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リーダーは見た 1

本日、3話同時投稿。

この話は2話目です。

 ~Side ロッシュ~


「えーというわけで、試合は今日の午後3時から。場所は草原の、ここから見える所にリョウマが観戦席を作ってくれるそうだ。それを目印に集まるように。だが見学は強制しない。まだ受けてきた依頼を達成できてないやつもいるだろうし、仕事をしていても構わない。逆に仕事が終わってなくても見て構わないぞ。後のことは自己責任だからな。では解散!」


 すぐにどこかへ行く奴。しばらく誰かと喋る奴。朝礼が終わると様々な生徒の様子が見られる。


「ロッシュ、ちょっといいか?」

「どうしたルーカス」

「試合の組み合わせ表ができた。問題がないか確認してくれ」


 ルーカスから受け取った書類には、2人1組になった参加者の名前と得物が書かれていた。


「相変わらず細かくてマメな字だな……10人で全5試合。全部特に問題ないだろう。順番もこの通りでいい」

「なら参加者には出番を通達しておくぞ」

「任せた。ところで今回の連中はどう思う?」

「技術面はまだ拙いが、いきの良い生徒が多いな。それに今回はリョウマがいるからか? 自分と同じかそれ以下の歳の子供が大人に混ざって教官をやっていれば、どうしたって気になるだろう。意識している生徒も多いと思うぞ」

「だろうな。冒険者なんざそれくらい強気の方が良い」

「だから初日の馬車でリョウマの事を暴露したのか?」

「あれはどっちかっつーと舐められてたら仕事がやりにくいと思ったからだな。あいつもあまり自己主張の強いほうじゃなさそうだし。能力はあるんだろうけど」


 あの拠点を見れば土魔法の腕前と必要な魔力は大体見当がつく。

 大人で同じ事ができる奴なら、探せば見つかるだろう。

 ただし、そこに同じ歳でと条件をつければ見つけるのは難しい。

 作り終わってもケロッとしていられる魔力量を兼ね備えてる奴なら、さらにぐっと減る。

 それくらい同年代の平均からはかけ離れてる。


 かけ離れてるんだが……


「なぁルーカス。お前聞いたか? リョウマの奴、あれで魔法は“練習中”。本領は俺らと同じ接近戦らしいぜ」

「何だって? だが今日の試合には」

「ああ、それは俺が弓で戦うように頼んだからだ。武器は色々使えるらしい。実力は知らないが、どことなく自信ありげに言っていたから魔法以上なんだろう」

「今後の成長を考えると末恐ろしいな」

「だから困るんだよなぁ」

「困る?」

「俺がギルドマスターから、事前に言われた事を知ってるだろ? リョウマを参加させるからよろしく頼むって」

「それは聞いたが」

「今思えば妙な含み(・・)があったんだよ」


 実力と野営経験は十分だとか。落ち着いた奴だとか。あれこれ説明された。


「あの時はいつものお節介かと思ってたが、本人を見てたら違う気がしてきたよ……リョウマはまだ仲間がいない。仕事で即席のパーティーを組ませたことは何度かある。ただしそれだけだ」

「……まさかリョウマにパーティーを組ませろと? 確かに新人同士。経験も同じくらいだろう。しかし腕前に差がありすぎる。それが分からない人じゃないだろう」


 ルーカスの言い分はよく分かる。人間の集まりである以上、メンバーの力量に差が出るのは仕方がないが、力量差がありすぎると後々問題が起りやすい。特に若手だとその傾向が強くなる。


「リョウマを生徒と組ませるのは俺も賛成できねぇ。それはあの人も同じ考えのはず。そうなると」


 ここでリョウマと誰かを組ませるんじゃなく、リョウマがパーティーを組みたいと思うように仕向けろ、ってことか?


「考えすぎじゃないか? あの子は登録してまだ一年も経ってないんだ。一人での仕事は危険も多いが、一人で森暮らしをしていた経歴もある。そんなに回りくどい事をしてまで、急いで探させる必要もないだろ。それとも何か理由があるのか?」

「そこが俺も分からない」


 ただ気のせいではないと思うんだよなぁ……


「仲間の命を助けてもらったことだし、何かあるなら俺も力になろうとは思う。ただ正式に依頼として引き受けたわけでもない。今はこっちの仕事が優先だ。ギルドマスターも明言していないなら、しないなりの理由があるんだろう。……単純に言い忘れただけでなければ」

「違いない」


 とりあえずは仕事を済ませるか。













 そして……昼。


 リョウマに観客席の事を聞きに行くと、


「いかがでしょうか?」

「十分だ」


 最悪、イスを並べた隣に目印を立てておくだけで良かったんだが、リョウマは15人が横並びに座れるイスを3列。それも前に座った奴の頭で視界が遮られないよう、前後で高さを調整した階段状の観客席を作っていた。


 しかも補強のために地面を均して固め、ちゃんとした土台を作ってある。それに観客席には落下防止の手すりをつけ、さらに観戦中の安全性を高めるべく、流れ矢や魔法に備えて対物理・対魔法の結界を張ったらしい。


 ここまでは求めてなかったんだが……本人は一仕事終えて満足そうな顔をしているから言わないでおこう。


「しかしリョウマ。お前も試合に出るんだろ? ここまでやって魔力は大丈夫なのか?」


 魔力切れまでは行かなくとも、魔法を使えばそれなりに疲労も伴うはず。試合に影響するんじゃないかと思ったが、あの家を作った後と同じでケロッとしてやがる。


「こんなの建てて平気ってすげぇ魔力量だな」

「ありがとうございます。僕も魔力量ではそう簡単に負けない自信があります」


 へぇ……普段控えめな奴なだけに、こりゃマジで多そうだ……それにしても、


「なぁリョウマ。ちょっと気になったんだが……何で冒険者をやろうと思ったんだ?」


 考えてみたら俺はこいつのことをあまり知らない。仲間やギルドマスターから話は聞いていたが、直接会えたのはつい先日だ。


「金が欲しい。名を売りたい。そんな夢を見て冒険者になる奴は多いが、リョウマの目的は違うだろう? もし単純に金が目的ならリョウマには店がある。それにこれだけの魔力量で結界魔法まで使えるのなら、若くても魔法使いとして儲かる就職先はいくらでもある。わざわざ命の危険がある冒険者を選ばなくてもいいんじゃないか……と、少し気になっただけだ。答えたくなければ別に構わないぞ」

「別に平気ですが、たいした理由はありませんよ? 登録の時は冒険者になることそのものが目的だったと言いますか……森で生活する技能には自信がありましたし、身分の保証に都合が良いとか、そういう事は考えていました。あとは月並みですが“憧れ”でしょうか? 祖父母も元冒険者だったそうですし……あ、それに仕事の自由度が高いこともありますね」

「なるほどな」


 “憧れ”


 若い奴にはよくある理由だ。その辺は歳相応らしいな。少々現実味のある言葉も混ざってたが、悪いことじゃない。


「ロッシュさん。僕からも質問、いいですか?」

「俺に答えられることなら何でも来い」

「先ほど僕なら就職先は多いと仰った時。結界魔法が重要のように聞こえましたが、そんなに影響があるんですか? 結界魔法が使えるのと使えないのとでは」

「……お前、自分で使っといて知らないのか?」

「難しい魔法だとは知ってましたし、実際他の魔法より習得に苦労しましたが……恥ずかしながら人と関わりを持たずに生きてきた期間が長く、世間知らずで」

「簡単に言うと、俺達が普段使う属性魔法よりも技量が要求されるのさ。魔力は体外に出すと消えて無くなる。これは知ってるな?」


 頷いた。さすがに知ってるよな。魔法の基本だ。


「そして魔力は使用者の意思で消えないように操作もできる。これも魔法の基本だが、属性魔法はそれをあまり意識しなくても使うことはできるんだよ。魔力を出したら消える前に使ってしまえばいいからな。威力が落ちるからちゃんとした魔法使いを目指すなら必須になるが……その話は横に置いておく」


 そして肝心の結界魔法は様々な物を遮る壁を“魔力で”作る魔法。そしてその性質上、結界魔法は防御のために用いられることが多い。だから攻撃魔法のように一瞬効果を発揮させるのではなく、目的の位置にある程度長い時間展開し続けることが求められる。


「そのために消えやすい魔力を操作してその場に留め、固定する。それができるだけの魔力操作技術を持っていることが、結界魔法使いとして求められる最低限の技量になるわけだ。そんでもってこの“最低限の技量”ってのが、属性魔法なら大体中級の魔法くらいは使えないと話にならないレベルらしい。

 ただ厳密に言えば属性魔法の腕前と魔力操作の技術は別物だ。だから中級魔法が使えれば必ずしも結界魔法が使えるわけじゃない。リョウマはどうやって習得した?」

「祖母から学びました」


 冒険者で結界魔法使いか。なかなか珍しいな。


「野営とかにも便利そうですが」

「便利な魔法ではあるが、やっぱり難しい。それにリョウマのように師匠が身近にいない場合、結界魔法を学ぼうとする奴は中級魔法を目安にして弟子入り先を探すそうだ。それから修行を始めて一人前になるには時間がかかる。

 さらに結界魔法使いは金持ちからの需要が常にあるからな。ほとんどは師匠と一緒に雇われるか、そうでなくても雇い先は多いって話だ。だから結界魔法を習得してから冒険者になる奴は多くない。就職すれば生活は安定するからな。

 リョウマの場合はもう結界魔法を使えるわけだし、腕が未熟でもその歳なら十分に将来性ありと見られるだろう。だから弟子入り先を本気で探せば比較的簡単に見つかるだろうし、そうでなくても結界魔法は魔力操作に関して平均以上の技量があることの証明になる。魔法関係の仕事を探すなら、かなりの強みになるはず……とまぁ俺が知ってるのはこのくらいだな。これ以上が知りたければルーシーかミミルに聞いてくれ。俺は生徒への説明のために調べたことがあるだけで、魔法関係はあいつらの領分だ」

「ありがとうございました。とても参考になりました!」


 なんでこんなに目を輝かせてるんだ? 割と常識的な部分もあったのに、俺を気遣って知らないふりをしているわけでもなさそうだ。……そういえばこの前質問に答えたときもこんな顔をしていたな……歳のわりに落ち着いていて知識も豊富だと思っていたが、大丈夫か?


 変な所が抜けているというか、なんだか不安になる奴だ。


 ……もしやギルドマスターの言いたい事はこれなのか……?

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― 新着の感想 ―
[一言] >「便利な魔法ではあるが、やっぱり敷居が高い。~ 「敷居が高い」を「要求される技量・能力が高い」という意味で使ってますが、本来は「その家の人に対して不義理を働くなどしてしまって行きにくい(…
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