後日談1・神々の様子
本日、2話同時投稿。
この話は1話目です。
華々しい結婚式の3日後……俺とフェイさん。そして新たに従業員に加わったオックスさんは、公爵夫妻や使用人の皆様に別れを惜しまれながら、公爵家への滞在を終えてギムルへ帰る日を迎えた。
しかし帰る前に、
「お疲れ~」
「見てたわよ! 良い結婚式だったわね」
「ほれ、かけつけ一杯」
「つまみは何が良いかの?」
「やっぱり飲んでたか……」
ガウナゴにある教会から神界を訪ねてみると予想通りと言うべきか、目の前にはクフォとルルティア、そしてテクンとガインの姿。そして本来真っ白な空間には料理と酒瓶・酒樽が並び、盛大に酒盛りをしていた形跡がいたるところに残っていた……
「結婚式はとっくに終わってるのに、3日間ずっと飲み続けてたのか?」
「おや? そんなに経ったかのう?」
「私たち、時間を気にすることってあまりないから~」
「いくら飲んでも体を壊さないし、面白いことがあると飽きるまで飲んじゃうよね!」
「うははは! まだたった3日じゃねぇか!」
「滅茶苦茶だな……ところでウィリエリス様は?」
あの2人に祝福を与えてくださったから、てっきり一緒にいると思ったけれど……
「ああ、ウィリエリスならグリンプと旅行に行ったぜ」
「グリンプ……たしか農耕の神様?」
「おう。そんでもってウィリエリスの夫だな」
「あやつらはいつまでも仲が良くてのぅ。良い結婚式だったから私たちも新婚気分で世界中の土地や作物の様子を見て回る、と言っておったぞ」
「もう何億回目の新婚旅行なのか分からないよね!」
「竜馬君のいるリフォール王国のあたりは収穫の時期だし、他所の国や大陸では今まさに作付けの季節だったりするから……今年の冬から来年にかけては、作物の生育が良くなったりするかも? 何といっても大地の女神と農耕の神が見回るんだからね~」
「……」
神だとわかってはいたが、彼らの行動を人間基準で考えてはいけないと改めて感じる。
そう思いつつ受け取った杯の中身を飲んでいると、思い出したようにクフォが声を上げた。
「……あれ? 3日? 竜馬君がここに来たのって、ガウナゴの教会からだよね? 式が終わったら帰る予定じゃなかった?」
「その予定だったけど、クフォだけじゃなくて皆。式であの2人に祝福を与えただろ?」
「おお! どうだ? 式が盛り上がったろ?」
テクンの言う通り、式は大いに盛り上がった。
新郎新婦も参列者の方々も、これ以上なく幸せな式だと大騒ぎ。
それはとてもありがたかったのだが……盛り上がりすぎて色々あったのだ。
1つ1つ挙げていくと……まず式の終わる予定の時間を大幅に超えてドンチャン騒ぎが続いた。
それからあの式場はもともと用が済んだら取り壊す予定だったが、“神々がかつてないほどに新郎新婦を祝福してくださった! そんな式が行われた式場を壊すなんてとんでもない!"という感じであの式場は壊さずに残すことが決まる。
そうなると長く保たせるために補強したほうがいいという話になり、一応式場の設営担当者として、補強も最後まで見届けさせてもらった。
あと俺が神像を作ったのは使用人の皆さんの間に広まっていて、自分もあやかりたいという方々からの依頼が結構来たから。
「あら、そんなことになってたの?」
「全部任せたり断っても良かったんだけど、皆さん好意的だったからね。
それに神像の量産は土魔法の練習にもなったし、式場の補強では鉱山なんかで坑道を補強する魔法を教えてもらえた。何より式の進行をしていたアラフラール氏と製薬に関する話をさせてもらったし、アドバイスもいただけた。滞在は延びたけど実りもあったよ」
「それはよかったのう」
あ、そうだ。神像作りといえば聞きたいことがあったんだ。
“神像職人”
「気づいたらこんな称号がステータスボードに増えてたんだけど、何これ」
「ああ、そいつは読んで字の如く、俺達が竜馬を“神像職人”として認めた結果だな」
「一般に流通しとるわしらの像はほら、あれじゃよ。日本で言うところの“同人誌”」
「……すごい例えが出てきたな」
「竜馬君は僕らとこうして会って話して、見た通りに像を作ってくれるでしょ? それって普通の人にはできないから、どうしても普通の職人は過去の言い伝えや想像で補うしかない。だから人にとってどんなに立派な像でも、僕らから見るとイマイチな像になりやすいんだよ」
「昔はもっと私達と人類の距離が近かったから、明確に姿を見たり、感じたりできる人も多かったんだけどね……場所によっては性別すら変わるし、男でも女でも、そもそも人型ですらなくなってたりもするの!」
「もはや別の宗教で別の神扱いされてたりもする。仕方ないっちゃ仕方ないが、こいつは全然違うだろ! って作品があまりにも多いんだよ」
「正直神にとって性別は曖昧じゃし、やろうと思えば姿を変えることもできるが、今が一番自然で楽な状態なんじゃ。じゃからわざわざ違った姿に寄せる意味もない。あとは……神の力でどうにかすることはできるが、神の力は影響力が強すぎる。みだりに使えば世界を荒らすことになりかねん。そんな危険を抱えてまでどうにかするほどのことでもないしのぅ……」
「なるほどなぁ……」
神様にも悩みはあるんだな……
「神像職人については納得した。それでこの称号は他人にバレたらヤバイ感じ?」
「竜馬の性格を考えると、隠した方がいいだろうな。職人系の称号は俺達が対象の仕事を一定以上に評価したら与えられるから、たまーに出る。で、そうなると色々な所から勧誘がくる。貴族もそうだが、教会もな」
「職人系の称号があれば、何かが神に認められた職人って分かるから。それが大工さんとか建築関係なら教会や関連施設を建てるために働いてほしいと勧誘されるとか。粗略に扱われることはないけど、囲い込んでおきたいと教会関係者は思うだろうね。普通の人にとっては出世のチャンスでもあるんだけど。
まぁまともな聖職者なら強引なやり方は避けるだろうし、断ることができないわけじゃないよ。それに変な奴に目をつけられたとしても、竜馬君は公爵家の後ろ盾もあるから大丈夫だと思うけどね」
「元々吹聴する気はなかったけど、気をつけておくよ」
「それが無難だと思うわ。さっきテクンは職人系の称号はたまに出ると言ったけど、“神像職人”に限って言えば、さっき話した理由で長いこと所持者がいないはずだから~」
ルルティアはほろ酔い気分なのか、のほほんと口にしたが、俺はそれを聞いて称号への警戒を強めた。
「上手く使えば教会という組織との交渉材料にもなるじゃろう。そんな機会があればの話じゃが、称号は隠して無いものと思っておけば、そうそう他人に知られることもなかろう。あまり気にするでない」
「だな。人間生きてりゃ称号の1つや2つ、誰でも手に入れるもんだ」
ガインとテクンのフォローを受けて、気にしないことにしようと決める。
しかし、称号というのはそんなに手に入りやすいものなのだろうか?
なんだか話を聞いていると、彼らが与えようと思っていないのに与えられている物もあるようだ。
気になるので聞いてみると、
「その通りだよ。人に与えられる称号には2種類あって、片方は僕らが直接与える称号」
「そしてもう片方は、我々が事前に設定した条件を満たすと自動的に与えられる称号。地球的に言えば、SNSのBotじゃの」
「Botとはまた現代的なたとえを……」
「実際そんなものじゃよ。自動で与えられる称号は普遍的なものが多くてのぅ……ほれ、結婚式では新郎新婦のステータスボードに夫と妻という称号が増えるじゃろ? それを世界規模でやると、1日だけでもとんでもない人数になる。いくら我々が神とはいえ、1人1人に直接与えていては捌ききれんよ」
「実際に昔は私が1人1人与えていたけど、それだと遅れや漏れが出て“神様が認めてくださらなかった!! この2人は夫婦になってはいけない!!”と無理やり別れさせられる、なんて悲しいこともあったわ……」
「なるほど……」
「技巧神の俺としては、神の力でやってることを人間が、それも道具として普及させて万人が日常的に使ってる地球と地球人の方が驚きだがな」
急にテンションの落ち込んだルルティアの杯に、そっと追加の酒を注ぐ。
そしてテクンは珍しく真剣な声と瞳で呟いた。どうやら地球の技術に興味があるようだ。
それはそうとして、気になることはまだまだある。
「そういえばこっちで結婚は“神々が認めるもの”らしいけど、問題はないの? 日本では役所に届けることで結婚が成立するから、よく分からなくて」
特にヒューズさんとルルネーゼさんはそれぞれ3柱の神々の祝福を受けているから、心配だ。
「大丈夫でしょ。こっちは昔からそういうものだから、特に問題ないと思うけど?」
「悲しい話だけど、結婚後に諍いを起こして離婚することもあるでしょう? そういうときに信仰の問題で、破門にされたりとか」
「ああ、そういうのはないわ。結婚と同じように離婚も許すし、よく言うでしょ? “悔い改めよ”って」
「ダメになってしまったものは残念じゃが仕方ない。自分の悪かったところを反省し、次に活かしなさい、さすれば神への背信にはならん、ということになっておる。我々が間に入ることによって、丸く収まることもあるしのぅ」
「貴族だと離婚は関わった色々な人の面子を潰したりもするし、基本的に別居とかで誤魔化し続けることが多いけどね。一般的な家庭ならそこまで地球と変わらないと思うよ」
「そうなのか……」
なら、あまり心配せずに心から祝おう。
「ならもう一度乾杯ー!」
「おっしゃあ! 酒は樽で追加だ!」
「いぇーい!」
「レッツ、パーティー! じゃな!」
「テンション高っ! ってか、ガインは何だその地球のイケイケな若者の感じ……同人誌とかbotとかもそうだけど、地球、というか日本の文化に馴染みまくってないか?」
「そうかの? 自分では分からんが……同人誌やbotについては“ともちん”のことを見ておったら自然に覚えてしまった」
ともちん? 誰だそれ?
「なんじゃと!? 元地球の日本人なのに、ともちんを知らんのか?! 今をときめくアイドルの鋤屋ともこちゃんじゃぞ!? 本来は地味目の純朴な大人しい子で、漫画や絵が好きで趣味。同じ趣味を持つアイドルの友達と共同で同人誌を描いていたこともあるが、最近は成人したことをきっかけに事務所の方針で垢抜けた大人の女性キャラを押し付けられ、趣味漫画や同人誌を卒業したことにされ趣味がほぼ全面禁止! さらにはファンの総数は増えたものの下積み時代を支えてくれた既存のファンが減っていることに心を痛めている、ストレスが心配な二十歳の女の子じゃよ?!」
「し、知らない……」
ガインの熱弁を聞いてみるが、結局分かったのは俺が死ぬ前から存在する超有名な大人数アイドルグループに所属していることだけだった……それにしても、以前クフォからガインがアイドルにはまったと聞いてはいたけど、思った以上にガチだったようだ。
「まさか、元日本人の竜馬君が知らんとは……」
「俺もまさか、それでガインがそこまで気を落とすとは……部下だった田淵なら、あいつは俺より幅広いオタク系だったから知ってたかもしれないけど、俺はアイドルとか芸能人全般に興味なかったし……というか前世はそこまで人そのものに興味もなかった気がするしな……」
「お前はお前でサラッと寂しいな」
テクンが呆れたように言ってくるが、事実である。
そうでなければこっちに来てから森に3年も引きこもらないだろう。
それに少なくとも地球とこちらでは、確実にこちらの方が日々の人付き合いが濃密だ。
しかもそれを今は楽しめている。俺もいつの間にか変わったものだ。
「知り合いもどんどん増えて、交流する範囲もどんどん広がって。……人間の枠すら超えて神々とも交流して。何よりまだ森から出て1年経ってない。森を出てからの今日までと比べたら森での3年間なんて一瞬だし、森を出てからの方がはるかに長い時間を過ごしたように感じるよ」
これがネット小説なら、話の展開が遅いと感想が送られてくるレベルだろう。
それだけこの世界の、今の生活と人間関係が濃密な証拠だと思う。
「ほーう……じゃそんな竜馬に質問だ。人との付き合いが多くなって、そろそろ良いなと思う女とかいねぇのか?」
「あら! そういえばそうね!」
「いやいや、そういうのはまだまだ」
そんな風に話が時にあらぬ方へと逸れたりもしたが……
神々の宴会に混ざり、時間が来るまで盛大に結婚した2人を祝った!




