盗賊の本音
本日、3話同時投稿。
この話は2話目です。
信じ難いものを見るような目を向けられる。
「何言ってんだよ」
「本当に死んじまうぞ!?」
「あなた方にどんな事情があるのか知りませんが、少なくとも今のあなた方は盗賊でしょう? 殺されても文句の言えない立場のはずです。私も理由なく殺す気はないと言いましたけど、反抗的で逃走を試みるなら、無理に生かしておく理由もありません」
盗賊の討伐は原則として殲滅。生け捕りにすると報酬が増えたりもするが、義務ではない。特に今回のような、予定に無い場合には自分の命が最優先だ。
「聞きたいことはありますが……話してくれるんですよね?」
「は、はいぃ!! もちろんです! 何でもしゃべります! 死ぬのは嫌です!」
一人は相変わらず素直なまま。
「というわけで、他は1人くらい目減りしても問題はありませんね」
「ふ、ふざけんなよ!?」
「そんな簡単に、何で殺せるんだよ!?」
「あんたら盗賊に言われたくないな。あの剣だって人を殺して奪ったんだろ」
そう言った瞬間、とうとう意識を失ったようで、苦しんでいた男が倒れこむ。
……脅しはこれくらいでいいか。
「まぁ警告し忘れた落ち度もありますし、今回は許しましょう」
首輪担当のスライムへ、少し大きくなるよう指示を出す。
「お、おい……」
「生きてるのか?」
「さぁ?」
「さぁ、ってお前……」
「胸が動いてるから生きてるんじゃないですか? 死んでたら、その時はその時です」
わざわざ近づいて生死確認まではしない。その隙に殴りかかられても面倒だ。
「それに人体は血、肉、骨、内臓。私の従魔が好む部位が揃っているので。亡くなった命を無駄にはしませんから、そこだけはご安心ください」
「「「……」」」
意識のある男達が一斉に身を震わせた。
俺も自分で言っててなんだけど、自分が死んでから大切にされても遅いよね。俺はこっちで生き直してるけど、地球の体がどうなったかとか一切分からないし……
「とにかく暴れなければいい話です。抵抗せずに私の言うことを聞いてください。そうすれば殺しはしません」
ようやく静かになったところで、剣について聞く。
「私は行方不明になっている人を探しています。その人は上の峠道を使っていて、荷馬車に武器を積んでケレバンに向かっていました。そしてあなた方が持っていた剣、どれも同じ作りでしかも新しいですね。ちらっと確認しましたが、あの木箱の中身も金属らしい。
率直に聞きますが、あなた達が襲ったのでは?」
「は、はい! 俺らの剣はこの前奪ったやつです、箱の中身も。名前は知らねぇし、顔もよく覚えてませんけど、たぶんそいつかと……場所も上なのはあってます」
やっぱりか。
「どうやって襲った? 聞き込みをしたら、この道を使ったことだけは分かった。けど誰もおかしなことはなかったと話していたが」
「その、足止めをして積荷だけ奪うつもりが射掛けた矢が馬に当たって暴れて、そのまま道を外れて傾斜を一気に転がって……俺らは襲った跡を隠す仕事をよくやらされてたんで、車輪の跡を消したり、馬車が突っ込んだ崖の草を茂らせたりしてから、金目の物を持てるだけ持って逃げました」
「……御者は?」
「わかりません……」
分からない? そんなはずがあるか。馬車が無人で走っていたわけでもないだろう。
「包み隠さず全部話せ。殺したんじゃないのか?」
「違う! いや、それは違います! 転がり落ちた時にもう気を失ってたから手足を縛って、そこのぜんぜん起きない奴が魔法で成長させた草の下に。あとは荷物だけ盗んでおさらばしたんだ。だから後のことは知らない! 本当なんだ!」
「……とどめを刺さなかったのか?」
隠蔽工作までしておいて、被害者が訴え出たら全く意味がない。
心証を良くしようと嘘をついているのではないか、疑わしく思える。
「刺してない! だいたい俺達は最初から殺すつもりはなくて、荷物と食料ぶんどって逃げるつもりだったんだ! 道から転げ落とすつもりもなかった! だから御者は、つーか俺は誰も殺したことねぇよ!」
「は?」
誰も殺したことがない?
「盗賊だよな?」
「俺らは後始末とか雑用係だったんだよ、現場でヘマされないようにとカシラが……だから直接人を襲ったのは初めてだ。俺だけじゃなくて、強がってるそいつらも殺しはしたことない。精々空き巣かスリくらいで……」
「つまり怖気づいた、って事か?」
全体に目を向けると、さっきまで噛み付いていた男の1人が睨むような目で見てくる。
「そりゃ俺達は盗賊の仲間だったけどさ……人殺しが怖くて悪いのかよッ! テメェやカシラみてぇにあっさり人殺すなんてできなかったんだよッ!」
今となっては虚勢にしか見えないが……
「ふざけるな」
彼らの言い分を聞いていて、頭の中が冷えていくのを感じた。
「人殺しが怖くて悪いか? 悪くないよ。それは真っ当な感情だろ。だけどそれをお前らが言うなよ」
こいつらは何を言ってるんだろうか?
「人を殺すのが怖かったから止めを刺さなかった? だけどお前ら、その後別に助けたわけじゃないんだろ?」
「だからなんだよ。街まで連れてけってのかよ?」
「気絶した原因は調べたのか? 医学知識がなくたって、頭を強く打ったらヤバイって事くらい知ってるだろ。外側が無事でも中がどうなってるか分からない。下手すりゃ気絶したまま死ぬんだよ」
それだけじゃない。ここらへんの地域は危険な生き物は少ないけど、ゴブリンなんかはどこで遭遇してもおかしくない。“比較的安全”と神々に保障されたガナの森にもいた。気絶した上に手足まで縛って、そんな状態で見つかれば間違いなく嬲り殺しにされる。
「さっきも言ったが、その人はまだ見つかってないし無事も確認できてない。崖から落とすつもりはなかった? とどめを刺してないから殺してない? ふざけんなよ」
事故で人が亡くなる例は沢山ある。
交通事故に限らず、子供が無邪気に危険な遊びに手を出して死亡する事故だってある。
世界中で、毎年多くの人が亡くなっている。
だけどその加害者は“よし、やってやるぞ!”なんて覚悟を決めて事故を起こすのか?
そんな奴はいないだろう。もしいたら、それは事故ではなく故意の殺人だ。
人を殺すのに覚悟は要らない。
ただそのための行動が伴っていれば、意思が無くても十分に人を死に至らしめてしまう。
それを明確に“強盗”という理由で行使しておいて、結果1人を死んでもおかしくない状況に落とす。
その上で無事を確認せず放置。そこまでやって“自分は殺してない”は無いだろう。
「「「……」」」
「また黙り込むか。さっきまでの威勢はどうした」
「……説教かよ。ガキに何が分かるんだよ……」
説教? そんなんじゃない。
「自分は殺してない。人は殺したくない。……人1人をわざと見殺しにしたかもしれない奴らが、そんな事を平然と言ってる姿が気に食わなかっただけだ」
……こんな奴らの相手をしている暇も無いな。
「ちょっ!? 待ってくれ! 俺は助けてくれるんじゃないのかよ!?」
「……殺さないよ、気に入らないけど。代わりにお前は馬車を落とした場所に案内しろ」
72時間。地球では遭難からそれを超えると生存率が著しく下がるとされていた。それも食料、飲料水、保温の手段がある状態で。それらが無ければ、怪我の有無によってはさらにタイムリミットまでの時間が短くなる。
「『ディメンションホーム』他の奴も殺しはしない。代わりにしばらくこの中に入っていてもらう。次に出るときはどこかの街の詰め所の前だ」
結局一度も目を覚まさなかった1人を抱え上げながら宣告し、拘留のために動き始める。
「こっちで良いんだな!?」
「はいっ! 間違いありません坊ちゃま!」
「……その坊ちゃまってのやめろ、気持ち悪い」
「失礼しましたっ!!」
恐縮した男を即席の背負子に座らせて、道なき道を上へ上へと登っていく。
男に道案内をするよう命じたところ、犯行現場はやはりケレバンの街に近い方の道。
しかし数日間山中を歩き回っていたため、一度道に出ないと案内できないらしい。
仕方なく犯行現場への直行は諦め、まず道へ出ることを第一とする。
リムールバードが先行してくれているおかげで迷うことはない。
「……聞きたいことができたんだが」
「はい! なんなりと!」
「襲ったのは2日前だよな? どうしてまだあんな所にいたんだ? 普通さっさと逃げるんじゃないのか?」
「それは一度山を降りたら草原で、身を隠すところがなくて。さすがにこの格好で人に会うと怪しまれるんで、仕方なく山に戻りました……」
「なら、もし今回捕まらなかったらどうする気だったんだ?」
「特に……」
「……無計画かよ」
「討伐隊から逃げるだけで精一杯だったんで……」
「そんな無計画でこれまでどうしてた」
「討伐隊が来る前は雑用で食料を運んでて。逃げる時に持ったままだったから、それで食いつなぎながら逃げてここまで。ただそれも3日前に尽きちまって、誰か襲うしかないって話に」
それで偶然通りかかったペドロさんに狙いを定めたのか。
「積荷を持って行ったのは?」
「討伐されたカシラはどこかの商人とつるんでまして、奪った品物や金で食料や武器を調達してたんすよ。だから持ってれば役に立つかと」
「……なぁ、それ売りさばく相手に心当たりあったのか?」
「……もしチャンスが来た時に何もなければ困ると思って」
無いのかよ!
「無計画すぎるわ、色々と」
俺も気分で動くことが多い方だと思うけど。それでもここまで無計画じゃない。
「そんなんでよく盗賊やってこれたな」
「俺は雑用ですから。カシラか誰かの指示に従ってれば、なんとか……掃除や洗濯くらいなら故郷の村でもやってましたし」
……盗賊やるより故郷に帰った方が良いと思うが、それができない理由でもあるのか?
「ええ、まぁ……村長ぶん殴って追い出されたんで……」
「それから盗賊に?」
「一旦は街の店で下働きをしたり、冒険者やってたことも……まぁ、どれも失敗ばかりで長続きしませんでしたけどね。食うにも困ってなんとなく盗賊に行き着いたってか……」
「他のやつらもか?」
「似たようなもんでしょ。とにかく行き当たりばったりで。だいたいあれこれ考える頭があったら、最初から盗賊なんてやってねーよ。……あ、いや、ないです! すんません!」
「別に丁寧な言葉遣いまでは求めてない」
自嘲気味で、つい出てしまった感じの声だった。
それ以降は会話はなく、黙々と山の道なき道を上り続けていると……
「ピロロロッ」
「おい、道に出たぞ。どっちに行けばいい?」
「ちょっと待った……こんな高い所じゃない、もっと麓の方です」
「ってことは左か。これから道なりに進む。それらしい場所に着いたらすぐ教えろ」
「はい」
先に着いて待っていたリムールバードを伴い、さらに歩くこと1時間。
「? 待った!」
「ここか?」
「たぶん。ちょっと後ろも見せてほしいです」
「これでいいか?」
「あ、はい……この先。道が少し右に曲がってく所です」
さらに進むと道が蛇行し、木々に隠されて遠目からでは死角になる部分があった。
そして事情を知らなければ気にも留めない程度に、雑草が生い茂っている区画がある。
その裏は……なかなかの急勾配。
「ここか」
「間違いねぇ」
男をおろして近くの木にロープを巻き、下に降りる用意を整える。
「……どうした?」
「……生きてるのかと思って」
今更だが、罪悪感に苛まれている様だ。
「それを確かめに行くんだ。ここで待つか?」
「……案内があるほうが早く見つかる」
「よし。これ持て」
ロープを手渡し、その端を手枷担当のスライムに固定。同時に手枷と首輪以外の拘束を取り除くように指示を出す。
「遺体を回収するにも、救助するにも、背負ってたら邪魔だから自分の足で降りろ。もう歩けるようにした。首輪だけじゃなくて鳥の従魔にも監視させてるから、下手な真似はするなよ」
「お、おう……」
おっかなびっくり立ち上がる男を一瞥し、急勾配を下っていく。
行方不明者が見つかるのは、それから間もなくの事だった。
わざわざ案内人を連れてきたおかげで、発見は難しくなかった。
体を覆い隠す雑草を掻き分けては切り落としていくと……
「ペドロさん! 聞こえますか!」
「……ぉ……ぁ……」
まだ息があった!
「私は冒険者です! 今助けます! 安心してください!」
「……ぼう……しゃ……? よか……」
声をかけ続けながら、体に絡みついた雑草を取り除く手を早める。しかしペドロさんへの負担がかからないように。
「大丈夫ですか? 自分の体の状態が分かりますか?」
「こし、が……いてぇ……」
「腰」
顔の部分が露出して、くぐもった声が聞き取りやすくなる。しかしその顔には大粒の汗が流れている。
「失礼します」
熱が高い。それに脱水症状。だいぶ体力を消耗しているようだ。幸い受け答えができているけど、早く街に運んで治療を受けさせなければ……
「おい! こっちに来い!」
「はい!」
自分が殺しかけた相手を前にして近づけずにいた男を呼び寄せ、アイテムボックスから石のすいのみと瓶を手渡す。
「この瓶の中身を彼に飲ませろ。無理のないように少しずつ、そっとだ。いいな?」
「は、はい……」
男がおずおずと、塩と砂糖を加えた水を飲ませている横で作業を継続。
「うぐっ!? ゴホッ!」
「だ、大丈夫か!?」
「ペドロさん」
「う……腰が……」
「腰ですね。頭とかは痛くないですか?」
「頭は、平気だ……べつに、何も……」
水を飲んだからか声がはっきりしてきた。しかし体も震えてきている。
「毛布……あった。毛布かけますね」
……これまで彼を隠していた雑草は、奇しくも彼を冷たい夜風から保護していたようだ。
「……よし」
全身に絡んだ草は断ち切った。あとはアイテムボックスから担架を出して……
「色々持ってるんだな……」
「依頼を受けて来たんだ。使いそうな物は用意してくるさ。そんな事よりこの人をこの上に移す。手を解放するから手伝え」
「ああ……」
馬車ごと転落。その後気絶していた点を考えると、頭なども打っている可能性がある。そっと担架に乗せて、さらに全身を固定。
「『ディメンションホーム』……そっちを持って、そっと中へ」
「分かった……」
ペドロさんはできるだけ揺らさずに運ぶことが望ましい。となればこの中に入れて行くのが最適だ。
「な、ぁ……」
「どうされました?」
「あ、りがとう、なぁ……兄ちゃん達……」
「ッ!!」
……
彼はこの男の事を覚えていないのか、それとも分かっていてなのか。感謝の言葉を口にした。対してそれが自分への言葉でもある、と理解した男は顔をそむけてしまう。
「行くぞ」
胸中に葛藤はあるかもしれない。しかし感傷に浸って手を止めることは許されない。今は一刻も早く彼を街へ運び、治療をする必要がある。
「……なっ!? 待てよおい!」
「大人しくしてれば殺さないんじゃなかったのかよ!?」
「殺しはしないが状況が変わった。これまで以上に、身動きすらできないよう徹底的に拘束させてもらう」
先に捕まえていた男達をスライムに埋めて、最寄りの街へとひた走った。




