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教習開始

本日、5話同時更新。

この話は3話目です。

 3日後


 今日から教習が始まる。指定の通り集合の一時間前にギルドを訪れると、おそらく受講生だろう。気が早く若い冒険者が集まりつつあった。俺はその横をすり抜けて二階へ。


「失礼します」


 指定の会議室へ足を踏み入れた瞬間8人分の視線が集まる。そのどれもが俺の知らない人のもので、何だこいつ? とでも言いたげな視線もある。


「おい!」


 これは、絡まれるのか!?


 と、一瞬思ったが……


「あんた、リョウマだよな!?」

「え? ええ、そうですが……」


 声をかけてきた中年男性は、屈託の無い笑顔で近づいてくる。見た感じかなり友好的で、名前まで呼ばれた。


 まぁ、そうだよな。ここにいるのは指導を担当する人のはず。ゴロツキとは違うはずだ。でも……


「申し訳ありません、どこかでお会いしましたか?」

「ははっ、無理もないか。俺はロッシュ。忘れてるみたいだが、俺はあんたに一度助けられてる。お前らも来いよ!」


 ロッシュと名乗った男性の横に、さらに無骨な中年男性2人と中年女性2人が並ぶ。


 ……確かにどこかで会った事があるみたいだ。お仲間の顔が記憶のどこかに引っかかる。しかし、何処で会ったんだろう……


「思い出せないか」

「それはそうよ、あの時は私達以外にも沢山人が集まってたじゃない」

「いちいち覚えてられないわよね? 会ったのもそれっきりだもの」

「……? すみません、まったく見当がつきません」

「春ごろに北の廃鉱山で、大量発生したゴブリンの討伐があっただろう? 覚えてないか?」

「それは……!!」


 思い出した。4人のお仲間と、ロッシュさんの顔。


「もしかして、あの時に治療した患者さん?」

「思い出してくれたか! あの時はマジで助かった。あんたとヒールスライムのサポートが無かったら死んでたかもしれん」

「ちなみに俺とこいつも軽傷の治療で君の世話になった」

「俺がハワードでこいつはルーカスな」


 互いを指しあう無骨な男性2人。それに女性2人もよくよく見れば、あの時俺への礼を口にしながら涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた方々だと分かる。これは申し訳ないことをした。


「別にいいさ。ところでここに来たって事は、もしかして教官役か?」

「はい。ギルドマスターからやってみないかとお話をいただいたので」

「そうか! なら改めて、俺はロッシュだ。今回の依頼でリーダーを務める事になってる。後で軽く説明はするが、何か分からない事があれば聞いてくれ」

「ありがとうございます。野営は得意分野ですが、他人への指導経験はほぼありません。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」


 何事もなく仕事を始められそうで何より。しかし不思議な縁もあるものだ。


 ちなみに女性二人はルーシーさんとミミルさん。どちらも魔法使いとのことだ。










「受講生諸君! 注目!」


 教官役の冒険者が全員集まったことを確認すると、簡単な打ち合わせをすませて移動。


 ギルドの片隅に顔を出すや否や、生徒の集まりを前にロッシュさんが声を張り上げた。若干口調が変わっているが、指導用なのだろう。


 聞いたところによると、彼と彼の仲間はここ数年で冒険者としての活動を半分引退し、今回のような若手の育成に重点を置いているそうだ。冒険者としてもベテランだが、ウォーガンさんが話していた通り、指導者としても経験豊富な方々のようだ。


 生徒に対する注意事項の説明が済むと、各教官から簡単な自己紹介が行われる。


 リーダーであるロッシュさんのパーティーから順に、15人目の俺が最後だ。


「皆さんおはようございます。私はリョウマ・タケバヤシ。私はこの街に来る以前、“ガナ”という森で3年ほど野営と狩猟で生活していました。そのためランクはEですが、野営や食料の確保、薬草や毒草の見分けに関しては十分な実力があるとギルドマスターから認められています。自分より年下に見える方もいらっしゃると思いますが、その点に関してはご安心ください。

 得意武器は弓と刀。魔法も基礎は修めていますし、回復魔法もハイヒールまでなら使えますので、道中で怪我などありましたら気軽に声をかけてください。

 それでは教習中の5日間、どうぞよろしくお願いします」

『よろしくお願いします』


 ……う~ん……騒いだり不満を漏らしはしないが、あまり反応が良くないなぁ……ま、仕方ないか。


「これで一通り終わったな。では表に5台馬車が停めてあるから6人ずつに分かれて乗り込め! 各馬車には3人ずつ教官が乗り込む! 10分後に出発だ! それまでは席を決めるなり、用足しに行くなり自由だ! いいな? 10分後だ! では一旦解散!」


 集まっていた人々が一斉に動き始める。


 本日の参加者は教官が俺を含めて15人、生徒が倍の30人。総勢45人が一斉に外へ出ようとするものだから、ギルドの入り口付近が混雑している。一回トイレに行っとくか。






 少し時間を置いてからのんびりギルドを出ると、生徒はおおむね乗り込んでいるようだ。さて、俺はどこに乗ろうか……おっ?



「よう、リョウマ」

「あれ? ベック達も参加してたんだ?」


 なんと真ん中の馬車に顔見知りの6人組が乗っていた。


「ジェフの兄貴にいろいろ教えてもらって、なんとか全員分の金が溜まったからな」

「それにジェフ兄さんにも仕事があるから……」

「仕事でいない間、私達は教習を受けることにした、です」

「なるほどね」

「リョウマこそ、何でこんなとこにいるかと思えば教官かよ」

「ギルドマスターからの推薦でね。お互い頑張ろう」


 それだけ言って、彼らとは別れる。

 馬車の席は空いていたようだけれど、教官役を務める以上、顔見知りに肩入れするような真似はできるだけ控えた方が良いかと思い、結局ロッシュさんと見知らぬ少年達がいるパーティーの馬車へ乗り込んだ。




「……」



 ……空気が重い!


 この馬車は列を成して進む5台のちょうど中心を走っているため、前後の馬車からは楽しげな声が聞こえてくる。しかしここは個人での参加者が集まっているようで、出発して一時間。誰一人として言葉を発していない。


「……リョウマ」

「はい。何でしょうか?」

「お前の荷物、やけに少ないけど大丈夫か?」


 沈黙に耐えかねたのか、ロッシュさんが質問してきた。

 確かに俺の荷物は毛皮で作った背嚢1つ。背嚢が複数だったり、その上に寝具や野営用品をくくり付けているロッシュさんや他の参加者と比べると格段に少ない。


「大丈夫です。5日分の物資は空間魔法で保管していますから」

「空間魔法が使えたのか」

「はい。できるだけ身軽に動けるようにしたいので、この背嚢は必要最低限の物だけにしています。この中身だけでも2,3日は野営できる自信はありますが、アイテムボックスの中身を含めれば5日くらいは余裕です」

「空間魔法使える奴はそのへん楽だよなぁ。俺らも昔挑戦したんだが、誰も空間属性は使えなくてさ。魔法道具を探してみたら高いのなんの。その割に収納量も少なくて、結局諦めたよ。

 皆も自由に話していいからな。別に無駄口叩いたら減点だの罰則だの言う研修じゃないぞ」

「そんなに気を張り詰めているとすぐに疲れるわ。野営地に着くまではほどほどに気楽にしましょう」


 ロッシュさんとルーシーさんがそう言ったことで、馬車内の雰囲気がやや軟化した気がする。


 しかし、6人の生徒は話そうにも話題が無く困っているようだ。


 いきなり話していいって言われても困るよね。その気持ちは分かる。痛いほど。


「ロッシュさん、何か全員で話せる話題とかありませんか?」

「話題……そうだな、冒険者が上を目指すために重要な能力は何だと思う?」

「……強さでしょうか?」



 馬車内の生徒へ向けての質問に、おずおずと一人の少年が口を開いた。

 それをきっかけに少しずつ言葉が出始める。


 強さ。具体的には武器の腕前だったり魔法の腕前だったり。我慢強さと答えた人もいた。


 それをロッシュさんは確かにそれも必要だが、と前置きして答えを発表する。


「正解は“協調性”、そして他人との“対話能力”だ。

 冒険者の仕事は上のランクになるにつれて難易度が上がっていく。討伐系の依頼なら危険度もな。だから冒険者はパーティーを組むんだ。必須とは言わないが、Dあたりから1人で活動してる冒険者ってのは激減する。C以上はほんの一握りさ。そしてそうなってから、必要になるのが“協調性”と“対話能力”になる」

「パーティーは各メンバーの不得意な分野を互いに補い合えるように組むのが理想だけど、一回で最高の仲間に出会えるとは思わないほうがいいわ。一緒に活動するなら能力だけじゃなくて、人と人との相性や仕事中の連携も重要になるから。大抵はいくつかのパーティを渡り歩いたり、解散と結成を繰り返すことになるわね」


 引退や怪我による一時的な脱退と加入も起こりえるし、場合によっては仲間と報酬の分配で揉めたり、依頼主に無理難題を持ちかけられたりと、冒険者は何かと交渉の機会が意外と多い仕事なのだ。


「依頼については基本的にギルドが依頼主と話し合って適正な報酬額を決めている。けど冒険者と直接交渉して報酬を安くしようとする依頼主が結構いるんだよ。高ランクになると報酬も高くなるからな」


 それに、冒険者に限らずその能力はあるに越したことはない。


「身に着けておいて損はありませんよね」

「リョウマが言った通りだ。だが皆の実力って答えも間違ってはいないぞ。実力を欠いて上のランクに上がることはまず無理だ。相当な手違いでもなければな。……まぁ、そうなった場合はむしろ地道にやっていくよりも苦労することになるだろう。何か質問はあるか?」

「パーティーの組み方にコツとかありますか! どこに行くと良いとか、こういう酒場で探すといいとか」


 生徒達もだんだん積極的になり始めている。


「とりあえず場所はギルドが一番無難だろう」

「そうね。受付で相談すれば紹介してもらえるし、おかしなところで素性の知れない冒険者と組むよりは安全よ。もし相手が素行の悪い冒険者なら事前に教えてくれるから」


 そういえば以前、レナフで酒場で意気投合した人と組んで囮にされた方々もいたな。


「パーティーを選ぶときに注意すべき点は、“頻度”ね。あまり頻繁に募集をかけてるパーティーがあったら、そこは人の入れ替わりが激しいってことだから、そこには入れ替わるだけの理由があるはず。同じように長期間出されっぱなしの募集も注意が必要ね。問題の無いパーティーなら、大抵はすぐに募集が取り下げられるわ」


 ルーシーさんが質問に答えていると、ロッシュさんが思い出したように付け加えた。


「相手の付き合いも、できるかぎり注意すべきだな。冒険者同士、横のつながりは大切にすべきだが、たまにギルド外で集まりを作ってる連中がいる。これ自体は別に何も悪くは無い。ただその集まりで悪事を働く連中もいるんだ。

 ギムルでも春ごろに“オブテモの牙”って不良冒険者の集まりがあってな……」


 ……そんな奴らもいたなぁ……


 だいぶ前のことに感じる記憶を思い出していると、2人は生徒にさらに詳細を話していた。

 この馬車に乗る6人は、あの事件当時あの場にいなかったのだろう。皆、2人の話に聞き入っている。


「……と言うわけで、返り討ちにされて事件が発覚したわけ」


 聞き終わった彼らは険しい顔だ。


 いつか仲間を探すときに、彼らはこの話を思い出すのだろうか? ……いい仲間を見つける一助になるといいな……



「ちなみにその返り討ちにした少年冒険者ってのは、そこで知らん顔してるリョウマだぞ」

『!?』

「んなっ!?」


 驚いたように俺を見る6人。


 間髪入れずに飛んでくる事件についての質問。


 俺は積極的になった彼らから質問責めにされ、解放されたのは馬車が止まる頃だった……

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[一言] 知らん顔……www
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