語られない会議の様子
本日、2話同時投稿。
この話は2話目です。
翌朝
「リョウマ君はこれからどうするんだい?」
朝食の席でなんとなしに聞かれた今日の予定。
その答えは決まっていた。
「今日は冒険者ギルドで家屋解体の仕事を探そうと思います」
「家屋解体? お仕事をするのはいいけれど、どうしてまた?」
事の発端は昨夜の会議。
会議は初めて参加する俺のために、決定している出来事と作業の進捗状況を確認していくことから始まった。そして俺が一通り状況を把握できた頃……
「一つ提案があるんだが」
そう口を開いたのは新郎のヒューズさん。
彼は会場全体への提案、そして俺に結婚式場の一部設営を依頼した。
「式場は裏庭で、式はエルフ式でしょう? メイド達だけでも用意できるはずだけど」
「エルフ式の式ですが、会場の中心に人族式の教会を建てるんです」
「……どういう事だい?」
「昨夜も最初は突然何を言い出すんだ? という感じでした」
昨夜の状況を思い出すと苦笑いになってしまうが……
これを説明するにはまず、結婚式の方式や特徴について確認すべきだろう。
「まず人族式の結婚式ですが、これはざっくり言うと“教会に赴き、親族・友人・聖職者の下で誓いを立てる事”ですよね? 披露宴は懐具合にもよりますが、式とは別です」
公爵夫妻と同席しているセルジュさん、ピオロさんが頷くのを確認してから次へ。
「それに対してエルフ式の結婚式は、“適当な広場に舞台、その周りに机と料理を設置し、高齢者または地位(責任)のある人が聖職者の代役として式を行う”。親族や友人の前で結婚を宣言するのは同じですが、その後はその場にいる人々で料理を分け合い宴会に突入します」
今は人間の街に住むエルフも増えているらしいが、古のエルフは自然の中に小さな集落を作り村単位で暮らしていた。そういった環境下では村中の人間が顔見知りになってしまい、自然と結婚は村中で祝うという風習が生まれたそうだ。
ちなみに“エルフ式”と呼ばれているが、実は種族にかかわらず農村部ではこの方式で結婚式を行うのが一般的だったりする。
そして一週間後に行われる予定の二人の結婚式は、奥様が仰ったようにエルフ式で行われることになっていた。
しかしそれは参加者の多さから。
祝いに来てくれる友人をより多く会場に入れるため。
会議の参加者以下、有志から披露宴までしっかりやろう! という話になったから。
そして何よりルルネーゼさんが、エルフ式の結婚式に憧れていると言ったからだそうだが、
「実は彼女、人族式の結婚式にも憧れがあったみたいで。エルフ式の結婚式に憧れがあったのが嘘というわけではないようですが」
「女の子なんだから式のことで悩むなんて普通じゃない。言ってくれればよかったのに」
「彼女も遠慮しがちだからね……」
そして彼女は黙っていたのだけれど、ヒューズさんがその様子に気づいたらしく、会議の場での提案に至る。
最初は無理だと紛糾していた会議も、ルルネーゼさんの本心を知って各々考えを巡らせ始め、さらにヒューズさんは俺に協力の依頼。彼は俺が今の店を一週間足らずで建てたことを知っていたため、俺が協力すれば可能性はあると考えていたようだ。あと相談するだけならタダだと。
そうやって素直に言えるのは彼の強みだよな……
まぁ、その後は本心を隠していたことを引け目に感じつつ、気づいてくれたことが嬉しかったらしいルルネーゼさん。そして気づいたヒューズさんがお互いを意識したのか、真面目に話しているようでどこか甘~い雰囲気になり……会議の参加者からは呆れや嫉妬の感情が、主にヒューズさんへ向けて噴出。
しかしながら今回はヒューズさんの“お手柄”なので、辟易しつつも見守られていた。一部男性は血の涙を流しそうなくらいに悔しがっていた。
「その時の状況はもう、話す気にもならないので省きますが……色々と話し合われた結果、舞台を教会風にするということで話がまとまりました。大きさは僕の作る神像と新郎新婦、後は聖職者役の代表者1人が余裕を持って入れる程度を考えています。入り口を大きく取って外から中の様子が見えるようにする予定です」
よく公園にある屋根付きの休憩所とか、ちょっとした小屋くらいの労力だと思う。
「非番の庭師さんや警備兵の方々が手を貸してくれるそうなので、デザインさえ決まれば1日、念のため2日もあれば大丈夫でしょう」
「確かに君なら実績もあるし、工期は短縮できるだろうね」
「この街の観光をしたり、ギルドも覗いてみたかったので。そのついでにいくらか資材の手に入る仕事があればいいと思っています」
仕事がないか、あっても早く終われば教会で神像のイメージを固めようと思っている。
ヒューズさんは自分のわがままなので資材のお金を払うと言っていたけれど、他にも持ち出しが多いだろう。節約できるなら節約した方がいい。幸い再利用した資材で作ることには何とも思ってないようだし。
「夕食までには帰ってくるわよね?」
働きすぎないように、と釘を刺されているみたいだ。
「はい。今晩もお世話になります」
心配しなくてもそのつもりだけど、微妙に信用されていないようだ。
そして朝食の後。
「……」
俺は馬車に乗っていた。
外出するなら乗っていきなさい! と奥様が用意してくださったが、ギルドに公爵家の家紋が入った馬車で乗りつける冒険者なんていないだろう。
さすがに拒否しようとしたがあちらの押しも強く、最終的に貴族街を出るまで乗っていく事に決まった。
「奥様が前より過保護になってる気がする……」
「娘と離れて暮らす。とても寂しいのでは?」
うっかり呟いた言葉に、同席しているフェイさんが答えてくれる。彼も昨日はセルジュさん達の従者と共に従者用の部屋に泊まっていて、俺が外出するということで自然についてくることになっていた。
「そうなんでしょうか?」
「子供と離れたくない、まともな親なら当然ネ。行き過ぎればアレだけど、貴族にとては移動に馬車使う、当たり前」
子供の習い事に車で送り迎えする親、そう考えると普通の範疇か。
あれ? フェイさんってエリアが学校に通い始めたの知ってたの?
「私、昨日公爵様のご夫妻に呼ばれて話したよ」
「え!?」
「あの人達、私の前職を普通に知てた。問題ないことの最終確認だたみたいね。娘がいると聞いてからはほとんどお互いの娘の話ばかりだたよ」
「そうでしたか……」
彼らは良い人だけれど、公爵家の人間であり貴族だ。自分の領地に怪しげな人間がいないか警戒するのは当然だし、情報を掴んでいても別におかしくはない。だいたい商業ギルドのギルドマスターが気づいている上に働き口も斡旋していたのだから、その時点で報告が入っていたはず。
しかし直接顔を合わせて、しかも娘の話をしているとは思わなかった。
「なにはともあれ問題がなくてよかった」
「問題どころか……これ、身分の保証書と冒険者ギルドへの推薦状。私だけでなくリーリンの分も貰たよ。代わりに店主の店よろしくと言われた」
「大盤振る舞いだなぁ……」
懐から取り出された高級感のある便箋。
その封蝋にはこの馬車に描かれているものと同じ家紋が押し付けられている。
「……せっかくですし、冒険者ギルドに登録したらどうですか? 僕の仕事についてくるわけにもいかないでしょうし」
他国出身の彼らにとって、これらの書類は生活する上での不自由を大きく軽減するだろう。
うちの店にいる間に不自由させるつもりはないけど、もし辞めたくなった時とかに選択肢があるのはいいことだ。
それに直接渡されて受け取った以上無碍にもしにくいだろう。
「そうね。これがあれば私達、いつでも普通の生活ができる。この機会に登録しておくヨ」
少し悩んだそぶりも見えたけど、最終的に彼は登録することに決めたようだ。
いつか機会があれば3人で仕事を受けてもいいかもしれない。
「あ、そうだ。話は変わりますが、昨日からフェイさんの方で何か見られてる感じはありましたか?」
ルルネーゼさんから聞いた家憑き妖精の話をすると、心当たりが有ったようだ。
「私、てきり監視と思てた」
「僕もです。普通そう思いますよね」
妖精が自主的にやっているだけで、監視には違いないかもしれないけど。
「しかし家を守る妖精、珍しいネ。家人に不幸を呼ぶ妖精なら、私の国にもいただけど。家の人間が死ぬ、特に酷い死に方するとよって来る。それか生まれると言われてる」
「……それ妖精ですか? 悪霊かアンデッド系の魔獣じゃなくて?」
「私の国ではどちらも“グゥィ”。魔獣という意味でひとくくりだから、そうかもしれない。そのグゥィを追い払うには……こちの言葉で、死霊術? だったはず。そういう魔法があるからそれ使う」
「語感からして悪霊系な気がしますね」
未知の魔法に興味がわいてくる。
それから馬車が適当な所に着くまで、俺達は会話に花を咲かせていた。