一点豪華主義
Merry Christmas!
本日、2話同時投稿。
この話は1話目です。
服の注文に時間をかけてしまったが、まだ日も高いし……次はティガー武具店だな。
「こんにちはー」
「リョウマか。頼まれたやつ、できてるぜ」
店主のダルソンさんは、そう言って店の奥に入っていく。
そのまましばらく待っていると、少し大きめの木箱を持って戻ってきた。
「こいつが完成品だ」
中には薄い緑色のシャツ、ズボン、マント。一見普通の服が上下2セット入っている。
「注文通り、預かったあのやたら強い糸を織った布で作ってある。製作は懇意にしてる防具職人に頼んだが、出来は俺もちゃんと確かめた。試作品とはいえ、自信を持って引き渡せる一品になってるぜ」
箱から1枚の布切れとナイフが取り出される。
「見てろよ」
彼は布切れを切ろうとしているが、何度切りつけても突き刺しても傷が付くだけ。破けたり大きく切り裂かれる事は無かった。
「こいつはお前の持ち込んだ糸で織った布を2枚、重ねた物だ。その服には全部これと同じ物が入ってるから、刃物に対して十分な効果が期待できる。外見も着心地もただの服だが、実質チェインメイルに近いな。鎧の中に着るインナーとして考えれば破格の防御力だ」
「1着にかかる金額や生産性はどうですか?」
「そうだな……まず強度が高いから加工、特に裁断に時間をとられたそうだ。しかし素材は持ち込みだし、似た素材の防具と比べて安くあがる感じだな。悪くないぞ」
「似た素材、とは?」
「“メタルスパイダー”って魔獣の糸だ。そっちは熱に弱くて、軽く炙ればすぐに軟らかくなって簡単に切れるんだ。加工のしやすさなら断然そっちが上だな。ただその加工のしやすさは弱点にもなる。
それを補うために、普通は付与魔法と相性のいい素材を糸状に加工して一緒に織り込んだ後、火や熱に対抗できる魔法を付与して魔法防具にする。メタルスパイダーの糸自体がそこそこ値の張る素材で、さらに付与の分だけ金もかかる。それなりに高級品だな」
時間がかかる代わりに、コストパフォーマンスは良さそうだ。
一着手にとってみると、服の内と外で生地が違う。指先に触れる滑らかで心地よい肌触り……
「内側は絹ですか?」
「ああ、あの糸は吸水性・吸湿性が皆無だった。できあがった布もな。だからその点を考慮して内側には絹を使ったそうだ」
「なるほど、ありがとうございます。これがあれば藪の中でも問題ありませんね」
「藪どころか、そこらの狼の牙や刃物位ならまず問題ねぇさ。打撃は効くが」
「お値段はいくらでしょう?」
「小金貨5枚だ」
オーダーメイドなのに本当に安いな。
「良いんですか?」
「素材は持ち込みだし、布を織って切るのに手間はかかったが、特別な加工をしたわけじゃないからな。防具職人も珍しい素材で仕事が出来て喜んでいた。時間がかかった分の手当てを含めても、小金貨5枚で十分だ」
「そうですか。ありがとうございます」
こんなに安いならうちの店の皆さんにも配ろうか。せめて警備担当の人にだけでも。……公爵家の人にはどうだろうか? 警備の人はいるだろうけど、解毒剤を常備するような年末が来るなら……相談してみよう。
「貴族ならその手の対策も自前で全部揃えてると思うが、贈っても非礼にはならないだろう。俺としてはその分の材料と金さえ用意してくれれば作るのは構わん。贈るならもう一着、普通の大人サイズの見本を持っていくといい。
そこで寸法を測ってもらって、サイズを合わせた品を後日届ければいいだろう。店の従業員はここに連れて来てくれても構わない。どちらにせよ数を頼んでくれるなら多少はまけてやるよ」
ということで、見本用の服を新たに注文。
「材料の糸は明日までに用意します」
「わかった。こっちも職人に連絡しとくぜ」
ひとまず贈り物候補、その1が決定。
しかし量を作るなら糸も相応の量が必要になる。
……この際、スティッキースライム用の糸巻き機を用意するか。
セルジュさんのお店に寄ってから帰るとしよう。
「こんなもんか」
スライム達をディメンションホームから解放し、リムールバード達と坑道のチェック。
たった5日離れていただけで、もうケイブマンティスが住み着き始めていた。
即駆除をしたが、もっと入り口をがっちり固めておこうか……
うちの場合は余すことなく食料にできるので、狩れればそれはそれで得だけど。
「次は……」
ほどほどに奥行きがあり、少々湿っぽい坑道を選び、土魔法で簡素な台を用意。
ディメンションホームから先日作った菌床を移そう。
「ん?」
おかしいな……
錬金術で作った菌床から、既にエノキのような細いキノコが生えてきている。 魔法で成長を促進したわけでもないし、こんなに早く育つはずがないと思うが……まさか別の種類のキノコ? 生えたということは、キノコの栽培は成功と考えて良いのか……とりあえずこのまましばらく観察することにしよう。
坑道に移し、外敵が入らないように扉を取り付けて……と、これでよし。
「次は……ああ」
追加で増えた仕事だ。でもこれなら同時に片付けられる。
普段防水布作りに使っている坑道へスティッキースライムを集め、買ってきた糸巻き機を並べる。在庫の問題で五台しか手に入らなかったが、十分だろう。
糸巻き機の構造はとてもシンプルで、形は卓上に置けるミシンに近い。横にある取っ手を回すと、土台の上で柱に支えられた糸巻きが回転する。糸の先をあらかじめ空の糸巻きに取り付けておけば、そのまま糸が巻き取られていく。
まずは一匹に糸を吐いてもらい、俺が取っ手を回し、スライムにやり方を教える。
糸を吐くスライムには、巻かれた糸が糸巻きの中で偏らないように注意してもらう。
次に別の スティッキースライムと交代し、取っ手を回すのもスライムに任せる。
力があまり必要ない作業なので、特に問題はなさそうだ。
……2匹1組でちゃんと糸が巻き取れている。
残り4台にもスライムを配置して、しばらく練習しておいてもらおう。
その間に俺はもう一仕事。
カラカラと響く糸車の音を聞きながら炭を用意し、地面に錬金術の陣を描く。
これから作るのは“宝石”。炭素を原料とした“ダイヤモンド”だ。
「なんとなく緊張してきた……ある程度大粒がいいんだよな……」
装飾も何もない紺色のスーツだと礼服として問題はないけれど、こちらの基準ではあまりにも地味に見られるらしく、それは貴族社会の常識的には好まれない。あまり地味な服装だとみすぼらしく見られてしまい、誘われて行く場合は誘った相手の迷惑となってしまう可能性もある。
……と、礼服を注文した店員さんから教えていただいた。事実8割、セールストークが2割くらい含まれていた気がしないでもない。でも結局対策として、服の代わりに装飾品に金をかける一点豪華主義で行くことになったのだ。
しかしその散々地味と言われたスーツですら、値段は500,000スート。小金貨で50枚。この時点で大金だが、他の服だとさらに2倍3倍。位の高い貴族が着るような服だと、装飾品も含めて白金貨での支払いになることもあるんだとか。
インフレしすぎだろ貴族社会! それで世間にお金が回っているという事でもあるだろうけど……とにかく挨拶に行くなら、平民は平民なりにお金を使って、できるだけ相手方の格に合わせる必要がある。
そう理解した。では具体的にどうするか?
俺は基本的に宝石を身に着けないし、お金をかけるために沢山の宝石を身につけるのは悪趣味に思えて嫌。そうなれば必然的に“宝石を大粒で高価な物にする”という結論に至った。
高価な宝石は手に入れるのも難しくなるらしいし、作ろう!
そして祖母の遺品と言うことにしよう。
「まずは炭素を分離して不純物を取り除いてから……結合!」
ダイヤモンドは黒鉛と同じ、炭素の同素体。
基本的に純粋な炭素の塊。
違いは結合の仕方。
それにより高い硬度や透明度、伝熱性や電気絶縁性を持つ。
知識を一つずつ反芻しながら輝く魔法陣に注目していると、用意した炭素の粉末は透明な1つの塊へと変化していく。
「……」
さらに待ち、魔法陣から光が消えた後に残ったのは、歪な形の透明な塊。
「『鑑定』」
“プルーム・ダイヤモンド”
不純物の含まれていない特別なダイヤモンド。
色:無色
重量:218.34グラム = 1091.7カラット
「プルーム?」
ダイヤモンドにはなったみたいだけど、これ何だろう? 説明文にも“特別な”とあるし気になる。……これは信頼できる誰かに聞いてからの方が良いかな。
それに明らかにサイズがおかしい。
たしか前世だと0.2グラムが1カラットで、世界最大のダイヤが500か600カラットだったはず。
目の前のダイヤは1091.7カラット。
「材料入れすぎた……」
とりあえず小分けにして大きさと形を調整しよう。




