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夜の学校楽しみです はじめ

『私は今日の合ちゃんのパンツは白だと思うの。』



「…グレートスさん何を言ってるんですか何を」



いきなりの下ネタコールに僕は思わず顔をしかめた。

現在僕は明楽あくたの小学校の中庭で一人携帯電話とにらめっこしている。

近くに人はいない。皆昼休みだと言うことで思い思いに遊びへと出かけていた。

木陰から冷たい風が肌を刺す。しかし5月に入ろうとしていたこの時期だと涼しい以外の感想はない。


風は遠くから匂いを運ぶ運び屋。給食終わりだと言うことで食べ物の匂いが染み付いてしまうかのように漂い続けていた。


僕の通う明楽小学校は意外とよくゲームに登場した小学校である。

曰く主人公の母校であると、曰く高校の交流活動の一環だと必ずどのルートでも組み込まれていたり、曰く知り合いの妹がここに通っているらしい、というわけで登場頻度は極めて高い場所である。

夜の学校で昔を懐かしむシーンもあり、プレイヤーにも結構深い思い入れのある場所であったりするのだがそこに通うとなるとまた見方も変わってくる。


僕は現在小学五年生。しかも美少女といっていい出で立ちで何かと注目されることが多い。

流石モブキャラなのに三度もルートに絡むキャラクターは美形にデザインされている。

周りの子供たちが貧相に見えてしまう程、僕の容姿は特質していた。


しかしそれは望んでいないのに周りの子から注目され続ける運命へと結び付く。


綺麗に生まれたからと言ってすべてがうまくいくわけではないと言ういい例ではないか。

今の僕に友達と言う人は必要なく、いつもは本を読んだり外をぼんやり見て過ごしているのだ。


近くの運動場からは元気な子供たちの声が彼方此方から聞こえている。

昼食を15分と経たずに終え、運動場に駆ける男子諸君。

いつの世も子供とは元気なものであるらしい。

人の頭ほどのボールを投げ、当て合うことの何が楽しいのか。今の僕には理解できなかった。



『むー合ちゃん?私のことはお姉ちゃんだと何度言えば分かるんですか。』


「はいはい、変態レズ野郎はとっとと巣穴に帰りやがってください。」



ひどいっと涙交じりの声が携帯から発せられる。

あれ以降味を占めたのか執拗に『お姉ちゃん』呼びを徹底してくるグレートスさん。

流石にこの下りを毎回やるのは面倒なので、適当にあしらいつつ本題を聞き出す。




「…それで?何の用ですか。こんな時間に電話を入れるとは珍しい。」


『いつも冷静な合ちゃんも最高、だね。はいお姉ちゃんから即急な報告があります。しっかり聞いてくださいね。』



ごほんっとわざとらしく咳をするグレートスさん。

彼女からかかってくる電話と言うのは重要な情報であることを密かに意味していた。

彼女は滅多なことではかけてこない。こちらに配慮してのことか、連絡は大体放課後なのである。

それがこんな暖かい日が昇る頃に電話するとは並大抵のことではないだろう。


もしかして、もしかしなくても主人公である乙留桜花おつどめおうかの絡む話。


ならばその一欠けも情報のズレがあってはならない。少し緊張した面持ちで次に来るグレートスさんの言葉を待つ。

そしてそれは厳かに、伝えられた。




『私のパンツはピンク色です!』



「…うん、グレートスさんは頭の中もピンク色だからね。仕方ないね。」












彼女が語る話を要約するとこうだ。


現在主人公は浅宮あさみやアクトを攻略中。僕の命を脅かす子供好きの男は未だに一度のデート以降音沙汰なし。

主人公はそちらをキープしつつ、他の男に手を出しているらしい。

そして別の男のイベントで今宵彼女がこの小学校にやってくる。

これは決定事項で、何かアクションをするならこの時を狙うのもあり。


とのことだ、それをグレートスさんは僕へのセクハラをかましながら主人公に酷い罵声も浴びせつつ話していた。

男がそんなに嫌かと元男の僕も恐縮するのみである。




『それじゃあどうします?今宵訪れますか、貴方の通う小学校へと。』



僕は唸る。何もこの時期に主人公を相手取る必要はない。

他の男に夢中であるならほっとくべきだろう。

恋愛とは自由だ、誰が誰と恋仲になろうと知ったことではないし興味もない。

それにゲームで言うなら今の時期はまだ複数の男性から本命を選ぶ作業のはず。

あのデートが試しにと言うことならば、僕の出る幕はない。

勝手にどうぞと見向きもする必要はないだろう。しかし気になってしまうと言うのも確か。


この世界がどこまであの『乙女ゲー』を再現し、強制するのかについては興味がある。


しかしその為にわざわざこちらからコンタクトをとると言うことは早期のフラグ回収とならないだろうか。

イベント中に会うはずのないキャラと会うだけで、ゲーム中ではあり得ぬことだと世界が僕をリセットする可能性が全くないとも言い切れない。

危険を冒してまでやることだろうかと悩み苦しむ。



『大丈夫です、遠くから見てるだけなので危険はないはずですよ。そんなに悩む必要もないでしょう?夜のデートを楽しみましょうよ』



能天気にもこちらを気遣うグレートスさんの声がこだまする。

遠くの物陰から眺めるだけ、それならもしこの世界に強い強制力があろうと問題はないはずだ。

会うことなく動向を探るだけ、それなら彼女の持つ人員を使えばいい。

だがやはりこの目で見ておく必要があるだろう。あまり迷惑をかけすぎると言うのも気が引けますし、自分の目で確かめておくべきだ。




「…じゃあ行きます。時間は後で教えてください。」


『あら、本当ですか?分かりました時間は後ほど…ふふっこれは面白いことになりそうですね。デート、デート♪』



グレートスさんのテンションがやたら高い。

いつもの倍増しでめんどくさいのだが、彼女と行動することは自らの安全の為であると戒める。

その後一言二言話して携帯電話を切った。

どうせ放課後も早々に彼女の屋敷へとお邪魔するのだ。長電話はする意味がない。



(少しぐらいグレートスさんが喜びそうな服でも来てこようか。いつも情報収集とかやってもらっているわけだしこれぐらいやっても罰は当たらないでしょう。)



僕は夜に着ていく洋服を頭の中で思い描きながら中庭を後にした。

そこに怪しい二つの人影があったことなど何一つ気づくことの出来ないまま、自らの5年3組の教室へと先を急いだ。

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