初めての家飲み
本日、5話同時投稿。
この話は5話目です。
「店主。あなた暗殺者、向いてるネ」
スライム達の協力を得て後始末を済ませると、不意にそう言われた。
「向いている、とは?」
「暗殺に必要な技能、いぱいある。強いにこしたことはないけれど、単純に強いだけダメネ」
暗殺に大切なのは、強さよりもそちらの方ということか。
「まだ店に妨害があった頃、店主は店に自分でつくた薬置いてた。毒と薬の知識あるネ? それも暗殺者にとて重要な事。さきはスライムつかて後始末した。殺した後の死体、服や武器についた血、そういうの処理するもとても重要。それに戦う前の歩き方、隠れ方、どれもよかた」
そこまで言ったところで、彼は何かに気づいた様子。
「間違えた。向いている、ではなくて店主は良い暗殺者なれると言いたかたよ」
「ああ……」
違った。単純に褒められていたようだ。
「だいぶこちらの言葉にも慣れたけど、時々間違えてしまうね」
「違う国の言葉を覚えるのは大変ですからね……」
俺も昔、海外の会社との取引をさせられた時期は語学の壁に阻まれて大変だった。
特に仕事と関係のない雑談がキツかった覚えがある。
そうだ、言葉と言えば……
「さっきの戦闘で使われた魔法、ジルマール帝国の魔法ですよね?」
「“ィエン”の事? 毒属性の魔法で“煙”という意味ヨ」
やはりこの国の『スモーク』と、言語以外は同じ魔法のようだ。
さらに聞くとフェイさんは毒と風の魔法を少しだけ使えるそうで、先ほどの煙幕を張って身を隠し、視界を奪った敵を煙の中で仕留めるのは彼の十八番らしい。
確かに死体を片付ける時に見た限り、煙の中でやられた4人は背後から鎧の隙間を通して急所を一突きに。あと最初の4人は木陰から、金属の艶を消した毒針の投擲。それで計8人を一撃で倒している。
……不謹慎だけど、その手のゲームの主人公かと思うくらい速やかに敵を無力化していた。
「さきは敵の注意を引きつけるため声出したけど、基本は魔法で声出さないね」
「無詠唱ですか」
無言で魔法を放つ技術……俺も暇を見て練習しているが、成功率が低い上に威力も大幅に下がるため、実戦ではまだ使えそうにない。コツを教えてもらえないだろうか……
「あっ、こんな所で立ち話もあれですね」
家がそこにあるんだから、いつまでも外にいる必要はない。
土魔法で崖を崩し、懐かしの我が家の入り口を開く。
「ほぅ……ここが店主の昔の家」
何やら感心しているフェイさんをつれて中へ。
「あぁ……懐かしい、けど埃っぽい……」
人の住まなくなった家は劣化が早いと言うけれど、ここは塞いでおいたからかそれほど変化はしていない。ほとんど出て行った時のままで懐かしさを強く感じるが、留守にした期間相応の埃が積もっている。どこからか入り込んだか、天井には蜘蛛が巣を作っていた。
まあこのくらいならスライム達に手伝ってもらえばすぐ終わる。
とりあえず一部屋さっと掃除して、休む部屋を確保。
「これでよし、っと」
床を見ればスティッキー、ポイズン、アシッド、ヒール、 スカベンジャー、そしてクリーナー……ここで一緒に暮らしていたスライム達は昔のことを覚えているのか、各々自分がよくいた場所を自由に這い回っている。
荒事の後ということもあってか、やけに穏やかに、まったりとしているように感じる……
食料は十分に持ってきたし、スライム達も今日はもうお腹いっぱいだろう。
俺達もゆっくりしよう。
飲み物と軽くつまめる物を用意して、改めて無詠唱について聞いてみる。
「無詠唱で魔法を使いたいなら、まず同じ魔法を使い続けることが一番。まず身の隠し方や武器の扱いから勉強して、次に毒や薬の扱いに慣れて。そうやて経験を積みながら練習も続ける。それからできるようになたよ。それまで魔法、暗殺にあまり使わなかた。薬や道具の方が優先ね。魔法は専門でないから、助言は難しいよ」
そうか……では毒や薬についてはどうだろう? というか、さっき使った毒針の毒とか、以前ゴロツキ騒動の時に使ってた自白剤とか、一体どこで調達してるのかが気になる。
「毒や薬は自分で調合するのが基本。材料は店主がお給料と休みをくれるから、街の店で買たり、外に取りに行たりしてるよ。私達は仕事柄色々な土地を渡り歩くから、どこにでもある植物を材料にした薬の知識が多かた。おかげでこの国でもある程度作れるヨ」
納得。しかし気になる点が1つ。
「フェイさん、業務に必要なものであれば、経費で落とせますよ?」
従業員が自腹を切らなくてもいい。と、伝えると。
「仕事に必要、ではなく、私達の腕を鈍らせないために作てるからね……」
フェイさんとしてはプライベートなトレーニング、あるいは趣味のようなものと判断していたようだ。
「……店の用心棒として実力を維持していただければ、店のためになります。僕は補助があってもいいはずだと思いますね。もしフェイさんやリーリンさんに、その手の知識を持っていることを秘密にしたい、というわけでなければ、帰ってからカルムさんと相談してみたいのですが」
「それは私達にとって得ね。知識と技術に関しては、衛生兵としての訓練を受けたという事にしておくいいね。私の国、戦争続きで薬はとても高い。普通の人は使えない。偽薬も多い。でも衛生兵ならちゃんとした知識持てるよ。もちろん警戒されることない仕事」
「承知しました」
やはり元暗殺者という経歴を前面に出すのは控えたいようだ。……当然といえば当然だろう。日本のフィクションには“忍ばない忍者”とか珍しくもないけど、本来暗殺者はそういう裏側の職業だと思うし。
ちなみに、前職に未練はないのだろうか?
「個人的にはずっとうちの店で働いて頂けると嬉しいですが」
「未練……ないとは言わないネ。私、長い間暗殺者やていた。たくさん訓練した。たくさん始末した。それ、忘れることできない。だけど国に帰ってまた仕事をしようとは思わない。私達は最後に一つ命令を受け取っているだから」
「……それ、話しても大丈夫なんですか?」
「平気。私達に降った最後の命令は、“領地の人間を安全な場所に逃がすこと”。だけど私達への命令には伝達方法とか色々な所に暗号が隠してあてね、文面通りに読んではいけない場合もあるヨ。最後の命令もそれ。本当の命令は“無駄死にせず、各自の判断で逃亡せよ”……あの時はもう戦の行方がほぼ決まっていて、自決の意味がなかたからね。組織の扱いも悪くなかたし、最後の最後まで私達に生きろと命令してくれる。ウィン家の主は良い人だたよ」
だから彼とリーリンさんは可能な限り人を助けつつ、国を脱出したのだそうだ。
「そしてリフォール王国にたどり着いたと」
「なんとか入国して、仕事のある場所を探してギムルまでやてきた。そしたらギルドマスターに一目でばれてしまてね……」
「ああ、グリシエーラさん……」
「最終的に間者でないこと、分かってもらえて仕事探しを手伝ってもらただけど、あの時は驚いたヨ。逃亡生活を覚悟した」
やっぱりあの人ただものじゃないよなぁ……
「では、とにかく当分やめる気はない、ということでよろしいですか?」
「これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
それに森の中から、本当に遠慮のない質問に答えていただいたことにもお礼を言っておく。
「そろそろ夕食時ですし、ついでと言ってはなんですが『アイテムボックス』……お嫌いでなければ一杯いかがです?」
「悪くないネ」
腹を割って話した流れのままお酒に誘ってみると、乗り気な答えが返ってきた。
なんだかんだで店の人とお酒を飲むのは初めてだ。
皆さんの予定に問題なければ、年末は忘年会でも開こうかな……