捜索依頼
本日、5話同時投稿。
この話は2話目です。
「リョウマくん!」
冒険者ギルドに顔を出すと、いきなり受付に呼ばれた。
「ちょうど良かったわ」
「こんにちは、メイリーンさん。何かありましたか?」
「ギルドの連絡網で、“ラトイン湖”周辺の街にあるギルドから、マッドサラマンダーに関する通達があったの」
マッドサラマンダー! 戦いたかった魔獣の一種だ。
「ラトイン湖には毎年マッドサラマンダーが冬眠前の餌を食べに来るそうで、これが湖の漁業関係者の間では色々と問題の原因になるの。特に小さな漁村では死活問題になりかねない時もあるそうよ」
ラトイン湖といえば、以前ブラッディースライムを譲っていただいた方々の地元だったはず。
「シクムという村がある所もですか」
「マッドサラマンダーはラトイン湖全域に現れるそうだから、シクムも例外じゃないわね。とにかく守らなきゃいけない場所が多いし、討伐するにも人数が必要なの。だからマッドサラマンダーの討伐依頼や村の防衛に協力してくれる冒険者が募集されているわ。討伐からちょっとしたお手伝いみたいな依頼もあるみたいだし、もしよければ行ってみたら?」
是非とも行きたい。でもその依頼が出るのはいつ頃だろうか?
「2ヶ月後ぐらいが一番被害が出る時期らしいから、そのくらいに行けばいいと思うけど。何か用事があるの?」
「2ヶ月後なら大丈夫です。用事があるのは来月だったので、ありがたく行かせていただきます」
「良かった。じゃあ、今日は何かお仕事する?」
そうだった。
「先ほど商業ギルドのギルドマスターから聞いたのですが……なんでも盗賊の残党らしき不審人物の集団が、ギムルの方へ流れて来ているかもしれないとか。その他、盗賊に関する情報や依頼はありますか?」
「そっか、リョウマ君はもう許可が出たのよね。ちょっと待って」
彼女はカウンターの下から羊皮紙の束を取り出した。
「最近の盗賊関連の情報なら2つあるわ。1つはリョウマ君が聞いた件。もう1つはそれと関係が疑われる盗賊団の件。でもこの盗賊団はガウナゴの街付近で討伐されたみたいだから、もう依頼はないわね。不審人物の方もまだ盗賊と確定したわけじゃないし、居場所もはっきりしないから」
まだ注意の段階のようだ。それなら今日はまた薬作りでもしようか……
「あの~……」
ん? 誰かと思えば、有能新人のパエナさんか。相変わらず気弱そうな方だ。
「リョウマ君ごめんなさい、ちょっと待ってね」
「お話し中すみません!」
「いえいえ、どうぞどうぞ」
「彼もこう言ってくれてるし、何かしら?」
「お仕事を依頼したいという方がいて……」
やや声を潜めて会話する2人からなんとなく視線を逸らすと、人気の少ないギルドの様子が目に映る。
……ほとんどお休みの人かな?
この時間帯にいる人は大抵ぼんやり掲示板を見ているか、もしくは近くの冒険者とたわいもない話をしているようだ……ん?
カウンターの端からひげ面の男性が歩いてくる。背丈からしてドワーフだろう。
「坊主、すまんがちょいとどいてくれ。お嬢ちゃん!」
男性は俺のカウンターまでやってきて、中にいたパエナさんに呼びかける。
「はい、あっ! ダメですよぉ! ちゃんと対応しますので、元の場所でお待ちください」
「すまん。だがワシが直接話した方が早いだろう。ワシは一刻も早くペドロを探してほしいんだ」
どうやら、誰かがいなくなったようだ……
突然やってきて頭を下げた男性を見て、複雑な顔のメイリーンさんが前へ出る。
「ガッツ様ですね? 申し訳ありませんが、こちらの依頼は提示していただいた依頼料では……」
「無理を言っとる自覚はある。だが、今すぐに出せる金はそれだけなんだ。だがペドロを見つければ運んでいた荷もあるはず。それを捌けば、追加報酬も出せる。そうでなくても時間さえあれば金は用意できる。問題は時間だけなんだ」
なんだかだいぶ切羽詰っているみたいだな……少ない人目も集まってきている。
「場所はそう遠くもないはずだ。誰か探しに行ってくれる冒険者はいないか?」
……
「パエナさん」
「? はい、どうされました?」
「あの方のお話、僕にも聞かせていただけませんか?」
なんとなく気になってしまい、俺と同じく蚊帳の外になっていたパエナさんに声をかける。
すると彼女は少し考えているようで、俺や話し合う2人の顔も仰ぎ見た。
「えっとですね、まだ彼の依頼を受理すると決まっていないので、あまり個人の事情について……でもタケバヤシさんなら適任かも……」
悩ませてしまって申し訳ないと思いつつ、仕方が無いので答えが出るまで聞き耳を立てる。
「お手数ですが、もう一度最初から確認させていただけますか?」
「ああ、ワシはガッツ。西地区で小さな鍛冶屋を営んでいる。つい先日ワシの作った武器をケレバンの町に送ったのだが、今朝になって荷が届いていないと取引先からの手紙が飛んできてな……武器を運んでいたぺドロという男を探してもらいたい」
「先日とは、具体的にいつですか?」
「3日前。予定ではとっくにケレバンに到着して、昨日には帰路についていてもいいはずなんだ」
「しかし品物が届いていないと」
「そうだ。取引先の旦那から急ぎの連絡が届いた」
メイリーンさんの聞き取りが続く。
「何らかの理由で到着が遅れているという可能性は?」
「あいつには何度も同じ仕事を依頼してる。道にも詳しいし、ここ最近は天気だってそんなに悪くなかった。滅多なことじゃ遅れないはずだ」
「確かに……」
何か思い当たることがあるのか?
そう思った時だった。
「タケバヤシさん、こちらを……」
悩んでいたパエナさんは覚悟を決めたようだ。少し離れたカウンターに地図を広げて、細い指を滑らせる。
「見てください。ギムルがここで、ケレバンがここです。そして行方が分からなくなっている方が使っていた道がここです……」
「……この間の教習で使った道と同じ方向ですね」
「近いですね。こちらは麓の辺りで左に逸れますが」
これなら俺も大体わかる。南門から出て山道を使うルートだ。
あの時の道は山をまだ低い位置から迂回するような道だが、こちらは峠を越えていく道のようだ。
「この道には2つの街のちょうど中間……ここに宿場町があるんです。旅人や馬車が通りやすいように道幅も広く作ってあるので、徒歩でも馬車でも使いやすい道になっています。そのため利用者も多いはずですし、魔獣もあまり出ない危険の少ない道なんです。だから不測の事態に巻き込まれる可能性も低くて」
「まったくない、と言うわけではないですよね?」
「それは確かにそうです。でも先ほど言った通り、人通りの少なくない道なので、何かあれば通行人が見つける可能性も高いと思います……事故や突然の魔獣なら、人はともかく馬車の残骸くらいは残るはずなので……」
「なるほど……」
しかし行方不明。そして最後の目撃証言が3日前か……こういう仕事は初動が大切と聞く。
「パエナさん、この依頼の何が問題なんですか?」
「えっと、“行方不明者の捜索”はすごくお金のかかる依頼なんです。発見までにどれだけ時間がかかるか分かりませんし、そもそも絶対に見つかる保証もありません……ですからより発見しやすくするために、効率的に探すにはそれなりの人手を集める必要があるので……」
「人件費とか、色々かかるでしょうね」
「はい……特に今回は山中の捜索になるので最低でも20人前後、可能なら倍は欲しいですね。それを捜索を続ける期間、毎日払うことになるので、とても依頼者の負担が大きいんです……」
登山で遭難した場合、民間の救助隊に捜索と救助を頼めば1日で100万円以上の料金がかかる。そのための備えとして“山岳保険”という保険も地球にはあるくらいだ。やはりこちらでも相当高額なんだろう。
「えっと、現在提示されてる額で必要な人員を用意するとしたら……成果にかかわらず1日97スート。御者か馬車を見つける、あるいは積荷を無事確保すれば成功報酬として3000スートが支払われる……これを2日が限界かと。
山中の捜索は天候などにより危険度が跳ね上がる可能性もありますし、やっぱり仕事量に対してかなり安い報酬になってしまいますね……ギルド職員は冒険者の利益を守ることも職務の内なので、適正な額の報酬をお支払いいただけない場合は依頼を受理できないのです……私としては、どうにか受理したいのですが」
雇われる身の辛いところだ。
「……急な事で手持ちがないんだ……だが時間をもらえれば金はまだ用意できる」
「後払いの場合は何らかの担保をご用意いただくか、審査を受けていただく必要が――」
向こうでも報酬についての話が難航しているな……
「パエナさん。他の方がどうかは知りませんが、僕はその額で受けても構わないと思っています」
幸い大きな用事は昨日までに済ませたから、特に急ぎの用はない。
俺なら空間魔法を使えばすぐ行けなくもない距離だ。リムールバードもいるから空からの捜索も可能。もし何かあったのならば、早めに動いた方がいいだろう。個人的にも気になる。
「……もう一回、先輩に相談してみますね。先輩!」
そう告げてメイリーンさんの所へ向かった彼女は、1分足らずで戻ってきた。向こうで話し合っていた2人を連れて。
「坊主、ペドロを探してくれるってのは本当か?」
「僕はリョウマ・タケバヤシと申します。これでもDランクの冒険者ですので、何か力になれる事はないかと。もし許可がいただけるのであれば、全力を尽くしましょう。結果まではお約束できませんが」
「分かっとる。探してくれるだけでもありがたい」
「リョウマ君」
メイリーンさんは手招きをして、近づいた俺の耳元でささやく。
「一応、意思確認ね。言いたくないけど……この手の依頼は努力をしても報われない事が多いわ。後々後悔してしまう人もいる。そもそも、まだ何かあったと決まったわけでもないのよ?」
確かにそういう事もあるんだろう。しかし、
「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫です。それに何事もなければ笑い話で済むじゃないですか」
「……分かった。定員1名、“行方不明者の足取りを調べる”ってことで受理してあげる。宿場町を経由してケレバンまで行き、それらしき人がいないかを調べてくる、ってお仕事にしましょう。基本的に捜索は街道周辺、何か見つけた場合の対処は任せる、ってことで」
「ありがとうございます」
俺一人だけでも依頼を受けられれば、あとは現場の判断でどうにでもできる。
「準備はしっかりしていくこと。それと無茶はだめよ? さ、ギルドカードを出して頂戴」
彼女はそう言いながら、すでに書類を作り始めていた。
受注処理の間はガッツと名乗っていた男性から、行方不明者の容姿を聞いておく。
「……できました。ガッツ様、依頼内容と条件を確認のうえ、こちらにサインをお願いします」
「……間違いない! 頼む」
「承知いたしました。全力を尽くします」
こうして俺は行方不明者の捜索を引き受けた。
2時間後
カードを受け取りギルドを後にした俺は、一度店で用意を整えてから街を出発。
空間魔法で一気に距離を稼いだおかげで、明るいうちに草原と山道の境目へ到着した。
ここから先は左右を木々と藪に挟まれた道になる。
「道幅は馬車3台分ってとこか……聞いていた通り、広いし地面の状態も悪くないな」
とにかく道を歩きながら探してみよう。
「『ディメンションホーム』」
リムールバード達に出てきてもらう。
道そのものは太陽の光がよく入って明るいが、左右は木々と藪で目の届かない場所もある。空から捜索を任せられるのはありがたい。
「俺の頭上を中心に、8の字で飛んでほしい。森の中に何かあれば鳴き声で教えてくれ」
『クルルルッ!』
6羽のリムールバードが青い翼を大きく広げ、あっという間に空へ舞い上がる。
見上げたその姿は太陽の光を全身に受け、いつもより綺麗な色に輝いていた。
「こんな時でなければゆっくり眺めてもよかったのに……」
そんな状況でない時に限って、綺麗な景色に出会ったりするんだよなぁ……




