表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/384

モールトン奴隷商会

本日、2話同時投稿。

この話は2話目です。

 翌日


「良い天気だね……久しぶりに外に出たからかな? なんだか眩しく感じるよ」


 お屋敷の玄関から馬車までの、ほんの僅かな道のりで受けた真昼間の日差し。それを若干疎ましそうにしながらも楽しんでいる様子に、普段のラインハルトさんの忙しさを想像してしまう。


 しかし、


「本当によかったんですか? 僕としては大変ありがたいのですが、せっかくのお休みを僕の付き添いでつぶしてしまって」

「いいんだよ。実は最近、休みがあっても落ち着かない日が増えていてね。エリアがいた時は一緒に遊んだり、何かを教えたりして過ごしていたんだけど、今は学園だろう? そうなると手持ち無沙汰になってしまって、ついつい仕事をしていたりするんだ」

「ラインハルトさん、お互いに人の事言えないじゃないですか……」

「そうだね……そう言われると僕も君の気持ちが少し分かった気がしてきた」


 エリアが学校へ行った影響がここにも……出立前はエリアが大丈夫かと言われていたけど、本当に心配すべきは両親の方だったんじゃなかろうかと思えてきた。


 とりあえず本格的なワーカーホリックになる前に止めたいし、付き添ってくれるのはありがたいのだけれど、


「ところで、これから行くお店(・・)は危ないんですか?」

「いえいえ、危なくはありません。ただリョウマ様を一人で行かせるのは少々憚られるといいましょうか……私が紹介したのですけどね、ええ」

「店自体は健全やで。ただその店の代表が少しばかり、なぁ」


 本日はラインハルトさんだけでなく、セルジュさんとピオロさん。そしてフェイさんも同行してくれている。行き先は以前紹介を受けた“モールトン奴隷商会”。昨夜また色々と話をした際に、今日も土木作業は午後と決まり、それまでの時間の使い方としてふと思い出して口にした。


 すると急にこの3人も同行するとやけに強く主張。大人なら今は後部座席のフェイさんがいると言ったのだが、そういう問題ではないらしい。


 聞けば最初に紹介してくれたセルジュさんも“もし利用するなら安全な店を”という事で情報をカルムさんに渡していただけらしく、利用を薦めたわけではないとの話で……ぶっちゃけ何か気になることがあったらしい。すごく言い辛そうだったけれど、


「代表者に問題が?」

「せやねん。まぁ詐欺とかそういうことの心配はいらんけど。商売には真面目で、信頼できる相手や。商売に関しては」

「まだ先代から店を引き継いで数年ですが、先代のやり方をよく学び、踏襲しつつ改善できるところは改善し、優秀な経営者と言えるでしょう。特に職業柄か“人を見る”事に関しては我々以上の目を持っています。その一点に限ればギルドマスターにも匹敵するでしょう」


 ギムル商業ギルドのギルドマスターを勤める老婆の姿が脳裏をよぎる。


「それはまた、ずいぶん有能な方みたいですね」

「有能やで。有能だからこそ、っちゅうかなぁ……」

「天才は時に凡人に理解しがたいと言いましょうか。早い話が変わり者なのです」

「付け加えるなら、言動が怪しいね。あとエリアとはなるべく会わせたくない」


 エリア? 会わせたくない……言動が怪しい……もしかしてロリ、いや、会った事もない人に失礼なイメージを持つべきではない。


「失礼致します」


 御者を務めてくださっている男性から声がかかり、目的地が近いと伝えられた。降りる用意をしていると、やがて馬車は減速しながら大きな門の中へと入っていく。


「ここは……」


 公爵家と比べては相手が悪いが、敷地の広さ、建物の大きさ、外観。何をとっても明るく綺麗な貴族のお屋敷にしか見えない。停留所で馬車を降りると、すぐさま執事のような格好をした店員がやってきた。


 と、同時に困った顔を隠さない大人3人。


「これはこれは公爵閣下。モーガン商会のセルジュ様にサイオンジ商会のピオロ様まで。ようこそお越し下さいました」

「先日ぶりだね、オレスト」

「なーんで会頭自ら表に立っとんねん。仕事しとるんか?」

「これは手厳しい。もちろん会頭としての仕事もしていますが、こうして各部署の実態をよく知る事も大切でございましょう?」


 さらりと鋭い視線をかわし、どこか飄々とした態度の男性。どうやら彼がここのトップらしいが、想像よりもだいぶ若い。まだ20代の後半にも下手をしたら達していないのではないだろうか?


 爽やか系のイケメンだし、ベンチャー企業の若社長みたいな人だな……と思っていると、


「しかし皆様方が連れ立って当店にいらっしゃるとは」


 そう口にしながら、動いた視線が俺を捉えた。


「これは失礼致しました。私、ここの会頭を務めております、オレスト・モールトンと申します」

「ご丁寧にありがとうございます。リョウマ・タケバヤシです」

「タケバヤシ様ですね。是非お見知りおきを」


 ? 聞いていたほどおかしな人ではなさそうに見える。

 俺みたいな子供にもまともに対応してくれるし……いや、俺みたいな子供を公爵様や大商会の会頭と同じように扱うのもある意味おかしいか? ……何故3人にあそこまで言われていたのかが理解できない。


 そんなことを考えているうちに詳しい事は場所を移してという話になり、話に入れずにいたフェイさんも呼んで店内へ。


 すると貴族のお屋敷のように感じたお店は、中も貴族のお屋敷のように豪華だった。ただしエントランスに当たる部分には多くの椅子とカウンターが並び、日本の郵便局、あるいは市役所のようになっている。おまけに5組ほどの先客を確認したけれど全員、失礼ながら服装からして貴族やそれに順ずるお金持ちというわけではなさそうだ……


「ふふふ、驚きましたか?」

「そうですね。まずお店に見えなかった事もそうですが、奴隷商会と聞くともっとこう……暗くて陰湿な場所を想像していました」

「店の規模と場所によってはそういう所も、残念ながらございます。ですが“奴隷も人間”ですし、商品としても健康でいてもらわなければなりません。そのため私どもモールトン商会では奴隷に明るく清潔な部屋と十分な食事を与えていますし、常に専属の医師を雇うなど奴隷の健康管理にも力を入れています」


 そうして奴隷になった人々に十分な対応をするため、必然的に部屋数なども多く必要になる。だからここは貴族のお屋敷のように大きいのだそうだ。


「尤も、ここまで豪華な店舗はさほど多くありませんが。ここは元々さる貴族のお屋敷でして、売りに出された所を私の父が買い取り、一部改装して店にしたのです」

「なるほど」


 じゃあ俺が思ったこともあながち間違いじゃないのか。


「こちらです」


 案内された部屋はシンプルな長方形のテーブルと椅子が並ぶ個室。俺達5人と彼を入れた6人分どころか、さらに倍は座れる席がある。ここに奴隷を呼んだりすると考えれば程よい広さに思える。


 そしてさりげなく俺に自分の正面の席を薦めてきたところを見ると、既に今日の客は俺だと理解しているらしい。道中も俺に気を使っていたみたいだし、まだこちらが話す前からどこで察したのか……流石あの3人が口を揃えて優秀と言うだけはある。


 彼はごく自然に机に置かれていた鈴を鳴らすと、隣の部屋から出てきた女性に飲み物を用意するよう指示を出す。一連の動作があきれるほどにスマートだ。


「さて、タケバヤシ様。本日はどのような奴隷がご入用で?」

「そうですね……」


 とりあえず自分が洗濯屋を経営している事を話し、主に警備員として働ける人材を求めていると伝える。


「警備員となるとやはり実力に加え、それなりに信用できる相手でなければ任せられません。その両方を兼ね備えている人で、さらに店のとなると……」

「分かります。短期なら冒険者ギルドに依頼するという手もありますが、長期となるとなかなか難しくなりますね」


 本当に腕があれば魔獣討伐などで、雇われるよりも大金が入る可能性が高いのが冒険者だ。短期ならともかく長期はお断りという人もいるし、腕利きでたまたま引退を考えている人が毎回都合よく見つかるわけもない。


「こちらの要望としては人格重視で、実力についてはもちろん腕が良いに越したことはありません。ですが、基礎が出来ていればここにいる警備責任者のフェイが鍛えることも視野に入れています」


 奴隷の方の実力や人柄を見て、その上でお値段と相談させてもらいたい。本当に良い方がいたらチャンスを逃さず、即決で契約しても良いとカルムさんに言われているけど、この条件だと様子見になるかな?


「人格重視……であれば……」


 モールトン氏はおもむろに席を立つと、その後ろにあった棚から書類の束を取り出し、さらにその間にしおりのような物を挟んで持ってくる。


「お待たせいたしました。当店では奴隷の情報を書類にまとめてありますので、まずはこの戦闘系スキル保持者のリストから、気になる者をお選び下さい」


 書類審査である程度絞り込んでから面談、という流れになるようだ。

 こちらが読みやすいように向けられた書類には名前や性別、種族と経歴に加えて所持しているスキルとそのレベルまで書き記してある。


「こんなに詳しく書かれるんですね……」

「いかに働けるか、どのような知識、技能を持っているかで奴隷の価値は大きく変わりますからね。奴隷はステータスボードでの情報開示が義務なのです。そして我々はそれらの情報を見て奴隷に適正な値段をつけます。

 タケバヤシ様のご要望ですと、このあたり。所有する戦闘系スキルがレベル2~3の奴隷になりますね。その中で人物的評価の高い者を候補にしましょう」

「……ここに書かれている値段。同じような実力の方でもバラつきがありますね」

「これは借金の担保として自らを売られた借金奴隷と、そうでない方の違いです。借金奴隷は奴隷商に売られる代わりに借金が清算されますが、返済分のお金は我々奴隷商が支払います」


 ああ、だから本来の価値に借金分が加算されているのか。借金以下の値段で売ってしまうと彼らが損をすることになるから。


「その通りでございます」


 資料はわかりやすくまとめられているし、モールトン氏が丁寧に説明して下さる。

 おかげで初めてだけれど候補者選びは順調に進んでいく。


 ……本当に何故、ラインハルトさん達は今も彼を警戒しているのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ