を掘るか)


 竜馬は次のページに記されていたスキルの説明文を睨むように熟読しながら考え、10分後。あるスキルに目をつけた。



『気功』――生命力を用いて肉体を強化する技術。腹の下の気を感じ取り、魔力と同じ要領で全身へ巡らせることで肉体機能を全体的に向上させる。武器に気を纏わせる事で威力や切れ味の向上も可能。長期間肉体や戦闘技術を鍛え続けると自然に身につくため、自覚なく使用している場合がある。



(さっきやたらと体が動いたのはこれのせいか。理解しておけば使えそうだ、たしか土魔法にも一つ……見つけた)


 土属性初級魔法『ロック』

 土を固めて石や岩に変える魔法。形状は術者の意思で調整可能。


「『ロック』」


 竜馬が崖を崩して出た土砂へ魔法をかけると、瞬く間に土砂が石ころへと変わる。


「よし、『ロック』『ロック』―――」


 さらに同じ魔法で土砂から短い石の棒を作り、ブレイクロックで先端を細く、獣の牙の様な形に成形。出来上がりを確認した竜馬は棒を逆手に持つと再び崖へ向き合い、一度深呼吸をして気功を使用。右腕と棒の先端に気を纏わせ、思い切り崖の表面に振り下ろす。


「はっ!」


 そびえ立つ崖へ、気によって強化された同じ素材の棒がぶつかり合う。その一撃は崖の表面へ、人差し指の第二関節に届く深さの溝を刻み付けた。


 竜馬がその結果を見てさらに棒を崖に打ちつけ続けると、イメージを固めてから呪文を唱えて魔法を使っていた時よりも断然早いペースで掘れる。


「っ! 折れたか、『ロック』」


 こうして道具が壊れるたびに直しつつ洞窟を掘った結果、竜馬は夕暮れ前までかけて自分と荷物が収まるだけの洞穴を掘る事に成功する。しかし、慣れない気功と魔法を使い続けたことで、竜馬は僅かな倦怠感を感じていた。


(今日はこれで休むとするか)


 ひとまず完成した拠点へ採取した食料と水を運び込もうと外に目を向けた途端、眼前に広がる光景に竜馬は言葉を失う。


「ほぅ……」


 いつの間にか、外が燃えるような夕焼けに彩られていた。立ち並ぶ木々の葉が紅く染まり、直接日の当たらない葉や下草は青々と広がる。そんな景色の美しさに目を奪われていると、空はしだいに夕焼けから夜の星空へと移り変わっていく。


(綺麗だな……もう星があんなに。数え切れない星を直に見たのは、いや、そもそも景色をちゃんと見たのなんて何時ぶりだろう?)


 景色を眺めて考えても答えは出ない。だが、竜馬はどことなく満足そうに荷物を洞窟へ運び込み、荷物から取り出した毛布を敷いて休める場所を作ると壁にもたれ、これまた荷物から取り出した食料を口にする。果実や野草など生食可能な物を選んだため量はそれほど多くないが、総量の半分でもある程度腹を満たす事ができる。


(残りは明日に取っておくとして、もう寝るか。明日からは食料やら生活に使えそうな物を集めていかないとな……やる事は多そうだが、やりがいも大きそうだ)


 食事を終えた竜馬は洞窟の入口を、安全のために空気穴だけ残して塞ぐ。


「ガイン、クフォ、ルルティア、俺はあなた方に、あなた方の厚意に、本当に感謝します」


 作業が終わったその足で毛布に包まり、これからの生活に思いを馳せた竜馬の言葉は暗い洞穴の中に響いて消え、数分後には安らかな寝息が聞こえ始めた。












 一方その頃、神界では眠りについた竜馬の様子を覗き見る目が三対。その持ち主はガイン、クフォ、ルルティア。つまり竜馬をセイルフォールへと送り込んだ神々であった。


「今のところ順調じゃの」

「ええ、力も問題なく与えられているわ」

「一応の住処もできたし、大丈夫でしょ」


 彼らはどこまでも広く、ただただ白い空間の中でそれぞれ安堵を見せる。


「うむ。じゃが、しばらくは彼を見守ることにしよう。同意を得たとはいえ、あまりに酷い目にあっても心苦しい。何より、少々気になるからのぅ。よいな? クフォ、ルルティア」

「うん。ガインに賛成だよ」

「私もよ。……それにしても、地球の神は何を考えていたのかしら? 生者の運命に悪戯に手を加えるだなんて」


 ガインの提案にクフォが賛同し、そこにルルティアが続くが彼女は思い出したように地球の神への嫌悪をあらわにする。


「落ち着きなさい、ルルティア。今それを言っても意味は無かろう」

「でも、気にはなるよね。ガインだってそうでしょ?」

「それはそうじゃな。人間的にも悪くないが、何よりも運命を弄られた人間などそう見かけるものではない。そもそも、神であっても軽々しく運命に手を加えてはならんというのは常識じゃろう。ましてや人の幸福を奪うなど、はっきり言って度し難い」

「わざわざ“試練”を使ってまでやる意味があるとも思えないわ」


 試練とは、世界を管理する神々が下界に生きる者へ、本来は種族や国といった大きな単位の集団に抗えない危機が迫った場合に与える救済措置の一種である。試練を与えるかどうか、与えるタイミングはその世界の神々の判断に委ねられるが、与えられた試練を乗り越えれば相応の力を得ることができる。


「目的は苦難を与えるためだけど、それでも試練は試練。苦難を乗り越えてしまえば、結果として力も与えられてしまうよね……」

「一回一回は日常に起こりえる不幸や不運程度に抑えられていたようじゃが、継続的に、それも大分長いようじゃからのぅ……」

「塵も積もれば山、ね。おまけに得た力は仕事や運気の改善にあまり役立たないようにしてあるのがまた陰湿だわ。まぁ、代わりに肉体がかなり強くなってたのが幸いだけれど、それが無かったら……」

「僕達もそれで気づけたような物だしね。それに彼の記憶を見る限りでは、彼の父親も――」


 神々の語らいはこの後、事情をつゆ程も知らずに眠る竜馬が目を覚ますまで続いた。

お読みいただきありがとうございました。

次回投稿は8月10日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >「仕事……田淵君、進捗報告……」 主人公の勤務先がブラック企業でアラフォー、また上記コメントから彼は中間管理職でしょうね。 中間管理職の悲哀とも言えるけど、本人もブラック化の一翼を担って…
[気になる点] >(注)体力は平均的な成人男性が1000程度、冒険者や兵士等、鍛えている者なら平均2000~3000程度。 >体力と同じく魔力にも注記があり、一般人は100。魔法を戦闘の補助に使う戦…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ