異変
本日、5話同時投稿。
この話は1話目です。
――スライム観察記録――
本日新たに、2種類のスライムが従魔に加わった。
観察記録をまとめておく。
・ストーンスライム
スキル 硬化Lv2 物理攻撃耐性Lv2 消化Lv3 吸収Lv3 分裂Lv3 擬態Lv10
外を歩けばどこにでも転がっている石のようなスライム。
食事も想像通り石だけを取り込んでいた。
今のところ石の種類や含有される成分にこだわりはなさそう。
ただし拾った石を与えていたところ、与えた石と同じ色に変色。さらに質感まで再現。
試しに目をつぶり、地面に軽く転がした後に目を開けると、しばらく見失った。
契約の効果で位置はわかり回収できたが、視覚のみで発見するのは困難だろう。
また別の実験によって“土属性の魔力を好み、体は土魔法の影響を受ける”ことも判明した。
今後は数を増やし、魔石、鉱石、宝石など、様々な石に反応を示すスライムを探したい。
・ウィードスライム
スキル 生命力強化Lv5 光合成Lv5 消化Lv1 吸収Lv1 成長促進Lv5 分裂Lv8 擬態Lv9
ストーンスライムと同じく、どこにでも生えていそうな雑草を体から生やすスライム。
茂みの中に潜まれると、こちらも発見が困難だった。
食料は雑草。備蓄の薬草や毒草も用意してみたが、興味を示さない。
しかし先日の教習中に採取していた“コツブヤリクサ”は食べた。
あれは雑草の範疇なのか。それともこの固体が穀物を好むのか。
まだ判断がつかないので、まずは数を増やして比較を行いたい。
幸い餌となる雑草や肥料はただで豊富に手に入る。
繁殖が早いタイプでもあるようだ。
きっとすぐに増えるだろう。
なおウィードスライムは植物に関係するからか、木属性、土属性、水属性の魔力を好む。
さらにスカベンジャースライムの作る肥料を与えてみたところ、そちらも喜んでいた。
肥料はフラッフスライムも喜ぶので、植物系スライム全般が好むのだろうか?
今後も観察と実験を続けたい。
――――――――――――
どちらもまず数を増やすことから始めないとな……
「そうだ、増やすといえば」
・ブラッディースライム
現在経過観察中。
毒の影響はもうないらしく、一安心。
今後について、今のところブッシュスネークの毒に対する抗体は確認済み。
しかし毒耐性、及び病気耐性スキルは以前から所持していた。
となると他にも毒や病気に対する抗体を持っていると思われる。
今後はその辺りの検証もしたい。
そのためにも数を増やしたいが、そのためには相応の餌が必要になる。
今のところジークさんのお店が一番の供給元。
だけど彼のお店からは既に、毎回気前よく全部いただいている。
これ以上の増量は不可能だろう。
となると他の供給元を探す必要がある。
候補として思い浮かぶのは、まず“サイオンジ商会”。あそこでも食肉は解体していた。
ただこの場合はレナフ支店の誰かにブラッディーを預けて増やしてもらうことになりそうだ。
身近な場所で考えるならば、冒険者ギルドには解体場が併設されていたはず。
使用料を払えば誰でも使えると先日の研修中に聞いた。
利用したことがないので、解体されたゴミの処理はどうなっているかわからない。
だけど、もしかしたら血が手に入るかもしれない。
そうでなくても骨や肉片が捨てられていれば、貰って餌にもできる。
聞いてみて損はないな。一度聞いてみることにしよう。
「……こんなもんか」
簡単にまとめたメモを片付ける。
夕食は食べたし、今日中にすることはほかにあっただろうか……あ、
「そういえばあのキノコどうなったかな……」
昨日の段階で、なんか細いのが生えてきてた。
寝る前に確認すべく、菌床を安置していた坑道へ。
「……音?」
昨日設置した一つ目の扉を開けた途端に、耳についた音。何か小さいものが内側の扉をカリカリとひっかいているようだ。スモールラットでも入り込んだか?
「『探査』……!?」
念のための探査に反応あり。10や20ではきかない数の何かが扉の内側にいる。しかもスモールラットではなさそうだ。もっと小型の何か。
急遽スティッキースライムを呼び寄せて、粘着性の罠を張ることにした。
「準備よし」
粘着性の罠を確認。光魔法の明かりもある。後ろの扉も閉めた。
何が来てもいいように警戒しながら、内側の扉を開け放つ。
すると、
「!!」
「!!」
「……?」
キノコが走っている。
石突から2本の足が生えた、キノコの魔獣?
それが扉を開けた俺から逃げるように、走っては坑道の壁にぶつかって転ぶ。
「……もしかして“ランニングマッシュ”?」
魔獣としては知らないが、薬の素材としての知識があった。
“ランニングマッシュ”
その名の通り、“走るキノコ”。
魔力の影響を受けて変質したキノコで、極めて珍しい魔法薬の材料。
効力は滋養強壮に体質改善。そして何より完成した薬品の効能を高める効果がある。
ただし元のキノコが毒性や薬効を持つ場合、それも強化されるため取り扱いに注意が必要。
通常のキノコよりもさらに希少かつ、その足で逃げ回るため入手はさらに困難となる。
主な産地はヌメール湿原、特に雨季になると発見報告が増える。
なお、その希少性だけでなく、発見された地域は翌年のキノコの収穫量が増えることから、見た者に幸運と金運を呼び込むキノコとも言われている。
そんな希少だの珍しいのなんのと言われているキノコのはずなのに……視界に収まるだけで70か80は走り回ってるんですけど?
「違う種類なのかな……『魔獣鑑定』」
“ランニングマッシュ”
スキル 胞子生成Lv6 胞子散布Lv4 高速移動Lv6
あ、間違いじゃなかった。ランニングマッシュ確定だ。
ついでにスキルから翌年の収穫量が増える理由が分かった気がした。
「自然発生な訳がないよな……」
間違いなく俺が育てていたキノコの菌床から生まれたんだろう。よく見ればランニングマッシュの外見は、鋭そうな爪を生やした足以外、どれも俺が栽培しようとしていたキノコと同じ。
「普通のキノコを育てるつもりだったのに」
ランニングマッシュはキノコが“魔化”したモノ。“魔化”とは魔力によって変質する事。
つまり魔力が関わっているということになる。……どこで影響を与えるほどの魔力を取り込んだんだろう? 水やりに水魔法使っていたけど、その程度で魔化するものなのかな? ……ランニングマッシュは相当に珍しいようだし、ごく少量の魔力で魔化するとは思えない……
いや、もしかしたらスカベンジャースライムの肥料が原因か? スライムの体は魔力という可能性もあるし、スカベンジャーが作った肥料に魔力が宿っていたとしたら……
なんにせよ、このままだと普通のキノコが栽培できない!
「損はしないけど、残念だなぁ……」
……とりあえず捕まえて処理しよう。考えるのはそれからだ。
薬の材料にもなるんだし、メディスンスライムが食べるだろうか?
どうせ納品用の薬も作らないといけないし、何か作ってみるのもいいかな……
捕まえた後の用途を考えながら、牧羊犬のごとくランニングマッシュを罠へ追い込んでいく。
1時間後
失敗した……でも、これはこれでよかったのだろうか?
調剤室の床に転がる一匹のメディスンスライムからは、ランニングマッシュを食べて幸せ! という強い感情が伝わってくる。
「結構食われたな……」
最初に与えたのは俺だ。ただしそれは一本だけ。だがその時にうっかり加工後のランニングマッシュを入れた籠を置きっ放しにして新たな菌床を作り始めてしまった。そのうちメディスンスライムは触手を使って次から次へとランニングマッシュを食べていて、俺が気づいた時には既に10本以上持っていかれていた。
念のため1本だけで様子を見るつもりだったのに……体調が悪くないのが何よりだ。
しかし、
「『魔獣鑑定』」
“メディスンスライム”
スキル 薬液生成Lv5 毒耐性Lv3 病気耐性Lv5 物理攻撃耐性Lv1 ジャンプLv3 消化Lv3 吸収Lv3 分裂Lv3 槍術Lv1
……キノコの影響はしっかり出ているようだ。薬液生成スキルのレベルが2も上昇している。
さらに生成できる薬液の種類も調べてみると、
・栄養液
・強壮液
・薬効強化液
以前に加えてこの3種類が増えていた。
「栄養剤とか精力剤が作れそうな液……」
どうもランニングマッシュの影響を受け、同じ効能を持つ液を作れるようになったらしい。これは使い方が難しそうだ。特に3つ目。
“薬効強化液”
薬品中の魔力と反応して薬品の効能を強化する液体。
強すぎる薬効は時に毒になりうるので使用には注意が必要。
この液でどれだけ強化されるのかが分からない。
ランニングマッシュを用いて作る既存のレシピであれば、すでに適切な用法用量が確立されているけれど、メディスンスライムの薬効強化液にはそれがない。また、完全にランニングマッシュと同じであるかもわからないので、こちらも実験しなくては安全性に疑問が残る。
なんにしてもすぐに使えるものではなさそうだ。
これも今後の課題として、後で紙にまとめておこう……
翌日
「あんたって子は……」
作った薬を口実にして商業ギルドへ顔を出すと、ギルドマスターに思い切り呆れられた。
「次から次へと、本当に退屈させてくれないねぇ。4本か5本くらいならまだ分かるけど……一度に30本以上ランニングマッシュを持ってくるなんて」
これでも全部のメディスンスライムに食べさせた残りだけどね……
「いつもご迷惑おかけします」
「……アンタは自分で食べるためのキノコを栽培してみようと思った。そんでやってみたら全部ランニングマッシュになっちまった、普通のキノコを育てるにはどうしたらいいか、だったね?」
「そうなんです。魔力を使わず育てればおそらく大丈夫だと思うので、魔力の含まれていない肥料について教えていただけないかと」
「肥料といわれてもねぇ……キノコ用の肥料なんて扱ったことないよ。 そもそもキノコの栽培なんて道楽、って言いたいくらいなのにさ……もうランニングマッシュを食べればいいんじゃないかい? 見たところ食用キノコが元になってるみたいだし、そういうランニングマッシュは相当に美味しいらしいよ?」
そうなのか!? 薬効についてしか知らなかった。
「アタシも自分で試したわけじゃないけどね。というよりも、アタシにはそんなもったいない事できないよ」
「確かに」
ランニングマッシュを材料にして作れる薬の種類は豊富。難病と認識されている病気の治療薬も含まれていて、値段は産地でも1本10万スート。場所と時期を選べばさらに値段がつり上がるとのことで、これだけでも売れば一財産築けそうだ。
俺にとって重要なのは味だけど。……あれ? 普通のキノコより美味いなら、これでいいのか?
……いや、でも薬効で変なことになっても困るしな。
「じゃあ農家が普通に使ってるような肥料をいくらか手配してあげるよ。どれがキノコに使えるかは自分で試しな。その代わりランニングマッシュを1本と、もう一度薬の調合を引き受けておくれ。代金と手間賃はそれでチャラにするよ」
「ありがとうございます!」
「薬のぶんも儲けさせてもらうから、おあいこさね」
それから薬の材料を用意してもらう間、雑談で気になる話を耳にする。
「盗賊? この辺にですか?」
「こっちの方に移動してる不審人物を見たって話がいくらか耳に届いてるね。ただそいつらは多くても4,5人らしい。ガウナゴの方で討伐された盗賊団があったらしいし、その生き残りじゃないかって話さ。ここいらで仕事をする気かどうかは分からないけど、街の外を出歩く時は注意しときな。あんたはいいカモに見えるだろうからね。実際どうかは別として」
「情報、ありがとうございます」
冒険者ギルドで依頼を確認してみよう。




