少女の始まりの日
十六の誕生日に彼女は自らの国を追われた。
それは隣国の襲撃によるもの。
愛する家族は失われ一人になってしまった彼女。
分からない分からない分からない、何故こんな事になってしまったのか。
働かない頭には同じ言葉が並んでいる。
さっきまで父も母も皆で笑いあってたのに。
ぐるぐると胸の中で渦巻く感情の整理ができない。
「君が弱いからだろう?」
ザッと草を踏みしめながら男の子が現れる。
いつの間にこんな至近距離にいたのかと、彼女は目を丸くした。
人間離れした人形のように整った容姿、キラキラと銀の粒子を撒き散らす髪は絹糸のように美しかった。
自分よりも年下に見える男の子は、何が面白いのかニコニコとしていて彼女の神経を刺激する。
彼女は涙をためた瞳で男の子を睨み上げる。
死ね死ね死ね死ね、消えろ消えろ消えろ消えろ、王族は皆殺しだ。
目の前が朱に染まり、大切なものがガラガラと音を立てて崩れていくのが分かった。
どうして、なんで。
疑問は止まらず湧き出ては解決されずに蟠りを残す。
「強くなりたいかい?君の国を取り戻したいかい?」
男の子は笑いながら彼女の顔を覗き込む。
彼女の双眼に写り込む男の子の笑みは、薄く狂気の色を灯していた。
彼女は男の子の胸倉を掴み、更に顔を寄せる。
その瞳には十六とは思えない似合わない大きな覚悟。
取り戻したい、幸せを、父を、母を、あの時間を。
戻れないのは知っていた。
それでも自分が生まれ育ち愛を受けてきたあの場所を、他の誰かに汚されるのを見ていたくはない。
十六になったこの日は、王位継承の日でもあった。
その国をまとめあげる王を意味するペンダントは、彼女の首元でユラユラと輝いている。
私は王だ、と彼女は言う。
ペンダントを握り締めて目の前の、素性も知れない男の子に強くなりたいと言う。
その言葉を聞いて男の子は笑う笑う笑う。
さぁ、おいで。と彼女の手を取り大袈裟な程に笑った。
「ようこそ」
長かった髪を迷うことなく、父の形見である小刀で切った彼女。
その覚悟を見届けるように、傍観するように微笑んでいる男の子。
いつだって物語は幸せに向かって進むものだ。
これはただの始まりの日の話。