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閑話 貴族の裏話

本日、5話同時投稿。

この話は3話目です。

 ~Side ???~


 竜馬が将来を考えている頃……


「これで今日の予定は済んだね?」

「はい、お疲れ様でした」

「お食事になさいますか? それともお風呂を?」

「……どうしようか、エリーゼ。君に任せるよ」

「私は……お風呂はゆっくり入りたいわ。お食事を先にしましょう」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 高級感がありながら落ち着いた雰囲気の調度品で統一された、豪華な室内からメイドが出て行く。それを見送ったラインハルトとエリーゼの公爵夫妻は、


「「はぁ……」」


 口から深いため息を吐く。

 彼らは連日の仕事と訪問者の対応に疲れていた。


「全く……毎年のことではあるけど、もう少しどうにかならないものか」

「本当にね……せめて挨拶に来る方々だけならもっと楽なのに……」


 それが自らの職務であると理解していても、彼らは人間なのだ。疲れるものは疲れる。

 他に誰もいない室内とあって、2人はそれを隠そうともせず、積み重ねられた書類の山を眺める。


「この陳情書。どれくらい本当だと思う?」

「さぁ……7割くらい、あってほしいわね」

「まったく困ったもんだ……」


 それらは全て付き合いのある貴族からの陳情、主に“借金の申し込み”である。


「少なくともこれは怪しいと思うわよ」

「どれ? ……ああ、これか。本当に欲しいのは見栄を張るためのお金だろうに……」

「この申し入れも何度目かしら。その割にお金使いが荒いのよね。この人」


 貴族にとってこれから先は大切な社交シーズン。彼らは顔つなぎや親交を深めるために毎晩こぞってパーティーを開く。そこで恥をかかぬよう、彼らはその準備に大金を投じている。


 その負担は決して軽いものではなく、社交シーズン以外は極力一般市民と同じかそれ以上の倹約生活を強いられている家も珍しくはない。出世を急ぐあまりに金の使い方を誤り、破産する家が数年に一度は出るほどだ。


 そして年末の社交シーズンを目前にした今は、財政が安定している家へ密かに借金を申し込む貴族が増える時期でもある。


「これは却下……と言いたいところだけど」


 ラインハルトは判断を保留とした。安易に切り捨てられない理由があるのだ。


「他もほとんど魔獣に対する防衛費用とか、魔獣の被害を理由にしてるわね」

「面倒な口実を手に入れられたなぁ……」


 本当に魔獣の被害を受け、街や民を守るための費用が嵩んだのであれば一考の余地はある。特に配下の貴族がやむなく借財を頼んでいるならば、扱いには注意が必要だ。

 下手な扱いをすれば、貴族の間で様々な悪評が広まる可能性がある。

 後々の禍根や関係悪化の種にもなりかねない。


 公爵家には身分相応の権力があるとはいえ、角を立てても利益はない。

 加えて厄介な事にここ数年、国内全域では魔獣の増加と活性化の傾向が確認されている。


 よって陳情書の訴えを一概にただの口実と断ずるわけにもいかず、まず情報を集め慎重に判断する必要があった。


「そういえばリョウマ君がもうじき来るね」

「急にどうしたの?」

「魔獣が増え始めたのが3年前だろう? そう考えたら、彼が森に住み始めたと話していたのもそのくらいじゃないかなと。ふと思っただけさ」

「そう言われればそうかもしれないわね。……あの子、故郷からよく外に出てこられたわよね……」

「確かに。あの魔獣の巣窟に里帰りして様子を見るつもりらしいけど、大丈夫なんだろうか? いや、元々魔獣の巣窟だから関係ないのかな?」

「報告を聞く限りでは街でうまくやれているようだし、わざわざ危険なことをしなくてもいいと思うのだけれど……」

「僕も危険なことをしてほしくはないけど、彼の生き方は彼が決めることさ。あの子も男の子だし、それ相応の実力は持っていると見て間違いなさそうだし」

「それは分かってるわよ。でも心配なんだもの。それにエリアも学校へ行っちゃったから寂しいじゃない」


 妻の言葉にラインハルトは苦笑した。


「大丈夫だよ。リョウマ君はしっかりしてるし、味方になってくれる人もいる。それにエリアだって、リョウマ君のおかげで良い友達ができたらしいじゃないか」

「……そうよね、あの子たちもいつまでも子供じゃないものね……でも気持ちは変わらないのよ~。お義父様がいれば、ちょっとお願いして様子を見に行きたいくらいだもの」


 その一言でラインハルトは顔色を変える。


「やめてくれ、頼むから君までいなくならないでくれ。仕事が滞るから……父さんもせめてセバスをここに残してくれればまだ楽なのに、連れて行くんだものなぁ……」

「ふふっ。エリアも学校に行ったことだ、お前もそろそろ手助けはいらんだろう。だったわね。あっという間に飛び去るんだもの、ビックリしたわ」

「うまく逃げられたよ、まったく……」


 ふとした言葉が家族の話題へと繋がり、次第に雰囲気は穏やかなものへと変わっていく。


 ここで先ほど退出したメイドが戻ってきた。


「お食事の用意が整いました」

「分かった。すぐに行こう」

「……何かございましたか? お二人とも、先ほどより顔色がよろしいようですが」

「たあいもない話をして、少しだけ落ち着けたのよ」

「そうそう……近いうちに挨拶に来る客を泊めたい。客室の用意を頼むよ」

「かしこまりました」

「それから例の件の準備も。時期的に色々と重なるから大変だろうけど」

「ご安心ください。そちらも抜かりなく。我々としても、同僚の大事ですから」


 力強いメイドの返答に満足して2人は食堂へと歩き始め……ようとした時。


「旦那様」


 また別のメイドが二人の元を訪れる。その手には一通の手紙。


「……その手に持っている物は?」

「つい先ほど届いたそうです」

「誰からだ?」


 封筒の差出人を確認するラインハルト。その顔は一瞬にして憮然としたものに変わる。


「また追加だ」

「……本当に、エリアの様子を見に行きたくなってきたわ」

「我慢してくれ。とりあえず今は食事をとろう」


 父と有能な執事という戦力に、娘という癒しの旅立ちを見送った2人。

 彼らの苦労は当分続く……

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