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従魔達の活躍

本日、3話同時投稿。

この話は1話目です。

「盗賊だろうな」


 人を見る目にそれほど自信があるわけではないけれど、ガナの森で盗賊を見た経験はある。それも一度や二度ではなく、それなりの回数と人数を見てきた。


 リムールバードの視界に映る男たちの姿は、揃いも揃って髭や髪が伸び放題。何日も水浴びすらしていなさそうな汚れ方。一般人が気軽に立ち入るような場所ではないし、木こりか何かの職に就いているとしても、もう少しまともな格好をするはずだ。少なくとも不審者である事は間違いなさそう。


「下っ端っぽいな……」


 視界に映る男達は5人。なのに3人分にも足りない防具を分け合ったかのような装備。武器や防具は、装備しないと意味がないぞ!


……などとRPGではよく言われるが、野山に潜む盗賊はそもそも満足な装備を持っていないことも珍しくはない。立場が上の奴に良い装備を持っていかれ、最後に残り物を身に着ける。供給不足の盗賊団の下っ端によくいるタイプだと思う。しかし武器だけは同じ新品同然の剣を全員が携えているようだ……これは明らかにおかしい。


「どう見ても良い武器を与えてもらえるような熟練者ではない……」


 満身創痍。注意力散漫。周囲への警戒も甘く、リムールバードの目に気づく様子もない。仲間同士で喋る様子もないし、なんだか途方にくれているようだ。


 貧相な装備には不釣合いな、統一された新品の“剣”。

 ぺドロさんが運んでいた積荷も、鍛冶職人の依頼主が打った“剣”。


「……手遅れかもな……」


 高確率で何かは知っているだろう。そう思う反面、最悪の結果を想像してしまう。


 とにかく情報がほしい。そのためには生け捕りにする必要がある……


 戦闘準備。さらに万が一盗賊でなかった場合に備えて、平謝りと賠償の準備。


 全部整えたら宿はキャンセルだ。














 スライムと特製ロープを活用し、体力に任せて一直線に森を突き進むこと1時間。道なき道を進んだために多少時間がかかったが、監視を行ってくれているリムールバード達にだいぶ近づいた。


 休憩がてら、視界を共有。


「……寝てるのか」


 見張りに2人を残して、後はぐっすり眠っているようだ。まだこちらの動きを悟られている様子もない。しかし周囲を見たところ、弓を使うには山の木々が密集しすぎている。いつもの麻痺毒矢を使うには場所が悪い。


 足場も決して良いとは言えないし、


「今回は徹底的に頼らせてもらおう」







『クケーッ! クケーッ!! クケーッ!!!』

「なぁっ!? あぁあああっ!?」

「頭が、あたまがぁっ!?」

「ひぃいい!!」

「やめろーーっ! 消えろっ!」

「あ、う……ぁ……」


 うわぁ……


「改めて見るとすごい威力」


 滅多に使わないから忘れがちだけど、アインス……ナイトメアリムールバードは闇魔法で広範囲に精神攻撃ができる。契約前には周囲を大混乱に陥れた実績があるし、制圧の助けになってくれると信じていた。


 実際は助けどころか、錯乱した上にそのまま気絶までさせてしまったが……とりあえず確保。


「頼む」


 刀と鞘から、各9匹のアイアンスライムとメタルスライムが分離。スライム達は3匹ずつに分かれ、男達の手足、そして首元にまとわりつく。反撃を警戒しつつ、男達の手足を揃える手助けをしてやれば、スライム達は金属の手枷・足枷・首輪へと早代わり。


 男達が完全に拘束されていることを確認した後は、スライム達の食欲(・・)を金属探知機代わりに利用して、武装解除を済ませてから適当な木の根元へ立てかける。


「グエッ!」

「っ……!? なんっ!? どうなってんだ?! おいっ! ……子供?」


 適当に運んだ衝撃で、3人が意識を取り戻す。

 最初は状況を理解できずに困惑していたが、自分が拘束されていることに気づいてからは早かった。


「おい! テメェの仕業か! 外せコラァ!」

「ゴホッ、俺らを毒蜘蛛党と知っててやってんのか!?」

「毒蜘蛛党? ……それって確か、この前討伐された盗賊じゃないですか?」

「「……」」


 カマをかけたら瞬時に悔しそうな顔になった。どうやら図星のようだ。


 ……とりあえず盗賊で良かった。平謝りの準備はもういらないだろう。


「あとそっちの人、起きてるの分かってますよ」

「……へへへ」


 横一列に並べた男5人。突っかかっていたのは最後に並べた右の2人。最初に運んだ左端の男は2人の声で目を覚ましたが、下手な狸寝入りを続けていたのですぐに分かった。男は怒鳴るでもなく。逃げようとするでもなく。ただ気まずそうに軽薄な愛想笑いをしている。


「オイ! お前もなんとか言えよ!?」

「テメェ一人だけ逃げようとしてやがったな!?」


 しかも勝手に仲間割れを始めた。さらにその声でまた一人目を覚まし、そのまま言い争いに加わる。


 こいつら、まとまりがないな……時間がもったいない。


「『アースフェンス』」

「なっ!?」

「ヒィ!?」

「うっ……!」

「ッ、何のつもりだァ!」


 言い争う3人へ向けて、斜めに飛び出した幅広い石の柵。攻撃魔法を元に開発した名残の鋭い先端が眼前で止まり、体を固めた男達の注意は否応なくこちらへ向く。


「仲間割れは後にしてもらいたい。こちらには聞きたいことがあるので。あなた方のリーダーは?」

「「「俺だ!」」」

「……誰だよ」

「俺だって言ってるだろ!」

「ふざけんな! 誰がテメェの下についたって!?」

「はんっ! お前らがリーダーとか馬鹿言うなよな」

「あの~、坊ちゃま? 俺らのカシラはその、知っての通り討伐されちまって、へへ……」


 一番左の愛想笑い男がおずおずと口にする。機嫌をとろうとしているようで、声が気持ち悪い。だけどこいつが一番話せそうだ。


「少し聞きたいことがある」

「あぁん!?」

「こんな事してただで済むと思うなよ!」

「今ならまだ許してやるから外せコラ!」

「何でも話します!」


 ……一人だけ、やけに素直な奴がいる。


 何こいつ、何か企んでないか疑うくらい素直なんだけど。


「何言ってんだてめぇ!」

「馬鹿野郎! こういう時は交渉だろ!」

「甘っちょろいこと言ってんじゃねぇよ!」


 当然のごとくお仲間は罵声を浴びせ始める。


「うるせーよ!! もう俺達は捕まってるんだよ! 今更何言ったって遅いんだよ! 坊ちゃま! 俺は何でも喋るんで命だけは! 他の奴らはどうなってもいいから! 俺だけは助けてください!」


 今度はやけくそ気味に仲間を売った……


「「「ふざけんなクソ野郎!!」」」


 男の発言で仲間割れがさらに燃え上がる。


 聞くに堪えない罵り合いを前にして、そっとアインスにお願い。


「クケーッ!」

「「「「!!」」」」


 一鳴きだけでも閉口させるだけの威力。静かになったところで話を先に進めたい。


「質問するので答えてください。言っておきますが、あなた方の手足を封じているのは私の従魔です。普通の拘束具のように鍵穴なんてありませんから、私の指示がなければ外れません」


 盗賊討伐を念頭に置いた、新しい金属系スライムの活用法。この状態で俺から逃げ出せたとしても、スライムがついていれば従魔契約の効果で位置や方角はまるわかり。追跡は容易だ。しかも物理攻撃耐性のおかげで強度もかなりのもの。力づくで取り外すのは俺でも難しい。


「ガキがいい気になってんじゃねぇよ。従魔がどうだか知らねぇが、こんなの使ってる時点で甘いんだよ! どうせ俺らを殺す気なんかねぇんだろ。あぁ?」

「無意味に殺すつもりはありませんが、必要であれば殺しますよ」

「ハッ! その気がないのが丸わかりだぜ?」

「そんなんじゃガキでもビビらねーよ」


 どうやら本気で殺されることはないと思っているようで、男達は調子に乗り始めた。


 威嚇スキルはどこ行ったんだろう……威嚇スキル様、至急お戻りくださいませ~……何考えてんだ俺は。


「おい、もう一度言ってやる。さっさと俺らを自由にしやがれ。そうしたら命は助けてやる」

「……そっちの男も言ってたけど、状況分かってます?」


 実力を隠しているわけでもなさそうだし、秘策があるようにも見えない。周囲はリムールバードに警戒を任せているが、伏兵がいる様子もない。何でこの状況でそんなに大きく出られるのかが分からんよ。


「そもそも、自由になってあなた方はどうするんですか? 自首しますか? 心を入れ替えて真面目に働くとでも?」


 散々噛み付いてきて、この質問には口をつぐむ男達。


 仮に反省の気持ちを語られたところで、それを信用できる証拠は何もない。このまま開放しても彼らは盗賊行為を繰り返すだろう。少なくとも俺はそう考えて行動する。


「あなた方をこのまま野に放てば、新しい被害者を生むかもしれない。……確かにあなた方をむやみに殺したいとは思いませんが、そこまで無責任な真似をするつもりはありませんよ」


 捕まえた以上はどこかの街の詰所に突き出す。これ以上の被害者は出させない。抵抗するなら……それが捕まえた人間の責任だろう。


「チッ! ガキがかっこつけやがって」

「調子乗ってんじゃねぇぞ。よく見りゃ良い服に、良い武器に、良い鎧。従魔に魔法、金も持ってそうじゃねぇか。身包み剥いで売り飛ばせば、いい金になりそうだ」

「金持ちか。金持ちは嫌いなんだよ……何の苦労も無く食って遊んで、貧乏人を見下しやがって。……こんなものッ!」


 恨み辛みを込めて呟いた男が、自分の首輪に手をかけた。


 それはダメだ、


「うっ……な、なんだ、この首、わ……」

「お、おい! どうした!?」

「なん、か、きつ、く……」

「言い忘れましたが、その首輪の従魔には内側が肌に接するよう命令してあります」


 力任せに外そうとして引っ張ることは簡単だ。しかしそれによって生まれた隙間は、“肌に接するよう命令を受けている”スライムが、すぐに変形させた体を流し込んで埋めてしまう。だから隙間を作る時点で首にかけた圧迫がそのまま残ってしまう。


「あとは緊急時に備えて着用者が激しく暴れた場合、無許可で私から一定以上離れた場合、私に攻撃を加えた場合。その首を絞めるように指示してあります。もちろん私からの指示で絞め殺させることも可能です」


 スライムは非力だけれど、一定時間正確に頸動脈を圧迫できれば人間を死に至らしめることは可能。ファンタジー系のラノベじゃ定番といってもいい、“奴隷の首輪”のような物になっている。もっとも今回は完全に自分で自分の首を絞めた形だけれど。


「説明なんかいらねぇよ!」

「早くやめさせろ!」


 首が絞まり、苦しくなる。

 苦しみから逃れるためにまた隙間を作り、結果としてさらに首が絞まる。

 それを繰り返した男には既に声を出す余裕もなく。

 しかし中途半端な圧迫で意識を失うこともできずにいる。


「なに黙って見てんだよ!?」

「死んじまうぞ!?」


 ここに来てようやく命の危険を感じたようで、表情に焦りの色を浮かべてわめく男達。


 自分の言いたい事だけを感情的に叫び、なんとなく前世の上司を思い出させる彼らへ……


「……だから?」


 俺は突き放すような一言を返した。

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