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着眼点

本日、5話同時投稿。

この話は1話目です。

 報告を済ませて家へ帰ると、華やかな音楽が耳についた。セムロイド一座の皆さんがまだ練習をしているようだ。


 邪魔をしないよう、そっと音のするほうへ向かう。


「……」


 数分で彼ら全体が見渡せる草むらを見つけて身を隠す。


 今はマイヤさんとソルディオさん。剣舞師と紹介された2人の演目の練習中だろう。ソルディオさんが装飾のついた丸い盾とロングソード。マイヤさんも同じ剣を、こちらは2本持って戦うように舞い踊っている。



 ステージと想定している線の外側では座長のプレナンスさんの他、楽器の演奏ができる人たちが音楽を奏でている。それもステージ上の二人の動きが激しくなるにつれて曲調も激しく。距離があいてにらみ合うような状態になれば、何かが起こりそうな静かな曲調に。


 さらに剣と剣がぶつかり合えば火花が散るような魔法による演出が所々に入っていて、歌や台詞は一言も無いのにまるで物語を見ているようだ。


 彼らの練習自体は今朝家を出る前、場所を貸す時に少しだけ見た。しかしあれはまだ準備運動程度のものだったのだろう。そう感じるほどの熱気と迫力を目の前で繰り広げられるすべてに感じた。


 息を潜める。途中で水をささないように。


 やがて曲が最高潮を迎えた頃、マイヤさんの剣がソルディオさんの首にギリギリ当たらない軌道で振るわれる。それは飾りの多いマントで隠した首元をなぎはらい、留め金を外してマントを落とす。同時に倒れこむソルディオさんの姿は、あたかも首を切りつけられたように見えた。


 そしてかき鳴らされた楽器の音とともに終幕。


 数秒あけて一仕事を終えた彼らの空気が緩んだことを確認した俺は、思わず立って拍手をしていた。


「リョウマ殿、いつからそこに?」

「すみません、しばらく前から見ていました。帰ってきたら音楽が聞こえてきたので」


 勝手に見てはまずかっただろうか?


「見られた事に問題はないが、まったく気づかなかったのでな」

「ちょっと驚いたよ」

「我々はある意味人から見られる事が仕事ですから。視線には敏感であると自負していたのですがね……」


 驚かせてしまったようだ。


「ところで草原の様子はいかがでしたか?」

「その事ですが、あまり良い状況ではなさそうです」


 ギルドに報告した際に聞いた話だが、俺が見つけた以外にも巣の発見報告が続々と集まっているらしい。明日以降も捜索依頼の継続か巣の発掘作業の手伝いをして欲しい、と受付で少しでも多くの手が集まるよう積極的な呼びかけが行われていた。


「対処が遅れれば流通が滞る可能性もありますし、そうなると客足や仕入れにもどこまで影響が出るか分からないので、しばらく僕はそちらで働くことにします。皆さんの練習場所は問題なければ、明日以降もここを使ってください」

「お言葉に甘えます」


 プレナンスさんを筆頭に頭を下げた一座の皆さんはその後、道具を片付けて街へ帰って行く。


 先ほど見た演目が今日の締めだったようだ。


 彼らを見送った俺はそのまま鍛錬に入る。


 ほんの少しだけ、出来心で彼らの舞うような動きを真似てみた。


 しかし上手くいかない。魔法を使うときに若干動きがギクシャクしたように感じる。


 ……魔法での演出は、魔法と武器を同時に使う訓練に良いかもしれない。


 魔法と武器を組み合わせて使う。この点において、彼らの動きは俺よりも滑らかだった。


 ん~……
















 翌日


「魔法の演出について?」

「もしかして剣舞師に興味が出た?」


 練習に来た一座を迎え、剣舞師のお二人に直接聞いてみることにした。


「昨日の演目を見て、お二人の技術を学びたいと思いまして」

「別に教えるのは構わないが、なぜそんな事を?」


 理由を問われたので、昨日感じたことを答えた。


 自分の戦い方は武器や格闘術による接近戦が主体。魔法も使えるが、戦闘にはあまり使わないため不慣れである事。自分自身の幅を広げたいと思っていた事も打ち明ける。


「つまり我々が演出に使う魔法を攻撃魔法に置き換えて使えないかと」

「はい。お時間があれば、ぜひともお願いしたいのです」

「そういう事ならいいんじゃない?」

「そうだな。少しくらいなら大した手間でもない。武器が違うので我々と同じとはいかないだろうが……それでも良いだろうか?」

「はい、もちろんです!」

「では昨日と同じ位の時間に戻ってきてくれるか? 君も仕事があるだろうし、我々は全体の練習が終わった後に教えよう」

「ありがとうございます!」


 秘伝と言われたらどうしようかと思っていたが、意外とあっさり教えていただけることになった。


「何か特別に用意するものはありますか?」

「自分の武器だけでいい。今日はとりあえず君の実力を確かめる」

「あ、魔力だけは残しといてね」

「分かりました。それではまた夕方に。よろしくお願いします」

「君も頑張ってねー!」















 そして夕方。


 朝から楽しみな気持ちを捜索に向けた結果、昨日の倍の巣を発見して帰宅。


 約束通りに戻ってみると、一座の皆さんが荷物を片付けていた。


「遅くなりました。お待たせしましたか?」

「我々も今終わったところだ。すぐに用意を整えよう。マイヤ!」

「はいはーい!」


 荷車の陰から彼女は何かの包みを抱えてやってきた。


「はい、これリョウマ君の分ね」

「薪……ですね?」


 小さな丸太にも見える。片手で握れるくらいのサイズに切りそろえられた薪だ。


「片付け終わったらすぐ始めるから待っててね!」

「あ、ちょっと……」


 行ってしまった。


「あちらはマイヤ達に任せておけばいい」


 ……確かに。一座の人々の動きを見ると、彼らだけで流れができている。俺が下手に手伝うとむしろ邪魔になってしまいそうだ。


「練習の前に、まずこれを見てくれ。私とマイヤが使っている剣だ」


 前も見た通り装飾の多い剣だと思ったけれど、こうして近くで見てみると装飾に混ざって妙な文様が描かれている。表面に何か塗ってあるようだ。


「これはレインボースラッグの体液を加工して作られた塗料で、当てられた光を蓄え、ほんの少しだけ保つ性質がある」


 光り方は違うが蛍光塗料のような物かと考えていると、魔法を使って実際に見せてくれた。光魔法の輝きを受けて、塗料で描かれた線に沿って光が走る。これを剣や盾を打ち合わせる瞬間に上手く行うと、観客からは派手な火花が出たように見せられるとのことだ。


 しかしそれを実現するためには、手順が決まっているとはいえ武器を使った打ち合いの中、素早く正確に魔法を制御しなくてはならない。


「そしてそれを実現するためにはまず剣か魔法。そして最終的にはどちらもある程度の習熟が必要だ。だから今日はまず初めに君の腕前を測らせてもらいたい。その結果で私も教え方を考える」

「よろしくお願いします」

「おーい! 用意できたよ!」


 場所が整ったようなので、そちらに移り練習開始。


 一座の皆さんが円を描いて立つ中心へ向かう。


 ……ん?


「皆さんは……」

「少し協力してもらう」

「半分は興味本位ですがね」

「そうですか。ご協力ありがとうございます。よろしくお願いします」

「では武器をマイヤの方に」


 アイアンスライムの刀を構える。


「あいつがさっきの薪を投げてくる。それを切ってくれ」


 誰かが投げた物を切るのも剣舞師の演目の1つであり、複数人での打ち合いを学ぶまでのワンステップでもあるそうだ。これが俺の実力テストとなる。


「好きなように切って構わないが、できるだけ中心を切るように心がけてくれ」

「分かりました。お願いします!」

「いくよー!」


 一本の薪がマイヤさんの手から離れる。最初とあって、さほど速くない。緩やかな放物線を描いた薪を、間合いに入ったところで斬り落とす。


「あっ、成功? すごいすごい! どんどん行くよ!」


 彼女は2つに分かれた薪を見て、次を投げる。それを同じように斬り落とせばさらに次。次々と投げられる薪は徐々に速く、間隔も狭まっていく。だが対応はできた。


 そして先に薪が尽きる。


「最後!」

「はい!」


 最後の一本を斬り払い、テスト終了。結果がどうかと気になって、ソルディオさんを見る。すると彼は難しそうな顔をしていた……


「では次だ」


 一座の皆さんの手も借りて、斬った薪を全て拾い集める。ソルディオさんはそれらを俺以外の全員に分配。そして自分とマイヤさんの分にだけ、上下に赤い塗料を塗りつけた。


 今度は一座の皆さんが投げる薪を避けながら、2人が投げる薪だけを斬るテスト。


「いくぞ!」


 最初に1つ、ソルディオさんからの薪を斬ると、それをきっかけに次々と周囲から薪が飛ぶ。

 大体一度に投げられるのは1つか2つ。多くて3つ。それらを避けながら、2人の薪だけを斬っていくが……


「……」

「……」


 最初は定位置から薪を投げていた2人は無言で頷きあうと、薪を抱えて移動し始めた。一座の皆さんで作られた円の外周を走り、その隙間から投げてくる。しかもソルディオさんは他の人のタイミングに合わせて、微妙に斬りにくいタイミングと位置に投げてくるので少々面倒くさい。


 2人の動きに注意を払いつつ、薪を避ける“注意力”。斬る薪と斬らない薪の“判断力”とそこから実際に行動する“実行力”が要求された。


 そんなテストの終了後。


「いかがでしょうか?」

「剣の腕前は文句なしだ」

「うんうん、すっごいよ! ……でもこれ、魔法使う意味ある?」


 目の前には斬りまくった薪。テストは自分でも満足できる結果に終わったのだが、良い結果が出ただけにマイヤさんはそう思うらしい。


 実際これまで困ったことはこれと言って無いんだけれど、そこは今後のためということで。


「真面目だねぇ」

「お前も見習え。そんなことだとすぐに追い抜かれるかもしれんぞ」

「すでに剣の腕では勝てる気がしないんだけど?」


 そんなやり取りの後、今度は魔法のテストが行われる。


 こちらは普通に魔法を使って見せるだけで、特別なことはなかった。


 しかし興味深い話が聞けた。


「無詠唱?」

「ああ、その名の通り無言で魔法を使用することだ。我々剣舞師は演技中に表情を作って状況を表現するからな。無詠唱で魔法が使えれば口元を動かさずにすむ」

「まぁこの辺は流派の違いだね。お面を被って口元を隠す人もいれば、上演中に堂々と詠唱して劇の一部にする人もいる。あと、使う剣を剣舞用の魔法道具にしてしまうって手もあるね。というかそっちが主流」


 マイヤさんがそういうと、ソルディオさんは不満げに鼻を鳴らす。


「あんな物は邪道だ。かつての剣舞師は卓越した剣術と魔法の腕前のみで人々を魅了したという。それが今では面だの魔法道具だのと。魔法は簡単な道具に頼り、剣は型を覚えるだけに等しい。そんな事だから剣舞師は所詮芸人、実戦では役に立たない見世物などと呼ばれるのだ」

「はいはい分かってますって。もー、ちょっと説明しただけじゃん」


 ソルディオさんの言う“かつて”がどれほど昔の事かは分からないが、どうやら彼は古くからの伝統を守ることに重点を置いているようだ。


「ま、とにかく頑張ろうね!」

「はい! よろしくお願いします!」


せっかくの機会、学べる技術を全てモノにするくらいの気持ちで頑張ろう。

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