前夜の宴と思い出話
本日、2話同時投稿。
この話は1話目です。
大量のスライムによる突貫作業の甲斐あって、湖には澄んだ水が流れ込んでいる。
一時的に水門を閉じて完全に水を抜いたため、まだ水深は浅い。
しかしこの分なら明日の朝までには元に戻るだろう。
別に見張る必要はないけれど、俺はなんとなく元通りになっていく湖を眺めていた。
夜、それも水辺の風はだいぶ冷たいが、一仕事終えた後だと心地よい。
そう思っているうちに、結婚式場設営の仕事を終えたメイドさん達が帰っていく。
「そして誰もいなくなった……そんな小説昔読んだなぁ」
アレは推理小説でこんなにのんびりはしていなかったけど。
くだらないことを考えていると、屋敷の方から4人分の足音が近づいてきた。
「よう! リョウマ」
「ヒューズさん。それにジルさんとカミルさん。ゼフさんまで」
慣れ親しんだ護衛の4人が、何やら良い匂いのするバスケットや酒瓶の入った箱を抱えている。
「どうしたんですか? その荷物」
「夕飯だよ。今日は式の前日だからな。今日はリョウマと食おうと思ってな」
式の前日、新郎新婦は可能な限り家族と共に食事をとって語り合うらしいが、ヒューズさんもご両親が既に亡くなっているそうだ。
「親の代わりと言っちゃなんだが、こうして生きてるのもお前のおかげだし。何より昨日は一緒に飲めなかったからな。どうだ? 星でも見ながら一杯」
そんな大事な日の飲み仲間に選んでくれるなんて、ありがたいことだ。
「ぜひご一緒させてください」
「そうか!」
「では早速用意をしよう。カミル、ゼフ」
「料理はしっかり料理長にお願いしてあるから、おいしいよ!」
「テーブルと椅子はここにありやすしね」
「じゃあ僕、防寒用の結界張りますね。あとスライムを用意するので、ゴミとかあったらそっちにおねがいします」
手分けして用意をすること数分。
目の前には温かいシチューとパン。コンロの魔法道具の上には鍋一杯のチーズフォンデュ。
その他、お酒と合いそうなおつまみが所狭しと並べられた。
「それでは一足早くヒューズさんの結婚を祝って、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
グラスの中身を口に含むと、芳醇な香りが鼻に抜ける。
「ん! なんだこれ、随分と良い酒じゃねーか!」
「お酒用意したのジルさんですよね? 高かったんじゃないですか?」
「せっかくの祝いの席だ。多少贅沢をしてもよかろう」
「そりゃそうですが、こんな良い酒に合わせるならつまみももっと何か考えたかったですぜ」
そんな話をしている4人。ただの同僚にしては仲が良く見える。
そういえば彼らの関係については聞いたことがないな。
「皆さんはいつから一緒に働いているんですか?」
「ん? 10年くらい前だな。ジルは元々公爵家に仕えていて、俺とゼフ、あとカミルは冒険者から警備に入った。そん時からだな……俺ら3人は同期で、新人の指導役がジルだったんだよ」
「へぇ……」
「カミルとゼフはともかく、ヒューズには苦労させられたよ。腕っ節は目を見張るものがあったが、規律や堅苦しいしきたりが大嫌いときて、貴族に対する最低限の礼儀作法もなっていなかったからな」
「必死でしたよね、当時のジルさん」
「警備の1人とはいえ場合によっては客の前に顔を出さなければならない時もあるからな。そこで何か問題を起こされれば、旦那様や家の恥になるからな」
「ああ、あの頃は色々言われたなぁ……“貴様! それでよく貴族の屋敷に仕えようと思ったな!” だっけか」
「心の底から理解できなかったからな。お前自身の考えも、お前を雇うと決めたラインハルト様の考えも」
「実際のところはどうだったんですか?」
本人に聞いてみると、少し考える様子を見せてから口を開く。
「あの当時はなぁ……」
ヒューズさんはそれから自分が辺境の農家の長男だったこと。一生田畑を耕すだけの貧乏生活が嫌で、腕っ節に自信があったこともあり、若い頃に家を飛び出して冒険者になったことを語ってくれた。
「最初はそれなりに苦労したけど、だんだん生活も安定してな。Bランクまでいったし、俺としてはそのまま冒険者を続けても良かったんだが……Bにもなると周りに辞めてく奴が多くてな。そろそろキツくなってきたとか、大分蓄えができたからあとは普通に働きながら安全に暮らすとか。
そんなんで解散するパーティーを転々としていた頃に、今の旦那様と奥様に会ったのさ」
「そういえばお2人とも一時期冒険者として活動していたらしいですね」
「おう、2人も俺と同じ元Bランクでパーティーを組んでた。身分を隠して活動してたんだが、貴族っつーか金持ち? みたいな品の良さは全然隠せてなくてな」
2人はギルドでは浮いた存在だった。ヒューズさんは楽しげに笑いながら語ってくれる。
「で、最初は変なのがいるな~くらいにしか思ってなかったんだが、大きな依頼で高ランクの冒険者が大勢駆り出されて、俺も即席のパーティーで強制参加させられて、連携が上手くいかずにほぼ壊滅。俺以外が全員動けない怪我をしてもうダメか!? って時に、2人が来てくれて助かったのさ。その礼をしたり恩を返そうとしたりするうちに、気が合って一緒に活動するようになったわけさ」
「ちなみにあっしもその依頼がきっかけで親しくなった口ですぜ」
「ゼフさんも。ということはカミルさんも?」
「あ、いや、僕は~……」
「カミルは俺らよりちょっと後だな。こいつ魔法の腕は良かったんだがそれ以外が微妙でよ、一時期世話してやったことがあって」
「ちょっ。リョウマ君、間違えないでね。僕は“微妙”じゃなくて“普通”だから。ヒューズさん達みたいにBランクで一流までいかないってだけだから」
「ま、そういうことにしといてやるか」
「実際に魔法なら幅広い状況に対応できるだけの実力があるからな。旦那様が連れてきたとはいえ、最低限の力量がなければ護衛にはなれん」
ジルさんがそう言うと、カミルさんはホッとした様子。そして俺は納得。4人の仲は良いけれど、カミルさんが若干後輩のような感じなのは、冒険者時代から引き継がれているのだろう。
「で、最終的に俺らならAランクも狙えたと思うんだが……2人の方が時間切れでよ。そのとき初めて身分を明かされたんだ。2人は結婚して、公爵家のあとを継がなきゃならねぇんだと」
「あれは驚きやしたねぇ……結婚に関しちゃ元々ずっと2人でいたんで今更でしたし、身分も貴族だろうなとは確信してやしたが」
「まさか公爵家の跡取り息子とその婚約者だったとは思いませんでしたよね!」
「まったくだ。で、そうなると必然的に俺らがどうするかって話になってさ。誘いを受けたわけよ。俺らなら腕も知ってるし信用できるから、ってな。
俺は正直悩んだんだが、またバラけてもあの当時以上のパーティーはない気がした。それに公爵家の跡取りともなると、一冒険者がおいそれと会うのは難しいだろう。下手したらそれっきりになるかもしれねぇし、せっかく気の合った仲間だ。それっきり、はいサヨナラってのも……な?」
だからヒューズさんは雇われることにしたそうだ。辞めることはいつでもできるが、公爵家に雇われるのは難しい。ならばひとまず誘いは受けておこう、と。
「ま、そんな感じで入ったから、ジルとは揉めに揉めたんだがな」
「当たり前だ! 貴族に仕える、それも主の身近に置かれる護衛には特に忠誠が求められる。私がこの屋敷で働けるようお許しをいただいた時は、一生を捧げる覚悟をしたもので――」
お酒が入ったせいかジルさんがヒューズさんに絡みだし、それを残る2人がなだめてさらに会話は弾む。
内容は主に結婚を控えたヒューズさんがこれまで口にできなかった不安や相談事。二度の人生で一度も結婚を経験していない俺には分からないが、分からないなりに励ましを続けるうちに……
「ZZZ……」
「……だから、だな……」
「…………」
「……」
「もしもーし……ダメだこりゃ」
全員つぶれてしまった。
「……誰か手伝ってもらえませんか?」
俺がそう声を上げると。
「お呼びでしょうか?」
数秒置いて、無人の背後からは聞こえるはずのない女性の声。
そしてカサリ……カサリ……と草を踏む音が聞こえてきた。




