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2014年/短編まとめ

少女の始まりの日

作者: 文崎 美生

十六の誕生日に彼女は自らの国を追われた。


それは隣国の襲撃によるもの。


愛する家族は失われ一人になってしまった彼女。


分からない分からない分からない、何故こんな事になってしまったのか。


働かない頭には同じ言葉が並んでいる。


さっきまで父も母も皆で笑いあってたのに。


ぐるぐると胸の中で渦巻く感情の整理ができない。


「君が弱いからだろう?」


ザッと草を踏みしめながら男の子が現れる。


いつの間にこんな至近距離にいたのかと、彼女は目を丸くした。


人間離れした人形のように整った容姿、キラキラと銀の粒子を撒き散らす髪は絹糸のように美しかった。


自分よりも年下に見える男の子は、何が面白いのかニコニコとしていて彼女の神経を刺激する。


彼女は涙をためた瞳で男の子を睨み上げる。


死ね死ね死ね死ね、消えろ消えろ消えろ消えろ、王族は皆殺しだ。


目の前が朱に染まり、大切なものがガラガラと音を立てて崩れていくのが分かった。


どうして、なんで。


疑問は止まらず湧き出ては解決されずに蟠りを残す。


「強くなりたいかい?君の国を取り戻したいかい?」


男の子は笑いながら彼女の顔を覗き込む。


彼女の双眼に写り込む男の子の笑みは、薄く狂気の色を灯していた。


彼女は男の子の胸倉を掴み、更に顔を寄せる。


その瞳には十六とは思えない似合わない大きな覚悟。


取り戻したい、幸せを、父を、母を、あの時間を。


戻れないのは知っていた。


それでも自分が生まれ育ち愛を受けてきたあの場所を、他の誰かに汚されるのを見ていたくはない。


十六になったこの日は、王位継承の日でもあった。


その国をまとめあげる王を意味するペンダントは、彼女の首元でユラユラと輝いている。


私は王だ、と彼女は言う。


ペンダントを握り締めて目の前の、素性も知れない男の子に強くなりたいと言う。


その言葉を聞いて男の子は笑う笑う笑う。


さぁ、おいで。と彼女の手を取り大袈裟な程に笑った。


「ようこそ」


長かった髪を迷うことなく、父の形見である小刀で切った彼女。


その覚悟を見届けるように、傍観するように微笑んでいる男の子。


いつだって物語は幸せに向かって進むものだ。


これはただの始まりの日の話。

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