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辛辣な言葉(グレートスさん編)

冷たい風が流れているように感じる。

ひんやりと流れ伝う首元の汗は一粒、地面へと落ちた。

明らかに笑顔が固まっている穂枯雫と、不穏な空気を感じて身を固める安谷光。

そして僕自身も声が出ず、喉の渇きが急速に早まる。

一人この中で平気な顔を晒すグレートスさん――――いや夜角目グレートスは更に矢継ぎ早に言葉を重ねていく。



「だってそうでしょう?この子が本当に困っているのが貴方には見えないのかしら。言えない事情があって、心苦しくも言葉を濁すこの子の心が貴方にはわからない?

説明を、説明をなんてみっともない姿を私の前で見せないでちょうだいな。まるで何処かの太った豚のようで、嫌気がさしますわ。

一層のこと話したくなくなると言うものよ、信用ならないし信じようとも思えない。貴方は少し自分の行動を鏡で見た方がいいのではないかしら。

自分が嫌がることは他人にしてはならない、貴方にはそれがなってないと思うわほがらしさん?」



言われた言葉は全て正論で、言い返せない穂枯雫はじっと耐えるのみである。

安谷光が心配そうに眺めるのはやはり彼女の友人だからだろうか。緊張の糸が解けない時間が続いていく。



「ああそうそう、強気でいるようで打たれ弱い貴方のことを何も嫌っているとか苛めてやろうとかそういうわけではないのよ?

私が言いたいのは余り調子に乗っているとその眼を繰り出してスープにしてやりますわよってこと。

私の合ちゃんに危害を加えたり、不快な思いを抱かせる奴は徹底的に排除しますって宣言なんですよ。お分かりですかほがらしさん?」



それは穂枯雫に対しての脅しのつもりなのでしょうが、僕を悪く言うやつは皆殺すっていう危ない思考の持ち主なのがまるわかりです。

ヤンデレさんですか、グレートスさん。僕は別にそう言うの求めてないですよ。



「でっでもおっれも、あわせの、力になりたいと、思って。一生懸命で。」


「心配してやってるのだから話せない人の事情は知る必要もないもないと?とんだ自己中女ですね貴方。ここまでやって話すのをためらうのですから、ここは素直に諦めて後衛支援に切り替えるべきでしょう。

それを話せ、話せと無理強いするのはどうなんですか?その行為を善意からだとして、相手は得しますか?

迷惑がられて逆に相手の足を引っ張りかねませんよ。引き際を誤りましたね、確実に邪魔しかしてませんよ貴方。

それで本当に合ちゃんの力になれるんですかねぇ、私はそうは思いません。

なので早く私の目の前から消えてはどうですか、正直貴方がいると私の紅茶が不味くなりますので。」



辛辣なグレートスさんの数々。

全ての言葉を未だ5年生である彼女がすべて受け入れられるわけもないが、大きく心に響いたことだろう。

その瞳には大きな涙をため込み、振り返ることなく走り出す。

白の扉が大きく開き、また強く閉められた。音が耳を貫き、少々痛む。

部屋に残るのは僕と安谷光とグレートスさん。

先程までの甘い空間はなかったかのように沈黙が部屋の中に流れ、ただ居たたまれない時が過ぎていく。

いつも笑顔を浮かべていた安谷光もこの時ばかりは走り去った穂枯雫を想い、浮かない顔をしている。


時間が過ぎる、空は既にオレンジ色になっていた。しかし一向に戻ってくる気配のない穂枯雫。

もしかしてこの広い屋敷で迷子にでもあったのでしょうか、だがこの屋敷には数人のお世話係が存在しているはず。

彼女たちの目を盗んで果たして何処か遠くに行けるものなのだろうか。

すると勢いよく立ち上がる安谷光。彼女は曖昧に笑顔を浮かべ、言伝を頼む。



「わたし、やっぱりしずちゃん探してきます。迷子になってたらとっても嫌ですから。」



駈け出す安谷光に、グレートスさんは終始無言。

しかし家令の方が気を回してついて行くようだ。スーツの良く似合う後ろ髪をゴムで一括り束ねただけの女性が彼女の後を追う。

残されたのは僕とグレートスさんの二人だけ。

言葉を吐けるだけ吐いたという風情の彼女に映る景色は何色か。

愁いを帯びた瞳は何処ともなく虚空を眺めていた。




「…言うだけ言って責任は取らないと言うのも格好悪い大人だと、僕は思います。」



僕は扉を開け外へと出ようとする傍ら、今も無言で佇む彼女に言ってのける。

その言葉は僕の戒めでもあった。


過去の僕は無責任だった、自己満足だった。

全てをなげうつ覚悟があると自負していたが、正確には何も捨てられないド畜生。

何も守ってやれないし、何にも守られないと勝手に思い込んで。

言うだけならタダだと人を馬鹿にして、その優越感に浸る。

正論ばかりをついて、でもその後のケアもしっかりしないといけないのです。

かつての僕のように、改めなかった存在は驚くほど矮小に歪になるものなんですよグレートスさん。



部屋には誰も居なくなる。

僕の知ることではないが、僕が去った後グレートスさんは小さくこう呟いたそうだ。



「全く、合ちゃんには敵わないな。…貴方といたら私も少しは変れますでしょうか。」



小さなつぶやきは誰の耳にも入らず、やがて部屋の中に霧消してしまうのだが勿論それは僕の知らない彼女の物語である。

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