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スイカ割り(飛散)

海といえばスイカ割りだろう、そんな誰かが提案した案に乗った結果、悲惨な今がある。

砂浜で頭を抱えるしずく、目隠しをしたままのひかりは既にスイカではないものまで割り始めていた。

大地にヤシの実が砕けて、欠片が飛び散ってしまっている。どれだけの力を入れたらヤシの実を割れるのか、不思議で仕方ない。


事の発端はしずくがふざけて近くに落ちていたヤシの実に誘導していた事に結びつく。


つまりは自業自得、まさか一発で割ってしまうとは思いもしなかったが、頭に欠片がクリンヒットしたしずくの姿は笑い話にしかならないだろう。

スイカだけは未だに健在で、最早何かを割る機会と化したひかりに近づくことは容易ではない。

今すぐスイカへと誘導してあげたいのは山々であったが、此方の声は耳に入らないらしく振り下ろす腕は止めることを忘れてしまったかのようだった。



「ひかりちゃん!?しっかり気を持って!もう目隠し外しても大丈夫だから!」


「暗い怖い、一人一人は嫌だよ。どこどこなの皆は何処なの。

返して帰して、私を今すぐ、偽物めっあーちゃんの声で私を呼ばないで。こわすこわすこわす。こんな暗いの何て全部壊しちゃうんだから。」



ダメだ、やはり此方の声は全て流れてしまう。

目隠しをしたのがまずかったらしい。精神病を患っているひかりに、暗闇はご法度だった。

安心させるようにずっと横についていたしずくもノックダウンしているし、唯一頼れる声が途切れてしまったとこが正気を失わせてしまった。

今何を言ったところで、聞く耳を持たない。ならば玉砕覚悟で、彼女の胸に飛び込むしか―――



「合様、これを!」


「…えっと、これはなんですか?家令さん?」



僕が特攻をかけようとしたところで、視界は一瞬遮られ、黒いチョッキを着させられたことに気づく。

驚きと疑問とが混ざり合い、頭から一瞬にして通したであろう家令さんに僕は尋ねた。



「叩かれても平気なように、です!任せました合様。他の皆さんやれて、しまい、ましたから」


「あっ家令さん!?ちょっと!」



このズッシリと重いチョッキは如何やら耐衝撃用のものらしいです。

そしてよく周りを見渡しますと、黒服の人達が頭に大きなたんこぶを作って倒れている姿が目に付きます。

どうしたことでしょう。それ程彼女が手練れということでしょうか、単に少女であると油断した結果なのでしょうか。

兎に角僕しかいないのでしたら仕方ありません。単身乗り込むこととします。


未だに棒を振り回すひかりの近くには、グレートスさんの姿。

仰向けに倒れて、砂が纏わりつくのが見て取れます。


多くの犠牲を無駄にしないためにも、僕が必ず止めて見せる。


そう意気込んで飛び込んだ僕に、無数の残像が急所をとらえます。

無論僕に格闘技の教えなどありませんから、受け身も取れずに後ろに倒れてしまいました。

下が柔らかい砂で本当によかった。生憎頭を損傷することもなく、多少視界が歪みましたが、何とか再び立ち上がります。

手加減してくれたのでしょうか、痛みはそれほどなく地面に伏せる皆さんのように大きな打撲跡も残っていません。


これは無意識に僕の攻撃を緩めた、そう考えてもいいのでしょうひかり。

僕は再びひかりに急接近します。泣きわめきながらも攻撃を繰り出す棒は、やはり僕にはとらえきれません。

ですが掴む必要も待たないのです。僕は彼女に目を覚ましてほしいだけだから。



「…ひかりちゃん聞こえる?僕だよ傍織合。もう、忘れちゃったのかなひかりちゃん」


「んぅ?あっあーちゃん?」



僕は後ろからひかりを優しく抱きしめます。僕のお腹はきっと大惨事となっていることでしょう。

幾ら耐衝撃用であったところで、全ての衝撃を吸収してくれはしないのですから。

でも今は関係ありません。ひかりの視界を開けて、優しい彼女に戻ってもらうことが先決です。

僕は怯えるひかりに大丈夫だと告げながら、瞳にかけられた布を開け放ちます。青のハンカチであったそれは、僕の手元に残り、風に揺れていました。



「ひゃっ!?あっあれ?見えるっ海が見えるよあーちゃん!?」


「うんそうだね。綺麗な海だ」



一先ず落ち着いてはくれたみたいです。視界が開けたことに安心して、このまま飛んでいきそうなほどはしゃいでいます。

そして自分がやってしまっただろう光景を目の当たりにしたのです。



「――みんなお昼寝してるね。もしかして疲れちゃったのかな。」


「いやいや、疲れててもこんな地面に眠りはしないと思うよひかりちゃん。」



僕は勘違いをするひかりを宥め、事の詳細を伝える。すると顔を青くしたひかりが、いきなり海へと身を投げた。

責任を感じたのだろうか、顔向けできないとこの場を逃げ出す。

僕は慌ててそれを追って、直ぐに後悔することになる。泳げないのだ。

僕は今の今までプールですら泳ぎ回ることが出来ずにいた。小学生のころの授業でも泳げない自分が悔しくて、涙を流していたのにすっかり忘れていたんだ。

だからひかりに追いつく前に自分が溺れちゃった。

波にさらわれて上も下も分からなくなった頃、久しぶりのしゃがれた声が脳内に響いた。



『やあやあ元気そうで何より。久しぶりだねぇ3か月ぶり、かな。』



恐る恐る目を開くと僕とは上下逆に立つさかさおじさんの姿が、そこにはあったのです。






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