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内覧会とティーブレイク

本日、3話同時投稿。

この話は1話目です。

「中はこうなってるのか」

「天井がスライムだらけ……でもあれで虫を取ってるのね」

「こっちの小部屋はトイレだ」

「マジで? そんな設備も付けてるのかよ」

「この筒なに?」

「それは浄水器ですよ。水をろ過して綺麗にするためのもので――」


 現在、拠点を生徒に公開中。


 2日目の担当時間が始まってすぐ、1人の男の子が見せて欲しいと言ってきたので許可したら、それを聞きつけた生徒がどんどん集まってしまった。まだ6人だけど、部屋がそれほど広いわけでもないので、人口密度がかなり高く感じる……


「リョウマ、居るか?」

「ん? いるよー」


 外から聞こえたガゼル君の声。どうしたんだろう?


「いたいた。ほら!」


 俺が入口から顔を出すと、彼は両手に持った獲物を掲げていた。こちらの位置が高いため、下から突き上げるように。なるべく俺の顔へ近づくように。


「今日は鳥もあるんだな。しかも結構大物じゃない」

「おう! 昨日のうちに罠を仕掛けといたんだ」

「そうか、それで昨日遅くなったのか」

「まぁな。んでうまく罠にかかってたから、この血をスライムに差し入れ。血が栄養になるんだろ?」


 おっ、それはありがたい。しかしこの子ら、本当に狩りは得意なんだな。


「でも今日はまだこれしか取れてないから、肉は返してくれ。ホントは気前よくやりたいんだけどさ……」

「十分だよ。すぐ血抜きの用意するから。お返しと言っちゃなんだけど、その間よければ中でお茶でも飲む? 川の水とそこらで摘んだハーブで作ったハーブティーがある」

「貰えるもんは貰っとくぜ。あと俺も中見ていいか?」


 やはりさっぱりした性格の子だ。分かりやすくて良い。


「もちろん。あ、皆さんもよければ飲まれますか? この辺で取れる材料で作れるものですし」

「俺はいい」

「私も。それより今夜に備えないと」

「だな。そろそろ失礼します」

「中を見せてくれてありがとうございました」

「参考にしてみます」

「あざっした!」


 部屋に来ていた6人を見送り、お茶の用意にとりかかる。


「軽く虫を払い落として、適当に入って」


 ガゼル君は素直に指示に従い、入るやいなや壁を凝視し始めた。


「なにか気になるものでもあった?」

「ちゃんとした壁だなと思ってさ。俺の家、壁とか古くて隙間風も入ってくるんだよ。それと比べて、ここは仮住まいなのにしっかりしてんな」

「そういうことか」

「俺にも土魔法が使えればなぁー……」


 土魔法が苦手なのだろうか?


「魔法はからっきしだよ。でもこれ見ると、魔法が使えたらうちの壁も何とかできるんじゃないかと考えちまうな」

「そんなに古いの?」


 お茶を渡しながら聞くと、彼は笑って頷く。


「熱っ、ふぅ……俺らの家はまだマシな方さ。大人たちが気を使ってくれるし、相談にも乗ってくれるし、ちょっと補修すれば問題ないし。見た目は汚ねぇけど普通に住めるぜ。本当に酷いのはうちの隣にある婆さんの家とかだろ?」

「だろ? って言われてもわからないよ……」


 つい先日に話を聞いた、廃墟同然の建物に住んでいるのだろうか? そのお婆さんは。


「ま、それももうしばらくの我慢だけどな」

「我慢?」

「おう! 俺も冒険者になったんだ。今はまだ低ランクだけど、これから鍛えてそのうちガンガン稼いでやる。そしたら家は補修じゃなくて、ドーンと建て替えるんだ。デカくて皆が住みやすいやつにな」

「なるほどね」


 彼は向上心が強いようだ。


「具体的にどのくらい?」

「どのくらい……それは考えてなかった」


 なんだか肩すかしをくらった気分。


「まぁそういうこともあるよね。おいおい考えていけば」

「決めた!」

「早っ!?」


 え? 何? 今考えてもう決めたの? 決断早すぎやしない? 


 とにかく聞いてみるか……どれくらいの大きさの家がいいのか。


「お前の店くらい」

「何で」


 どうしていきなり俺の店が出てきた?


「思い出したんだけどさ、あの店2階建てだろ? だから」

「ポイントそこだけ!?」

「だって2階があるってことは、それだけ広いだろ?」

「確かに居住スペースは多くなるけど」

「だろ? それに2階がある建物なんて珍しいし、目立ちそうじゃん」


 そうかな?


 でも業者に頼めば時間もお金もかかるし、気軽に建て替えることはできないだろう。もう少し慎重になったほうがいい気もするが……彼らはまずお金を貯めることが先になるだろう。今はざっくりしても目標になれば十分か。


 ゴチャゴチャ言わず、素直に応援の言葉をかけておく。


「そうだ。さっき“俺らの家”って言ってたけど、その家には子供だけで住んでるの?」


 大人が気を使ってくれる、とか。家にいないような口ぶりが少し気になっていた。


「そうだよ。教会や孤児院とは違うけど、スラムには親のいない奴が集まる家がいくつもあるんだ。そこで夜は寝泊りして、朝になったら働きに行く」

「集団生活のルールは?」

「年上が年下の面倒を見ることかな。近所の大人も生活の手助けはしてくれるし、いろいろ教えてくれたりもする。俺達の狩りも元冒険者のおっさんから習ったし……あ、そろそろ街の外から(まき)を集める時期だ。冬を越すためなんだけど、暇のある奴が小枝を拾ってくるのもルールか?

 とにかくそんな感じで、金はねーけどなんとか皆で生きてるんだ。だから皆兄弟みたいなもんでさ、俺と一緒に参加してる3人は同じ家に住んでるんだぜ」

「へぇ」


 親のいない子供達は、自助努力と周囲からの補助で生きているわけか。横の繋がり、それに仲間意識も強くなるはずだ……


 知らなかったスラムの内情を聞くことができたところで、カップが空になったようだ。


「ごちそうさん。うまかった」

「お粗末様です」

「んじゃ俺は行くよ。まだ依頼の獲物が見つかってなくてさ」

「あー……そう、なんだ」

「? そうか。教官は依頼について教えちゃいけないんだったな。こんな話されても困るか」

「まぁ、そんなとこかな」

「だったら自力で探すだけだ。じゃあな!」


 気合十分に、彼は拠点を出て行った。


 彼の獲物が、このあたりには生息していないと知らずに……


 ……俺も待機場所に戻ろう。

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