教会で学ぶ
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名前:リョウマ・タケバヤシ
性別:男
年齢:11
種族:人間
体力:11,052
魔力:198,000
日常生活スキル
家事Lv10 礼儀作法Lv7 楽器演奏Lv3 歌唱Lv3 計算Lv5
戦闘系スキル
体術Lv7 剣術Lv7 短剣術Lv6 暗器術Lv7 槍術Lv4 弓術Lv6 棒術Lv6 分銅術Lv4 投擲術Lv7 隠密術Lv7 罠Lv6 身体操作Lv6 気功Lv5
魔法系スキル
従魔術Lv2 結界魔術Lv2 回復魔法Lv1 錬金術Lv2 火魔法Lv3 水魔法Lv3 風魔法Lv2 土魔法Lv4 無魔法Lv3 雷魔法Lv1 氷魔法Lv2 毒魔法Lv2 木魔法Lv3 光魔法Lv2 闇魔法Lv1 空間魔法Lv3 魔力感知Lv3 魔力操作Lv4 魔力回復速度上昇Lv2
生産系スキル
薬学Lv6 鍛冶Lv1 建築Lv3 木工Lv3 造形Lv4 描画Lv4
耐性系スキル
肉体的苦痛耐性Lv8 精神的苦痛耐性Lv9 健康Lv7 悪臭耐性Lv3
特殊スキル
神託Lv3 生存術Lv5 生命強化Lv3 超回復力Lv3 耐久力強化Lv6 精神集中Lv5
称号
下克上
不幸な人生を乗り越えた者
神々の寵児
賢者の弟子
武神の弟子
加護
創造神ガインの加護
生命神クフォの加護
愛の女神ルルティアの加護
酒の神テクンの加護
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魔力は転移前に使い続ければ増える事を教わっていたからいいとして、レベルアップしているスキルが幾つもあるな。それに、こうして見るとやはり魔法系スキルが多い……ん? この~の弟子ってのはアレか、この世界に来た時の手紙に書いてあったスキルレベルの辻褄合わせ。加護はガイン達と酒の神様の加護がある。とりあえず言われた通り名前・年齢・種族以外は隠して……と
「できました」
「では、付き添いの方がお待ちになっている部屋にご案内します。詳しい説明は付き添いの方に聞くと良いでしょう」
女性に促されて部屋から出る。すると外から子供の声が聞こえてくる。
「まてー! まてー!」
「あははは! こっちだよー!」
声の方を見ると、窓の外で着古された服を着た子供達が遊んでいた。
「彼らはこの教会で面倒を見ている子達です。いつも元気いっぱいで、手伝いが終わるとああして外で遊んでいるのですよ」
孤児か家庭の事情かはわからんが、なるほど。
「さぁ、行きましょう」
女性の後をついていくと、教会の中の一室に通される。そこには付き添ってくれていたラインハルトさん、奥様、ラインバッハ様、お嬢様、セバスさんが首を長くしていた。
「お待たせしました、洗礼は問題なく終わりましたよ」
「お待たせしました、皆さん」
「大丈夫さ」
ラインハルトさんがそう言った直後、女性がすぐに立ち去ろうとする。
「それでは私はこれで失礼いたします。お帰りの時まで、この部屋は自由にお使いください」
「ありがとうございます」
咄嗟に俺も礼を言っておく。
「ありがとうございました」
「どういたしまして。それでは」
部屋から出て扉をしめる女性を見送って、疑問に思った事をラインハルトさんに聞いてみる。
「さっきの方、急いで出て行きましたけど……何かありました?」
「ステータスボードの内容は皆秘密にする個人情報だからね。配慮してくれたんだよ」
「この部屋も洗礼を受けた人とその家族が、ステータスボードの内容について内緒で話せるように用意された場所なのですわ」
「そうだったんですか」
「うむ、ステータスボードの情報は無闇に喋らん方が良いからの。昔は情報を隠すことが違法だったのじゃが、内容を悪用する者も増えたため、今では隠すのが通例になっておる」
「スキルは自身の戦い方や手の内を晒す事で不利になりますし、体力や魔力等は戦力に直結しますので、現在は殆どの者が心を許した相手にしか明かしません。似たような理由で加護も明かしませんな。明かすのは名前と年齢と種族、人によっては称号も明かします」
「なるほど」
「だから、リョウマ君の情報はちゃんと秘密にしておくのよ? 分からない事があれば相談に乗ってあげるけど、教えたくない事は教えなくて良いからね?」
本当に親切だな、この人達は……どれを教えるかは後で決めよう。
「わかりました」
俺がそう返事をするとラインバッハ様は満足そうに一度頷いたあと、真面目な顔でこう言う。
「さてリョウマ君。ステータスボードを作ったこの機会に1つ、言っておきたい事がある」
「なんでしょうか?」
「君の能力についてじゃ。今日まで見た限り、君の能力は同年齢の子と比べて非常に高い。そうなるとよからぬ輩が寄ってくることも多くなる。それが嫌ならば実力を隠すか、早く地位を手に入れて身を守るのが有効になる。
しかし君の場合は能力がありすぎ、隠すのはちと難しかろう。だから君は早めにギルドに登録し、地位を手に入れるべきじゃ。具体的にはギルドで判定されるランクじゃな。何かあれば儂らも力を貸すが、君自身も注意が必要じゃぞ」
「君の場合は年齢に対して能力が不釣り合いで、神の加護持ちなのがすぐ分かるからね。加護によっては本気で狙われるから気をつけて」
……確かに自重はあまりしてないけど、そんなにおかしかったのか。目の前で全力は出してないのに……
「気をつけます。……?」
ここでお嬢様がまた、この前のようにチラチラと俺を見ている。今は特に何もしていないし、何か聞きたいのだろうか?
「どうかしましたか?」
「えっ!?」
「いえ、何か聞きたそうだったので」
「それは……」
俺がそう言うと、お嬢様は一度言いよどんでから素直に話し始めた。
「実は、リョウマさんの魔力量が気になっていましたの」
「魔力量?」
「はい。リョウマさんはこの前、すごく魔法を使ったのに魔力切れにならなかったのを見ていましたから。お父様に聞いたら普通の人なら倒れている、とも聞いていたので、どれだけの魔力を持っているのかと」
魔力量、これはこの人たちになら教えても良いか。というか“普通の人なら倒れている”くらい魔法を使った所を見られているなら今更だ。森で生活している時と同じ感じで使っていたが……ああ、それで隠せないと言われたのか。改めて納得。
「あー……さっき確認したら、19万8000でした」
俺が答えると、公爵家の方々は目を軽く見開き、お嬢様は複雑そうな目をしている。だが、それだけだ。
あれ? なんか予想より反応が薄い?
「19万8000。それだけの魔力量でリョウマさんはあれだけ魔法が使えますのね」
「魔力は多ければそれだけ魔法は使えますから」
「えっ? いえ、そういう意味ではなくて、ちゃんと魔法を使えている事ですわ」
「ちゃんと?」
「ええ……? 私、何か、間違っています?」
なんだか話がかみ合わず、お嬢様が困り始めたところでセバスさんから声がかかった。
「もしや、リョウマ様は魔力量による弊害をご存じないのでは?」
「弊害? そんなのがあるのですか?」
そう答えるとお嬢様はあっけに取られ、セバスさん達大人組はやっぱりと呆れていた。
何の事かと聞いてみると、まず魔力が多ければ魔法使いとしての大きなメリットになる。ただし体に宿す魔力があまりに多すぎると魔力の制御が困難になり、魔法の習得も困難になってしまうとの事。
なんでもほんの少し魔力を出そうとしただけで、壊れた蛇口のように大量の魔力があふれ出してしまうとか。普通の魔法使いよりも魔力を抑える訓練や多量の魔力を制御する訓練が多く必要となるのだと。
……言われて見れば心当たりがある。この世界に来て初めて使った魔法のブレイクロック。あの時は指先がちょっと入るくらいの穴を開けるのが精一杯の効果しか出なかった。
一応の効果が出ていたから初めは気づかなかったが、体外に出した魔力は制御して維持できないと霧散してしまう。そうなると魔法としての効果も出せない。つまりあの時は魔力の垂れ流し状態で、使った魔力に対してほんの一部しか効果を出せていなかったわけだ。
魔法を使い続けるうちにそれが分かり、さらに使い慣れると魔力の操作が身につき、魔力をその場に維持できるようになると同じ魔力消費量で効果が格段に上がった。
そして3年間でそれを改善したのが、この前の崖崩れで使った魔法。同じ土魔法でも昔とは威力や自由度が格段に高くなっている。俺からしたら魔法は使えないのが当たり前なので特に難しいという実感は無く、単に成長しただけだと思っていた。
実際に成長しただけではあるが、この世界の人からすれば、膨大な魔力を持っている子供が普通に魔法を使えるという事は厳しい訓練を積んだか優秀だということになるんだろう。
……自分で自分を優秀とか考えるのもなんかアレな気がするけど。まぁ分かった。
「今まで比較対象が居なかったので、気づきませんでした」
「リョウマさんが簡単に魔法を使えるのは、すごい事ですのよ? 私も同じ年なのに、あまり上手く魔法が使えません」
「私、も?」
「……実は私も魔力を20万程持っていますの」
「20!」
俺より多いじゃないか! って、大人組の反応が薄いのはそういう事か! そういやさっきガイン達も言っていた、お嬢様は先祖の転移者の血を色濃く受けついでいて、その転移者は魔力無双とか……全部繋がった。それで俺をチラチラ見ていたのか。自分と同じ膨大な魔力を持っているかもしれないのに、普通に魔法を使える俺が気になったと。
「色々と理解できました」
「それはなによりですわ。私、自分と同じくらいの魔力を持つ人と会ったのは初めてですの。正直に言いますと、リョウマさんがどれだけ魔法を使えるのかとか、どうやってそこまで魔法を身につけたのかも気になっていましたが、聞くに聞けず……」
「ステータスボードで魔法に関する項目を見せましょうか。自分がどれくらいなのかも知りたいです」
俺は作ったばかりのステータスボードを操作し、魔法系スキルの欄を表示させて皆に見せる。
「ふむ……見事に幅広いが、年齢の割にレベルが高いな。それに全属性を持つとは聞いていたが実際に全属性の魔法を使えるか」
「下位属性は全てレベル2以上、中位以上もレベル2,3があることを考えれば十分だよ」
「特に土と空間のレベルが高いわね。空間魔法のレベルは上がりにくいと聞くのに、よくここまで上げたわね」
「将来的にはわたくしを超えるかもしれませんな。それに魔力感知・操作・回復速度上昇のスキルまでお持ちとは」
「森で生活のため魔法を使っていただけなんですけどね……火と水は料理やお風呂、土と空間は狩りのためにほぼ毎日使ってましたから」
「ふむ、攻撃魔法は使われますか?」
「いえ、狩りは基本的に弓か罠でやっていました。ファイヤーボールは使えますが、肉が焦げて食べる所が少なくなるのであまり。アースニードルは落とし穴の中に設置する杭の代わりに使いました」
「なるほど、今まではほぼ生活に使える魔法のみでここまでレベルを上げたのですな。ならば、攻撃魔法の練習をした方が良いでしょう。使えて損はありませんし、希に武器が効かず、魔法での攻撃でしか対処できない魔物も存在しますゆえに」
忘れていた、そういう魔物も居るんだ。ってか異世界ものの小説とかだとそういう魔物はテンプレじゃないか。長くひきこもりすぎてすっかり忘れていた。これからは攻撃魔法の訓練も始めよう。
「そうですね、やってみたいと思います」
「下位属性の魔法なら比較的簡単ですので、今のレベルでも中級までなら少し訓練すれば使えるでしょう。魔力は十分にお持ちのようなので、土魔法なら上級も扱えるかもしれませんね」
「リョウマ君も魔力が多いし、魔力操作の効果で魔力の消費を抑えられ、更に回復速度上昇で回復が速くなるから、その分1日に沢山練習できるしね」
「魔法使いとしては非常に有利じゃ、無駄にせんようにの」
「はい、頑張ります」
自分は森の外ではかなり優秀な部類に入ると具体的に分かったところで、ステータスボードを見ながら無言だったお嬢様の声が耳に届く。
「生活に魔法を使い続けるのがリョウマさんの訓練……私もそういう事に魔法を使い続ければもっと……」
「生活でなくても暇なときに魔法で遊んでいれば、いつかコツはつかめると思いますよ」
「魔法で遊ぶ、ですか?」
なにやら向上心があるようなので、森でやっていたことを口にしたら変な顔をされた。
「初級の基本的な魔法で色々やったりしませんか?」
「ありませんね。いつも決まった魔法を正確に放つ練習ばかりです」
「貴族でも平民でも、魔法の腕は収入や生活の安定に直結するから、遊ぶために使うとはあまり聞かないわね」
「例えば火魔法は鍛冶や製鉄など、強い火を扱う場所で。氷魔法や空間魔法なら食料の保存と運搬に。土魔法や木魔法なら建築や農業で、と様々な分野で需要があります。よって腕が良ければ職に困る可能性が減り、そうでなくても使えない者よりは潰しが利きますので」
なるほど。宗教的な理由で禁止されているわけじゃないのは知っていたけど、魔法は飯の種というのが一般的な考えなわけか。それで魔法で遊ぶ=魔力の無駄、って認識がある感じだな。となると、だめか?
と思ったら大人3人から後押しされた。
「魔法で遊ぶ。聞き慣れないことじゃが、エリアに興味があるならやってみなさい」
「そうだね。エリアには20万も魔力がある、少しくらい遊ぶために使っても普通の訓練に使う魔力は潤沢に残るさ」
「訓練の息抜きも良いんじゃない?」
そんなに軽くて良いのかと聞けば、聞いた通りお嬢様には魔力が潤沢にある。少しくらいなら困りはしない。何よりたった今魔法の腕を確認したばかりの俺が提案した事なので、役に立てば儲けものだとか。俺は危険がない事を確認させてほしい、と当然の事を言われただけ。
なら、お嬢様に魔法での遊び方を教えてみようか。と思ったが、今は教会の一室を借りているので場所も状況もよろしくない。
「いつか、機会があれば少し教えますよ」
「本当ですか! その時はぜひお願いします!」
お嬢様は俺の手を取って喜んでいた。本当に魔法使いなら誰でも使える初級の魔法を使った遊びなんだけど、こんなに喜ばれると少し嬉しい。
「さて、ではそろそろ行こうか。もうここで話すべきことは話したし、まだやるべき事もあるからね」
ラインハルトさんの言葉通り、俺達はまだギルドへの登録がある。
それを思い出した俺は皆さんと一緒に教会を後にし、今度こそテイマーギルドへと向かう。




