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採取依頼

本日、9話同時更新。

この話は2話目です。

 創立祭が終わり、セムロイド一座がこの街を去ってから1ヶ月。


 祭りを境に、夏の暑さが徐々に和らぎつつあるように感じるこの1ヶ月。俺は教会に寄付するスライムを捕まえて選別したり、その最中に発見した風属性の魔力を好むスライムを進化させたり。地道な訓練の日々が続いていた。


 そして公爵家の方々と別れてから丁度半年となる今日。冒険者ギルドに顔を出すと、ウォーガンさんに呼び出された。


「リョウマ、最近よくやってるみたいだな。一時はお前さんが商人一筋で行くんじゃねぇかと思ってたが」

「あはは……まぁ、のんびりやってますからね」

「ま、人の上に立ったら向き不向きは関係なくそれなりの責任や仕事もあるわな。……で、本題だが、来週から2週間位予定は空いてるか?」


 防水布も作り溜めてあるし、急ぎの仕事もない。


「大丈夫です」

「そうか。なら1つ受けてもらいたい依頼がある。仕事内容は採取になるが、量が多いから空間魔法使いの手が欲しいんだ。運搬担当として仕事に加わってくれると助かる。ちなみに採取場所にはお前さんが戦いたがっていた魔獣が出るぞ」

「本当ですか?」

「ああ、対象はトレント。採取してもらいたいのもトレントの素材だ」


 トレントか!


 トレントは木の姿をした植物系の魔獣で、周りの木に擬態して人や他の魔獣を狙う。シュルス大樹海にも多く生息する、擬態と不意打ちに特化した危険な魔獣だ。


「詳しい説明は他のメンバーも集めてするから、聞く気があればまた明日の昼にギルドに来てくれ。その後に受ける気があれば、そこで参加の登録をする事になる」

「わかりました。それではまた明日の昼に」

「おう、気をつけろよ」


 そうと決まれば、出かけることを伝えておかないと……













 翌日


 約束通りギルドを訪れると、通された部屋にはミーヤさんがいた。


「にゃっ? リョウマも呼ばれたのかにゃ?」

「空間魔法使いの手が欲しいそうで」

「そこまでの量を集めるにゃんて、一体にゃにに使う気にゃのか」

「さぁ……」


 適当に雑談をして待っていると、ウェルアンナさん達とレイピンさん。そしてアサギさんが続々とやって来て、最後にやってきたウォーガンさんから説明が行われる。


「……とまぁ、こういう訳だ」


 説明された内容を纏めると、依頼内容は木材の確保。これはトレントを仕留めて持ってくれば良いらしい。量は最低でも300匹分、それより多い場合はその分報酬が増える。


 1匹の大きさが分からないため、300匹分がどれくらいになるかも分からない。しかしかなりの量になる事は確実。空間魔法を使える俺やレイピンさんが呼ばれたのにも納得だ。


 出発の予定は2日後。


 特に問題なさそうなので、俺は参加する。周りの様子を見てみると、他の皆さんも参加するようだ。


 しかし、全員の依頼受注が終わった段階でウェルアンナさんからこんな質問が出た。


「トレント材をこんなに集めて、何かあるのかい?」

「ああ……この街の人口が減ってるのは知ってるよな?」

「そりゃ知ってるよ。1つとはいえ鉱山が廃坑になったんだからね、仕事が減ったら出て行く奴もいるだろうさ」

「前の役所の頭はそこら辺にあまり熱心じゃなかったみてぇでな。特に何もしてなかったんだが、新しく来た役所の頭はそのあたり熱心らしい。人口増加、収益増加、そんでもって街の環境改善。色々と動いてるって話だ。

 今回の件は職員の発案が採用されて、街に名物を作って人を呼び寄せる事になったらしい。……だが、この街には鉱山や鉄以外の見所は無い」


 リムールバードの集まる場所とかは観光地として良いんじゃないか?


「その案も出たらしいが、その時期はグレルフロッグ狩りも行われるから観光には向かねぇ、だからって狩りをやめたらグレルフロッグの収入が無くなるってんでボツになった。大体一時的な物だしな、役所の連中は1年中、常にある物を名物にしたいらしい」


 えー……街興しってそんな簡単な物じゃ無いだろ。俺も良く知らんけど、売りになる物があるだけマシじゃないか? 選り好みせずに既にある利点を活かせよ。あれも祭りみたいな物だと思えば……ダメか?


「一時的でも良いんじゃないですか? 季節の風物詩とすれば」

「季節の風物詩はいいが、この街は鉱山街だろ? 将来、鉱山を掘り尽くしちまったらその季節しか収入が無くなるだろう? それに備えて、1年中常にある物を名物にしたいんだそうだ」


 ああ、そうか……そう言われるとその通りだ。


「まぁお前さんが言いたい事も分からなくはねぇよ。まだそれほど切羽詰まってる訳じゃねぇんだから、俺も少しずつやっていけば良いと思うが……まぁ、とにかく今回はそういう方向で話が進んで、最終的に街の南門の先にもう1つ観光用の街を。その中心部に新しい売りとなる“闘技場”が作られる事になったってわけだ。

 そこで試合をやって出場者や観戦者のための宿屋やその他色々、後は闘技場での観戦料や賭け事で収入を得るって寸法らしい。完成するまでは莫大な金がかかるが、完成してからの儲けはでかいな」

「闘技場と賭け事でござるか……収入は多いだろうが、治安が悪くなりそうでござるな」


 確かに、荒くれ者やゴロツキが彷徨くのが容易く想像できる。


「だからこその新しい街だ。客や闘技場の参加者が泊まる宿などの施設は一切合財、新しく作られた街の中に用意される。この街は今まで通り鉱山街のまま何も変わらねぇよ。管理をこの街と一緒に行うだけで、別の街が南にできると考えればいい。

 治安維持のための費用は大幅に増やして警備隊の人数も増員する。賭け事は街で管理して、徹底的に取り締まる。

 で、こっからがウェルアンナの質問の答えに直接繋がるんだが……その闘技場の設計と建築をペルドル・ベッケンタインが手がける事になった」


 その一言で俺以外の全員が驚く。有名な人なのか?


「その人はどんな方なんです?」

「む、リョウマは知らないのであるか? ベッケンタイン子爵家の次男。本来なら兄の下で領地経営の補佐をする筈が家を飛び出し、建築家としての活動に心血を注ぎ続けている男である」

「建築家としては現在並ぶ者がいない程の天才として有名ですけど、それと同時に凄い変人としても有名な方ですよ」


 いろんな意味で濃そうな人だな……全然知らねぇけど。


「打診をしたら良いイメージが浮かんだとかで、即決で引き受けて貰えたらしい。だが引き受けて貰った時にこう条件を出されたらしいんだ、闘技場の要所にはトレント材を使いたい、トレント材以外では建てられない! ってな。それで今のうちから少しずつトレント材を確保し始める事になった訳だ」


 芸術家のこだわりなのだろうか? 聞いてみるとトレント材は建築に使えない事は無いが、普通は魔法使いの杖の材料として使うため、建築には使われないらしい。


 ペルドル・ベッケンタインという人は、多少の無理を言う位なら許される建築家としての腕か何かを持っているんだろう。並ぶ者のいない天才と言われる位だからな。


 そんな事を考えていると、話は終わりこの場は解散となった。














 そして出発当日。


 今日までは色々と準備に使った。と言ってもほとんどディメンションホーム内に保管していた物を廃坑内に作った倉庫に移し、入口を土魔法で塞いで整理と盗難防止をしただけだけど。


 あと、セバスさんから教えられていたディメンションホームの拡張作業も試してみた。


 1回やるたびに拡張にかかる負荷が増えていくのを感じたけれど、膨大な魔力に任せて訓練がてら繰り返した結果、ギムルの店の従業員宿舎の一階と同じ位の面積にまで拡張した。トレント1匹がどれくらいか分からないが、これである程度の木材は収納できるだろう。


 そんな事を考えている俺は、まだギムルの街の南門にいる。他の皆さんと待ち合わせるためなのだが……


「まだ来てないのかな?」


 周りを見渡すが皆さんがいない。まだ来てないのか……と思いつつ周りを見渡すと、少し遠くからレイピンさんとアサギさんが歩いてきた。


「おはようございます! レイピンさん、アサギさん」

「おはようである」

「おはようリョウマ、体調は大丈夫でござるか?」

「大丈夫です」


 その後ミーヤさん達とも合流し、門でギルドマスターが手配してくれていた馬車と馬2頭。そして支給品の食料が引き渡されて旅が始まった。ちなみに馬車は荷馬車で、ミゼリアさんが御者を担当している。


 ギムルの南は木が所々に生えているだけの平原なので、馬車の揺れに合わせて長閑な景色が流れていく。


 そんな中、今回の依頼でリーダーを務めるアサギさんを中心に、行動方針についての確認が行われた。


「では、森の中では基本的に拙者とミーヤ、そしてウェルアンナ達がトレントを倒す。レイピンとリョウマは討伐したトレントの運搬に加え、レイピンがトレントの捜索と周辺警戒。リョウマがその護衛をするという事で良いでござるな?」


 頷いて同意を表す。基本はそうだが、全く戦わない訳ではない。俺がトレントと戦う経験を積むために参加したのは既に皆さん知っているから、経験も積ませて貰える事になっている。


 その後は魔獣の専門家であるレイピンさんが中心となり、トレントの弱点や注意点の確認も行った。


 それによると……トレントは枝を動かして攻撃してくるので上からの攻撃に注意が必要。弱点は木の体に付いている人の顔の様なコブで、そこかその周囲を大きく傷つける、あるいはコブより下を切り離したり折ったりすれば仕留められる。ただし今回は木材にするため、できる限り傷は少なめに、必要最低限にした方が良いそうだ。


 あまり無理して傷を少なくする必要はないが気には留めておくようにとの事だった。


 加えてトレントの上位種がいた場合は更に注意が必要になるとの事。動きはトレントより遅いが、振るわれる枝がより太く威力がある。さらに木魔法も使うため、枝や蔓を伸ばして行動を阻害したりもする前衛には面倒な魔獣らしい。


 ちなみにトレントと普通の木の見分け方は“魔力感知で魔力を感じ取る”こと。顔のようなコブの有無以外は普通の木と変わらないため、コブが死角にある場合に外見で見分けるのは非常に困難だが、豊富に持っている魔力を感知できれば割と簡単に分かるそうだ。


 最後にこれは余談だが、トレントは移動もできるそうだ。スライムより遅いらしいが、根を引き抜いて這いずる様に動くという。


 木が意思を持って歩くとはなかなか想像しがたいというか……かなり非常識に聞こえる。


 そもそも魔獣とは何なのだろう?


「魔獣であるか?」


 必要な話が終わってからレイピンさんに聞いてみたところ、魔獣とは動植物及び自然物が魔力によって変異した存在を指すらしい。トレントを例に挙げると、トレントは普通の木が魔力を持ち魔獣となる。魔力で突然変異が起こるのなら、木が魔獣になるのも納得できる。


 そういえば以前、ポリーヌさんから“魔化”の話も聞いたな……あれも植物が魔力によって変化する現象だったはずだ。


「人間は大丈夫なんですか?」

「魔力が過剰に体に入り込み、体調を崩す“魔力酔い”という症例はあるが、変異を起こす程に体に魔力が溜まることはまず無いのである」


 人体には防衛本能があり、普通は勝手に魔力が放出されるので変異まではしないそうだ。


 ついでに魔力酔いについても聞いてみると、魔力酔いは元々魔力を多く持つ人は罹りにくく、普通の人でも魔石や魔力回復薬の使い過ぎか、魔獣の肉を食べ過ぎたりしない限り出ない症状との事。


 さらにレイピンさんが言うには、生物の魔力は血に多く含まれるため、肉は別に気にしなくて良いそうだ。症状も軽いし、肉を食べて罹ったら運が悪かったとか珍しいとか言って、笑い話にできる程度で済む。


 そんな話をしつつ、周辺を警戒しながらものんびりと移動。


 魔獣も明らかに襲ったら拙い相手は本能的に避けるそうで、ギムルの周辺には7人も冒険者が乗っている馬車を襲うような魔獣はいないとレイピンさんに教えられた。そしてその言葉通り、この日は街を出てから一度も襲われなかった。


 道中はレイピンさんとの魔獣やスライムの話に花を咲かせたり、ミゼリアさんから今まで旅した場所の話を聞いたり、アサギさんと味噌や醤油の話題で盛り上がる。


「味噌汁、懐かしいでござるな……まさかレナフの街で味噌や醤油を手に入れる事ができたとは。良いことを聞いた、かたじけない」

「良ければ今晩、味噌汁作りましょうか? 材料ありますし」

「真か!? ぜひ頼むでござる!」


 ということで、夕飯は俺が料理を担当。


 レイピンさんのディメンションホームの中で、味噌汁と肉じゃがと米を出してみた。


 皆さんに好評だったが、アサギさんは味噌汁の懐かしさで泣いている。


「アサギ、アンタ長く故郷に帰って無いのかい?」

「うむ、拙者の故郷の島は遠いのでな、里帰りも楽ではないのでござる。何より拙者が剣を学んだ道場の教えで、ある程度剣を修めた者は冒険者になるよう言いつけられ、殆ど追い出されるように旅に出る。そして冒険者ギルドで依頼をこなし、Sランクになるか旅立ってから50年が過ぎるまで島には帰れないのでござるよ」

「50年? なんでまたそんなに?」

「道場を開いた開祖が世界を巡った年数だそうでござる。ひたすらに剣の腕前を磨くも良し、旅をして見聞を広めるも良し。外の世界で生き抜いて来るのが修行であり、試練でござる。何分、こちらには島にいない強い魔獣や様々な人々がいる故に」

「里の守りとかは大丈夫なの? 強い人が旅に出て50年帰って来ないんじゃ困らない?」

「心配ご無用。旅に出されるのは剣を極めんとする者だけでござる。護身のために剣を学ぶ者、里の防衛にあたる者、道場で修行中の者、道場の師範。里に残っている者の中にも腕利きは大勢いるので安心でござるよ」


 こうした会話をしながら食事をし、それぞれ寝袋で就寝の準備に移る。


 しかし、広いなここ……


「我輩は昔、拠点に長い間帰らずに研究する事もあったのでな。家財道具一式に研究資料、魔獣の標本……そういった物を詰め込むために長年かけてディメンションホームの拡張を続けていたのである。

 まぁ今はギムルから離れる事が減ったので、普段から荷物の大半は家に置いてあるし、今回は更に荷物を減らして来たのであるよ」


 掃除をするよりスペースを拡張する方が早くて楽だった、というのはちょっとあれだが……その成果は素直にすごい。荷物が無いから余計広く感じるし、実際の広さでも今の俺のディメンションホームと比べると倍は軽く超える。これからも精進しよう。


 就寝準備が整うと、やる事も無いのですぐに寝る事になった。


 早く寝て、明日は日の出と共に出発だ。

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[気になる点] 本分中の『加えてトレントの上位種がいた場合は更に注意が必要になるとの事。動きはトレントより遅いが、振るわれる枝がより太く威力がある。さらに木魔法も使うため、枝や蔓を伸ばして行動を阻害し…
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