ゴールデンウィーク明けの日常
昨日があるから今日がある、休みがあれば学校や会社に行く日もまた存在する。
ゴールデンウィークは明けて、等々僕らは普通の学校生活に戻ることになった。
しかし別に学校に行くのが憂鬱だったり、宿題終わってないと騒ぐ子供ではないので普段通りだ。
連休前と同じく、同じ歩幅でゆっくりと通学路を歩く。
集団登校という概念がこの世界にはないのか、はたまた犯罪が起こらない仕様なのか知らないが、小学生を一人で通わせて誘拐されたら学校側はどうするのか。
すみませんでしたではすまされない。大事件へと発展する可能性があるというのに。
まあお陰様で誰の気を使うこともなく、考え事しながら歩けるので楽といえば楽なんだが。
「あっおーいっ今日は早いなあわせー!一緒に学校行こうぜっ」
「…げっまさかの鉢合わせ。メンドクサイ」
遠くから手を振り此方へと走ってくるのは僕のよく知る人物。
褐色の肌に、切り揃えられた水分の含まぬ黒髪は一見男の子に見えてしまう。
服も黄色のシャツに深緑の短パンと何処かのワンパク少年のような出で立ちであるが、ちゃんとした女の子である。
八重歯を光らせ、満面の笑みを見せる彼女―――穂枯雫は今日も一段と元気そうだ。
背には黒のランドセルが光り、昨晩降った雨で未だ乾かぬアスファルトに照らされている。
実は彼女と一緒に登下校することは珍しくない。
別に打ち合わせしたわけでもないのに、不定期な僕の登下校に鉢合わせる為一緒に行かざる負えないのだ。
僕は一人で考え事でもしたいのだが、それを許してくれる彼女でもないだろう。目線はそのままに、僕はしずくを待つ。
「いやっすっごい偶然だぜあわせ。昨日はご免な、弟の世話とか家事が忙しくてよー」
「…いいよ別に気にしてないから。」
彼女の家庭状況は知っている。
ゲームの中で少しだけ言及されただけだが、彼女の家には弟5人に妹が3人もいるらしい。
長女である彼女は休みの日、普段の生活でも多忙な親に代わって積極的に家事を行い、世話を焼く。
だからこそいつも強気でいるし、舐められたらいけないと自らを鼓舞している。
男勝りに振る舞い、周囲の人を従えるのだ。
それ全てが悪いことではない。共感する部分も確かに存在するし、責任感が人一倍あるのも好感が持てる。
しかし僕はなんだかんだ彼女のことが苦手なようで、心配してくれるのは嬉しいし、話しかけるのも構わないがちょっと積極的過ぎる。
僕は二人並んで談笑しながらも、何処かぎこちない返しで学校への道を歩いてくのでした。
◇
「あっ今日も一緒に登校なんてずるいです。私も一緒に行きたかったですあーちゃん。寂しかった寂しかった寂しかった」
「…まあ今度機会があったら一緒に帰ろうよひかりちゃん。」
学校に着くなり下駄箱で待ち構えていただろうひかりに捕まる。
すごい剣幕で此方にやってきて、危うく上履きを落としそうになった。
だが非難されている内容は可愛いもので、只の嫉妬だ。ひかりはよく僕とかしずくの後をついてくる。
一人が嫌いみたいで、常にだれかを横にしていないと落ち着かない。
確かゲームでの設定では彼女は重い精神病を患っていて、寂しさを感じると自分でもどうしようもなくなってしまうらしい。
普段の穏やかな彼女からは想像もつかないが、最終的には泡まで吹いて窒息死寸前まで至る。
前は余りにも暴れるためにそのきめ細かな肌には常にすり傷がついていた。
今は僕としずくがいる為、そう癇癪を起すこともない。
彼女の自宅は大きな研究施設で、僕たちとの登下校を楽しむことが出来ないことを不満に思っているのだこの子は。
出来る限り一緒にいてやりたいけれど、居られる時間はごく僅かだ。
その限られた時間をこうして触れ合い、時には抱きついたりしてあげる。
気持ちよさそうに目を細める彼女は、一見すると只の寂しがりやな甘えん坊さん。
だがその胸の内に秘めるのは一体何であろう。今の僕にはわからないことばかりだ。
「よしよし、大丈夫。僕はここにいるし何処にもいかないよひかりちゃん。」
「嘘つきですあーちゃんは嘘つきです。わたしいつも一緒に居たいし、いつも隣に居たいです。でも大人みんなそれを許しません。みんなみんな嘘つきで、嫌いです。」
「おいおい大丈夫かよひかり。いつもの発作か?辛かったら俺に頼れよなっな?」
薄金の髪は地肌を透かし、人形のように澄んだ瞳に映る感情は憂い。
支給されている衣服は今日も味気なく、遊園地に着てきたのはグレートスさんのおさがりであった。
小さい頃最初にあった時よりも感情をはっきりと表すようになった顔は今泣きっ面で歪む。
いつもは我慢して笑顔を浮かべて強がる彼女は、昨日一日検査の為会えなかっただけでこの有様。
溢れた涙は止まることなく漏れ出し、下駄箱には彼女のすすり泣く声が僅かに響く。
皆教室へと向かい、ホームルームは始まってしまっただろうか。
抱きついたまま離れない彼女をそのままにしておくこともできず、付き添ったしずくと共に保健室へとそのまま向かう。
薄情にもほかの生徒は此方を見て見ぬふりだ。まるで僕たちのことが見えてないみたいに素通りした男の子が、酷く印象的だった。
世界は残酷で、僕たちは曲がりなりにもゲームの登場キャラ。
破格の待遇を受けているらしく、ゲームにも登場しないキャラはこの状況を認識できない。
メンドクサイものだ、普通の授業や休憩時の遊戯には一緒に行動する癖に。
ゲームで与えられた設定上の物については、無いものとして扱う。
保健室までの廊下は酷く静かで寂れている。
まるで僕たちだけしかいないみたいに感じて、何も聞こえぬ無音が怖い。
肩を抱くひかりの体温だけが、僕に前に歩かせる気力をくれるのだ。
(…放課後に、あの場所に行こう。きっとこの状況を変えてくれると信じて。)
遥か遠くに感じた保健室へと無事到着し、誰もいない白のベッドを占領する。
未だに震えて情緒不安定の彼女をそのままにしておくわけにもいかず、ずっと握った手は温かくて冷たい。
僕は昨日会った親友キャラをふと思い出し、今日この日に行動することを決めた。
いつまでも現状に目を瞑っていても何も変わらない。
僕は心配そうにひかりを見つめるしずくを横目に、変わりゆく季節と運命を、その手に握ることを決意した。




