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再会 2

本日、3話同時更新。

この話は2話目です。

 翌日


 昼を少し過ぎた頃、俺は馬車に揺られていた。


「まさか昨日の今日で公爵家の方々にお会いできるとは」

「リョウマ様がギムルを出た後、カルムが出立したと私に文を飛ばしたのです。予定と到着予定日が書かれていたので、それを公爵家へお伝えしたところ、こちらの都合がよければ今日で構わないとの返事が返ってきまして……私としても少々驚きました」

「普通やったら、たぶんリョウマが考えとる通り、そう簡単に予定は空けてもらえんわ」

「ですよねぇ……」


 セルジュさんとは“3日後までに”合流する約束で、遅れないよう少し早めに来たつもりだったのだけれど……


「きっとリョウマに会いたいんやろうなぁ」

「それしか考えられませんな」

「はは……」


 あの親切な方々ならそうかもしれない。

 彼らの元を離れても心配してくださっている事に嬉しさを感じる。


「そういえば、街の様子が変わってきましたね」


 馬車は少し前から坂をゆっくりと上っている。車窓から見える景色はそれに伴い、小さな店や民家が寄り集まり活気のある町並みから、大きな商店やレストランが立ち並ぶようになってきている。


「もうすぐ貴族街やからな。ぼちぼち人も少なくなってくるわ」


 “貴族街”……この先がそうなのか。


「そうですな。この街は一つの小山とそれを取り囲む平地でできている、とお考えください。そして小山を登っていくにつれ、高級住宅や高級店が多くなります。

 しかしそんなに気を張らなくても大丈夫ですよ。貴族街と呼ばれていますが、実際は多少裕福なだけの一般市民も住んでおりますし、この街では立ち入りが制限されているという事もありません」

「まぁ何の用もなくうろつくような所でもないけどな。ワイらはこのまま公爵家まで直行やし、なにも気にする事あらへん。

 ちなみに公爵様のお屋敷は山頂、貴族街でも一番高いところにあるで」

「それはなんとなく想像しやすいですね」


 一体どんなお屋敷なのだろうか? 身分から考えて小さいという事はないだろう。となると某夢の国にあるような城かな?


「そう慌てんでもじきに着くで」

「お屋敷についてはそれまでのお楽しみですな」

「「ところで」」


 2人の声が重なる。どちらも意図した事ではないようで、お互いに先を譲り合った末にセルジュさんが口を開く。


「リョウマ様、そのお召し物ですが……」


 服の話か!


 ……今日の服装はギムルの仕立て屋さんで特注した紺色のスーツ姿。注文通りにきっちり仕立てていただけたので、個人的には大満足。なんだけど……


「やっぱり地味でしょうか?」


 仕立て屋の店員さんも、うちの従業員の皆さんも、スーツを着た俺を見た時の反応は微妙だった。


「地味やな。失礼にはならんけど」

「もう少し遠慮せずともよかったのですよ?」


 そんな2人の服装は……俺からすると超ド派手だ。


 ピオロさんはヒラヒラのレースがこれでもかとつけられたシャツに、所々に入ったスリットから色鮮やかな布がはみ出したコートを着用。


 セルジュさんは……高級そうな生地ではあるけれど、服のデザインは割と普通な感じ。ただし首元にあの襞襟(ひだえり)、ひざの上には外に出たらかぶるであろう、大きな羽飾りのついたベレー帽? を乗せている。


 今さらだけど当然だ。あれだけ店員さんが推してきたという事は、それが大多数に人気の品なのだ。そしてそういう衣服を目の前の二人が着ている事も、何らおかしな事ではない。


 だけど俺はこれでいい。


「僕はこのデザインが気に入ったので。それに動きやすいですし」

「なるほど。こだわりがあるのは良い事です。特に服装に関しては」

「流行を追っとるだけでセンスがええとは中々言って貰えへんしなぁ」

「はは……服のセンスには自信ないんですけどね」

「いえいえ、その洗練されたフォルム。使われている素材も一級品ですし、仕立ても丁寧。私も一着欲しいくらいです。どちらの店でお買い求めに?」

「ギムルの西区にあるお店ですよ。大通りから5本目の角を右に行ったところで」

「西区で五本目、というとあの店ですか。まだ新しい店だと聞いていましたが……良い店を見つけましたな」

「カルムさんが調べてくださったんですよ。おかげでスムーズに一式揃えていただきました」

「ほう。そのネクタイピンも?」


 やっぱり気づくよね。


「石は祖母が残してくれた遺産です。それを取引のある中で最も信頼でき、腕の良い細工師の方が手掛けたそうで」


 ネクタイピンの土台には折り重なる直線と曲線、絡み合う蔓が糸のような金細工で繊細に表現されており、中央には大粒のダイヤモンドを包む花が咲いている。無数の宝石を散りばめるような派手さはないが、職人の手によって1つの調和がとられている。


「確かに素晴らしい腕前ですな。この繊細さ……おそらく金属性の魔法に精通した職人でしょう」

「流石セルジュさん。確かにこれを受け取った時にそう説明を受けました」


 金属性、それは土と火の属性魔法を併用する事で金属加工を行う魔法の俗称。複数の属性を扱う時点で魔法としての難易度が高く、細工に用いるとなれば微細なコントロール能力も要求される、とにかく高難度の技術を駆使して作られた逸品である事を、店員さんは目を輝かせて語ってくれた。優れた金属性魔法の使い手は造幣局など国の機関から声がかかるそうで、在野にいるのは本当に珍しいらしい。


「むむむ……まさかそのような職人がギムルにいたとは、是非ともお会いしたい……」

「ワイもかみさんに何か買おうかと思ってたんよ」

「あ、結婚記念日か何かのお祝いですか? クラナさん、喜ばれるでしょうね」


 2人との会話は心地よく弾み、話題が広がるうちに馬車の傾きが無くなった。


「いつの間にやら坂を登りきったようですな。降りる準備をしましょう」

「もう窓からもお屋敷が見えとるで」

「え?」


 指し示された右の窓に目を向けるが、見えたのは堀と高い石壁……というか城壁?


「セルジュさん、ピオロさん。これって“お屋敷”じゃなくて“城”って言いません?」


 見る角度を変えて出来る限り全貌の把握を試みるが、どうしても城としか思えない建物がそこにはあった。それも某夢の国にあるような白く美しくファンタジックなお城ではなく、高い城壁には所々に警備兵が立ち、壁の内側からはチェスの駒のような塔が頭を出している。


 ……どう見ても要塞じゃん。


 とか考えていても馬車は止まる事なく、方向を変えて兵士が並ぶ城門へ。


「モーガン商会会頭、セルジュ・モーガン他2名。御者と後部座席にいる2人は従者です。積荷は公爵閣下へのささやかな贈り物。通行許可を願います」

「伺っております。どうぞこのまま屋敷までお進みください。そこから先は専属の者がご案内いたします」


 もっとガチガチの警備かと思いきや簡単に確認が済み、再び馬車は動き出す。


「?」


 何だろう……


「どうかなさいましたか?」

「今、何か変な感じがしたんですが……」

「それやったら結界とちゃう? 空間魔法で賊が勝手に忍び込めないようにしとるんよ」

「結界……なんでしょうか?」

「魔力に敏感な方は結界を通り抜ける際に違和感を覚える事もあるそうです。公爵家のお屋敷は魔法道具と専属の結界魔法使い達の手により、何重にも結界が張られていますからね」


 結界魔法を使っていて感じた事がない感覚だったけど……


「それはそうと、もう本当にお屋敷に着きますよ」


 おっと、そうだった。

 服装の最終チェックを行い、気を引き締める。













「お疲れ様でした」


 御者を務めて下さったセルジュさんの部下に目礼をして馬車を降りる。


 まず目を引いたのは……列を成して出迎える使用人の方々、なんと総勢20人。彼らは俺達が通れる道を開け、男女で左右2列に分かれて頭を下げていた。


 ……マンガとかでは何度も見た覚えがあるけれど、あの頃はそれが自分に向けられる立場になるとは夢にも思わなかったなぁ……


 さらに驚いたのは彼らの先にある建物。それは外から見た要塞のような印象とはまるで違う、立派な西洋風のお屋敷だ。外壁と塔は確かに要塞を思わせるけれど、その内側にあったお屋敷は迎賓館を髣髴とさせる。灰色の、かなり古そうな石造りではあるが、手入れが行き届いているようで汚れた印象は全くない。むしろ歴史と風格を感じる。


「ようこそお越しくださいました」


 執事が1人、声をかけてきた。この中では最も高い役職の方だろう。


 彼が言うにはまず、公爵家の方々と面会させていただく俺達はこのまま控え室へ移動。従者役のフェイさんを含む三人はその間、別室で待機となる。土産物はこの場で係員に引き渡し、一度チェックを受ける。安全が確認されれば、面会の前に控え室へ届けられるそうだ。


「では、こちらへどうぞ」


 言われるがまま、案内役のメイドさんの後を当然のようについていくと……


「こちらで少々お待ちくださいませ」

「!」


 通された控え室には見覚えのある2人の女性が待機していた。


「アローネさん? それにリリアンさんも」

「お久しぶりですね。リョウマ様」

「お待ちしておりました。お元気そうで何よりです」


 ここで案内してくれたメイドさんの、お知り合いですか? という顔が2人へ向く。


「失礼しました。お2人には以前、大変お世話になったもので」

「そうでしたか。では私はこれで失礼いたします。何かございましたら、この2人にお申し付けくださいませ」


 案内役のメイドさんが立ち去り、少しホッとする。


「お飲み物はいかがですか?」

「お水、紅茶、果実水、軽めの物ですがお酒の用意もございます」

「私は果実水をいただけますかな」

「ワイは紅茶を」

「お水をお願いします」


 流石にこういう場に慣れたお2人は終始自然体だ。


「どうぞ」

「ありがとうございます…………ふぅ……」


 冷たくて、喉を通る感触が心地よい。


「何や、緊張しとるんか?」

「当たり前でしょう」


 ちょっと変だと自分でも思うけれど、公爵家の方々に会うのはそれほど不安も緊張もない。ただ、貴族の館を訪問するという経験は初めてだ。しかも偉そうに……とまでは言わないけれど、一応店のトップとして、ここではそれなりに堂々としていなければならない。


 とはいえ……前世は一介の会社員止まり。トップとしてはまだまだ新米の俺としては、内心落ち着かない部分もある。


 堂々と。しかし度を越えると当然の如く顰蹙を買うし……こういう事は基準が曖昧だから困る。礼の仕方とか座席の位置とか、角度や場所で明確に決められているものと違い、場の空気とか相手の性格や受け取り方にもよる。


 ……っていうか、人の態度を見て自信を持てだの何だのと言うくせに、改めようとすると生意気だとか謙虚さが足りないとか、最近調子に乗りすぎてると自分で思わないか? とか傲慢になったね? とか言ってくる人ってなんなんだろう? それをまた気をつけても今度は卑屈だの謙虚を通り越して嫌味だの、どうしたら満足するのか……


「リョウマ様? 大丈夫ですか?」


 っと、変な鬱憤が混ざってた。スーツ姿のせいかな?


「はい、ちょっと緊張していただけなので」

「ホンマか? 目が死んどったで」

「体調が悪いのでなければ構いませんが……あまり気を張らなくても大丈夫ですよ。何かあれば私やピオロがフォローしますし、それもここまで見ていて必要とは思いませんでしたから」


 さらにアローネさんやリリアンさんも、“十分落ち着いているように見えた”、“もっと落ち着かないお客様もいらっしゃる”と一言ずつ励ましてくださる。


 その心遣いがありがたい。頑張ろう。


 それから俺達はたわいもない話に花を咲かせた。


 気を紛らわせようとしてくれているのか、メイドのお二人も積極的に話に入ってくれる。


 むしろ話の中心は彼女達。俺とどうやって出会ったのか、別れた後はどうしていたのか、それから最近のニュースは同僚が結婚する事になった事など、様々な話で待ち時間を潰すのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうでしょうね。 セルジュの話にもありましたが、爵位貰った者だけが住んでるわけじゃなさそうです。つまり、それぞれの領地での経営者的な立場のものが、やはり商業的重心である公爵領の中心に、それな…
[一言] 貴族制度に関して貴族としての権力を有するのは当主だけで家族であっても準貴族となる為に扱いとしては平民と同じ扱いになりますね。  貴族の権威を振りかざす貴族の子供や妻は"虎の威を借る狐"でしか…
[気になる点] 王都以外の領地に多数の貴族が屋敷を構えて居るとの事ですので気になりました。  王都の様な国の中心となる場所であれば貴族街が有っても不思議では無いのですが、首都以外の一領地に多数の他貴族…
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