村の昼食
本日、2話同時投稿。
この話は1話目です。
マッドサラマンダーの討伐は体力の必要な作業の繰り返し。
それは想定内だが、ただ繰り返せば良いというほど単純でもなかった。
最初の網の引き上げが終わると、網の中から魚が籠に移される。その間は湖から浜へ上がる群れを通さないように。
籠に詰められた魚は処理場か他所の街へ行く船へ運ばれるが、そこを狙う集団も出てくるので、必要に応じて護衛や応援に出るなど、臨機応変に対応。
船の出航後に残る全ての魚が処理場に運ばれれば、マッドサラマンダーの狙いも一点に集中するので、突撃してくる群れを相手に総力戦へ突入。
討伐が漁と並行して行われるため、常に変化する漁の状況に応じて動かなくてはならない。
そしてマッドサラマンダーはいったいどれだけいるのか……
勢いにはムラがあったものの、聞いていた通りマッドサラマンダーの襲撃は日が高く昇るまで続き、綺麗な浜辺にはおびただしい量の死体が討ち捨てられている……これが何日も続くというのだから驚きだ。
「うーし、後続なし。浜に転がってる奴らを回収しろ! 撤収準備だ!」
『オー!』
まとめ役の男性冒険者の言葉で、淡々と討伐していた人々の声に活気が戻る。
最後の一仕事と気合を入れなおし、浜辺の死体回収に励み、作業終了。
「よっ、お疲れさん」
「カイさん。それに皆さんも、お疲れ様です」
「お疲れ~」
「今日も終わったな」
「リョウマ君は……大丈夫そうだね。いや、この仕事って慣れない人は大抵途中でへばるか逆に無理をしすぎるからさ」
「その歳で大した体力だ……」
「体力だけは自信がありますからね」
シクムの桟橋の皆さんも集まってきた。彼らはこれからどうするのだろう?
「俺達か? とりあえず休むか昼飯だな」
「朝が早かったですし、そろそろいい時間ですね」
セインさんに言われて思い出したが、そんな時間だ。
「その後のことは食べながら決める時が多いし、まず食事にしようか」
リーダーのシンさんにそう言われ、納得して承諾。
誰かの家に帰るのかと思いきや、向かったのは先ほどまで守っていた、魚の加工処理場。
「姉貴ー、飯6人分くれ」
「あいよ! 座っときな!」
大きく開かれた扉から中に入るなり、気風の良い声が飛ぶ。
「あれっ、メイさん?」
「姉さんはここで、というかうちの村の女性は大半がここで働いてるんだよ」
「加工の仕事は午後もあるからな。いちいち帰ってそれぞれ飯の用意するより、ここでまとめて飯の用意したほうが楽だろう? ってことで、漁師とその家族の昼は基本ここで食う」
「なるほど」
確かに、先を行く彼らについて入った大部屋では、既に大勢の男達が食事を始めている。
そして空いている席を見つけて座ると、ほどなくしてメイさんと俺と同年代の子供が2人、料理が載ったお盆を持ってきた。
「はいお待ち! 今日はおいしい野菜スープだよ!」
「おっ、野菜は珍しいな」
「ありがとうございます」
「……おう」
? なんだろうか? 料理を運んできてくれた男の子がこちらを見ていたような……
「どうかしたかい?」
「いえ、なんでも」
きっと俺が他所からきた子供だから気になったのだろう。
それより冷めないうちに料理をいただこう。
今日のお昼はパンと野菜のスープ。
スープは大きな具がゴロゴロしていて美味しそう。
「いただきます」
……うん。やっぱり美味しい。
具は大根、ゴボウにレンコンと、やはりカラシの風味。
この村に来てから、やたらと味覚に懐かしさを感じるなぁ。
「ふぅ……あたたまりますね」
「おっ。坊主、狩りに参加してたな。お疲れさん」
「あっ、お疲れ様です」
「おー、あのえらい勢いで走っとった子か。しっかり食えよ」
「ありがとうございます」
通りかかった人が声をかけてくれる。一仕事したことで認めてもらえたのか、それにしても街の人よりも気安いというか、距離感が近い印象。村人同士に至っては、もう家族同然のよう。美味しい料理も相まって、とても温かい雰囲気に包まれている。
街には街の、村には村の生活と問題があるのだろうけれど……老後はこんな村で生活するのもいいかもしれないな……
そんなことを考えながら料理に舌鼓を打っていると、今後についての相談が始まる。
「リョウマ君はこれから何か、したいことはあるかい?」
「したいこと、でしたら明日以降の討伐に向けての準備を少々」
今日、実際にマッドサラマンダー討伐に参加した経験をふまえて、他の邪魔にならないように従魔を参加させたい。
「実際討伐に参加してみて思ったのは、まず相手が想定していた以上の数だったこと。今日僕たちが担当した範囲では対処できていましたが、一回守りを抜けられていた場所もありましたよね?」
「ああ、あったな」
「今回は他所のチームでしたが、僕らが担当の時に対処しきれない数が襲ってくる可能性もあるので、もっと効率的に、より多くのマッドサラマンダーが一度に襲ってきても対応できるようにしておこうと思って」
「いいんじゃねぇか?」
「そうだね。僕も賛成」
「異議なし」
「俺もだ」
「よし、じゃあリョウマ君の手伝いをするということで」
と、すんなり話がまとまったが、いいのだろうか?
かつての会社でも新しい仕事のやり方は、必要な変更だとしても“うちは今までこのやり方でやってきたんだ”の一言で却下されたものだ。
さらに既存のやり方の変更を訴える、ということを悪意的にとらえれば……
“その効率が悪いやり方でやってきた俺達の立場は?”
“改善できることを改善しなかった、思いつきもしなかった俺達は無能と言いたいんだな?”
“お前、生意気”
まぁ、これは極端な例か……とにかく人は一度慣れたやり方を変えようとすると、抵抗を覚えやすい。だからもう少し抵抗があるのではないかと思ったが……
そう聞くと皆さんは苦笑して顔を見合わせ、シンさんが口を開く。
「今朝のやり方は漁師のやり方だからね。僕らみたいなこの辺の出身は同じやり方をするけど、冒険者ならそれぞれのやり方があるだろうし、必要な条件を満たしていればいいのさ。それに僕らも君の、他所の冒険者がどういうやり方をするか見て学べることもあるだろう。
下準備や日々の勉強、そういう基本的なことの積み重ねが大切だ……って、昔、先輩に言われたことがあるんだ。恥ずかしながら、本当に実感して実行し始めたのは、君と会った旅から帰ってきてからなんだけどね」
あの時の彼らは下調べ不足で長旅の苦労が無駄になりかけた。
おかげで俺はブラッディースライムを手に入れられたわけだけど、彼らはそこから色々と反省したようだ。
何にしても、柔軟かつ嫌味なく意見を聞き入れてもらえてよかった。
「ではもう少し質問を。今日見た限り魔法を使っている人はいませんでしたけど、禁止ですか?」
「いや、単純にこんな田舎の村じゃ魔法使いがいないだけさ。冒険者でも魔法が使える奴らはもっと大きな村か街の防衛に行っちまう」
「あとは相手があの数だからね。魔力が持たないんじゃない? 報酬はそれなりに出るけど、魔力回復薬を使うと儲けは少なくなるだろうし、下手をすると足が出るかも?」
「火は効果が薄い。雷の魔法に人が巻き込まれた。派手な魔法で大量に倒せたはいいが、魚が逃げて漁の邪魔。毒は論外。そんな愚痴を子供の頃に聞いた。魔法には色々と注意が必要だと思う」
セインさん、ケイさん、ペイロンさんがそれぞれ返答。
2人が言ったようなことに配慮は必要だが、魔法の使用はOKと。
こうして気になることを質問しながら食事をすませ、従魔――主にスライム達の運用方法を考えていく……




