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森の探索 1

本日、9話同時更新。

この話は5話目です。

 馬車に揺られる事3日間。


 俺は主に食事の用意を担当したり、ミゼリアさんやミーヤさんから馬の扱いを習いながら過ごした。



 ギムルから離れるとゴブリン等の魔獣が何度か襲ってきたが、すぐさまレイピンさんの魔法で仕留められ、数が多くても一流冒険者が集まるこの馬車には届かなかった。


 俺の出る幕なんか少しもなく。分担された仕事がないと時間を持て余す。そこで馬車を御せれば何かと便利だと聞き、話してみたら快く教えて貰える事になったのだ。


 そんな訳で今も、前世でも経験したことの無い馬車の御し方を習っている。


「基本は大体身に付けたみたいね。あとは慣れれば問題ないと思う」


 おっと、隣で様子を見ていてくれたミゼリアさんからお墨付きを頂いた。


「ありがとうございます、ミゼリアさん」


 でもまだ完全に身に付いたとは言えない。この依頼が終わってから練習しなきゃ忘れるだろうし、帰ったら馬車を買うか? ……使う機会はあまり無さそうだから勿体無い気がする。馬車だけじゃなくて馬も必要になるし、よく考えてから決めよう。




 それから4時間程が経つと、そろそろ目的の森から最寄りの街が近いと告げられた。


 さらに20分ほど馬車を進めると、街の門が見えてくる。


 ここからは人通りが多くなるのでミゼリアさんと御者を交代。


 のんびり門や街並みを眺めると、ここはギムルよりだいぶ小さい街のようだ。しかしそれなりの賑わいもある。街中の建物は全て木造で、木材を積んだ馬車と頻繁にすれ違う。この街は林業が盛んなのだろうか?


 ……考えているうちに宿に着いた。男3人女4人で別れて部屋を取り、その後は冒険者ギルドでトレントの目撃例などの情報を収集し、明日に備える。











 翌日


「準備は良いでござるな?」


 アサギさんの声に俺達は頷きあい、森へ踏み込む。


 先頭はミーヤさんとミゼリアさん。次にシリアさんとウェルアンナさん。続いて俺とレイピンさん。そして殿にアサギさんだ。


 森は薄暗く、鬱蒼としている。それだけならガナの森にも同じ様な所があったが、何かが違う。なんとなく空気が澱んでいるような、息苦しい感じがするな……


「む……早速いるのである。ミーヤ、前方10m程にある他より若干太い木が分かるであるか?」

「あれかにゃ?」

「そうである」


 1本の木を指し示して聞くミーヤさん。指された木の幹は直径30cmから40cm位だろうか? 高さは4m程の針葉樹だ。見た目は本当に周りの木と見分けがつかない。言われた通り若干周りの木より大きくて枝が長い気がするが、注意深く見なければ気づけないだろう。


 レイピンさんから間違い無いとの返答を受けると、周囲に他のトレントがいない事を確認した後、ミーヤさんとミゼリアさんが片手斧を持って接近する。今日の相手はトレントなので、女性陣はナタや小型の斧を手にしていた。


 2人が近づくと先ほど指し示された木の枝がしなり、2人へ向けて上から鞭のように振るわれた。


 2人はそれを軽く躱す。しかしトレントの枝は固そうな質感からは意外なほど自由自在に曲がるらしく、枝を躱したミゼリアさんに絡み付こうとしている。


 ミゼリアさんがすぐさま枝を斧で叩き切ると、トレントの枝が僅かに下垂し、ゆっくりと幹が傾く。


「もう大丈夫にゃ!」

「仕留めたよー」


 手を振ってくる2人の所に近づいてみると、ミーヤさんの斧がトレントに刺さっていた。


 俺のいた場所からは陰になっていて見えなかったが、彼女が顔のようなコブに斧を叩き込んでいたようだ。完璧に額が真っ二つになっている。


「枝を避けてこうすれば一撃で仕留められるにゃ」

「一匹なら結構楽な相手だから、次に一匹だけでいたらリョウマ君が戦ってみたらいいと思うよ」

「ありがとうございます。……?」


 アドバイスをくれた2人の横で、難しい顔をしているレイピンさんが目に入る。


「レイピンさん、どうかしました?」

「見つかるのが早いのである。トレントは森の奥深くの暗い場所を好む魔獣なので、こんなに森の入口付近に出てくる事など滅多にないのである」


 そういえば、昨日のギルドで得た情報にも入口付近での目撃報告は無かった。


「こりゃ奥は多いかもしれないね」

「はぐれたトレントが迷い出て来ただけかもしれぬが、油断せずに進むでござる」


 俺を含めた全員が気を引き締め、仕留めたトレントから枝を落とし、レイピンさんのディメンションホームに収納して再び歩き出す。


 そしてしばらく進むと、またトレントが一匹。


「いたのである。リョウマ、やってみるのである」

「はい」


 前に出て、ビッグアイアンスライムの刀を抜く。ちなみに鞘はビッグメタルスライム。硬化スキルのお陰で強度は十分。切れ味も良い。変形に慣れてきた今では万一曲がったり刃溢れした場合も即座に修復してくれる信頼できる一振り。


 ……魔力感知で標的のトレントを再確認。体と刀に気を纏い、刀を八相に構える。今回のトレントは先程よりは細いが、ゆっくりと近づいていくとトレントの攻撃範囲に入った所で上から枝の攻撃が来た。


 躱しながら右に回り込むと、弱点であるコブが視認できた。即座にそこへ刀を振り下ろす。すると真横から顔をそぎ落とす形ですんなりとコブを断ち切る事ができた。


 切った瞬間トレントが呻き声の様な音を出したが、特に害は無い。切り落とされたコブは落下地点にあった根にぶつかり、カラカラと音を立てて地面に転がる。


 一太刀で仕留める事ができたのだろう。魔力が急速に失われ、先程のように枝が垂れて傾く。


「問題なさそうであるな」

「数を集めなきゃいけませんし、この調子でどんどん行きましょう」


 トレントの危険性は周囲の木に擬態しての不意打ちにある。逆に言えばトレントの攻撃範囲に入る前に発見できていれば、その危険度は大幅に下がる。とりあえず1対1なら問題は無さそうだ。あとは群れた場合にどうかだが……それはこれから確かめる事だ。




 その後、森の中で昼まで討伐を行ってトレントを大量に確保。そして俺も大分戦い慣れてきた頃、群れを見つけたので皆で殲滅・回収した。


 成果を数えてみたところ、なんと驚きの147匹。本来は森が開けていて森に入る人が休憩に使っている場所らしいが、そこをトレントが埋め尽くしていたため、見た目には森が続いている様に見せていた。これも昨日の情報にはない。


「時間はまだある故、トレント材の確保はそう急がなくてもいい。それより先の情報より大分トレントの数が多いのが気になるでござる。早めにギルドに伝えた方が良いな……」


 確かに情報と今では状況が大分違っている。ここまでに狩った分を含めると、既に200本近いトレントが集まっている。最低300本の予定だったが、もう既に半分以上が集まっているので今日は早めに街に戻る事になった。









 ギルドで今日の森の様子を受付にいた受付嬢……というには少しお歳を召した女性に報告すると、彼女は神妙な顔でこう語る。


「そうでしたか……ありがとうございます。実は先程も皆様と同様に森の様子が違うと言って来た方々がいまして、これから森の奥の様子を調べに人を出そうという話になっていた所です」

「そうであったか、何かこの大量発生に心当たりは?」

「エルダートレントがいる可能性があります。あの森には年中トレントが生息していますし、数年から十数年に一度は発見報告がありますから……」

「やはりか……我々が森に入るのは構わないであるか? 規制等は?」

「皆様はご自由にどうぞ。AランクやBランクの皆様なら問題ないでしょう」


 俺はEだが、黙っておこう。女性も俺だけ森に入るのを止めたりしないみたいだし。それどころか女性は俺達にどうせ森に入るならば、とトレントの討伐依頼を持って来た。


 冒険者が複数の依頼を同時に受注する事は可能。例えば何か依頼を受け、その付近でできる依頼を受注して仕事をこなし収入を増やすのは、余裕を持って仕事ができる様になった冒険者なら当たり前の様にやっている事だ。


 今回の場合はここでトレントを倒して討伐報酬を貰い、倒したトレントをギムルに持って行ってトレント材確保の報酬を貰う。ここの依頼はトレントを倒すことが目的で、ギムルの依頼はトレント材を集める事が目的なので、余計な手間も問題も無い。今日の様にトレントを狩っていれば達成できる。


 こうして必要な情報を得て、ついでにトレントの討伐依頼も受けた。


 次に森へ入るのは明日という事で、明日まで自由時間となる。


「予定に無い暇ができたな……」


 時間を無駄にするのももったいない。亜空間倉庫に入り、スライムと訓練をしよう。


 今日はポイズンスライムとの槍術訓練をメインにするか。







 そう思い立った数十分後、訓練中にふと思った。


 メルゼンの槍をポイズンスライムに与えたらどうなるんだろう?


 アイテムボックスの肥やしになっているあの槍。少し重いかもしれないけれど、槍としてはポイズンスライムにも何とか使えるだろう。だが魔法武器としてはどうだろう? ……スライムが進化の際に魔力を放出していた事は確認している。それは進化の時だけの事なのか? それとも何時でもできる事なのか?


 疑問だ。試してみるしかない。


 ポイズンスライムを1匹呼び寄せ、魔力の放出を試させる。すると、あっさりと魔力を放出し始めた。これならいけるかもしれない!


 そうとなれば、アイテムボックスからメルゼンの槍を取り出すまでは早かった。


 目の前のポイズンスライムに持たせて魔力を込めさせる。すると……勢いよく槍の穂先から火が吹き出す。


「! 成功っ! そのまま槍を振れるか?」


 ポイズンスライムは火を吹き出す槍を操って見せる。やはり槍が重いのか普段より動きが悪いが……それでも一応使えている。しかし、続けさせていると若干動きが悪くなってきた。


「スライムに疲れ……普段はぜんぜん感じさせないのに、魔力切れか?」


 もうやめさせよう。


 と思った瞬間。ポイズンスライムが槍を取り落とし、体が縮んでいく。


「どうした!?」


 駆け寄って様子を見てみると命に別状は無さそうだ。でも少し弱っている。体は普通のポイズンスライムの半分程になり、動きも鈍い。……とりあえず毒属性の魔力を与えながら様子を見よう。


「体が小さくなったのは縮小化じゃないよな……ただのポイズンスライムには縮小化のスキルは無かったはず……」


 魔獣鑑定で調べてみても、やはり縮小化のスキルは持っていない。ならば何故? 魔力を使わせたから? ……それくらいしか思い当たらないが、そうなると今度は何で魔力を使ったら体が縮んだのかという話になる。


「体……魔力…………消費した?」


 確証は無いが、スライムの体が魔力でできているとしたら? 魔力を使わせた事で縮んだ事と弱った事に説明がつく。というか、それ以外に理由が思い浮かばない。


 だが魔力は目に見える物じゃないし、スライムの体の様に触れられる物でもない……でも、スライムは死ぬと体が消える。スライムの体が魔力だとしたら、その現象にも説明がつく、かもしれない……だがそうなると……


「…………一旦これは置いておくか」


 とりあえず、仮説としてスライムの体は魔力でできていると考えてみよう。後はレイピンさんにも話してみて意見を聞きたい。







 そして夕飯の時にレイピンさんに聞いてみたが、レイピンさんにも分からないと言われた。


 そもそもスライムに高価な魔法武器を与えようとする事がまず無かった発想であり、スライムが魔力を放出して魔法武器を使えた事にも驚かれた。


 そして最終的に出た結論は、可能性はある、という一言。そもそも魔獣は普通の動物より多くの魔力を体に宿しており、魔法が使えない種類も例外ではない。よって、スライムが魔力を持っている事には何の不思議も無いのだとか。


 だが体である魔力を使ったから縮んだとなると、アーススライムやヒールスライム等、魔法を使うスライムが縮まない理由が分からない。


 これはまだまだ研究を続ける必要がある……






 次の日


 今日も森でトレント狩りと回収。


 それにしても、本当にトレントが多い……朝から昼まで交代で休憩を取りながら狩りをして、2日でざっと600本分のトレント材を回収しただろう。


「そろそろ吾輩のディメンションホームに空きが少なくなってきたのである。今日はこれくらいで良いと思うのであるが、どうであるか?」


 目標には達しているし、時間はまだある。誰からも異論は出ず、今日の仕事は切り上げる事に。


「! リョウマ! あれを見るのである!」


 森を抜けようと歩を進める最中、突然レイピンさんが空を指差し声を上げた。



 指し示された方向を見ると、木々の間から空に緑色の小さな球体が浮かんでいる。その上には……大きなタンポポの綿毛? 何だろう?


「スライムである!」

「スライム!?」

「フラッフスライムという種類で、飛行能力を持つのである。リョウマは飼っていなかったはずだと思うのであるが……」

「確かにあのスライムは飼っていませんし、知りませんでした。捕まえられますか?」

「容易い事なのである。『ピックアップ』」


 レイピンさんが空中のスライムを見据えて手を前に突き出し、呪文を唱えた次の瞬間。空にいたはずのスライムが彼の手元から少し離れた位置に現れる。


「それは?」

「対象を自身の手元かその付近に転移させる空間魔法である。対象を目視できる範囲でなければ使用不可。そして狙いを付けるのが難しい魔法なので使い手は少ないのであるが、相手によっては無傷で捕獲できるという利点もある。だから吾輩はこの魔法で研究する魔獣を捕まえているのである。グレルフロッグの捕獲にもこれを使っているのであるよ」

「なるほど……」


 そう言えばグレルフロッグ狩りの時、魔法で捕まえるとか言ってたな。この魔法か。


「それより早く契約してしまうのである。ここも安全とは言えないのである」

「そうでした」


 急いで目の前のフラッフスライムと契約をすませる。


 サイズは俺の手のひらに丁度いい、小ぶりな手乗りスライムだ。


 そのままディメンションホームの中に入れ、レイピンさんと周辺警戒をしてくれていた皆さんに礼を言って再び歩く。その歩みはやや速くなっていたかもしれない。






 街に着いたのは日が暮れる前。一直線に宿へ戻って、フラッフスライムに魔獣鑑定。


 フラッフスライム

 スキル 飛行Lv1 成長促進Lv5 軽量化Lv10 光合成Lv3 吸収Lv1 分裂Lv8 


 光合成があるから消化は要らないのか。吸収は水だろう。この飛行と成長促進、軽量化は初めて見る特徴的なスキルだ。あとは……分裂のレベル高っ! 綿毛みたいなのが付いているし、やはりタンポポの様に増えるのかな?


 とりあえずスキルの確認のためにフラッフスライムを持ち上げ、軽量化を試させる。


「!」


 突然重さが無くなった様に軽くなった。元々他種と比べて軽かったけれど、それでも重さはちゃんと感じた。それが今はさっぱり消えている。


 大きさに変化はなし。質量がどうなってるのかが気になるけれど……軽くできるのは自分の体のみの様だ。まぁ他の物まで軽くできるんだったら荷物運びに便利だ、位は誰かが気づいているだろう。


 んー……軽量化の状態だと、俺が腕を振ったり動いたりするだけの僅かな風で飛ばされてしまう。おそらくこれが飛行のスキル。……どちらかと言うと浮遊が正しい表現だと思うけど、一応軽量化の調節で高度の調節は多少ならできるみたいだ。ほとんど風任せなのは変わらないけど。






 観察を終えてレイピンさんから話を聞くと、フラッフスライムは風に乗ってかなり遠くまで移動する事があるので、割とどこでも見かける可能性はある種類だそうだ。


 ただし、大量に発生する事はあまり無いとの事。分裂のレベルが高いのに何故だろうか?


 そう思って聞いてみたら、分裂時には予想通りタンポポの綿毛の様に飛ぶそうだが、全ての綿毛がフラッフスライムになる訳では無いとの答えが返ってきた。


 なお、大量発生したらしたで綿毛が迷惑になり、近隣の街や村から駆除するよう討伐依頼を出されることが多いらしい。


 フラッフスライムにも何かできないかは今回の仕事が終わってから、時間をかけて考えてみよう。

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