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贈り物

本日10話同時投稿。

この話は5話目です。

「いかがでしょうか?」

「驚いた……ありがとう坊や!」

「まさかスライムが役に立つなんて、時代も変わったもんだねぇ」

「これ、売れない物で悪いけど……」


 被害にあった道と店をできる限り消臭すると、被害者の方々は各々感謝の言葉や物をくれた。ありがたく受け取りながら、自分の店の宣伝も忘れずに行い街を出る。


「ちょっと待ってくれないか!」

「?」


 門を出たところで呼び止められた。何かと思えば、先ほど責められていたあの臭い保存食の持ち主が馬車に乗って通行チェックを受けていた。


「よかった。間に合った……」

「何か御用ですか?」

「さっきのお礼を言いたかったんだ。でもあそこに戻ってみたらもう立ち去ったと言われてね」


 この男性を含めて今回の被害者は一度警備隊の詰め所に連れて行かれていた。もちろん逮捕ではなく、被害の確認と賠償金をもらうために。その間俺が道の掃除をして、先に戻ってきた人の店から消臭していたが……この人は順番が最後だったようだ。それで俺と入れ違いになってしまったらしい。


「あっ、君もこの門から出るならしばらく一緒に行かないかい? 見たところ徒歩みたいだし、荷台でよければ乗っていいよ」


 移動速度で言えば一人のほうが速いが……これも縁だ。お礼ということなら乗せてもらおう。










「へぇ、モンドさんは行商を始めて12年ですか……じゃあベテランですね」

「ははっ、僕はまだそこまでじゃないよ。30年40年やってる人だって結構いるし、ようやく独り立ちってところさ。それもリーティル……って分かるかな? “ラトイン湖”のほとりにある村なんだけど」

「リーティルは分かりませんが、ラトイン湖はこの国最大の湖ですよね?」


 そこには俺の訓練相手になる魔獣の生息地でもあるため、ギルドから受け取った書類にも書かれていた。そのほとりには沢山の漁村があり、そのうちの1つに以前知り合ったパーティーの地元、シクムの村がある。


「シクムはリーティルのほぼ対岸にある村だね。僕は基本的にそこと、小さな村を中心に日用品を売って回ってるんだ」

「……あれ? 食料品じゃないんですか?」

「シャッパヤの事かい?あれは僕の故郷でもあるリーティルで作ってるんだよ。父が漁師でね、家業を継がずに家を出たいならせめて販路を見つけて村に貢献しろ! って村に戻ると無理やり押し付けてくるんだ」

「そうなんですか」

「でもなかなか売れないんだよ……食べる前によく水で洗ってから焼いたり煮たりすると多少臭いは落ちるけど……それでも臭いからね。まぁ売れなくて何か言われた事もないんだけど、悔しいねぇ……」

「サイオンジ商会にいたのを見かけましたが」

「見てたのか。あそこに売り込めたらよかったんだけど、やっぱり臭いがね。まぁ、色々回って気長にがんばるさ……ところでリョウマ君はどっち?」


 遠目に分かれ道が見える。俺はギムルに向かうのでここから左だ。


「僕は右」

「じゃあお別れですね」

「左に行くのか。じゃあ……」


 馬車が止まる。


 そして彼はおもむろに荷台を探り、厳重に密封された樽を取り出した。


「良ければ1樽持っていってくれ。御礼の気持ちと、旅の安全を祈って。これを持ってると野生動物や魔獣があまり襲ってこないから。特に鼻の良いやつはね」


 俺としては乗せてもらっただけで十分だが、本当に善意のようなので断れずに受け取ることにした。道中の魔獣よけに良いらしいし。……もはや食品としての用途ではないけど。



 あ、親父さんが無理やり乗せるのってそういう意味なのかな……


「ありがとうございました」

「こちらこそ。気をつけて良い旅をね」


 行きずりのモンドさんと別れ、姿が見えなくなってから、俺はギムルへの道をひた走る。













 翌日


 途中で薬草採取をしたため、到着は昼ごろになった。


 店に直行して情報交換すると、相変わらずこちらの経営は順風満帆。


 だが経営以外で2つ、いつもと違う報告があるらしい。


 1つは最近では珍しく、面会のアポイントが入っていたこと。しかも相手はセルジュさん。


「もちろん大丈夫ですが、用件は?」

「魔法道具の件、とだけ仰られていました」


 ああ、オルゴールの件か。何かあったんだろうか? 


 ……そっちは会ってから考えればいいや。とりあえず予定通り会いましょう。もう1つは? 


「フィーナさん達の村から、感謝状と感謝の品が届きました」


 感謝状? ……俺、そんな物送られるような事したかな?


「彼女達は定期的に手紙のやり取りをしていたようです。感謝状は娘たちを厚遇していただきありがとうございます、という内容でしたね。品物は2階に搬入してあります」


 2階に?


 あそこは洗濯物の一時預かりに使う保管庫として作った部屋だ。営業開始から回転が速くすぐ引き取られるので、完全に無用の長物と化していたけれど、相応の広さがある。わざわざそこを使うなんて、そんなに沢山の物が送られてきたのか? 


 カルムさんは説明に誰か連れてくると言うので、一足先に2階へ上ってみる。



「お~…………すごいな……」


 2階には謎の麻袋が積み上げられていた。それも10や20ではない。触ってみた感触からして穀物の類だと思われるが……奥の方から漂ってくるこの匂いはもしかして“ゴマ”? 


「『鑑定』」


 セミサの実

 油分を多く含み栄養価が高い。

 比較的栽培が容易な作物だが独特な香りが強く、熱を加えるとさらに香りが強まる。


 やっぱりゴマのような作物らしい。

 地球のゴマは炒らないとそんなに匂いは出ないはずだが、これはこの状態ですでにかなり香ばしい香りがする。


「店長、ジェーンさんをお連れしました」

「カルムさんありがとうございます。ジェーンさん、この荷物の説明をお願いしたいんです」

「すみません店長。私達がこの店は良い所だって手紙に書いたら、うちの親達が勝手に。中身は麦とセミサっていう体に良い作物です。お世話になってる店長とか店の人達へのお礼と、これからもよろしくっていう……」


 ジェーンさんは言葉を選んでいる。親心からなんだろうけど……


「賄賂です」

「うわ露骨っ」


 言葉を選ぶのはやめたようだ。正直者なのはいいけど、その言い方だとすぐに叩き返したくなってくる。


「こういう送り物って一般的だったりします?」

「たまにある事ですね。子供を良い環境で働かせてやりたいと……上司が良い人物とは限りませんから、特に子供が女性の場合はどうしても不安に思う方もいらっしゃいます。良い環境であればそれを継続してほしい、悪ければ贈り物でその目先を逸らしたい。ということでしょうね」

「う~ん……気持ちは分からないこともありません。きっと親になった事もない僕よりもその思いは強いでしょうし……でもこんなに沢山の作物、負担になるでしょう」


 そもそもジェーンさん達は出稼ぎに来ているのだ。彼女達の親や村に余裕があるとは思えない。


 そう伝えると、ジェーンさんが負担にはならないと話す。


 詳しく聞いてみると、彼女達の村はギムルから北東。隣の領との境に近い位置にあり、10年ほど前までそこそこ裕福な農村だったようだ。主な産物は麦と芋、その他にセミサや野菜も作っていた。


 村で作られた作物は大半が隣の領へ運ばれて売られていたのだが……10年前、隣の領で農地開拓計画が立ち上がった事を機に、徐々に取引の規模が小さくなっていく。


 開拓計画の責任者は家督を継げない次男以下の息子だったそうで、領主の肝いりで用意された多額の費用により専門家も雇い入れられ、結果として開拓は大成功。隣の領は有名な穀物の産地となっているという。


 対してジェーンさん達の村は顧客を奪われた形で現金収入が激減。近隣の村はそれまでも付き合いのあった所との付き合いを継続しつつ新しく他所からも買い入れる余裕はなく、結果として新しい売り先が見つからないために体力のある若者が出稼ぎをしなければならない状況になった。


 しかし原因は作物が売れない事なので、食料だけは余裕があるらしい。


「税金として納める分とか村の皆で食べる分は変わらないし、売れなくなった分がほぼそのまんま手元に残るからもう余っちゃって。あ、でも品質には自信があります!」

「無駄が出ないように収穫量を減らしたりはしないんですか? そうでなくても出稼ぎで人手が減ったら、手が回らなくなりそうですが」

「備蓄がないと不作の時が心配だし、代々守ってきた村の畑を守りたい人も多いからね。村でお金を出し合って、魔法道具や牛を買って農作業に使ってるの。余った麦も飼料にできるから、無駄が減ってちょうどいいって……でもそうやって真面目に作れば作っただけ余りになるのが悲しいよ……」


 なんだか愚痴になってきた。しかしそうなるとただ送り返しても無駄になってしまいそうだ。


「……わかりました。ですが次の連絡の時でいいので、ご実家にこういう贈り物はしなくても良いとお伝えください。贈り物の有無で皆さんの待遇を変えるつもりはありませんし、個人的にはちゃんと働いていただける方なら、今後村から出稼ぎに来る方を従業員として受け入れてもいいと思っています」

「本当ですか!?」


 別にコネ入社の社員でも俺は忌避感はないし、今後も支店を出すなら人手が必要になる。このあたりはカルムさんとも相談になるが、俺としてはちゃんと働いてくれるなら構わない。


 というか俺も散々公爵家とかモーガン商会とかギルドマスターのコネを使ってるので他人の事は言えない。


「ちゃんと仕事をして問題を起こさない人である事が絶対条件ですよ? 皆さんの紹介で人を雇ったとして、その方が何か特別な待遇を求められても認められません。逆に皆さんが知り合いを贔屓することも認められません。体質や持病など、どうしても仕方の無い事情があれば別途で相談は受けようと思いますが」

「もちろんです! ってか十分ですよ! 条件とか色々!」

「ならいいんですが、カルムさんどうでしょうか?」

「面接と監督を徹底すれば良いでしょう。店長の仰る通り、いずれ新しい店員を雇う必要はありますし、身元が確かな方は助かります」

「良かった。あ、それからこの作物の扱いですが、査定はできますか?」

「だいたいの値段でよろしければ既に書類にまとめてあります。厳密な値段となると私よりも商業ギルドの食料品担当者に査定を頼むのが確実かと」

「そうですか。もう資料があるならそれに沿って、今度の手紙と一緒に適正金額を村へ送っておいていただけますか? この量をただで受け取るのはやはり問題もあると思うので」

「かしこまりました。そのように処理いたします」

「ちょっと待った! ……つまりこれ全部店長が買い取ってくれるって事? それは申し訳ないって! 勝手に送りつけたのに」

「でもこれを送り返しても無駄になるでしょう? 店の食事にも使えますから、お気になさらず」

「う~ん……じゃ、じゃあできるだけ安く買ってください」

「ではほぼ原価に輸送料を加えた価格で購入しましょう。お二人ともよろしいですか?」

「僕は問題ありません」

「それなら、私も」


 カルムさんが折衷案を出してくれた。ジェーンさんは良いのかと呟きながら納得しようとしているので良いだろう。まぁ、一番良いのは彼女達の村が、新しい売り先を見つける事だと思うけど。

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