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ギルド登録

 テイマーギルドについてみると、まず目に付いたのは周辺の停留所に繋がれた荷馬車や魔獣。鉱山の街なので運搬作業用の魔獣がメインだからだろう、大型の魔獣の姿がちらほら見える。見える範囲には牛と馬っぽい魔獣が多く、中には猪のような魔獣も居た。


 小型の魔獣ならギルドの中に連れて入っても良いらしいので、縮小化のスキルを使ったスライム達なら連れて行くことも出来そうだ。


 実際ギルドの中には殆ど人だけだが、所々に荷物を持たされているゴブリンも見られる。俺達はそんな中を、ラインハルトさんを先頭に職員のいるカウンターに向けて歩いていく。


「いらっしゃいませ。テイマーギルド、ギムル支部へようこそお越し下さいました。本日のご用件は……?」

「娘とこの子の登録をしたい、それから情報提供だ」

「かしこまりました。奥の部屋へどうぞ」


 職員の案内で奥の部屋に通され、お茶が出されて数分後、ほかの職員よりも少しだけ立派な服を着た男性が筆記用具を抱えてやって来た。


 男性は白髪と赤毛が8:2くらいの頭髪を整髪料で固めており、なかなかの高齢と見える。彼は部屋に入る光で髪を輝かせながら、金縁の眼鏡を通してこちらを見て口を開いた。


「久しいな、ラインバッハ。それにラインハルトの坊やとエリーゼのお嬢様も」

「お久しぶりです」

「元気そうじゃな、テイラー」


 どうやら男性は公爵家の大人と知り合いのようだ。


「それなりに元気だよ。そっちの2人とは初めまして、だな。私はテイラー・スミット。テイマーギルド、ギムル支部の責任者を務めておる。が……ラインバッハ、お主の孫は2人だったか? 1人だと聞いていたはずだが、最近物忘れが激しくてな……間違えていたらすまぬ」

「儂の孫はエリアリアだけじゃよ、女の子の方じゃ。男の子はリョウマ君。先日縁があり知り合ったんじゃが、ちと訳ありでな。孫と共にギルドに登録して欲しい。そして、できるだけ早めにランクを上げて貰いたい」


 そんな事をお願いして良いのか!? と思ってついラインバッハ様の顔を見たら、ラインバッハ様はあっさりとこう言う。


「リョウマ君、儂とテイラーは旧知の仲でな、信頼できる男じゃ。問題は無い」


 ラインバッハ様がそう言うと、テイラー支部長もなんでもない事のようにこう言い放つ。


「ラインバッハの紹介という形であれば、ある程度は便宜を図れる。しかし、ランクを上げるためには相応の実力と実績が必要だ。そこを歪めるわけにはいかんぞ」

「その点は心配無用、こんな頼みをするのはリョウマ君に年齢に不釣合いな実力があるからじゃ」

「妙な輩への牽制、というわけか……詳しく聞きたいが、まずは登録を先に済ませるとしよう。登録には何の問題も無いからな」


 テイラー支部長は脇に抱えていた紙の束から2枚の紙を取り出し、俺とエリアリアに差し出す。


「まずはこの用紙に必要事項を記入してほしい。リョウマ君は代筆は必要かの?」

「お心遣いありがとうございます。多少は書けますので自分で書きます」


 俺は手早く用紙に必要事項を記入して提出する。必要事項は名前、年齢、種族、そして従魔術もしくは召喚術を覚えてからの期間だ。


「……お嬢ちゃんは先日初めて契約したのかい、おめでとう」

「ありがとうございます」

「いつか従魔術師として、立派になれることを祈っているよ」


 テイラー支部長はエリアリアに人の良さそうな微笑みを向けて、今度は俺の書いた書類に目を通す。


「そしてリョウマ君の初契約は3年前か。今、従魔は何を?」

「スライムです」


 俺がスライムだと言うと、テイラー支部長が難しい顔になってしまった。


「スライムでは少々、いや、かなり厳しくなってしまうな……というのも、この街の従魔術師の仕事は殆どが鉱山の荷運び。せめてゴブリンかコボルドでなければ、紹介できる仕事は無い。これは依頼を斡旋するにも明らかに向かない仕事は紹介できないという規則があるからだ。

 ランクを上げるために必要なのはまず実績、これは依頼を受けて達成することで少しずつ実績を立ててもらう。……つまり、仕事を受けられない者のランクを上げることは出来ない」


 依頼が達成できなければギルドが信用を失うだろうし、それは仕方ないだろう。なら、研究の事を話したらどうだろうか? そう考えて一度ラインバッハ様達の方を見て確認を取った後、俺は新種のスライムを2種見つけた事と、ビッグスライムとの契約方法を発見した事を伝える。


 すると、テイラー支部長は新種には特に反応を示さず静かに聞いていたが、ビッグスライムとの契約については聞く前に慌てて俺を止め、更に難しい顔で考え込み始めた。


「むぅ……ビッグスライムとの契約方法が本当なら確かに功績にはなると私は(・・)思うが……」

「何か問題が?」


 俺がそう聞くと、苦虫を噛み潰した様な表情で支部長は説明を始めた。


「近頃のテイマーギルドには強い魔獣を従える従魔術師こそ優れた従魔術師だ! という風潮がある」

「それは今に始まった事ではなかろう、儂らがひよっこの頃からそう言う輩はいたと思うが?」

「確かにその通りだ。しかし近年はその風潮が強く、そう考える者がテイマーギルドの上層部にも増えてきている。このギルドでは私が目を光らせているが、人の出入りが激しく荷運びに向いた力の強い魔獣が集まるここにもそう言う輩が居なくなることは無い。従魔術師の優劣は魔獣の強さやランクのみで決まるわけではないと言うのに、嘆かわしい……」


 少し話がそれたが、聞いてみると研究の功績という形でランクを上げる事は可能。しかし、誰がどのランクに上がったのかという情報はランクが上がる都度、経緯と共に王都にある本部に送られて把握される。そこでは記載された内容で昇格が妥当かの審査も行われ、不適格と判断されれば監査が入り、降格されてしまうのだとか。


 さらに、先程聞いた風潮のせいでスライム関連は重要視されていない。よってビッグスライムで認められたとしても、ランクは上がらない可能性が高いという話だった。


 そうなると研究結果を発表すれば中途半端に名を売り、逆に面倒事を呼び込むだけになりそうだ。こりゃ辞めた方が良さそうだな……


「儂がまだ頻繁に出入りしていた頃とは随分と変わったようじゃな」

「これも時の流れだな。古参の者が1人2人と引退し、上層部の顔ぶれにも若い者が増えた。それに伴い、従魔に対する考え方も……いかんいかん、これでは愚痴になってしまう。

 とりあえず手続きは続けよう。登録をしておけばギルドで購入できる従魔の餌が割安になり、希望すれば先達の指導も受けられる。不要でもギルドカードは身分証として使えるので持っていて損はない。書類に不備も無いので、あとは従魔術の確認をするだけじゃ。ステータスボードで従魔術スキルの開示、もしくは実際に従魔契約を見せて貰えるか?」


 その言葉に俺とお嬢様はステータスボードの従魔術スキルを開示して見せる。


「結構。それではこちらの石板にステータスボードを載せてくれ」


 取り出された石版は教会の洗礼の間にあった台座と同じように、四角の凹みがある。しかし今度は凹みに金属のプレートが嵌め込まれており、何もない板状の部分にステータスボードを乗せるようだ。


 まずはお嬢様、その次に俺がボードを乗せると、金属の板に字が浮き上がった。


「これで2人の登録は完了だ。我らテイマーギルドは新しき従魔術師の2人を歓迎しよう」


 テイラー支部長はそう言ってから、改めて話せる範囲で良いから、と俺の事情を聞いてきた。そして公爵家の皆さんに話した内容と同じ内容を話すと、テイラー支部長はこう言った。


「……それならばテイマーギルドのランクは長い目で見るとして、さしあたっては冒険者ギルドにも登録しておけば良いのではないか? 1人で3年間も森の中に隠れ住み続け、ブラックベアーを何度も狩れる実力があれば、冒険者ギルドならすぐにランクも上げられるだろう」

「お前の所ならより安心して任せられると思ったんじゃよ」

「そうか。力になれんで悪いな」

「お前のせいでもなかろう。まぁ、リョウマ君なら冒険者ギルドでも大丈夫じゃろう」


 冒険者ギルドも実力が足りない者に仕事の斡旋は出来ないが、その判断基準の殆どがサバイバル能力と戦闘能力らしい。それなら問題はなさそうだ。


「ランクの事では力になれないが、困った事があれば来るといい、相談に乗るくらいはできるだろう」


 最後にそう言ってくれたテイラー支部長に俺は礼を言い、俺達はそのまま冒険者ギルドに向かう。














 冒険者ギルド



 到着した冒険者ギルドではゴロツキに絡まれる……というテンプレは無く、俺は普通に受付で基本的な説明を受けた。


 まず冒険者ギルドのランクはGからSの8段階あり、基本的には自分のランクと同じランクの仕事しか受けられないが、数人でパーティーを組むかギルドが複数のパーティーを集めて行う大規模な作戦の場合は人数が多い分難易度が下がり、1つか2つ上のランクの仕事を受けられる。


 登録は10歳からなので年齢制限もクリア、ただし13歳までは各自の持つ能力をギルドにチェックされ、たとえ自分のランクと同じでもギルドが完遂できると判断された物しか受けられない。これは自制心の薄い子供が無謀なことをしないようにとの安全策だ。14歳からはその制限も注意も無くなるが、依頼に失敗しても自己責任。違約金の支払いは勿論、命を失う危険もある。


 また、街などが危機に晒された時に街に居た場合はギルドから招集がかけられる事がある。これを断ることは可能だが、正当な理由か多額の免責金が必要になる。どちらも無く断った、または逃げた場合は罰則が与えられ、最悪の場合は冒険者資格の剥奪となる。


 そして説明を受けた後は戦闘能力試験を受ける事になったのだが……


「僕は全力でやるべきですか?」

「そうですな……ここでは全力でやっておき、自分の実力を示しておくべきでしょうな」

「うむ。それが良いじゃろう」

「何かあればサポートするわ」

「頑張ってくださいまし!」

「安心してやってきなさい」


 用意を整えギルド裏の訓練場の隅で皆さんからの意見と応援を受けたところで、受付の人ともう一人、ガタイのいい強面(こわもて)の男性が訓練場に入ってきた。


「お前さんが今日の受験者か?」

「はい、リョウマ・タケバヤシです。よろしくお願いします」

「おう。で、そちらは付き添いですね?」

「そうじゃ、よろしく頼む」

「見学はご自由にどうぞ、しかし試験中の手出しは無用にお願いします」

「勿論じゃ」


 そう言った男は俺に向き直る。


「お前さんの得物は弓か。よし、早速始めるぞ。まずはあの5つの的にあの線から弓を射ろ、数は5本だ。1つの的に1つずつ射っていけ」


 指定されたのは単純に横に並べられた5つの的。俺は指示に従い、指定された線の前に立って指定された的を狙う。足を肩幅に開き、矢を番え、弓を引き、狙いを定めて射る。この作業を淀み無く、滑らかに素早くこなし1本、2本と的を変えながら射っていく。


 慌てることなく、騒ぐことなく。ただただ静かに5本を射ち終えた後、全ての矢は5つの的の中心に突き刺さっていた。

 弓に関してはこの世界に来てからの狩りで大分上達しているな。昔からやってはいたが、前世はここまで素早く射る事は出来なかった。


 ちなみに俺の流派は現代の弓道ではなく弓術であり、弓道の射技八節のように動きを止める事は無い。途中で止めようとすれば止められるが、俺の家に伝わっていた弓術の理念は如何に早く、正確に敵を射るかを突き詰める物だった。昔は動きが一瞬でも止まると、次の瞬間親父の拳と罵声が飛んで来たものだ。


 矢を射たあとにそんな事を思いだしたが、試験中なのを思い出して即座に試験監督の男を見る。彼は既に的の方に歩き出しており、1つ1つを間近で確認してから戻ってきた。


「全てど真ん中だ、動かない的とはいえやるじゃねぇか。次は動く的だ、向こうの壁を見ろ」


 男の太い指でさし示されたのは、訓練場の入口から対面の壁。その一部には柱が立っていて、柱の横には溝のような穴が開いている。


「あれは大昔にショットガンって魔法武器を使って有名になったと言われる、ケンゴって冒険者が考案した飛び道具の訓練用魔法具だ」


 確実に転移者だな、おい。剣と魔法の世界にショットガン持ってきたのかよ。


「魔法武器が使えなくなったせいでランクはC止まりだったが、この装置の考案で死ぬまでそれなりに裕福に暮らせたって話だ。それだけこの装置は訓練用として価値があるんだぜ?」


 使えなくなった? 整備不良か弾切れか? ……絶対そいつあのガイン達の怒りを買っただろ! じゃなきゃ整備や弾を作る能力くらいは貰えたはず……まともに接してればそんな適当なサポートはしないだろうに……と俺がそんな事を考えている間も説明は続く。


「あの柱の穴から的が飛び出てくる、お前さんは出てきた的を射落とせばいい。出てくる的の数は50、お前さんに渡す矢も50本。どれだけ射落とせるかで成績が変わる」


 つまり、クレー射撃を弓でやれという事か……


「わかりました」

「それじゃ、俺の笛が合図だ。頑張んな」


 そう言って男は俺に矢筒を渡して後ろに下がり、俺は弓を構えて合図を待つ。

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― 新着の感想 ―
馬鹿な風潮のせいでテイマーギルドは有望な人材を逃す…と
[気になる点] 今思うと火薬の入手ができなくて弾切れしたのかな?
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