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創立祭1日目 1

本日、5話同時投稿。

この話は2話目です。

 創立祭、当日。


 ソルディオさん達から剣舞師の技術について、学び始めて約2週間。


 彼は俺に“剣の腕前は申し分ないが、魔法による実戦経験が不足している”と問題点を提示した後、魔法の習熟と動きながら魔法を使うことに集中して、その練習方法を教えてくれた。


 威力よりも速さを重視して魔法を放ったり、等間隔で魔法を放ち続けたり。さすがにこの短期間では、完全に習得したと言うには程遠い。けれども以前と比べると、主に命中精度や発動時の動きに上達が見られると言っていただけた。


 やはり指導者がいてくれると捗る。


 さらに毎朝の基礎鍛錬にはあの日の薪を参考に、メタル・アイアンの二種類による縦横無尽な突進を取り入れた。


 360度の全方位から高速で絶え間なく飛んでくる金属の塊は、俺の回避や受け流しの良い訓練になる。あの二種類の頑丈さと俺自身の気による自己強化。どちらかが欠けたら非常に危険なことになりそうだけど……とりあえず問題はない。


 スライムにとっても攻撃練習になってるようで、昨日はどこからか入り込んだケイブマンティスを退治している個体を見かけた。以前から事故の結果として侵入者を倒していた事は何度かあったけれど、今は衝突を攻撃手段として認識しているようだ。


 これなら廃坑の防衛戦力になりそうなので、今後も訓練は継続していく。


 草原に出没していたトンネルアントは街道の安全確保を最優先としたギルドの対応により、街や流通への被害は未然に防がれた。少々街を騒がせたものの、人海戦術+魔獣の力で駆除は完了。おかげで街には見物客も続々と訪れていて、華々しい祭りの雰囲気が漂っている。


 そんな日の朝。


 店では気合十分といった面持ちの皆さんが集まっている。


「おはようございます!」

「リョウマ君、おはよう。どうだい? 朝ごはんに一つ」

「ありがとうございます」


 朝食と道具の最終チェックをかねて、作られていたホットドッグをいただく。


「リョウマ君、よければこっちにおいで……」

「ありがとうございます、ジークさん」


 肉屋のジークさんが誘ってくれた。


「いいとも。それにしても、ここはずいぶんと様変わりしたね」


 確かに。最初は何も無かった敷地なのに、今は色々な物が立ち並んでいる。


 まず道路に面した側を出入り口として、対面のど真ん中にセムロイド一座の舞台。一座にそういった技能を持つ方がいて、その方を筆頭に何処からか用意された資材であっという間に組み上げられていた。


 トンネルアントの討伐期間中だったので作業は見ていないが、ほとんど1日か2日で完成したと思う。


 舞台の前に立ち並ぶ椅子とテーブル。隙間が広めで多少乱雑に見えるが、プレナンスさん監修の下、舞台が見やすく観客の移動にも問題がないよう、しっかりと動線を考えた配置だ。


 舞台に向かって左。うちの店側に立ち並ぶ飲食物の出店に、向かって右のモーガン商会の出店と相まって、デパートのフードコートのような雰囲気だ。


 なお左右の出店の裏にはスペースが用意してあり、モーガン商会の方は倉庫に。うちの方は仕込み済みの商品搬入路およびセムロイド一座の舞台袖として利用されるため、舞台から伸びる垂れ幕や石壁によって仕切られている。


 さらに片隅に来客と通行人が気軽に使えるよう、公衆トイレなども別途で設置した。もちろんスライムと店の商品を最大限活用してだ。


 とりあえず準備できることはやりきった。


「あとはお祭が始まってからですね」


 創立祭が始まるのは午前8時から。


 大通りでは気の早い出店にお客が入っていたけど、うちは正式な開始時刻に合わせて開店する。


 とは言っても、初日は主にジークさんとポリーヌさん、そして二人が率いる肉屋の店員と奥様集団が出店を担当。俺やうちの店のスタッフが中心となって店を回すのは明日だったりする。


「そろそろかな?」

「ですね」


 話していると時間が早く進む気がする。

 開店時刻に間に合うように、さっさと食べて片付けておく。


「では皆さん、よろしくお願いします。僕も午後には戻りますから」

「任せときな!」

「リョウマ君も楽しんでくるといいよ」


 客でもなく、働かない人間が居座っても邪魔なので、開店前に一声かけて店を出る。


 背中に野太い男達の声と、おば様達の声を受けて街へ繰り出した。




















 街をぶらぶらと歩くこと数分。教会の鐘の音が鳴り響く。


「おっ、始まったか」


 すでに半分始まっていたような物だが、こうして合図が出るとまた違う。


 人々の熱気がより高まり、街の喧騒はさらに大きくなった。


 これまで蓄えられていたエネルギーが、堰を切ってあふれ出したようだ。


 色とりどりの布や花で飾り付けられた街並みも輝いて見える。


 さて、どこへ行こうか?


 朝食は食べたし、食べ物関係は後に回したい。しかし……


「らっしゃいらっしゃい! うちのハンバーガーは絶品だよ!」

「街から街へ渡り歩いて30年! 伝統のフライドポテトだ!」

「ポップコーンあるよー! おいしいよー!」


 なんだか懐かしいメニューの店がズラリと並んでいた。商品名と内容からして、地球からの転移者が伝えた物だと思われる。


「すみません、フライドポテト一つ」

「あいよっ! 5スートだ!」


 懐かしくてつい買ってしまう。


「お金、丁度で」

「まいどありっ!」


 お金と引き換えに、大きな葉を丸めて作られた器を受け取る。筒状の内部には香ばしく揚がった芋が詰まっていた。さっそく一本食べてみると、芋をただカットして揚げただけの素朴な風味がほのかな塩味とともに口の中に広がる。


「美味しい」

「だろう?」


 名前といい味といい、想像していた通りの商品だ。そう満足して食べ進めているとすぐに中身がなくなってしまう。少々後ろ髪が引かれるけど、このくらいにしておこう。じゃないときりが無くなりそうだ。


「おや? ちょっと、ちょっと」

「あっ、こんにちは」


 通りかかった店から声をかけてきたのは、よく利用する薬屋さんのお爺さんだった。普段は接客するでもなく、店の隅に置いた椅子に座って店内を眺めている人なのだが……今日は何か売っているようだ。


「お前さん、よく店に来る子じゃろ? ほれ、1つもっていきなさい」

「ありがとうございます。飴ですか?」


 棒の先に丸い塊。リンゴのないリンゴ飴のような形をしているが、やけに粉っぽくて色鮮やか。確認すると飴であっているらしい。


「!?」


 ……口に入れた瞬間、全身に鳥肌が立った。


「なんですかこれ……」

「ヒッヒッヒ。暑いときにはええぞー」


 寒気がするほど強烈な苦味と酸味に、若干の塩気。よくよく味わうと、暑気払いに効果のある薬草が数種類入っているようだ。この飴に塩分が含まれているならば、熱中症対策にもなりそうだ。味はともかく、“塩飴”のような物か? 確かに暑い日には良いかもしれない。


「明日もここで売っとるよ、気に入ったら買っておくれ」


 耐えられないほどでもないし……明日も買うか。


 お礼を言ってさらに歩く。


 ……よく見てみると、お祭りに乗じて色々売ってる人がいるみたいだ。


 ……果物はまだいいとして、野菜は売れるのだろうか? なべや包丁も売っているけど、ここで買う人がいるのか疑問だ。見ている分には賑やかで楽しいから、それでいいのだろうか?


 こっちはおもちゃであっちは射的。けっこう立派な弓を使うタイプだ。


「そこの坊ちゃん、一回どうだい?」

「ありがとうございます。また今度で」


 ぱっと見た限りでは、欲しい景品もないので立ち去る。すると街の中心部に着いた。


 東西南北の道が交わるだけあって、一際飾りつけが派手。


 あとこの辺りには大道芸人が大勢いる。


「4~、5~、そして6~!」


 どんどん投げる玉を増やしていくジャグラーに、


「はいっ!」


 椅子を積み上げた不安定な足場に立ってポーズをとる軽業師など。この辺は前世とあまり変わらないようだ。個人的には料理や芸よりも、使われている魔法道具や魔獣に目が行ってしまう。巨大なアルマジロに似た魔獣を使って玉乗りをしている男性に至っては、どっちが主役かも分からない……あれっ?


 なんだか見覚えのある、それでいて少々場違いな服装が人ごみの隙間から見えた気がする……あ、やっぱり。


 人が行き交う出店の前で、一人たたずむ修道女。周囲の喧騒と服装のイメージが実に合わない。店番をしている若者も、通りかかるお客も気になっているようだけど……本人は何かに悩んでいるようだ。


 何を……!!


 “カラースライム”


 出店の看板に興味が引かれる。


「おはようございます、ベルさん」


 すぐに近寄り声をかけると、彼女は勢いよく振り向いた。


「あら、タケバヤシさん。おはようございます」


 朗らかに挨拶を返す彼女の後ろには、大きな箱に入れられた色とりどりのスライム。


 この組み合わせで、以前スライムの飼い方について質問されたのを思い出した。あれ以来なにも言われていないが、飼う事に決まったのだろうか? 


「はい。あの後子供達にも飼いたいかを聞くと、飼ってみたいということでした。それから従魔術の勉強と、契約魔法習得に先週までかかってしまいまして」

「なるほど。それで今日ここで?」

「それなんですが、少々悩んでいまして……」


 営業の邪魔にならないように少し場所を変えて聞いてみると、彼女がスライム飼育の責任者を務めることに決まったようで、その一環としてスライムの用意も一任されている。しかしいざ手に入れるとなると、ギルドに依頼して捕まえてきてもらうか、それとも先ほどの店で買ってしまうかで悩んでいるとの事。


「あのお店で購入すれば、ギルドにお願いするよりも安く済むのですが……なんだかテイマーギルドで見たスライムと比べて、元気がなさそうな気がして」

「ああ……それは間違ってないと思います」


 興味を引かれて近づいてみたが、あのカラースライム。まず間違いなく上位種ではない。単に普通のスライムに色水を飲ませ、体にその色をつけているだけだろう。そしてベルさんがスライムに元気がないと感じた原因も、おそらくこの塗料が問題。


「体に取り込んだ物で色が変わることはよくありますが、それは消化が済むまでのほんの一時の事なんです。ただその取り込んだ物によって消化のしやすさが変わりますから……たぶんあそこのお店は色を長持ちさせるために、消化しにくい染料を使ってるんでしょう」


 ほのかに漂ってきた独特の香りからして、おそらくミズリナ草が使われている。これは緑色の染料にもなるが、その独特の香り成分が虫除けの薬にもなる薬草である。この草は繊維質で消化しにくく、消化に時間を要する。


 また、若干の殺虫成分も含まれているためスライムが弱りやすくなり、これもまた消化を遅らせる要因となってしまう。


「そうだったんですか……」


 ミズリナ草は俺もスライムの進化方法を突き止めて以来、スライム自身が欲しがらない限り与えるのは控えている草の1つだったりする。ちなみに欲しがるのはポイズンスライム。


「まぁ、人が食べてもお腹が弱くなければ違和感がある程度で済みますし、そもそも衣服にも使われる草なので危険とは言いませんが……子供が多く触れる事になるでしょうし、個人的にはあまりおすすめできませんね」


 ないとは思うけど、ポイズンスライムに進化したらちょっと危ない。


「もしよければ僕が用意しましょうか? 冒険者として街の外に出る機会も多いですし、そもそも毎日街の外から通勤してますから」

「でしたら、お願いできますか?」


 快く引き受ける。教会にはよくお世話になっているし、今後もお世話になる。店を持つ身としても、覚えがめでたくなれば万々歳だ。地域社会における聖職者の発言力は小さくない。ふふふ……そしてじわじわと世間にスライムを布教していくのだ……と企んでみる。


「ん?」

「どうかされました?」

「いえ、あそこに」


 横道のある角に、険しい顔の子供がたたずんでいた。毛で覆われて垂れている耳の形から、獣人族の子供だと分かる。性別も分かりづらく、一人歩きをするには少々早い年頃に見えるのに…………周囲に親らしき人影が見えない。


 その様子がおかしいと伝えた直後。


「っ……おかーさん……おかあさーん!」

「これはいけませんね」

「やっぱり迷子か」


 言うが早いか駆け寄っていくベルさんに続く。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何匹かで小山を作って発射台にしたら場所選ばなそうですよね
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