趣味と実益と予想外
本日、3話同時更新。
この話は1話目です。
「お頭ーッ! 新入りが来ましたぜーッ!」
「おう! こっちに連れて来いや!!」
まるで山賊のような職場だ……
冒険者ギルドで登録をするフェイさんと別れ、ギルドの受付で都合の良さそうな解体の仕事を請けた。そして現場に来てみたが……責任者の男性は露骨に眉をしかめている。
「ヒョロいどころじゃねぇ奴が来ちまったな……」
姿は子供だからね。俺ももう慣れた。
「おはようございます。私、こういう者です」
依頼書とギルドカードを提示。
「ああ、依頼を受けてくれた冒険者だろ? ここの仕事は単純だが――あ? ……お前、随分若く見えるがDランクなのか?」
「はい! 体力には自信がありますし、土魔法も得意です」
「魔法使いか……ならまぁいいか。金の話になるが、この資材が必要ってどういうことだ? 解体した建物の瓦礫でいいのか? 報酬は規定額のままでか?」
話が早くてこちらとしても助かる。
こういう現場の空気もなんだか懐かしい。
「もちろんです。ただ瓦礫はできるだけ多くいただきたいです。運搬については空間魔法も使えますから、自分で行います」
「それなら自由に持って行って構わねぇ。おい! このボウズ裏に連れてけ!」
「ありがとうございます!」
ギルドの受付で紹介してもらった通り、あっさり許していただけて良かった。
ここは解体専門の業者さんらしく、作業後に残った瓦礫は他所の業者に外注して処分されるらしい。
事前に作業の依頼主からその費用も込みでお金を取っているので、少しでも外注の業者に回収してもらう量が減れば、その分だけここは費用が浮く。正直あんまり戦力としての期待はされてないみたいだけど、給料は歩合制だし損はないと思ってもらえたのだろう。
「っしゃ、ここだ! こっちがお前の担当な」
若手の男性に案内されたのは、先ほどいた場所の真裏。お頭が言っていた通りの場所。
しかしこちらには誰もいない。大きな建物の壁が一部、ほんの数メートル崩れているだけだ。
「今は他に誰もいないが、こっちは魔法使いの仕事場なんだ」
「他の方とは別なんですね」
「魔法を使うには集中する必要があるって聞くし、魔力が切れたって現場でへばられたら邪魔だからな」
確かに限界まで魔法を使えば立つのも苦痛に感じるくらいの体調不良を引き起こす。
工事現場は危険だし、そんなところで倒れられても困るだろう。
「うちは結果を出した分だけしか給料を払わねぇから、別にいつへばろうが構わねぇ。とりあえず壊すのはこの建物の壁、この敷地の中だけだ。道や他の建物は傷つけんな。後は落ちてくる物とかに当たって怪我しないように気をつけろ、それくらいだな。こいつも一応置いておく」
男性は肩に担いでいた大きめの解体用ハンマーを、まだ壊れていない壁に立てかける。
「休みたければ休んでいいが、冒険者ならちっとは根性見せてみな」
彼はそう言って表に戻っていった。
……素人1人、現場監督かそれに順ずる人の目の届かない所に置いていていいのだろうか?
ギルドの人から、この業者さんは万年人手不足とは聞いているけど。
「……よし!」
まぁ、いいや。指示は少々雑な気もするが、とりあえず仕事に取り掛かろう。
まずは、
「『ディメンションホーム』」
メタルスライムを呼び出して変形を指示。畳んで厚みを持たせた手拭の上から頭を覆ってもらい、ヘルメット代わりにする。メタルとアイアンの利便性。そして何より成長を感じつつ、工事現場でのヘルメット着用の大切さを再確認。
……そういえばヘルメット被って作業してる人、こっちに来てから見たことないなぁ……
この現場の人もノーヘルだったし、安全靴とかその手の製品開発もしてみようか? スティッキースライムの素材とか使えば……っと、それは後にして、
「『ブレイクロック』!!」
手始めに軽く壁に魔法をかけてみる。
目の前の壁がさらさらと崩れ、直径40センチ程度の穴が開いた。
一部貫通しているが、それはさらに小さく10センチ程度の穴。
今の魔力でこの程度か……思ったより穴が小さいな。いつだか聞いた、土魔法を妨害する塗料でも使われているのかもしれない。となるともう少し魔力を増やして、強めに魔法をかけた方が良いかな。
「『ブレイクロック』!!」
先ほどより大きな穴が開いた、魔力を増やして威力を上げれば、相応の結果は出るようだ。
「でもこれだと少し効率が悪い気がする……」
足元にはブレイクロックで崩した壁が砂になって散らばっている。
壁を壊せるのはいいのだけれど、別に砂粒になるまで細かく崩す必要は無い。
表で作業している方々がハンマーで崩すように、運べる程度の塊であればいいはずだ。
……改善しよう。
「魔法の範囲を面ではなくて線になるように意識して……壁の頂点から地面まで線が入るように……『ブレイクロック』!」
魔力が壁に染み渡り、眼前の壁から砂が落ちる。
まるでそこには砂が詰まっていたかのように。
崩れ落ちた砂の後には、2センチ程度の凹凸が多い溝が入っていた。
「成功! 同じ魔力量でしっかり貫通もしてるし、これなら適当な大きさに切り分けることもできるな」
ただ1点、魔法の後に残った凹凸が気になる。
もっと真っ直ぐになるようにイメージしたつもりだったのに、コントロールが甘かったようだ。
「もう一度……」
もっとイメージをしっかりと、刀で切り裂くように。
心を落ち着け、魔力を丁寧に操る。
ついでに名前もイメージしやすいように変えてしまおう。
「……『ストーンカッター』! ……これならいいかな」
二度目は先ほどよりも溝が半分ほどまで狭まり、切り口も滑らか。
欲を言えばもう少し幅が狭いほうがイメージに近いけど、それは今後の課題にしよう。
「あとは……」
二度の魔法で壁の一部が柱のように切り離されているこれを砕いてみよう。
ブレイクロックを線にするコントロールは成功したんだし、荒くていいからひびを入れるイメージで。
「……『クラック』! よし! またまた成功!」
切り離されていた部分に稲妻を思わせるヒビが入り、中程から折れた壁は轟音とともに向こう側へと崩れていく。
やっぱり土魔法は自由度が高いな。
使い慣れていることもあるんだろうけど、やりたいことが反映しやすい。
「あ、もしかしたらアレもできるんじゃ……」
思いついたので試してみる。なんだか楽しくなってきた!
思い浮かべるのは、漫画とかでよくあるクレーターみたいなやつ。
単純に攻撃でできたり、攻撃を受けて吹き飛ばされた誰かが叩きつけられてできるやつ。
そうだな、名前は……
「『ウォールブレイク』!!」
これまで以上の魔力が手から壁へと流れ、広がっていく。
そして壁には蜘蛛の巣状のヒビが深く刻まれ、ボロボロと崩れ始めている。
あとちょっとつつけば簡単に崩壊するだろう。
「おー!」
イメージ通りの結果が出た!
そして一気に作業が進んだ!
「大体直径2メートルってとこかな」
最初のが40センチだったことを考えると大きな進歩。使った魔力量は今の方が多くても、範囲を考えればこっちの方が効率的だ。この魔法なら1回で壁をほぼ崩せる。
「なんじゃこりゃぁ!?」
「ん!?」
魔法の出来に満足していたら、いつのまにかさっきの男性が近くまで来ていた。
「お疲れさまです! どうかしましたか?」
「さっきこっちでデカイ音したから、お頭が見てこいって。いやこれお前がやったのか?」
「はい! 僕なりにやってみました! どうでしょうか?」
「……お前、わりとすごい魔法使いだったんだな」
「ありがとうございます! 土魔法が得意なのと、魔力量だけは宮廷魔術師並って言われてますから」
「とりあえず問題なさそうだし、続けててくれ。あとの指示はちょっと俺じゃ分かんねえから、お頭呼んでくるわ」
「わかりました!」
この後現場監督にも仕事ぶりを認めていただき、俺は調子に乗って壁を壊し続けた。
そして昼頃に仕事が終わると大量の瓦礫をディメンションホームに詰め、意気揚々と帰宅する。
現場を後にする直前、
「なあ、よければこのままうちに就職しないか?」
とのお誘いをいただいたが、丁重にお断りさせて頂いた。
そしてフェイさんと合流すべく、冒険者ギルドへ戻ったのだが……
「おじ様お強いですね~」
「あの、良かったら私達と組みませんか?」
「私、仕事が別にあるだから。困るネ。お誘いはありがたいけど」
「えー、じゃあおじ様って独身?」
「私、あなた達くらいの娘いるヨ!」
フェイさんが美人な女性冒険者達にモテていた件。
「くそっ! 俺がもうちょっと早く声をかけていれば!」
「いったいどこの誰なんだあのオッサン!」
「あの~……すみません。あれ、何かあったんですか……?」
フェイさんの様子をうらやましげに見ていた男性冒険者に事情を聞くと、フェイさんは登録後に何らかの依頼を受けて達成したらしい。そして受付で報告をした。
時を同じくして、この街で名が売れ始めている女性冒険者のパーティーが隣のカウンターに。
「そこに今度は女癖の悪さで有名な連中が来たんだよ。しかも仕事終わりに一杯ひっかけて来たみたいでなぁ……」
そして女性冒険者のパーティーを見つけ、絡んだそうだ。
男達は女癖と酒癖こそ悪いが腕は女性達以上で、受付嬢が止めるも男達は聞かない。
そこへフェイさんが見かねて声をかけ、機嫌を損ねた男達が手を出して、フェイさんに取り押さえられた。
そして今、この状況と……フェイさん、あんたどこの主人公ですか?
「あ、店主! 助けて欲しいヨ! なぜそこでこそり見てるか!?」
あ、見つかった。
なぜと言われても状況分からなかったし、正直どう声をかけたらいいか分からなかった。
というか女性達の目、怖っ! 肉食獣、捕食者の目のような……
「……すみません、もう少し待っててください。僕も依頼の報告しないと。あと女性関係は僕も専門外なので」
「店主! 店主ー!」
依頼の報告は冒険者として絶対に必要なのだ。
それが終わったらすぐに戻るから。
だからフェイさん、もう少し待っていてください。
できれば俺が戻ってくるまでに、その女性達を何とかしていてください!
俺は足早にカウンターへ向かっていた。




