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宝石の謎

本日、2話同時投稿。

この話は2話目です。

 翌日


 朝と言うには少し遅い時間に商業ギルドを訪れた。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件で?」

「先日ギルドマスターのグリシエーラ様からお話をいただいたのですが……」


 昨夜から準備をして、リストにあった薬品をいくつか作ってきた。

 買取のついでにギルドマスターとの面会を希望しようと思ったけれど、


「これはこれは、タケバヤシ様。ようこそ商業ギルドへ」


 以前から何度か対応してくださっている職員が奥から出てきて、応接室に通してくれた。


 俺はすでに顔を覚えられているようだ。







「よく来たね。今日は薬の買い取りだろ」


 顔を合わせた途端に、今日の目的を半分推察される。


「よくわかりましたね」

「私から頼んだからね。それなりに応えようとしてくれるだろうとは思っていたよ。あと冒険者ギルドの教習に行ったって話を聞いたからね。それが終わって、伝言を聞いて、それから薬を作る時間を考えればおおよその見当はつく。大体今日か明日頃に来ると予想してたのさ」


 相変わらず怖いくらいに先を読まれる。

 が、今日はそれだけが目的ではない。


「もう一つ、相談させていただきたいことがありまして」

「ふうん? なら薬の買い取りをさっさと済ませてしまおうかね」

「おねがいします。『アイテムボックス』」


 作ってきた薬は瓶でざっと50本。


「手持ちの材料で足りる範囲で作ってきました。グレルフロッグの素材はまだ残っています」

「材料を手配すれば作ってくれるのかい?」

「僕に作れるものであれば」


 適当に選んだ瓶を鑑定していたギルドマスターは鼻を鳴らした。


「あのリストにあんたが作れない薬が載っていたのかい?」

「製法は知っていても、実際に作ったことのない薬はありますよ。今回も確認という意味で、ギルドマスターに見ていただきたかった部分があります」

「そうかい。いくつか見たけど品質は一定で効果も問題ないね。ケチの付けどころがないよ。在庫の少ない薬の材料を揃えさせるから、次はそれを持ち込んでくれるかい?」

「承知いたしました」


 こちらが了承すると彼女はすぐに職員を呼び、薬の査定と保管。そして報酬と素材の用意を矢継ぎ早に命じる。また、それを受けた職員が退出すると、


「で? 薬のほかに相談したい事ってのはなんだい?」

「プルーム・ダイヤモンド」


 続きを促されて口にした途端、彼女の目が鋭くなった気がした。


「ご存知ですか?」

「この仕事を長くやってればね。あんた、持ってるのかい?」

「祖母の遺品で、金に困ったら売れと言われていた物があります」


 ついでに礼服を用意していることも説明する。


「……ということで、その宝石を装飾品にできないかと思ったんですが、考えてみたらその価値がわからず、その宝石で良いものかと」

「下手なところに持ち込まず、アタシに話を持ってきたことは褒めてあげるよ。それ、今持ってるのかい?」


 アイテムボックスから布の包みを1つ取り出し、そっと手渡す。

 中には親指の爪ほどの大きさに分けたプルーム・ダイヤモンドを1つだけ入れてある。

 分けたり形を整えただけでは鑑定結果に変化はなかった。だから間違いないはずだが……


 包みを開いたギルドマスターは、宝石を舐めるように見た後、鑑定の魔法を使用。直後に呆れたようなため息を吐く。


「偽物ですか?」

「本物だよ。よくもまあこんな大粒のプルーム・ジュエルを持ってたね。流石の透明度だ。しかもダイヤで、色も綺麗な無色……カットがやや残念ではあるけれど、かなりの一品だね」


 さらに詳しく聞くと、“プルーム”とは宝石の等級を表す専門用語の1つであり、どこかの古い言葉で“特別”という意味があるらしい。


「つまり、これは最高級品」

「高級なんてもんじゃない。“特別”さ。いいかい? 宝石ってのは砂粒とか微細な傷や空洞、そういった余計な物が多かれ少なかれ入ってるもんだよ。普通ならね」


 あっ……


 言われて思い出した。確かに自然の宝石は成分が宝石になる過程で内包物や空洞が入ってしまう。対して錬金術で作り出した宝石にはそれが無い……


「……プルームが何か知らないのに、そこらへんの知識はあるのかい」

「今思い出しました」

「変に知識が偏ってるねぇ。まぁ、知ってるのなら話が早いよ。この宝石にはそれが一切無いんだ。それがプルームと名のつく宝石の条件でもある。だけど、そんな宝石は現代じゃ産出されてない」

「現代では?」

「元からそういう宝石なのか、普通の宝石の綺麗なとこだけを削り取ったのかは分からないけど、アタシらみたいなババアが生まれるよりもずっと前。大昔にはあったらしいね。

 どこかの遺跡から発見されたとか、古くから伝わる国宝に使われていたとか。市場に流れて、貴族がこぞって手に入れようとしたって話は聞いたことがあるよ。現存してる物は大抵、家宝扱いを受けてるだろうね」


 過去にはあった、ということは過去にも錬金術で宝石を作った人間がいたらしい。

 俺と同じ転移者……以前ガイン達から聞いた“錬金王”だろうか? 機会があれば調べてみよう。


「装飾品にしたらまずいでしょうか?」

「そこまで心配する必要はないよ。自分から喧伝して回ることではないのは確かだけども、挨拶に行くのは公爵家だけなんだろう? だったら面倒にはならないだろうさ。

 もし仮に、どこかの変な貴族に目をつけられたとしても、いきなり荒事になる可能性は低い。まず売ってくれって話が来るだろうから、その時に売っちまえばいい。アンタ、遺品といっても執着してるわけじゃないだろ?」

「分かりますか」

「そのくらいはね」


 ニヤリと笑うギルドマスター。


 追求はしないが、そこも怪しいということか…… 余計なことは言うまい。


「ま、どうしても気になるなら隠すよりも早めに売り払った方が問題は起こらないよ」


 つまり持ってる時点で気にしても遅いと。なら開き直って装飾品に使おう。


 あとの残りは砕いてスライムにでも食べさせてみようか? それとも公爵家に、


「失礼します。報酬と素材の用意が整いました」


 おっと、さっきの人が戻ってきたようだ。ギルドマスターがダイヤを押し付けてくる。さっさとしまえ、ということだろう。


「入りな」


 宝石を片付けたのを確認したギルドマスターは許可を出す。そして入ってきた職員は3人。1人が重そうな革袋、残り2人は大小様々な袋を抱えていた。彼らはそれらの品物をテーブルに並べ、最後にギルドマスターに一枚の紙を手渡して退出。


 ギルドマスターはその紙にしばらく視線を落とし、納得したように頷いて、今度はその紙を俺に向ける。


「報酬と材料の確認をしておくれ」


 ……言われた通りに確認すると、報酬の金額が目についた。

  俺の持ち込んだ薬が、一本あたり3000スートと書かれている。


「報酬が多すぎる気が」

「良い解毒剤の需要はしばらく尽きないし、顧客は貴族や金持ちばっかりだからねぇ。それに買い占められて本当に必要な人の手に薬が渡らないなんて事がないよう、生産者には頑張ってもらわないといけないからね。品質も高かったし、時期を考えれば妥当だよ。

 ただし時期を外すと値も元に戻るからね、今日渡した素材は早めに薬にして持ってきておくれよ」

「承知いたしました」


 しばらくは遠出をする予定もないし、早めに作ってしまおう。


「ところでリョウマ。アンタ、ウォーガンから盗賊討伐の許可を貰ったんだってね」

「どこでそれを?」

「許可をやった本人から聞いたのさ。別件で話をしたついでにね。……その仕事、やる気あるのかい?」

「戦闘は僕の得意分野ですから。人を相手にする、という点も問題ありません」

「わかってるよ。だからあの子も許可を出したんだろう。そういうことなら商業ギルドにはこまめに顔を出しな。盗賊の動きはアタシらの仕事にも影響するからね。情報屋の情報網が役に立つはずさ」

「確かに……ありがとうございます」

「使えるものは何でも使うのが商人だよ。その情報でアンタが盗賊を狩ってくれるなら、結果的にこっちも儲けさね」


 それも確かに。


 ギルドマスターのアドバイスは、利益も考えられていた。












「よろしくお願いします」

「かしこまりました……」


 昨日の店員さんにお礼を言い、ダイヤを預けて店を出る。


 どうやら彼は、俺と違ってプルーム・ダイヤモンドの価値を知っていたようだ。


 仕事柄、宝石類にも詳しいのだろう。これを使ってもらいたいと言って見せた瞬間に、良い物であることは分かったようだった。さらに手に持って確認をした後は態度が変わっていた。元からの丁寧な扱いがさらに丁寧になった感じ。


 口止め料として少し多めに支払いをさせてもらったが、装飾品に使う宝石代が浮いたのでトントンというところだろう。宝石を作る時の注意点も分かったし、勉強代としても安いものだ。


 さて次の予定は……ロッシュさんから教えていただいた従魔の適性診断。


 のんびり歩いたつもりが、すぐに着いてしまった。あの店とテイマーギルドは思いのほか近かったらしい。


「こんにちは。こちらで従魔の適性診断をしていただけると聞いたのですが、今日は受けられますでしょうか?」

「ようこそ、テイマーギルドへ。適性診断ですね? 受けられますよ。ギルドカードの提示をお願いします」


 久しぶりに訪れたギルドの受付で、言われた通りにカードを提示。


「あらっ? まだ一度も受けたことがないようですね」

「はい。こちらに登録させていただく以前から従魔がいたので」

「そうでしたか。適性診断は初回無料となっていますので、こちらをギムルの東門へお持ちください」


 ギルドカードと一緒に書類が一枚戻ってきた。受験票のようだ。


「東門、ですか?」

「はい。適性診断はギルドで用意した多種類の魔獣と実際に契約を試していただき、その結果から共通点や傾向を見て、あなたがどのような魔獣と相性が良いかを判断いたします。そのためどうしても多数の魔獣を管理するための土地が必要となります。

 そしてギムルの東門には我々が運営する大型魔獣用の宿泊施設が併設されていまして、適性診断のための魔獣もそちらで一緒に管理を行っています」


  それで東門に、というわけか。


「ありがとうございます。よく分かりました。早速行ってみます」

「どういたしまして。ご武運をお祈りしております」


 こうして東門へ向かうことになった。


 ……そういえば東門に行くのってこれが初めてじゃないだろうか?

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― 新着の感想 ―
偽物ですか?は流石におかしいかと 事前に鑑定してでてるんだから偽物じゃないのはわかってるでしょ…。
[一言] 炎に弱そうw(FF脳)
[一言] もし通常かメタスラにあげるなら ダイヤモンドスライムに進化しそう 防御力と素早さがメチャクチャある 銀色のスライム 銀の体に銀のアミュレット被せてもいいかも ドラクエのダイヤモンドスライム…
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