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動き出す最終決戦

夏にはいろんなことがあり過ぎて、秋風に吹かれている僕は早くも夏が恋しく感じていた。

季節は移り変わり秋も中頃を超え、順調に攻略を進めていた僕も一先ずは全員の友好度は限界に近いことを確信する。

枯葉が宙を舞い、今やコートを着る者まで出てきていた。


僕の目の前には親友キャラであるはずの女筒葵めつつあおいの姿がある。

いつものように喫茶店でコーヒーを注文し、各キャラの情報を僕に口頭で伝えるのだ。

それを聞き流しながら、喫茶店に流れるジャズ音楽の方に耳を傾ける。

耳に心地よい旋律に、脳まで行き渡るような優しい音の数々。

僕が注文したオレンジジュースは元の量より多くなって、水滴を大量に作りお盆を濡らす。



「…夏休みは随分楽しんだようね。いいご身分だこと」



僕が話を聞いていないことに気づいたのか、女筒さんは随分とご機嫌斜めのようで。

僕は楽しかった一夏を思い返した。



海へと赴いてから1週間後の、街を挙げての夏祭り。

出店を回り、楽しそうにはしゃぐ二人の同級生の傍ら両手に暖かな感触が蘇る。

グレートスさんだ。いつものように笑顔を浮かべ、僕のしたいことを何でも叶えてくれる。

店を回る間ずっと繋がれたままの左手は感覚を失い、まるでグレートスさんに合体してしまったみたいだ。

よく見える高台から、打ちあがる花火を見上げる。

遠くで微かになる和太鼓と、軽快な音の数々が気分を高揚させていく。

そして花火が最後に夜空と咲く頃に、突如ひかりから告白された。好きですって、付き合って下さいだって。

勿論小学5年生の考えるお付き合いなんて、手を握ったりキスしたりする程度だろうけど。

ひかりの答えを望む真剣な眼差しに、僕は告白の返事を保留とした。

女の子同士の恋愛に否定的なわけじゃない。ましてや僕は元男なので、告白されたこと自体はとてもうれしい。

グレートスさん以外に僕を思う人がいてくれて、僕は報われた気分となる。

しかし保留としたのには、これから起こるだろう惨事に巻き込みたくないから。

せめて今だけは楽しく過ごしたいと、そう思ったから。皆が見ている前の告白なので、恥ずかしかったというのも勿論大きく作用していた。



そして夏休みが終わる前に、僕らはグレートスさんの別荘でキャンプを行う。

バーベキューにカヌーに乗って景色を楽しんだり。夜には肝試しもしたかな。

僕に寄り添うひかりが上着を少し引っ張ってついてきたのは、少し面白かった。

グレートスさんは同じペアでなかったことがショックだったのか、次の日の不機嫌そうな顔は今でも忘れられない。

やはりいつも微笑みを咲かせている人が顔をしかめていると、何だかこちらの調子まで狂ってしまう。

結局その日は一日潰して、グレートスさんに付き合ったものだ。

内容については差し控えさせてもらうが(色々ありすぎて、寧ろ忘れたい記憶ナンバーワンなのだ)兎に角今年の夏は遊び倒した。

勿論合間に宿題を終わらせたり、攻略にも手を抜いたりはしなかった。


でも僕には彼女たちとの時こそが憩いの時間となり、日々を楽しんでいられたのです。

死亡フラグですか、主人公との成り替わりですか。

それもとても大事なことですけど、時間とは有限であり今を楽しまねばならないでしょう。

例えこの後の結末が最悪を生もうとも、今の現実だけは真実であるはずです。


だから目の前で嫌味を言う女筒さんに面と向かって僕は言いました。



「あらそうですか。でも今を生きなければ、良い未来なんて来ませんから。」



その言葉に呆気にとられる女筒さんに、僕は要約氷のとけ切った薄まったオレンジジュースを口付けます。

一気に飲みあげ、ある約束が出来たと僕は喫茶店を後にしました。

勿論女筒さんは納得できるはずもなく僕について来ることになるのですが、それは好都合というものです。

僕が約束を交わしたのはこの世界の主人公であるはずの乙留桜花おつどめおうかさんの下。

きっと一番彼女が会いたくないであろう人物との約束の地へ誘う。


そろそろ決着を付けましょうよ。シナリオライターの手島さん?


そんな過激な見出しで送ったメールに、どう思ったのか場所と日時だけを送った主人公さん。

はてさてどんな終わりがこの後待っているのでしょうか。

僕に悔いは在りません。今まで生きたいと意地でも食らいつく覚悟でしたが僕はもう満たされてしまった。

生きるということをこの夏に堪能しつくした僕には、生きる意味は少ない。

ただずっと彼女らの箱庭に揺られていたかったとは、思う。心地よい空間に居たら楽だから、その身を朽ちるまで預けておきたくなる。


しかし僕には許されないことだ。この世界に一人の女の子として、ゲームに参加した。

それだけで将来などあってないようなもので、僕は結局若くでこの命を散らせるんだと落ち込む。

そしてグレートスさんの献身な支えがあるからこそ、僕はこの場に立っていられる。今を見ていられる。



戦いの結末を見るために。



僕は主人公さんの皮をかぶった一人のシナリオライターに、『喧嘩』を申し込んだのだった。

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