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遊園地へ行こう(はじまりの章)

いよいよ目前まで迫ったゴールデンウィーク。

僕の予想では主人公さんが会長さんとデートイベントを必ず起こすだろうと見ている。

本人達に自覚無いのが誠に遺憾であるが、このままでは僕の命も風前の灯火。

絶対にデートなぞさせてはならないのだ。


思えばあのアパートへと足を運んだのは結果として失敗だった。

より彼女の中の意思を強固なものとしてしまった、後悔はしてもしきれない。

だがくよくよ悩んでいても仕方がないじゃないか。

僕は生きると決めたのだ、これ如きで凹んでなど居られないぞ。胸を張れ僕。

僕は未だに成長が見えない薄い胸を精一杯に張る。

そこら中から空気をありったけ取り入れ、鳩胸となる僕を見て薄く笑う声が、隣から微かにした。



「ふふっいきなりどうしたのですか合ちゃん?そんなに可愛らしい事されると思わず抱きしめたくなります。」



言うより早く、隣のグレートスさんが優しく抱き着いてきます。

僕の小さな体を覆うようにして腕を回すのです。

またもや優しい桃の香りがそこら中に広がっていくように感じました。

何でしょう、この甘い匂いは良い柔軟剤でも使っているのでしょうか。よくCMでタッチでポンッとか言ってますものね。

グレートスさんも使っているのでしょうか。タッチでポンッ

だとしたら可愛いところもあるんだなと見直しますのに。

どうなんですかグレートスさん。



「…もう、グレートスさん。今は大事な時、甘えてくるのは後にして」


「ふふっ分かりました、後でたっぷりと堪能させてもらいますね。」



グレートスさんは回した腕を解いて僕を自由にする。

それを少しだけ勿体なく思いながら、僕はゴールデンウイークの予定をグレートスさんと話し合う。

途中皆で温水プールに行くやら遊園地に行くなどの案が出るが、勿論却下だ。

僕が優先すべきは自らの命であるはずで。死亡フラグを折らぬことにはそれからの未来はないのだから当然である。


でもまあ主人公さんが動かない日があれば、別にいいと思いますけどね。

良い思い出は作るにこしたことはありませんから。

前世の僕では考えられないことではありますけど、もしグレートスさんがどうしても行くっていうなら―――



「それではゴールデンウイークの初日にどうでしょう。遊園地、楽しみですね」


「…それはもう提案ではなく決定事項ですかグレートスさん?」



こうして僕はゴールデンウイークの初日に遊園地へ行くことが強制的に決まってしまった。

次いで安谷光と穂枯雫の同伴も決まってしまう。

それからしばらくして主人公さんもその日に遊園地に訪れることを知った。

ゴールデンウイークの初日、これは波乱の予感がひしひしとしますね。

僕は近づくゴールデンウイークを憂い、そっとため息をついたのでした。














等々着いてしまった。

僕はいつものグレートスさん御用達の黒い車から降り、一人肩をがくりと落とす。

道中からハイテンションだった二人の小学生は、今も周りの迷惑を顧みず騒ぎ立てている。

穂枯雫はいつもの縞模様のシャツとサスペンダーの短パン。安谷光はまるで雲のように柔らかそうな形状の純白ドレス。

大きな声ですごいを連発し、可愛いをまき散らしている。

それを白の日傘を差したグレートスさんと僕が静かに見守る形となるのは仕方ないことだろう。

まるで表と裏、光と闇。決して相容れない壁が二人の間に出来るのを感じた。


まあそれはいいとして、僕たちの目の前には広々とした入園口が存在する。

どこもかしこも人が並び、長蛇の列を作っている。それを横目に僕たちは別口で入場を果たすのだ。

大きな入口から入っていけないのは少し残念だが、あそこに並んでいてはいつ入場できるか分かったものではない。

乗り物を時間一杯楽しめないのなら、遊園地に来た意味がないとも穂枯雫は力説していたっけ。

僕にはとてもそうは思えないけど、割と遊園地の中にある射的とかも面白いと思います。

あぁあっちにクレープ屋がありますよ、あそこで少し休みましょうみなさん。



「…もしかして、絶叫マシンとかダメな口か?あわせの野郎。」


「とーてもかわいいのですよ。流石あーちゃん、絶叫マシンが苦手なんてじょしりょく?高いのです!」


「大丈夫、私がついてますから怖くありませんよ。」


「…だっ誰も絶叫マシンが怖いなんて、言ってないし。」



皆失敬です、誰が無理だなんて言いましたか。

ただあそこにクレープ屋があるので、休憩しようと申し出ただけなのに随分な言いがかりですね。

あれでしょう、絶叫マシンってぐるぐる回ったり下に猛スピードで急降下するやつでしょう。

そんなの全然平気ですよ、みなさんが何を言ってるのか分かりませんね。

それなら僕は、観覧車とかの方がずっと怖いです。徐々に上がっていくだけってだけでもう怖いですからね。

上から見る景色とかもう、見てられなくて足が震えて仕方ない。

ほらほら、僕は絶叫マシンなんて怖くないんですよ。寧ろ平気すぎて怖い、みたいな。

全然余裕ですし、メリーゴーランドとかの方がよっぽど怖いですし。

コーヒーカップも怖いね、回転しすぎて気持ち悪くなるし嫌いだよ。

だからね、とりあえずあっちの射的とかしたいかなって僕は思います。



「はいはい、じゃあ絶叫マシン平気なあわせは勿論俺についてきてくれんだよな?おい行くぜ野郎共!」


「…ちょっちょ、はっ離して、離して。」



まんじゅうこわいの理論見事崩壊。

隣から完全に逃げられないよう腕を組まれる僕。

右腕は八重歯さえ見せて笑う穂枯雫と反対にはいつものニコニコ顔を晒す安谷光。

後ろからついて行く形となったグレートスさんも別段止める気はないようだ。

ぐいぐい引っ張られ僕は等々座席へと座らされる。

ガッチリと固定される体、握りしめるバーには大量の汗が染み込んでいくようだ。


正直に言おう、僕は絶叫マシンが苦手だ。

いや苦手以上のトラウマと言ってもいいもので、前世の僕が経験した多くのトラウマの一つ。

少しでも考えただけで吐き気がする。それを今から乗るだと、冗談じゃない。

僕は降りるぜ、傍織合はクールに去るぜ。



「大丈夫ですから、私が絶対あなたを守りますから。」


「…ふっふぁい。」



グレートスさんの凛としたカッコイイ宣言も、今の僕には返す言葉さえ億劫だ。

集中、集中、きっと大丈夫きっと大丈夫。

僕はあの時みたいに吐いたりなんかしないし、罵倒するクラスメートなんて一人もいない。

落ち着け落ち着け、クールになるんだ。皆じゅがいもだって思えば緊張しないよ。

掌に人を書いて飲み込めば緊張は緩和されるって何かで見た覚えがあります。

ってあれ?それは人前に出て緊張ほぐすやり方です今やったって意味な――――


ジェットコースターは静かに動き出す。

最初はのろく、上へ上へと昇る。景色はやはり高いだけあって良いものだ。

沢山のビルや所々に映える緑がおぼろげな視界で回りだす。

等々頂上に近くなって、深く息を吸い込む僕。


さあさあ始まる地獄への招待、最後まで抗おうじゃないか兄弟!


直後記憶は途切れる、何が起こったかはわからないが唯一分かるのはまた僕は絶叫マシンに勝てなかったと言う事実だけだ。

※ 筆者は絶叫マシン好きです。

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