表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/383

月夜の邂逅

本日、2話同時投稿。

この話は2話目です。

「どちら様でしょうか?」

「皆様方のお世話を任されました、メイドでございます」


 静かに降り注ぐ月明かりに、つややかな黒髪のメイドの姿が晒された。

 しっかりと舗装された会場があるにもかかわらず、なぜか木陰から出てきた彼女は堂々と言いきる。

 あんなところに隠れていた時点で怪しいが、それ以上に、


「僕、これまであなたを見たことないのですが」

「広大なお屋敷ですから。そういうこともあるのでは?」

「確かにそうかもしれませんが、メイドさんではないでしょう?」


 この間の若い子たちは一時雇いの下働きだから別としても、お客の前に出ることを許されるようなメイドさんには相応の教育がされているという話だ。実際にメイド長のアローネさんやルルネーゼさん。リビオラさんも相応の態度で接してくる。


 だけどこの人? は口ではメイドと言っているが、それだけで名乗りもしないし頭も下げない。別に頭を下げられたいわけじゃないけれど……先ほど俺が見たことないと言ったら、やや挑発的な声色で返してきた。明らかにメイドさんの態度じゃないし、すっとぼけるようで本当に隠す気は感じられない。


「私がメイドでなければ何だとお考えで?」

「“家憑き妖精”」


 そう答えると、女性は否定することなく笑顔を浮かべた。

 ただしニコリ、ではなくニヤリ……という笑顔だが、間違いではないのだろう。


「いつからお気づきに?」

「気配だけはずっと」


 家憑き妖精の話を聞いてからはそういうものかと思って気にしないようにしていたけど。

 お屋敷に来た日から今日まで何度も感じたから、いくらなんでも間違いようがない。

 ……まさか姿を見せるとは思わなかったけど。


「あとは、周りの様子と4人の行動が少し変だとは思った」


 会話自体は自然だったけれど、俺はここでの食事について、事前に何も聞かされていなかった。

 だけど4人は事前に用意されていたようにお酒と料理を持ってくる。

 一緒に食べるにしてもなぜ外なのか? 室内に案内する様子もない。

 暗くなっても、俺が一度も屋敷に戻らないのに誰かが様子を見に来ることもない。

 ここの人は皆、細やかに世話を焼いてくれるからこそ余計に違和感があった。


「様子がおかしいと思う人が持ってきた食べ物を、あんなに平然と食べていたんですか?」

「一応毒や薬が入ってないことは確認はしたよ。準備でスライムを出した時に」


 あの時、俺はディメンションホームからゴミ処理用のスカベンジャーを一度大量に呼び出したが、その時一緒にポイズンとメディスンも出していた。


「ポイズンスライムとメディスンスライムは、それぞれ毒と薬を好むスライム。それが料理に反応しなかったから、料理は安全だと思ったよ。思いつきだけど」


 というか、そもそも危険な感じは今もさっきも全然しない。

 俺はあくまでも念のためだし、向こうもただ話を聞いて納得しているだけだ。


「鑑定の魔法は使っていなかったはずだと思いましたが、そういうことでしたか」

「まぁ、正直あの場での思いつきなんだけどね。それにしては良いアイデアだと思ったよ。毒物や薬物の検知にスライムを使う。研究する価値もありそうだ」

「確かに貴族に重宝されそうですが……あなたとスライムの話をすると長くなりそうなので止めておきましょう」


 ……そう言われると話したい気もするけど、ここはグッと飲み込もう。


「で、結局あなたの正体は?」

「半分正解、といったところですね。私は確かにこの屋敷の人々に家憑き妖精と呼ばれていますが、厳密に言えば“この屋敷に住み着いている妖精”であり、家憑き妖精ではありません」


 元々そこまで隠す気はなかったんだろう。妖精であることをあっさり認めた。

 しかし新たな疑問も生まれた。


「“妖精”と“家憑き妖精”は別の種族なの?」

「似たような生まれ方をしますが、家憑き妖精や道具などに宿ると言われる妖精はアンデッド系の魔獣に近い存在ですよ。人間の利益になるというだけで」


 彼女は親切に教えてくれる。


 曰く、妖精とはこの世界に満ちる大自然の魔力から生まれ、実体を持つ存在。性格は基本的に純真かつ自由奔放で、基本的に生まれた場所で生活するが、極まれに好奇心で遠くまで旅をしたり、人間の町に迷い込むこともある。姿は小さな人のようでかわいらしいが、強い魔力を持ち火や水などの属性魔法を得意とする。


 対する家憑き(もしくは物に宿る)妖精は、所有者と接するうちに所有者から漏れた魔力が思念と共に染み付き、蓄えられて生まれる存在。基本的に実体を持たず、魔力の染み付いた物体から遠く離れることはできない。その性質は所有者の精神に大きく左右されるため、人を支えるような存在が生まれることもあれば、人に危害を加える存在も生まれる。日本的にはいわゆる“付喪神(つくもがみ)”と考えれば良いだろう。


 またこの存在を生む人の魔力と思念だが……これらを人が最も強く発する時というのが“死の瞬間”であり、アンデッド系魔獣(いわゆるゾンビやスケルトン等)が生まれる原因でもある。だからだろう。語り口から察するに、妖精的にはあまり家憑き妖精と一緒にされたくないようだ。


「何度も言いますが、私は自然の魔力から生まれた“妖精”ですからね。生まれはどこかの森です」

「なるほど……存在するとは聞いていたけど、まさか会えるとは思わなかった」


 しかしさっきのはあくまでも一般的な妖精の話だろう。


 目の前にいる妖精はどう見ても小人ではなく普通の女性にしか見えない。またこうして会話をしていると無邪気と言うには随分と思慮深い印象を受ける。何よりこの状況を作ったのは十中八九この妖精……“住み着いた”と話していたことから、おそらくこのお屋敷の人と契約しているわけではないだろうし、そうなると人の行動を操る催眠術のような能力を有しているのかもしれない。人を惑わすとか妖精というイメージからもありえそうだし。


 完璧に人間に化けていることといい、知性を感じさせていることといい、妖精の上位種だと推測する。


「ところでそんな妖精さんが僕に何の用でしょうか?」

「本当は姿を見せるつもりはなかったのですが……あなたに聞きたいことがあります」


 黙って続きを待つと、彼女はいきなり悩みがないか? と聞いてきた。


「悩み、ですか?」

「何か困っていることでもいいですよ。何かありませんか?」

「特にないですね……」


 強いて言えば、いきなりそんなことを聞かれて困ってるけど。


「何かあるでしょう。地球との生活の違いに戸惑っているとか」

「生活は――今、何て言った?」


 “地球”


 彼女は間違いなくそう口にした。

 危険は感じないが、反射的に警戒してしまう。


「はて? 急に、ああ……」


 そんな俺を見た彼女は一瞬だけ疑問の表情を浮かべ、直後に一人で納得したようにうなずく。


「そういえば話していませんでしたね。もともと会うつもりもなかったので忘れていましたが――申し遅れました。私の名前はユイ。漢字で“結”と書いてユイ。かつてあなたと同じく地球からこの世界にやってきた日本人。“シホ”の従魔をしていた妖精です」

「!?」


 シホ・ジャミール……確か公爵家の祖先にいたとされる転移者であり、従魔術の開祖。彼女はその従魔か? 言われてみれば彼女の姿はこの国の人として違和感がないが、黒髪黒目で顔立ちにどことなく日本人の雰囲気を感じないこともない。


 突然のことで驚いたけど、嘘をつく意味もない……か?


「シホはその命が尽きる前に、私に二つ言い残しました。一つは自分の子供やその子孫をできるだけでいいから見守ってあげてほしい。そしてもう一つが、いつかまたこの世界に来るであろう転移者を見つけたら、それとなく助けてあげてほしい……と。

 シホは心優しい女の子でした。そして少々無茶をしたせいもあるのですが、こちらの世界での生活に悩み苦しんだことも多くありました。だからこそ、自分の後に来る地球人が少しでも楽になるよう、何かできればと私に言葉を残したのでしょう。外的要因さえなければ、妖精は100年や200年では死にませんから。

 ちなみにあなたが地球人であることは、シホを知っている私にはすぐにわかりました」

「それで、悩みがないかと」

「尤もここまで会話をするつもりはありませんでしたが」


 彼女が言うにはやはり催眠術のような力を持っているようで、本当は寝床に侵入してその力を使い、抱えている悩みを暴露させ、長く生きた経験や知識から解決策を授けられれば授けて、後は夢として解決策以外の記憶をうやむやにするつもりだったらしい……が、


「あなたは人間なのに私の力が全然効かないようで、こうして出てこざるを得なかったのです。あなた方転移者は神々から何かしらの力を授かると聞いています。私の力が効かなかったのは、あなたに与えられた力のせいでしょうか?」

「効きにくい? あ、いや、申し訳ないけどそれ自前。精神攻撃とかとんでもなく効きにくい体質みたいで」

「……そうですか」


 静かにだけれど、なんだかすごくショックを受けているようだ……そんなに悔しかったのか?


 ちなみにヒューズさん達を使ったのも、親しい相手とのお酒の席なら俺も悩みをポロッと口に出すのではないかと考えたらしい。 また何故か結婚前夜のヒューズさんにも悩みをこの場で吐き出してしまうように仕向けたらしく、結果的に会話は彼のことばかり。俺の方はろくに悩みを聞けなかったとか……


「なんでヒューズさんの悩みまで?」

「え? ああ……そちらは趣味で。長年この屋敷で人を見続けていると、屋敷の中で想い合う男女に気づくこともよくありますから。そこでこう陰ながら応援というか、私の力で雰囲気や機会を作ってあげたり、片思いの子がいたらそれとなく気づかせてあげたり。ああ、決して力で無理やりどうこうはしませんよ? あくまでも当人の気持ちを後押しするだけで。そして問題がなければ結婚まで陰から眺めつつお世話をする。そういう趣味です」

「お見合いセッティングマニアのおばさんかっ!?」

「その呼ばれ方は嫌ですね……結婚まで行き着いたカップルは彼らで1032組。お付き合いまでであればその5倍は成立させました。そもそも私の名前のユイとは結ぶという意味があるそうで。縁結びのユイ、となら呼んでくれてもかまいませんよ?」

「なんか自称し始めた……具体的にいつからかは知りませんが、何百年も人知れずそんなことを?」

「逆に何百年も何もせずに生きているだけの生活に耐えられますか? ここは食事も手に入りやすくて助かりますが、それだけでは退屈すぎますし……本音を言えば私、シホ以外の人間はあまり好きではないのです。昔捕まって売られたので」


 なんでも妖精は先ほども聞いたとおり魔法が得意で魔力も多い。姿は小人でかわいらしい。さらに魔力から生まれた体の内部、心臓の部分に高純度の魔石を持っている。そのため従魔として戦闘補助に、愛玩用に、殺して魔石にと人間にとっては価値が高く、昔から捕まえて売りさばこうとする人々が尽きないのだとか……


「最初は人間は全て敵と思っていましたが、買ってくれたのがシホだったのが幸いでした。私を捕まえた人も売った人も、みんなとっくに死に絶えたでしょうし、今更気にしてはいませんがやはり人目は避けたいのです。そして暇をつぶすにしても人に危害を加えるようなことをすればシホに面目が立ちませんし、縁結びのお手伝いをしながら観察するくらいなら許されるかなと。考えようによっては人間を手玉に取っていると言えなくもないでしょう?」

「それはまぁ、確かにそうかもしれないけれど」

「ちなみに私が最初に成立させたカップルは他ならぬシホ自身です。1人の平民でしかなかったシホをその能力に目をつけた貴族から守りながら、従魔術開発研究の仲間であり出資者でもあった偉い人間との大恋愛を応援し。さらに結婚を実現するためにあれこれと手を回し、貴族の養子にもなって身分を近づけ、あれは皆が一丸となってようやく成功させた結婚でした」


 興味はあるけど真偽は分からない。大事な思い出かもしれないが、一人で語りだされると困る。


「おや? 気づけば私ばかり話しているではありませんか」

「最後のはあなたが勝手に話し始めたことだと思いますが」

「オホン……それは置いておいて、そろそろ悩みを聞かせてほしいのですが」

「あ、そこに戻るのね……いやだから別にないですって。こっちの世界に来てからずっと幸せでしたし、力を借りなきゃならないほど困ってもいないので」


 またいつか、ということではだめなのだろうか?

 聞いてみると彼女は渋い顔になる。


「あまり人前に出たくないので、あなたとも次を作らずこれっきりにしたいのですが」

「なるほど。そういうことでしたか――っておい! そっちから訪ねてきといてそれはないでしょう」

「妖精は基本的に身勝手なものですよ? 自分にとって楽しいもの、大切なもの、特別なもの、そしてそれ以外という具合に。私の場合はシホのお願いを聞いてあげたいだけ。それなりに長く生きているのである程度我慢もできますが、1回助けたからと些事があるごとに頼られても困りますし、あなた自身には特に何も思っていませんので」

「言い切ったな……」

「事実ですから」


 もはや清々しさすら感じるが、確かに今日が初対面? の相手だしな。仲良くなれないのは多少残念ではあるけれど、そこまで親しくもない相手に付き纏われても困るだろう。彼女は彼女なりの事情もあるんだし、人付き合いが嫌い、人と関わりたくないと本人が言うなら仕方がない。


 俺自身も少し前までは似た理由で森に引きこもっていたんだし、無理強いはしないでおこう。

 個人的に正面からはっきり意見を言ってくれるだけスッキリしたし。


 しかしそうなると本当に困っている事なんて、せいぜい酔いつぶれたヒューズさん達を…………あっ!?


「すっかり忘れてた……」

「おや、困りごとが見つかりましたか?」

「ヒューズさん達への贈り物が用意できてない……式で渡すやつ。何がいいかと考えるつもりで、そのまま忘れてた」

「贈り物なら、アレらでいいのでは? これ以上ない贈り物だと思いますが」


 彼女の視線の先には、俺たちが建てた式場。そして飾り付けられた台座に納められた3体の神像があるが……


「それはそれ、これはこれですよ。式場を建てたのは僕だけじゃなくて協力してくださった皆さんとですし、神像に至ってはお金をいただいて作ったものなので」

「これだけの物を用意すれば、別に誰も文句は言わないと思いますが……まぁあなたがそう思うのなら別に用意しても良いでしょう。しかし式で贈るものなんて大体決まっているものだと思いますが……私それなりに式も見てますし」

「ではその経験から迷惑にならず、結婚式の贈り物にふさわしく、できればありきたりな品でないモノってありますか?」

「そうですね…………待ってください。願い事はそれで良いんですか? 私は一回きりのつもりだと言ったはずですが」

「大丈夫です! 今はこれが一番困ってるんで!」


 既に夜。これから用意するにしても、何か買うなら明日の早朝しか時間がない。

 今から用意できる中で最良の1品が何なのか教えてほしい!


「……わかりました。まったく予想外な願い事ですが、良いでしょう。縁結びのプロとして、1000回以上の結婚を成立させた妖精としての誇りにかけて、今からあなたが用意でき、さらに贈っても迷惑にならず、喜ばれるであろう贈り物を教えてあげましょう」

「本当ですか!?」

「ええ、ちょっと耳を貸してください――を作るのです」


 囁かれた言葉には耳を疑った。


「それ、式の贈り物には不向きなのでは?」

「普通ならそうですが、材料にはアレをお使いなさい。貴方が持ち込んだ材料でしょう? 最後に余っていたのも見ていましたよ」

「アレって、アレですか」

「縁起担ぎなんてものは、結局は人の受け取り方ひとつでどうとでも変わる言葉遊びのようなもの。究極的には相手に喜ばれさえすればいいのです。心配でしたら手渡すときにこう言いなさい――」


 こうして俺は、転生者の元従魔を自称する妖精から贈り物の秘策を授かった。


 いきなり願い事を要求されたのには戸惑いもしたが、おかげで大切なことを思い出させてくれたので良しとして……それよりも早く作業に移らなくては。単純なものならともかく、それなりに自信をもって出せるものをと考えたら無駄にできる時間はない!


 ちなみに潰れた4人は部屋に戻る途中、見かけた屋敷の人に回収をお願いした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
口調が迷子……
[一言] 妖精さんが妖精さんしてる・・・
[一言] 精霊さんの声が生徒会役員共の畑ランコ(新井里美)さんで脳内再生されてしまいました。他の登場人物は特にないのに。困ったものです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ